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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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衝突

体調が戻ったので再開します。

 僕には兄弟がいない。小さい頃に面倒を見ていた弟分も、面倒を見てもらった兄貴分もいなかった。

 そんな僕が、血の繋がらない同年代の弟になった。隣に座る百瀬さんと交わした姉弟関係だ。正直実感が湧かない。あの時は寂しさのあまり、百瀬さんの弟になる事を受け入れたけど、弟になるってどういう意味なんだ? 


「……百瀬さん」


「あら雄介。もう家族も同然なのですから、姉さんと呼びなさい」


「姐さん。僕はこれからどうすればいいの?」


「今までと変わりなく接してくれればいいわ。お話したり、稽古をしたり、常に一緒にいてもらうわ。あと、姉さんよ」


「そんなのでいいの? それって、弟になる意味ある? 友達でいいんじゃん、姐さん」 


「…今まで、欲しい物は力づくで勝ち取ってきた。地位も人も、物も金も。でも、たった一つだけ、手に入らなかった物があった。それが弟って事よ…あと、姉さんって呼びなさい」


「それって、僕じゃなくても良かったんじゃない? 百瀬さんなら、弟になりたいって男や女が沢山いそうだけど…姐さ―――むぐっ!」


 姉さんと言うのが気恥ずかしくて姐さんと呼び続けていたら、百瀬さんは僕の頬を掴んで、顔を近付けてきた。なんでそんなに姉さんと呼ばれる事にこだわるんだ…。


「姉さん、よ。雄介」


「……へぇはん」


「フフ。早速、弟らしくなってきたじゃない。関心よ」


 スッと唇にキスをして、頬を掴んでいた手を放した…え? 今僕にキスした? え、えぇ…僕まだキスした事無かったんだけど。というか、絶対運転手に見られたじゃん。後ろに座ってても、バックミラーで見えるんだよ。

 そう思っていたが、今見ると、バックミラーの向きが運転席側に向けきっていた。多分、急いで動かしたんだろうな…あ、戻した。


「…普通、姉が弟にキスしますか?」


「あら? 可愛い子にはキスをしたくなるものでしょう?」


「…姐さんって、僕より男らしさがありますよね」


「また姐さんって…そんなにキスされたいの?」


「いや、もう結構です。それより、この車はどこに向かってるんですか? 記憶が正しければ、百瀬さんの屋敷は反対方向のはずですが」


 僕らが乗っている車、および前後二台の車は、現在高速道路を走っている。明らかに百瀬さんの屋敷とは別の場所へ向かっているようだ。


「これからしばらくの間、東北にある私の持ち家で過ごしてもらうわ。早くて3年、遅くて…5年かしら?」


「東北って…僕寒いの苦手なんですけど」


「ワガママな弟だこと。でも、これはあなたの身を守る為よ。今頃、百瀬家の人間を殺した雄介を父が血眼になって探してる。見つかったら殺されるわ」


「そりゃおっかない……ま、死ねませんけどね」


「どういう事?」


「別に…」


 危ない、バレるところだった。この人なら、僕が死ねない体と知っても怖がってはくれないが、その代わりに嫌というほど稽古に付き合わされる。この人の稽古に一週間付き合ったが、出来ればもう二度としたくない。痛いし、勝てないし、痛いし。

 そんな事を思っていた時だった。後ろの方から、猛スピードで走ってくる一台の車がサイドミラーから見えた。高速道路だし、スピードが出るのは仕方がないが、それにしても速すぎる。まるで僕達に追いつこうとしているみたいだ。

 その時、サイドミラーから見えていた車のライトが消え、一瞬どこに消えたのか分からなくなっていた間際、激しい銃声が鳴り響いた。

 すると、後ろについていた百瀬さんの部下の車がよれだし、そのまま高速道路の外側へ突っ込んでいった。


「な…!? 後ろの車、どうしちゃったんですか!?」


「襲撃? 全く、こんな時に…」


 そう言いながら、百瀬さんは助手席の後ろにあるダッシュボードを開き、ベルトで留められていた拳銃を手に取り、窓を開けた。


「雄介は頭を低くしてて。猿山! 襲撃してきた奴の隣に移動させなさい!」


「了解」


 車は右車線に移り、前方にいた車も90度回転して、襲撃してきた殺し屋を狙い始めた。初日から物騒な目に遭っちゃったよ…と思いつつも、映画で見たような高速道路での戦闘に、少しだけ心が躍った。

 すると、殺し屋の車を捉えたのか、百瀬さんは拳銃を躊躇なく撃ち始めた。


「…チッ。防弾仕様みたいね。面倒な」


「こっちも防弾仕様ですよ」


 運転していた猿山という男がそう言った矢先、明らかに百瀬さん達の銃声とは違う銃声の音が鳴り、車が爆発した音が聴こえた。


「ッ!? あいつ! 防弾を貫通させやがった!?」


「あっちはプロの殺し屋って事よ。この車、拳銃しか置いてないの?」


「申し訳ありません。拳銃だけでも事足りるかと…!」


「全速力で逃げなさい。今の状況じゃ分が悪過ぎる」


「了―――」


 その時、窓ガラスが割れる音と共に、車内が揺れ動いた。この車を撃ち始めたんだ、おそらく運転手は死んだだろう。咄嗟に百瀬さんが運転席に身を乗り出し、運転していた猿山を車から降ろして、代わりに運転し始める。


「あらあら、どうしましょうか雄介。護衛は全員やられ、私の手下が一人死んじゃったわ。残ってるのは、私と雄介だけみたい」


「絶体絶命?」


「まさか。ただちょっと焦ってるだけよ」


 どうする? このままじゃ、この車もたちまち蜂の巣にされてしまう。僕は助かっても、百瀬さんは助からない。弾丸から身を挺して守る…いや、車を貫通させた弾だ、僕一人が壁になっても結果は変わらないだろう。百瀬さんを抱えて車から降りても、逃げる手段を失うし、車から降りたところを狙われる。

 僕が必死に解決策を練っていると、ポケットの中に入れていた携帯が振動した。誰だよ、こんな非常時に電話掛けてくる奴は。


「すみません、今取り込んでるんで後で掛け直します!」


『やっほー! 雄介君、元気にしてたー?』


 この声…間違いない、宮代さんだ。


「宮代さん? 今までどこ行ってたんですか!?」


『ちょっと調べる事があって。もしかして、寂しかった?』


「ッ!? 馬鹿言わないでください! あと、今ちょっと忙しいんで! また後で電話しますので!」


『知ってる知ってる! 隣、見てみて!』


「隣?」


 顔を上げて隣にいる殺し屋の車を見てみると、ユラユラと左右に揺れ動いていた。すると今度は僕らの前に動き、90度向きを回転してライトをチカチカと点滅し始める。


「随分、お調子者な殺し屋ね?」


「あー……姐さん」


「姉さんって言いなさい!」


「あれ多分、宮代さんです…僕らの学校の先輩」


「…嘘でしょ」


 自分達を襲ってきた凄腕の殺し屋の正体が、自分達が通う学校の先輩だと知り、流石の百瀬さんも苦笑いした。


『どうかしら雄介君! 私のドライビングテクニック!』


 あー、頭が痛い。極道の娘さんの弟になったかと思いきや、ファーストキスを奪われて、更に殺し屋に襲撃されて、その殺し屋の正体が宮代さんで……駄目だ、情報量が多すぎる。というか、宮代さんも車の運転出来るのか、最近の学生は進んでるんだな。


『雄介君。少しだけ運転席にいる女に代わってもらえる?』


「百瀬さんですよ。会った事ありますよね……はぁ、分かりました。姐さん、代われって」


「もしもし…ええ……そんな命令聞くと思ってるの?……そんな事したら、雄介まで巻き込んで…大丈夫? 何がよ……チッ! 分かったわ、次の場所で降りる」


 通話が終わり、百瀬さんは携帯を窓から投げ捨てた…あれ一応僕のなのに。 


「次の場所で降りるわ。先輩の宮代さんが話したい事があるって」


 そう言いながら、百瀬さんは運転を続けたまま拳銃の残弾を確認する。どんな話をしていたかは分からないが、面倒な事になるのだけは確信した。

次回


「深夜1時の密談」

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