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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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主従の契約

 放課後、百瀬さんに黙って真っ直ぐ家に帰ろうとしたが、校門前に6台の車と黒服の男達が待ち構えていた。まぁ、そう簡単に帰れるとは思ってはいなかったが、流石にこれはやりすぎでは?

 そんな訳で僕は、あとから来た百瀬さんと共に車に乗り込み、百瀬さんの家に連行された。車内にはラジオすら流れていなかったし、両脇にはゴツい黒服のおっさんに座られて居心地が悪かった。

 30分程経った頃、百瀬さんの家に着き、車から降りて辺りを見渡した。家はどっかの偉い人が住んでそうな広くて古風な屋敷。そして、屋敷の何倍もの広さがある庭。なにより驚いたのは、これが百瀬さんの敷地の一部分に過ぎない事。 

 どんだけ広いんだよ…これじゃあ、ただ屋敷で過ごすだけでも地図が必要だ。おまけに見回りの黒服達も大勢いる、忍び込む事も逃げる事も不可能だろう。


「雄介、私は先に着替えをしてきます。鴉!」


 百瀬さんが誰かの名前を呼ぶと、細身で長身の男が百瀬さんの隣に降り立った。


「この男が案内します。鴉、私の大事なお客様だから、失礼のないように」


 鴉と呼ばれる男は無言で頷き、屋敷の入り口を開けて僕が屋敷の中に入るのを待っていた。なんだ、この男? いや、男かどうかすら不明だ。服装は黒いロングコート、手には黒い手袋、顔にはカラスのような白いマスクを着けて、身長は若干2m。他の黒服とは明らかに雰囲気も待遇も違う。百瀬さんの世話係といったところか。

 屋敷の中へ入り、鴉さんの案内の下、屋敷内を歩いていく。道中、この屋敷で働いているであろう男性や女性の方とすれ違ったが、みんな僕を見て不審がっていた。それもそうだ、僕みたいな平民がこんな立派な屋敷にお邪魔しているのがおかしな話だ。

 しばらく歩いていくと、とある一部屋に辿り着いた。襖が開くと、宴会場のような広い座敷で、中央に座布団が二枚敷かれていた。


「ここでお待ちください。すぐに主が参ります」


「あ、はい…それじゃあ、待ってます」


 ここまで案内してくれた鴉さんに会釈し、僕は敷かれている座布団に座った。座布団に座るのなんて初めてで、どういう座り方が正しいかは分からないが、まぁ適当でいいだろう。

 それにしても、落ち着かない…屋敷の中にも外にも大勢の人がいたはずだが、この屋敷の広さの所為で少なく感じる。こんな事思うと失礼かもしれないが、平民として生まれて良かった。こんな広い屋敷や大勢の人に囲まれて過ごすなんて、僕には耐えられない。おそらく住んで三日で家出しただろう。

 そんな下らない事を思っていると、襖が開き、そこから鮮やかな花の模様が入った着物を着た百瀬さんが入ってきた。


「お待たせしました、雄介」


「いや、全然大丈夫」


 百瀬さんは僕の向かい側の座布団の後ろに立つと、あぐらで座る僕とは違って正座で座った。


「あ、正座…で座った方が?」


「フフ。ご自由に」


「そう…それじゃあ、このままで」


 そこで会話が途切れてしまった。他人と人並程度には話せるつもりだったけど、この環境下の所為か、変に緊張してしまう。あと、距離が近い。手を伸ばせば簡単に触れてしまえる。


「……家、大きいね」


「そう? まだ狭いと思うけど」


「まだ狭いって……果ては城でも建てるつもりですか?」


「雄介は、お城に住みたいの?」


「いや僕は、屋根と寝れる場所さえあればいいんで…」


「他に欲しい物は無いかしら?」


 なんだ? さっきから、まるで欲しい物をねだる子供のように見られている気がする。というか、百瀬さんは何で僕をここに連れてきたんだ? 


「…百瀬さん、僕を連れてきた理由を知りたいんですが」


「理由? あなたとお話をしたかったからですよ」


「それなら学校でいいでしょ。他に何かあるんですよね」


「勘が良いわね。元々? それとも誰かの影響かしら」


「そもそも、なんで僕なんですか? 学校には僕より魅力がある男性や、気の合う女性がいたかもしれないのに」


「私はあなたを気に入ったんです。北崎雄介という男性を」


「聞けば聞くほど分からなくなりますよ、なんで僕なんですか…!」


 質問すればする程、答えからどんどん遠ざかっていく。段々とイライラしてきて、髪を掻きむしっていると、百瀬さんは僕の両頬に手を当て、無理矢理目を合わせられた。


「雄介。あなたは、あなたが思っている以上に、他人を惹き付ける存在なんですよ」


「そんなんじゃないですよ、僕は」


「それでは、あの二人は何故あなたの傍に?」


「……二人?」


 二人って言ったか? おそらく、宮代さんと神田さんの事を言っているのだろうけど、宮代さんならともかく、百瀬さんは神田さんとは会っていないはず。なんで神田さんの事も知っているんだ、この人。


「宮代葉月。神田理子。あの二人は、あなたの魅力に惹かれて傍にいるのですよね?」


「どうして……まさか! あの時か!」


 数日前、出前を頼んだ時に来た白い服の男。おそらくあの男は百瀬さんの家の者だったんだ。だからあの時、宮代さんはあんな事を僕に言ってきたのか。

 両頬に触れている百瀬さんの手を払い、僕は立ち上がって三歩後ろに下がった。


「あら? どうして怒るのかしら?」


「怒るに決まってるだろ! 勝手に人の周りを調べて!」


「欲しい物は事前に調べて、確実に手に入れる。それが常識でしょう」


「欲しい物だと?」


「ええ。北崎雄介、私の弟になりなさい」 


「はぁ!?」


「性格、身体能力、戦闘技能。この一週間の間にあなたを見定めました。戦闘に関してはまだまだですが、それはこれから私が鍛えてあげればいいだけ」


「ちょ、ちょっと待って! 一旦頭の整理を!」


 この人は一体何を言ってるんだ? 弟になれって…意味が分からない。おまけにあの言い方。欲しい物は事前に調べると言っていたが、僕の両親の事まで把握済みなのか? もしそうだとすれば、僕が百瀬さんの要求を断った場合、僕だけの問題じゃなくなる。

 

「頭の整理はつきましたか? さぁ、早く私の弟に―――」


「なるわけないだろ!!!」


「何故?」


「まず言い方が気に食わない! 弟になれって言い方だ! あんたがどれだけ偉いのか分からないが、僕は他人に命令されるのが大っ嫌いだ!!!」


「それなら、どうすればあなたが手に入りますか? お金? それとも女? 欲しい物は何でも与えますよ」


「自分の事は自分で何とかする! 僕の生き方は、僕が決める事だ!!!」


 僕は自分の想いを百瀬さんにぶつけ、座敷から出ようと歩き出す。


「まだ話は終わっていませんよ?」


 後ろから百瀬さんの声が聞こえてきたが、返事を返す気にもならない。襖を開けて出て行こうとするが、襖を開けた先に、鴉さんが立っていた。


「どいてください、僕は帰るんです…!」


 鴉さんの体を押しのけようとした瞬間、首を握られ、そのまま片手で体を持ち上げられてしまう。なるほど、初めから帰すつもりなんてなかったみたいだな。


「貴様、私の主を拒むつもりか…!」


「ぐっ…がぁ…!」


「鴉、もういいわ。手を放しなさい」


 首を絞める力が強い…! 抵抗しても大した効果は無いだろう。なら、怒りを煽って手を放させるまで。


「ハハ…主が主なら…手下も化け物だな…!」


「ッ!? 貴様!!!」


 骨が砕けた音が脳天にまで響き渡った。多分、首の骨が粉々に握り潰されたんだろう。どんな握力してやがるんだ?


「鴉!!!」


「ッ!? も、申し訳ご―――」


 百瀬さんに怒られ、鴉が僕を掴んでいた手を放した。動揺しているこの一瞬、逃げるなら今しかない!

 床に足がついた瞬間、僕は鴉を押しのけ、ガラス張りの扉を突き破って庭に出た。庭に出ると、騒ぎを聞きつけて黒服達が駆けつけて来る。やはり当たり前に入り口から逃げるのは不可能か。それなら、自分の身体能力を信じてやってみるか!

 僕の身長の倍以上ある塀に向かって走り出し、その手前にある大きな石に飛び乗り、少ししかない足場で助走を付けて塀に飛び込んだ。ギリギリ塀の屋根を掴む事に成功し、そのまま塀の屋根の上に登った。


「あいつ逃げるぞ! 撃ち殺―――べッ!?」


「勝手にあの子を殺さないで!!! 雄介!!!」


 後ろを振り返ると、僕を撃とうとした黒服の返り血を浴びた百瀬さんが、眼を震わせながら僕を見ていた……百瀬さんも、泣きそうな眼をするんだな。


「それじゃあ百瀬さん! さよなら! 出来る事なら僕を忘れてくださいね!」


 そう言い残し、僕は塀から飛び降りて走った。このまま家に戻っても捕まるし、この街にいてもいずれ見つかる。ここは一先ず、この街から出るしかなさそうだな。

次回


「逃走」

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