表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
33/93

忠実な手下

 目が覚めると、また真っ白な部屋の隅に横になっていた。これで何度目だろうか、意識を失うのは。今回は銃弾を足と頭に四発喰らった。他にも様々な凶器で色んな場所を刺されたり切断されたが、数え切る前に気を失ってしまった。

 それにしても、これは一体何の意味があっての実験なんだろうか? 華美さんは協力してほしいと言ってたけど、何に協力すればいいんだ? あの写真…あの、バラバラになった人体を縫い合わせていた事に関係あるのか? それとも他の事だろうか?

 いずれにせよ、僕はこの実験に付き合うしかない。抵抗する意思を見せただけでも、僕に近しい人達の身に危険が及ぶ。そういう人は片手で数えるくらいしかいないが、だからこそ、失う訳にはいかない。

 

「宮代さん…大丈夫かな…」


 宮代葉月。僕にとっての彼女の存在は大きく変わり始めている。友人…いや、恋を抱いている……違うな、そのどちらでもない。多分、一般的な関係では表せないものだ。

 宮代さんに対する気持ちが変わったのはいつからだろう。ずっと傍にいた所為で、慣れてしまって、それで気持ちが麻痺してるんだろうか? もし、この気持ちが気のせいだとするなら…嫌だな、そんなの。

 

「いつから僕はこんなに……」


 真っ白な天井を見上げていると、壁の一部が開き、手錠を手にぶら下げながら、鴉さんが部屋の中に入ってきた。 


「今日は検査だ、北崎雄介。この手錠をつけろ」


 そう言って、鴉さんは手錠を僕に投げ渡してきた。


「…自分がつけるものですか、手錠って?」


「早くしろ」


「はいはい」


 手錠を自分の手首につけ、先に部屋から出ていった鴉さんの後を追いかけた。真っ白な通路を歩いていくと、エレベーターに辿り着く。先にエレベーターのボタンを押していたのか、すぐにエレベーターの扉が開き、鴉さんと共にエレベーター内に乗り込んだ。

 

「何階ですか?」


「地下二階だ」


「了解」


 地下二階…だと思われるボタンを押すと、ゆっくりとエレベーターの扉が閉まっていく。


「「……」」

 

「…お前、何ともないのか」


「え? いや、この施設にいるって事は分かってるでしょ? 僕が死なない人間だって」


「そういう事じゃない…私に対して、何も感じないのか?」


「鴉さんに?……あー、そういう事。別に何も」


「そうか…」


 顔全体を覆うマスクで表情は分からなかったが、どこか戸惑いを感じさせる声色だった。何かおかしな事を喋っただろうか? 

 それにしても、随分とゆっくりとしたエレベーターだ。普通なら、1分もしない内に目的の階層に着くが、扉の上に表示される階数を見ると、まだ一つ下に降りただけのようだ。地下二階まで、まだ時間が掛かりそうだし、このまま無言のまま待つのは気まずい。


「…鴉さんって、百瀬さんとその両親、どっちの命令を優先しているんですか?」


「何故貴様に話さなければならない?」


 何か話そうと適当な話題をふったが、適当過ぎたみたいだ。違う話題をふってみようか。


「…私は、桜様に拾われた。だから、桜様の命令を第一に従う」


「でも、僕をここに連れてこいと命令したのは、お母さんの方じゃ?」


「従うのは当然だ。桜様一筋といっても、そもそも私は百瀬家の手下の一人に過ぎない。与えられた命令を選べる程、良い身分じゃない」


「なんだか自由が無いように聞こえますね」


「自由など必要ない」


 バッサリと会話を切られてしまった。でも、少しだけ鴉さんの事が分かった気がする。顔も趣味も分からないけど、忠義がある男だと分かった。主の為に生きて、主の為に死ぬ。忠実な手下の鏡だ。

 

「お前はどうなんだ?」


「僕?……えっと、何がですか?」


「何の為に生きている。誰の為に生きている」


「そんなの考えた事もないですよ。だって、僕はまだ10代ですよ?」


「それでも、生きる理由の一つはあるだろう。お前は何故、生きようとする」


 何故生きようとする、か。僕の場合、死ぬ事が出来ないから、生きる理由なんて考えもしなかった。でも、そうだな……。


「…この、死ねない体を治す事ですね」


「治す? 何故だ?」


「人間に戻る為」


「意味が分からん。お前の特筆した能力を無くす事が、何故人間に戻る事になるんだ?」


「他人と少しだけ差がある能力なら、ただ出来の悪い人間ですが、僕の場合は他人と違い過ぎる。自分と違い過ぎる存在は、恐怖の対象として見られてしまうんです」


「それはお前の考えすぎだ」


「いえ、事実です」


「なら、何故私はお前に対して恐怖を感じない?」


「あなたも僕と同じなんですよ」


 そこで会話が途切れてしまった。宮代さんとの日常のお陰で、多少変わる事が出来たかもしれないが、根っこの部分はやはり変わっていない。化け物である自分に対する嫌悪感。他人の気持ちに配慮せず、突き放すような言葉。僕は相変わらず、冷たい人間のようだ。

 表示されている階数を見ると、あと一つ下に降りれば地下二階だ。あと少しだし、これ以上話す必要はないな。


「…たとえ私がお前と同じ化け物だとしても、私は自分を嫌いになどならない」


「…どうして」


「嫌う必要がないからだ。恐怖を帯びた眼で見られたとしても、どうでもいい。いちいち他人の事なんて考える必要がないからな。どうして他人をそこまで怖がる?」


「怖がる?」


「私にはそう見える」 


 怖がっている…僕は、怖がっているのか? 他人を、他人の眼を。そういえば、あの時…海岸沿いの道路で出くわした黒服に化け物と呼ばれて、僕は怒ったと思っていた。

 でも、あの時僕が感じたのは怒りじゃなくて、恐怖だったんだ。


「そうか…そう、だったんだ……」


「自分でも分からなかったのか? なら、これからはその恐怖と立ち向かう事だな」


「立ち向かう…?」


「お前が自分自身を嫌っているのは、他人に対する恐怖が関係している。それさえ克服出来れば、少しは自分の事を好きになれるだろう。お前が持つ、その能力も」


「そうなんですかね……ありがとうございます、鴉さん」


「礼なんて言うな。お前のような子供が、他人を恐れて生きているのが嫌いなだけだ」


「それでも!…ありがとう」 


「…ふ」


 すると、ポーンという音がエレベーター内で鳴り、ゆっくりと扉が開いていく。先に鴉さんが出ていき、その後に僕もエレベーターから出ていった。

 エレベーターから出ると、また真っ白な通路が続いている。通路を歩いていくと、その奥には頑丈に閉ざされた扉があった。扉の横にある電卓のような機器を鴉さんがいじると、扉のロックが解かれ、自動的に扉が開いていった。

 扉の先には硬そうな椅子が中央に設置されており、その横には銀色に輝く何かが、いくつもトレーに置かれていた。何の為に使われるのか、考えたくなかった。


「私はここまでだ」


「分かりました。ここまで、ありがとうございます」


 ここまで案内してくれた鴉さんに軽く会釈し、扉の先に足を踏み入れた。すると、開いていた扉が閉じていき、振り向くと、鴉さんが僕をジッと見ていた。


「……あと少し待ってろ」


 扉が完全に閉まり切る頃、そんな事を鴉さんが呟いた。待ってろって…一体何を待っていればいいんだ?

 そう思っていると、僕の肩に誰かの手が置かれた。振り向くと、狂気じみた眼で僕を見る手術服を着た男が立っていた。それも一人だけではなく、あと五人もいる。全員、狂気を帯びた眼で僕を見ていた。 

次回


「語られる目的」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ