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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
三章 運命の出会い
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転校生はお嬢様

 登校中、車に轢かれた。別に寝ぼけていた訳でも、道の真ん中に突っ立っていた訳でもない。右の端を歩いていて、電柱を避ける為に少し左にズレただけだ…いや、少しじゃないかも。

 車に轢かれるのなんて初めてだった。まず体に強い衝撃が走り、少しばかり宙に浮いて地面に激突した。何が起きたのか分からなかったが、前方に黒い車が急ブレーキで停まったのを見て、僕は轢かれたんだと理解した。轢かれた足は痛みを感じる前に完治していたから、すぐに電柱裏に隠れる事が出来た。  

 なんで隠れたかなんてのは明白だ。轢いた相手は、僕に怪我をさせたと焦り、今に車から降りて来る。そして僕の体に怪我一つも無い事を目にして、逆に不審がって無理矢理病院に連れて行く。連れて行かれた病院で僕の体は隅々まで検査され、奇病の事が発覚すると、さっきまで患者扱いしていた僕を実験動物のように弄るだろう。

 そんな事を考えていると、車から一人の黒いスーツを着た男が降りてきた。額に傷、体は大柄でおよそ190、人を轢いたというのに表情一つ変えていない。そのあまりの落ち着きぶりに、僕は男に対して良くない印象を覚えた。


「いない? 確かにさっき、人を轢いた気がしたが……」


「急に車を停めてどうしましたか? 何か問題でも?」


 車の中から女性の声が聞こえた。もう一人誰か乗っていたようだ。とても気品がある声だが、どこかロボットのように無機質で冷たい。


「…いえ、何も。すぐに戻ります」


 そう言って、男はそそくさと車に戻り、何事も無かったかのように去っていった。

 

「ふぅ。見つかんなくて良かった。あんなおっかない人に見つかってたら、運ばれるのは病院じゃなくて山奥の土の中だったかも」


 見た目で人を判断するな、なんて言葉があるが、やっぱり人は見た目から判断するものだよな。目と直感、生きていく上で大事な二つだ。




 

 学校に着き、自分の席にカバンを置いて椅子に座った時、違和感を感じた。何故かクラスの人達が、それぞれのグループ内で何かを話している。隠し事にしては声は抑えていない。聞こえてくる会話の一部分は、【転校生】という言葉だ。

 転校生? そんな話、昨日まで誰も言っていなかったはずなんだが。まぁ、その話が真実にしろ嘘にしろ、僕には関係無いし、興味も無い。


「はい、みんな席についてー」


 時計の針が8時を指すと、教室に担任の先生が入ってきて、みんなを席に座らせた。こころなしか、少し緊張しているような雰囲気だ。


「えーと、急で悪いんだがな、転校生を紹介する」


 転校生という言葉に、クラス中がざわめき出す。転校生が来るのは、本当だったんだな。


「静かに!……転校生の方を呼ぶ前に、一つだけ、お前達にお願いがある。絶対に! 仲良くしてくれ。な?……よし、それじゃあ呼んでくる」


 一度先生が教室から出ると、すぐにまた戻ってきて、開けっ放しにしていた扉から、一人の女性が入ってきた。肩より少し上くらいの黒い髪、凛とした顔、歩く姿だけでも気品に溢れていた。

 美人、と一言で表すには失礼なくらい、彼女は周りの人よりも上の存在に思えた。


「みなさん、初めまして。本日よりみなさまのクラスメイトとなります、百瀬桜、と申します。お見知りおきを」


 凛とした立ち振る舞い、大人よりも大人らしい言葉遣いに、クラス中は呆気に取られていた。無論、それは僕も同じだ。しかし、呆気に取られていた理由は他の奴とは違う。

 あの声…冷たく、どこかロボットのように無機質な声。今朝、僕を轢いた車に乗っていた女性の声だ。

 という事は…なるほど、他の連中と違って見えるのも頷ける。


「えと、それじゃあ百瀬さん。あなた様の席は、北崎の隣になりますので」


「…は?」


 静まり返っていた教室内に、無意識に出た僕の声が響いた。すると先生はバッとこっちを見て、歯をむき出しにしながら僕に何かを訴えかけていた。


「あなたが、北崎さん?」


 静寂に包まれた教室の中、百瀬さんは平然とした態度で僕の方へ近付いてくる。顔は笑っているが、纏うオーラというか、雰囲気が一歩近付く毎に肌を凍り付かせる。

 百瀬さんが僕の目の前にまで来ると、彼女は僕の顔を覗き込むように近付き、数秒僕の眼を見た後、僕から一歩離れて笑顔を向けた。


「北崎さん、お名前は?」


「雄介。北崎雄介」


「北崎、雄介…これからよろしくお願いしますね、雄介」


「こちらこそ、よろしく」


 それから気まずい雰囲気の中、通常通り午前の授業が終わり、昼休みとなった。しかし、昼休みになったというのに、誰一人として騒ぐ人はいない。原因は、百瀬さんの存在だろう。すっかりみんな百瀬さんに怖気づき、最初はあれだけ転校生について騒いでいたというのに、今は百瀬さんに話しかけるどころか、彼女から逃げるように教室から出て行った。

 そうして今、教室に残っているのは僕、そして百瀬さんだけ。先生は仲良くしろと言ったが、この様子じゃ無理だろうな。

 

「雄介、お昼は?」


「直に来ます」


「あら、出前?」


「あー、そうとも言えますね。百瀬さんは?」


「私は家の者に作らせた物が。お昼ご飯、ご一緒にどうですか? 私とあなたの親睦を深める為にも」


「僕は構いませんよ。ただ、あの人が何て言うかな。まぁ、聞くだけ聞いてみますよ」


 すると、教室の扉が勢いよく開き、宮代さんが僕目掛けて突っ込んできた。勢いが強くて受け止めきれず、椅子から転げ落ちた僕の上に宮代さんが馬乗りになっている。


「雄介君! お昼にしよ!」


 日に日に突っ込んでくる勢いが強くなってきたな、この人。でも今日だけは宮代さんに感謝だ。この溢れんばかりの鬱陶しさのお陰で、堅い雰囲気が一気に柔らかくなった。


「あー、その事なんですけどね、今日は三人でもいいですか?」


「三人?」


「そ、三人。そこにいる百瀬さんも一緒に」


 僕が百瀬さんに指差すと、宮代さんは僕の指差した先にいる百瀬さんの方に顔を向けた。顔を見合わせた二人。すると、百瀬さんは宮代さんにお辞儀をした。


「百瀬桜、と申します。以後、お見知りおきを」


「ふーん。転校生だね」


「はい、本日から。それで、隣の席になった雄介と、親睦を深める為にお昼をご一緒したいのですけど…よろしいですか?」


「駄目。ほら、行くよ雄介君!」


 宮代さんは百瀬さんの頼みをアッサリと断り、僕の腕を引っ張って教室から出ていく。さっきの感じだと、普通了承するところだが、やっぱりこの人は断った。まぁ、元々分かりきっていた事だけど。

 階段を上っていき、僕らがいつも利用する屋上に向かっていると、階段途中で不意に宮代さんは足を止め、後ろにいる僕の方へ振り返った。


「雄介君、あの女、何?」


「転校生ですよ、ただの」


「違うわ、そうじゃない。あの女、今朝雄介君を轢いた車に乗っていた女だよね?」


「あ、やっぱり百瀬さんが乗ってたんだ。というか、どっから見てたんですか?」


「普通謝るのが常識だよね。なのに、あの女は雄介君に謝りもせず、あまつさえ親睦を深めようなんて言った」


「まぁいいじゃないですか、細かい事は。別に僕は気にしてませんし、謝られても僕が困るだけですから」


「……雄介君。あの女には気を付けて。直感だけど、関係を築けばマズい気がする」


「分かってますよ、それぐらい。誰かさん達のお陰で、ヤバい人間を見抜く能力が上達しましたから」


「私のお陰? 嬉しいな! 私が雄介君のお役に立てて! うん、やっぱり私だけが雄介君を幸せに出来るもんね!」


「調子いい事言ってないで、早くお昼済ませましょう。堅苦しい空気の中ずっと授業受けて、僕は疲れてるんですから」


「はーい!」


 僕らは屋上に行き、今日も宮代さんが作ってくれたお昼ご飯を食べながら昼休みを過ごした。本当に、今日だけは宮代さんがいてくれて助かった。あの空気の中に入って来れるのは、鈍感か馬鹿のどっちか。宮代さんの場合、その両方が兼ね備わっている。

 それにしても、百瀬桜さん、ね。早速嫌な予感がするけど、今度は出来るだけマトモな人だったらいいな。

次回


「もう一つの家族」

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