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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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逃走

 百瀬さんの屋敷から逃げ出し、追手が来る前に出来るだけ屋敷から離れようと走り続けていた。しかし、どれだけ走っても結局は足だ、車の速さには敵わない。


「いたぞ!!!」


「やっべ!?」


 後ろから黒い車が猛スピードで迫ってくる。あのスピードじゃ轢き殺してしまうぞ。僕を捕まえるつもりじゃないのか? 何はともあれ、このまま真っ直ぐ道を走り続けていたら追いつかれる。

 道中にある見知らぬ人の家の敷地に入り、そこを通り抜けて別の道に出ると、そこにも追っ手の車が来ていた。

 すると、車に乗っていた黒服が窓から身を乗り出し、僕に向かって拳銃を発砲してきた。弾は周囲の建物の窓ガラスに当たり、中にいた人の叫び声が外にまで響いてきた。

 ここは住宅が密集し過ぎてる。このままじゃ二次被害が出て、最悪な事件が起こってしまう。まずはこの住宅街を抜けないと。

 僕は走り続けた。後ろから聴こえてくる車のエンジン音がどんどん近付いてくるのを耳にしながらも、必死に走った。

 走り続けていくと、海が見える海岸沿いの道路に出れた。初めて見た海の輝きに、一瞬目を奪われてしまい、後ろから迫ってきていた車に轢かれてしまう。一回転して宙を舞い、地面に顔から激突した。痛みを感じながらも立ち上がると、僕を轢いた車が道路のガードレールに激突していて、歪んだボンネットの隙間から黒い煙を漏らしていた。

 

「ぅ…ぅぁ……」


 車のドアが開くと、運転していた黒服が倒れながら出てきた。頭から大量に血を流して、意識も朦朧としているようだ。

 ここで僕は、自分でも思いがけない行動に出てしまった。自分を追って、自分を轢いた相手だというのに、僕は助けようと駆け寄ってしまったんだ。


「だ、大丈夫で―――」


「ッ!? ぐぁぁぁ!!!」 


 僕の姿を見るや否や、黒服は僕に拳銃を向けて発砲し、3発の弾丸が僕の体に撃ち込まれた。初めて銃で撃たれたが、思ったよりも痛みは感じないな。それでも、全く痛くない訳ではなく、唇を噛み締めてしまう程には痛みを感じた。

 

「いっ!? ったぁぁ…おい、あんた! 人がせっかく助けてやろうと思ったのによ! 問答無用で撃つんじゃねぇ!」


「ヒッ……ヒ、ヒヒヒ…ば、化け物だ…!」


「は?」


 その言葉に、僕の頭の中で何かが弾け飛んだ。その瞬間、僕の体は勝手に動き、瀕死の黒服を立ち上がらせ、髪を掴んで車のボンネットに何度も叩きつけた。


「あがっ!? ばが!? だはぁ!? ぎっ………」


「………あ」


 絵の具のように赤黒い血が手にベットリと付いていたのを目にし、正気に戻った。黒服を見ると、もうどんな顔だったか分からないくらいグチャグチャになっている。

 たった一言…たったの一言言われただけでこうまでするのか、僕は。


「ふぅぅぅ…ああ! あああ!! あああああ!!!」


 自分の頭を殴りつけながら、自分が化け物じゃないと必死になって思い込ませる。初めて人を殺してしまった時と同じように。

 

「違う違う違う違う違う! 僕は化け物じゃないじゃないじゃないじゃないじゃな―――」


 突然、目の前が真っ白になった。やがて視界が晴れていき、見えたのは雲一つない青空だった。指一つ動かせず、全身の節々から痛みを感じる。おまけに生物が焼け焦げた異臭も。

 何が起きた? 辛うじて目だけは動かせるようなので、周囲を見渡してみた。しかし、目だけでは見れる角度に限度があり、何も分からない。

 すると、今度は顔を動かせるようになり、首を起こして再度確認してみた。それでも、特に気になるような物はやっぱり何も無い。見えるのは砂浜ばかりだ。

 

「あれ…?」


 違和感を覚えた。特に何も気になる物は無いと思っていたが、何かが足りない。物じゃない、ましてや風景でも……あー、そうか。僕の体、無くなってるんだ。


「…フフフ! アハハハ!」 


 おかしな話だ。自分の体が無くなっている事に自分が気付けないなんて。もっとおかしいのは、顔だけになっても平然と生きている事だ。肺が無いのに息も出来るし、心臓も無いのに確かに鼓動を感じられる。

 

「ハハッ! アハハアハ…ハ…」


 あぁ、僕の体が元通りに再生されていく。まるで何事もなかったかのように、綺麗な状態で、瞬く間に。

 体が完全に戻ると、もう僕は自由に体を動かせるようになっていた。改めて周囲を見渡すと、さっきまで僕がいた道路上で炎が燃えあがっている。


「う、動くなッ!?」


 背後から声を掛けられ、振り返るとボロボロになった黒服が、僕に拳銃を突き付けていた。拳銃を握る手は酷く震えており、額からは大量の汗を流し、まるで化け物を見るような見開いた眼で僕を見ている。


「あの車から抜け出せたんですね」


「ヒッ!?」


 僕が手を伸ばすと、黒服は拳銃を撃った。僕は何もしないつもりだった。ただ誰かが生き延びた事を確かめたかっただけだったのに。

 なのに……どうしてそんな眼をするんだ?


「な、なん…! き、傷が、消えちまった…!」


 もういいや。そういえば、今僕は裸なんだっけか。丁度目の前のこいつが着ているスーツはサイズが近そうだし、こいつのを貰おう。


「はひっ!? 来るな! 来るなぁぁぁ!!!」




・ 


 雨だ…あんなに、晴れてたのに。ここは、橋の下か? どこの橋だ? そもそも、僕はどうやって、どうして黒いスーツなんて着てるんだ……分かってる、分かってるさ。憶えていないフリをしようとしても、全部憶えてしまってるんだよ!

 どうしてこうなったんだ。あの時、道路上にいた黒服の奴の言葉なんか無視すれば、ここまで酷くならなかっただろう。なんで無視しなかった、なんで無視出来なかったんだ。撃たれても死なないし、自分が化け物だなんて分かっていたはずだろう。


「…ぐ、ひっ…くふ、す……!」


 泣いたって…泣いたって、何も変わらない。人を殺した事も、自分が化け物だという事も。全部消し去りたくても、僕が生きている限り、忘れる事は出来ない。


「誰か…助けてよ…助けて……」


 誰でもいい。僕を人間に戻してくれ。それか、人間だと思わせてくれ。


「…宮代さん……なんで、今はいないんだよ」


 すぐに戻ってくるって言ったのに、なんで戻ってきてくれないんだ。僕の幸せを願ってたんじゃないのか? 僕は今、こんなに苦しんでいるのに、なんで助けてくれないんだ。

 結局、僕は独りなんだ……誰も僕の事を分かってくれる人なんて、いないんだ。


「雄介」


 声が聞こえた。僕の名前を呼ぶ声だ。


「……百瀬さん」


 僕の下に来てくれた人。それは宮代さんでも、神田さんでも、両親でもなく、百瀬桜だった。


「帰りましょう? 私達の家に」


 百瀬さんは自分が差している傘の中に入るように手招きをしてくる。


「……僕、百瀬さんの家の人、何人か殺しちゃった…」


「ええ、聞いたわ」


「僕の近くにいたら、百瀬さんも殺してしまうかも…」


「殺せないわ」


「分かんないじゃん…僕だって、いつまでも正気でいられる訳じゃないんだよ…!」


「狂ってしまったら、正気に戻るまで殺してあげる」


「…」


「雄介。私の弟になりなさい。あなたには、私が必要よ」


 この人は懲りずによく言う…でも、この人なら。百瀬さんなら、ずっと傍にいさせてくれるかもしれない。僕と同じくらい狂ってるし、僕より強いし。

 

「……分かった…僕は、百瀬さんの弟になるよ」

次回


「衝突」

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