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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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深夜1時の密談

 高速道路を下りた先にある小さなパーキングエリアに停まり、僕らは宮代さんと顔を合わせた。車の左側から出てきた黒いレインコートを着た宮代さんの手には拳銃が握られていた。その拳銃は百瀬さんが持っている拳銃よりも銃身が長く、一回りも大きい。

 宮代さんと百瀬さんが向かい合うと、二人は同時に銃を構えた。僕よりも武器について詳しい百瀬さんは、宮代さんが持っている拳銃を見て、唾を飲んだ。


「百瀬桜ちゃん、だったよね?」


「…ええ。宮代先輩、ですよね」


「何も危害は加えないから、銃を下ろしてくれないかな? 百瀬家の一人娘なら、多少は賢いでしょ?」


「賢い人間なら、そんな銃を持っている相手の言う事なんて信じませんよ」


 今にもどちらかが拳銃を撃ちそうな雰囲気だ。ここに来るまで表情が険しかった百瀬さん。対して、宮代さんは無表情のまま、百瀬さんを見ている。

 喧嘩や殺し合いとは無縁の生活を送っていた僕でも、この場で二人が争った場合の結果が想像出来た。百瀬さんが殺される、そんな絶対的で嫌な自信がある。

 

「…宮代さんが銃を下ろしてください」


「雄介……!」


「…どういう事かな、雄介君。私は雄介君を助けにきたんだよ?」


 そんな事は分かっている。でも、百瀬さんを殺されるのは嫌だ。自分勝手な願いがあったとしても、独りになっていた僕に寄り添ってくれたから。それに今だって、僕の盾になるように、僕の前に出ている。


「変な話ですけど、この人は僕の姉さんになってくれた。例え言葉だけで交わした関係だとしても、僕は家族を守ります」


「家族…そう……分かった、雄介君のお願いだし!」


 一瞬悲しそうな表情を浮かべたかと思いきや、すぐにいつもの明るい宮代さんに戻り、構えていた拳銃をレインコートの中に隠した。


「それじゃあこんな外なんかにいないで、お店の中に入ってお話しましょ!」


「はい、そうしましょう。僕も聞きたい事があるので。ほら行きましょう、姉さん」


「…ええ」


 僕が百瀬さんの手を握ると、彼女は拳銃を着物の帯の中に隠した。意気揚々と店の中に入っていった宮代さんを追い、僕らも店の中へと入っていく。

 店の中には人が一人もおらず、物が置かれてあったはずの棚も空っぽになっていた。ここのパーキングエリアの店は廃業したのだろうか? 幸いな事に電気だけは通っているようで、明かりは点いたままだ。

 その隣に小さく展開している喫茶店のような場所に行くと、コーヒーの良い香りが漂ってきて、一つだけ置き去りにされてあるテーブル席に宮代さんが座っていた。椅子は丁度三つ置いてあったので、僕らも座った。

 

「さて、雄介君…元気してた?」


「え? えぇ、まぁ…」


「そう、ふ~ん……」


「……え? それだけ? 話したい事があるって言ったじゃないですか」


「んー、いきなり本題からってのもなんだし、最初は手堅く世間話でもしよっかなーっと思って!」


「にしては短いですよ。会わない内に口下手になりましたか?」


「だってだって! 私がいない間にこの人と仲良くなってるんだもん!」


「人に指を指すな! 姉さんごめんなさい、宮代さんこういう人なんで」 


「え? え、えぇ…大丈夫…」


 おぉ、百瀬さんが困ってる。なんだか凄くレアだ。まぁ、確かにさっきまでの殺気たっぷりの宮代さんを見た後だと、こういう反応にもなるか。まったく、宮代さんってどうなってんだ? 二重人格とか?


「あ、そうだ! 何か飲む? 雄介君はブラックコーヒーだよね! 私もそうしよ! あなたもコーヒーでいいわよね? すみませーん! コーヒー三つ!」


 誰もいない調理場に向かって、宮代さんは大声を上げてコーヒーを頼んだ。僕と会わない間にこの人、ついにおかしくなったんじゃないか?

 そう思っていた矢先、調理場の方から物音がし始め、時折食器が割れる音が聴こえてきた。誰かいる、他にもここに誰かが。

 1分程待っていると、調理場からサングラスを着けた金髪の厳つい髪型の女性が出てきた。一瞬神田さんかと思ったが、あの人はあんなヤンキーみたいな見た目はしていないし、多分別人なんだろう……頼む、そうであってくれ。


「北崎さん、お久しぶりです!」


 あ、神田さんだ。僕に対してだけ尻尾ブンブン振ってそうなあの雰囲気は神田さんで間違いない。マジか…あの人、遂に厳つい系になっちゃったかー。


「これ、北崎さんのコーヒーです! あんたら二人の分も淹れてやったぞ、感謝しろ」


「ありがと。その金髪、馬鹿なあなたに似合ってるわよ?」


「あら、野蛮な店員さんだこと。お客への口の利き方がなってないんじゃありませんか?」


「うるさい! このサングラスに合った色と髪にしただけよ! あと誰よそこの着物女!」


「宮代先輩の言う通り、馬鹿みたいですね。人に名を聞く前に、まずは自分の名前を言うのが常識でしょう」


「神田理子! それであんたは!?」


「百瀬桜。ちょっと雄介、この人大丈夫なの?」


 そこで僕に聞くなよ。なるべく話に巻き込まれないように静かにしてたのに。というか、あんたら三人絶対仲良くなれるわ。うん、今の会話だけで分かる。

 でも、このままじゃ喧嘩がヒートアップして話が進まないし、ここは僕が切り出すしかないか。


「まぁ、とりあえず神田さんの話は置いておきましょう。それより、僕は宮代さんが今まで何を調べていたのかが気になります」


「もう本題聞くの? もっとお話しよーよ!」


「今何時だと思ってるんですか? 深夜の1時ですよ? 僕そろそろ眠くなってきたんですから、早めに聞きたい事聞いときたいんですよ」


「そっか……それじゃあ、そうね。まずはこれを見てもらいましょう」


 そう言って、宮代さんは一枚の写真をテーブルの上に置いた。写真はどこかの和室で、スーツを着た二人と、向かい側に着物を着た綺麗な女性が写っている。


「このスーツの二人は医療界のお偉いさん。そしてこの女性についてなんだけど…この人は良く知ってるでしょ? 百瀬桜さん」


「……ええ…私のお母様よ」


「え? あんた、医者と関りがある金持ちの娘って事?」


「神田さんは向こう行っててください。それで、これが何なんですか?」


「よくある秘密の悪人の密談…程度に思ってたけど、調べていく内に分かった事があったの。写真に写っている百瀬さんの母親、百瀬華美。この人、不死身の人間を造ってるの」


「不死身の人間? そんなファンタジーな人間、どうやって造るんですか?」


 僕がそう言うと、宮代さんは二枚目の写真をテーブルの上に置いた。その写真は、バラバラになった人間の部分が詰まった箱。そして医者と思わしき集団がその箱の中のパーツを手に取り、まるでプラモデルを組み立てるように器具を扱って手術をしている写真だった。


「惨いな…」


「場所は建設予定で買われた土地の地下。気が遠くなる年数で建てる予定を立ててるから、数年程度更地のままでも、誰も不審に思わないわ。この事は知っていた、百瀬桜さん?」


「……知らない」


 写真を見て、百瀬さんも困惑しているようだった。それにしても、不死身の人間を造るって話だったけど、この写真を見るに、造っているのは人間というよりゾンビだ。そんなものを造って何をするつもりなんだ?


「何故不死身の人間を造るのかは知らないけれど、この事実を知ったからには、あなたの近くに雄介君を置くわけにはいかないの」


「僕? なんでそこで僕が出てくるんですか?」


「雄介君が、不死身の人間を造るには最高の材料だからよ」


「…あー、そういう事か…ちなみに、僕の事はもう知られてるんですか?」


「残念な事にね」


「どういう事? お母様がやってる事と、なんで雄介が関係あるの?」


 驚異的な回復力の奇病を患っている僕は、不死身の人間としての理想形そのもの。もし、百瀬さんの屋敷にお邪魔していた時に、百瀬さんの弟になる事を受け入れていたら、僕は百瀬さんのお母さんに実験材料として監禁されただろう。今思えば、あの時逃げて良かった。


「調べる事に夢中になってた私は、一番大切な事である雄介君と触れ合う事を思い出して戻って来た。そしたら、雄介君が百瀬家に連れ去られていくのを見て、追ってきたの」


「なるほど。僕と日常的に触れ合ってるような妄想はさておき、なんだかスケールが大きい話になってきましたね」


「ちょっと待って、雄介。私はまだ話が分かってないわ。どうして雄介がお母様と関係あるの?」


「それは…教えてもいいですか? 宮代さん」 


「まぁ、彼女は本当に知らなかったみたいだし、ここまで聞かせたんだもの。いいんじゃない?」


「そうですか。それじゃあ、宮代さん」


「分かった」


 すると、宮代さんは拳銃を取り出し、僕は今来る痛みに備えた。一発の銃声が鳴り響いた瞬間、視界が真っ暗になって、僕の頭が軽くなった。


「ッ!? 何をやってるのあんた!!! 私の雄介を―――」


「僕は大丈夫だよ、姉さん」


「…え……え?」


 視界が元通りになり、頭の存在も戻ってきた。隣に座る百瀬さんを見ると、酷く困惑している様子だった。

 まぁ、初めて見たらそういう反応もするよな。

次回


「天秤」

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