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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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結んだ小指

 花火大会の会場に着いた頃、辺りはすっかり夜に変わり、出店に掲げてある提灯の明かりが会場の通路を照らしていた。

 花火大会までおよそ10分程だろうか? 出店を見て回るよりも、花火を観る場所を探した方がいいな。


「店を回らず、花火を観る場所を確保しておきましょう。この人の多さじゃ、決められた場所だとうるさくなるし、どこか違う場所を探しましょう…聞いてます?」


「…へ? あ、え、うぅ……」


 宮代さん、どうしたんだろう? ボーッとしているというか、心ここにあらずって感じだ。僕が見ていても眼を合わせない。かと思えば、時折こっちを横目で見てまた視線を下に向ける。手でスカートを握ったり握らなかったり、右の靴で左の靴を踏んだり、ただジッとしている事が出来ない様子だ。いつもの宮代さんらしくない。


「宮代さん」


「は、はい!」


「…ほんとにどうしちゃったんですか?」


「いや…えと、その…雄介君は、何ともない、の…?」


「え?……はい」


「そ、そっか…へ、へぇ~…」


 駄目だ、全然分からない。会場の入り口で立ち止まってから既に5分も経っている。花火大会が始まるアナウンスも鳴り出し、出店に群がっていた人達も動き出していた。僕達も早く場所を見つけないと行けなかったが、宮代さんの様子が気になって花火どころじゃない。

 

「兄ちゃん達、そこで何突っ立ってんだい?」


 アナウンスが鳴っても僕らが入り口で立ち止まっていたのを不審に思ったのか、出店のおじさんが僕らの方へと近付いて来た。

 

「花火、もう始まっちまうぞ?」


「それもそうなんですが…」


「おじさん、良い場所知ってんだよ! そこの林から入っていくと開けた場所に出てな? そこから見る花火は絶景だぞ!」


「へぇー。そこって、誰かが入って来たりしますか?」


「いんや? その場所を知ってんのはおじさんだけだ! 兄ちゃん達も知ってしまったけどな! アハハハハ!」


 見た目通り、豪快に笑う人だ。でも良い事を聞いたな。人がいない場所なら騒がしい声も耳にしないし、宮代さんの様子について聞き出す事が出来るかも。


「おじさん、ありがと。行こ、宮代さん」


「へ? あ…」


 宮代さんの手を掴み、おじさんに教えてもらった場所に向かう為、林の中に入っていった。林の中は暗く、長い間この林の中を誰も入らなかったのか、地面に生えている雑草は足元を隠してしまう程長い。


「足元、気を付けてくださいね宮代さん」

 

「…うん」


 いつもよりも弱弱しい宮代さんの声が後ろから聞こえ、その弱弱しい声からは、どこか嬉しさが伝わってくる。


「……いつもとは逆ですね」


「え?」


「いつもは、宮代さんが僕の手を掴んで連れて行くのに、今日は僕が宮代さんの手を掴んでる」


「…そうね、ほんとだ」


「こんな風に、誰かと手を繋いで歩くなんて、宮代さんに会う前だったら考えられませんでしたよ。良い変化、なんですかね?」


「…うん。とっても、良いと思うよ」


「そうですか…ん?」


 先の方で、林の中よりも少しだけ明るい場所があるのを目にした。あそこがおじさんが言っていた開けた場所か。

 林を抜け、辿り着いた場所は、道の先が崖になっている開けた場所だった。崖際まで歩いていき、下を見てみると、若干の斜面はあるものの、落ちたら重傷を負ってしまう程に危険なものだった。

 するとその時、笛のような音が聴こえ、少しの沈黙の後に、夜空一面に広がる花火が広がった。


「おぉー…確かに、ここは絶景だな」


 ここを教えてくれたおじさんに感謝だな。僕は気を付けながら崖際に座り、そのすぐ後に宮代さんも僕の隣に座った。

 花火は次々と夜空に打ち上がっていき、そのどれもが色や形が違う。テレビや写真で花火を観た事はあるが、こうやって実際に観るのは初めてだ。実際に観ると、テレビで観るよりも迫力があるし、写真で観るよりも花火の美しさが鮮明に表れて、思わず目を奪われる。


「…綺麗ですね」


「ええ、そうね」


「僕、実際に花火を観るのは、これが初めてなんです。音も、色も、美しさも、消える瞬間の儚さも、全然違う」


「…雄介君。雄介君は、他に何を見たい?」


「……全部です。今までテレビや写真でしか見ていなかったもの、全部が見たいです」


「…それじゃあ、さ。あともうちょっとで、夏休みに入るじゃない? そしたら、一緒に見にいきましょ。いろんな場所で、いろんな物を…二人で」


 宮代さんの方へ顔を向けると、彼女は顔を下に向けながらも、上目遣いで僕をジッと見つめていた。花火に照らされたその姿にまた胸が苦しくなり、さっきまで美しいと思えた花火が霞んでいく。


「いいですね…行きましょう」


「うん。それじゃあ、はい」


 そう言うと、宮代さんは右手の小指を立てた。


「なんですか?」


「約束する時にやる事。小指と小指を結んで、絶対に約束を破らないって誓うの」


「小指…こう、ですか?」


 小指を近付けていくと、宮代さんは僕の小指と自分の小指を結んだ。


「それじゃあ、約束。夏休みは私と二人で、いろんな場所に」


「約束します……えっと、それでこの後はどうすれば?」


「これで終わりだよ。あ、一つ言い忘れてたけど、約束を破ったら重い罰があるからね」


「え?」


「そうだなー…一週間ずっと、私に抱き着かれるとか?」

 

「それって罰ですか? あ、そうだ。どうせなら神田さんも連れて行きましょうよ。」


「駄目。もう二人だけで行くって約束したでしょ?」


「あ、そっか…まぁ、お土産買っていけば、神田さんも文句は言わないでしょう」


「もう! どうしてあの女を気にするのよ! そんなに罰を受けたいなら…こうしてやるんだから!」


 すると、宮代さんは僕に勢いよく抱き着いてきた。一瞬崖から落ちそうになったが、なんとか堪えた。


「危ない危ない!? ちょ、宮代さん! 落ちますって!?」


「雄介君が悪いんだもん! このまま抱き着いたまま落ちてやるー!」


「怪我するでしょうが! あー、もう!」


「アハハハハ!」


 とても楽しそうに笑っているが、崖から落ちて怪我をするのは宮代さんだけなのは分かってるのか? 

 でも、ようやくいつもの宮代さんに戻ってきてる。そうだ、宮代さんは明るく笑っていた方が良い。そのお陰で、僕も嬉しくなるから。


「雄介君! 私、今から夏休みが楽しみ!」


「…僕もですよ、フフ……ッ!?」


 突然、脇腹から違和感を感じた。違和感を感じる脇腹に触れ、その触れた手の平を見ると、手の平には血がついていた。

 その瞬間、自分が何者かに撃たれた事と、体が凍る程の嫌な予感が全身に駆け巡った。


「雄介君? どうし―――」


「宮代さん!!!」


 僕は咄嗟に宮代さんを崖から突き飛ばした。宮代さんならこの程度の高さの崖なら大丈夫だろう。仮にどこか怪我をしたとしても、今から起こる事と比べれば、骨折で済んだ方がいい。

 僕も崖から飛び降りて逃げ出そうとしたが既に遅く、いつの間にか背後に近付いてきた人物に首を絞められる。そのまま崖から遠ざけられ、顔に布を被せられた。今度は足の感覚が無くなり、自力では立てなくなってしまう。その間に、何人かの人の手によって手足を縛られ、首に注射器のような物を刺された。  

 すると、段々と眠気に襲われ、睡魔に抗っている時に聞いた事のある男の声が聞こえた。


「主の命令です。あなたを主のもとへ連れて行きます」


 僕の間違いでなければ、その声は百瀬さんの手下である鴉の声だ。どうやってここに? まさか、あの出店のおじさんもグルだったのか? 主って、百瀬さんの事だよな? 一体、今更何の用があるっていうんだ……駄目だ…もう、意識が…宮代、さん―――

次回


「実験開始」

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