天秤
伝説の田植えが終了したので、投稿再開します。
誤字がありましたら、報告してくれると嬉しいです。
僕の奇病が発症する瞬間を見せる為、宮代さんに拳銃で頭を吹っ飛ばしてもらった。無くなった僕の頭部が治っていく場面を見た百瀬さんは、10秒程フリーズした後、頭を整理する為に外に出ていった。もっと違う方法で見せた方が良かったか?
「雄介君、どうしてあの女に見せたの? 事情を知らなかったとはいえ、あの女も百瀬家の人間なんだよ?」
「だって、知りたそうにしてたし」
「それだけの理由?…あのね、雄介君。確かに君は頭を吹っ飛ばされても、首を切られても、ビルの屋上から飛び降りても死にはしないよ? でも痛みは感じるでしょ。もし百瀬華美にあなたの奇病について知られてしまったら、あなたは捕まって、永遠と人体実験させられるのよ」
「そこですよね。なんで姉さん…じゃなかった、百瀬さんのお母さんは不死身の人間なんかを造ろうとしてるんですかね」
「理由は直接本人に聞くしか分からないわ。でも、雄介君はこれ以上百瀬家と関わるのはやめた方がいい」
「分かってます…分かってますけど、なんだかなー…」
宮代さんの言う通りだ。これ以上、百瀬さんと関わらなければ、僕の身に危険が及ぶ事は無い。人体実験なんてまっぴらごめんだし、それで不死身の人間、つまり僕の同族が生まれてしまうのも嫌だ。不死身になっても良い事なんか一つも無いし、僕と同じく化け物と呼ばれる事を恐れて生きてほしくはない。
でも、そうだと分かっていても、僕は百瀬さんと縁を切ろうとは思えなかった。化け物として見られる事も、痛みを与えられる事も、多少のリスクだと考えてしまっている。
「悪い癖だよ、雄介君」
「え? 何が?」
「他人に情が移りやすい所。その人の孤独や心の闇を少しでも見てしまえば、雄介君は自分よりもその人を優先してしまう。例え自分が傷付く事が分かっていても」
「…僕よりも僕の事を分かっていますね……ん? もしかして、百瀬さんとあまり関わるなって言ったのは、そういう意味?」
「そういう意味だよ。だから、雄介君が自分から百瀬桜と縁を切れるように色々調べてきたの…まぁ、無駄に終わっちゃったけど」
「……僕の事、嫌いになりました?」
何を言ってるんだ僕は。これじゃあまるで、宮代さんに嫌われるのが怖いみたいじゃないか。いつもこうだ…やっぱり宮代さんがいると、僕は弱くなる。自分の本心を誰にも悟られたくないのに、宮代さんには勝手にさらけ出してしまう。
多分、ずっと一緒にいてくれたからだ。僕の奇病を知っても尚、僕に変わらず付き纏ってくるから、僕はこうなってしまってる。前の僕が今の僕を見たら、きっと呆れて言葉も出ないだろう。
「雄介君、顔を上げて?」
宮代さんの手が僕の顎に触れ、僕の顔を上げる。顔を上げて見えた宮代さんの表情は、愛おしい子供を見る母親のような、優しい表情だった。そんなに歳も離れていない相手から、そんな表情で見られる事はおかしな事だが、何故か違和感を感じない。まるで、それが当たり前のように。
「私は雄介君を嫌いになんかならない。例えあなたが世界中の人間を滅ぼそうと言ってくれれば、私は喜んで滅ぼしてあげる」
「……フフ。随分、物騒な例え話ですね」
「そのくらい私は雄介君を愛してるって事よ。雄介君は?」
「僕は……そうですね…前よりは、嫌いじゃありません」
「フフ。一歩前進かしら?」
「まだスタートラインにすら立ててませんけどね」
「む~! なんでそんな意地悪な事を言うのよー!」
「痛ッ!? 顎を握り潰そうとするな! い、今骨が軋む音が鳴ったって!?」
「あははは! 私に意地悪した罰よ! 罰!」
普通、罰で顎の骨を潰そうとするか? 全く…この人がいると、どんどん僕が変わっていくな。一番嫌っていた、他人に本当の自分を見せてしまう僕に。
「…雄介」
外に出ていた百瀬さんが戻ってきた。でも、その表情は陰鬱で、僕と眼を合わせようとしない。
「姉さん…」
「…もう、いいよ」
「え?」
「もう、姉さんなんて言わなくていい……もう、あなたとは縁を切る」
「ど、どうして!? お母さんの事が原因なら、知られないようにすればいい! もし何かあっても、何とかするから!」
「雄介…あなたはお母様の事を知らないからそう言えるの。例えあなたが不死身でも、宮代先輩が強くても、お母様…百瀬華美に狙われれば無事じゃ済まない」
百瀬さんの手が震えている。あの百瀬さんが怯えてしまう程、百瀬さんのお母さんは怖い人なのか?
「姉さん…姉さんは、それでいいの?」
「……あなたを巻き込まないようにするには、縁を切るしかないの」
「でも!」
「あと数分で家の者達がここに来る。私が捕まったと連絡を入れたから、きっと大人数で攻めて来るわ。逃げるなら今の内よ」
百瀬さんの声色が、初めて会った時のような無機質で声色になった。僕の事を見る眼が、敵を見る眼に変わってしまった。
本気だ…本気で僕と、縁を切るつもりなんだ。
「さぁ、逃げるなら早く。宮代先輩の防弾仕様の車でも防ぎきれない武器も持ってきますので、逃げ遅れたら絶対に助かりませんよ?」
「…行こう、雄介君。帰るわよ神田理子!」
「あ!? まだ使った食器を洗ってないでしょ!?」
「あと数分でここが襲撃されるのよ。それともここに残って死にたいの?」
「すぐ帰りましょう、今すぐに」
「それじゃ、雄介君。先に行って待ってるから」
そう言って、宮代さんと神田さんは店の外に停めてある車に向かっていった。
「さっさとあなたも行きなさい。多分今頃、家の者は高速を走ってる頃よ。いつまでもここで立ち止まっていたら、外に出た二人は殺されるわ」
「…姉さん」
「だから、それはもういいって言ったでしょ」
「そうだね…でも、僕は百瀬さんの事、ずっと姉さんだと思ってるよ。ほんの少しの間だったけど、僕は確かに姉さんの弟だった。それはずっと忘れない」
「……そう」
「ありがとう、姉さん。独りだった僕を見つけてくれて……さよなら」
百瀬さんの横を通り過ぎていき、僕は宮代さん達が待つ車の助手席に乗り込んだ。僕が乗り込むや否や、宮代さんは車を急発進させ、パーキングエリアから出ていく。
窓から店の方へ視線を向けると、店の入り口の所に百瀬さんが立っていたのを目にした。もう遠くなってどんな表情をしていたのかは分からなかったが、僕の事を確かに見つめていた。
猛スピードで車を走らせていた為、すぐに百瀬さんの事が見えなくなってしまい、森の中の道路に入ると、僕は座席にもたれかかって体の力を抜かした。
「…」
「…」
「あ、あのー…結局あの子は何だったの? 私、ほとんど調理場の方にいたから分かんなかったんだけど」
「はぁ…雄介君の様子を見て、よくそんな事が言えるわね」
「いや、でも―――」
「子供の抱えているものを察して、空気を読んであげるのが大人でしょ? まったく…」
「…ごめん…なんだか、私が一番歳が上なのに、一番子供みたい」
「…別に、そこまで傷付かなくていいわよ」
二人の会話をよそに、僕は真っ暗に染まっている外の様子をボーッと眺めていた。何も見えなかったが、それがかえってよかった。何も無いからこそ、ただ無心でその光景を見続けていれば、このモヤモヤとした心が和らいでいく気がして。
宮代さんの言う通りだ。僕は自分から他人に関わって、最後にはいともたやすく心がズタズタになってしまう。そして気付く。こうなる事が、初めから分かっていた事に。
「明日、雨が降ってほしいな……」
次回
「心の穴をヤンデレが埋める」




