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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 迷宮の夢
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変化

 時刻は12時を回った。未だ台風は収まらず、ニュースでは台風の被害に遭った街の様子が映されていた。建物の一部が風に吹き飛ばされたり、電線が千切れて激しく火花を飛び散らせている。


「うわ、外は凄い状況ですね」


「そうですね・・・あの、そろそろあの人を家の中に入れてあげてもいいんじゃないでしょうか?」


「宮代さんの事? あー、大丈夫大丈夫。ほら」


 僕は携帯に届いていた宮代さんからのメールの内容を神田さんに見せた。


【お昼ご飯買ってくる! 他に欲しい物があったら言ってね!】


「・・・意外と平気そうですね」


「まぁ、宮代さんだからね」


「前から聞きたかったんですけど、あの人と北崎さんは、どんな関係なんですか? どう見ても悪質なストーカーだと思うんですけど」


「神田さんが言える事かな? えーと、僕と宮代さん・・・う~ん、どういう関係と言われても」


 友達、ではない。かといって、知り合いという程、距離が遠い関係でもないはず。会えて嬉しいって訳じゃないし、会えなくて寂しい事もない。

 でも、宮代さんが傍にいたら退屈する事もなく、僕が他人には言えなかった事を遠慮なく言える。


「強いて言うならば、姉弟みたいな関係でしょうか? 姉の理不尽に付き合わされる弟みたいな感じですね」

 

「姉弟って、結構近しい関係ですね・・・参考までに! どういった事をすれば、私も北崎さんと姉弟関係になれるのでしょうか!?」


「どんな事って言われても・・・手始めに、敬語をやめたらいいんじゃない?」


「いえ! 恩人に対しては敬語でいかせていただきます! これでも私、20後半なので!」


「じゃあ尚更年下に敬語はやめてください。年上ならもっと、こぅ・・・威張るとか?」


「威張る、ですか? はい! やってみます!」


 この人、僕が言った事なら躊躇わずやりそうだな。こういう所は宮代さんと少し似ている。まぁ、あっちは僕が言った事以上の事をやるけど。


「・・・おい北崎、さん。コーヒーが空になった・・・なってますけど、おかわりを・・・願います」


「うん。やっぱり神田さんは敬語のままでいいや」


「くっ!? 申し訳ございません! 私は北崎さんの命令をマトモに行えない無能です!」


 本気で泣いてるよ、この人。別にそんなに気にしなくていいのに。そう思いながら、空になっている神田さんのカップにコーヒーを注いだ。

 すると、携帯に一件の着信が入り、見ると宮代さんからのメールだった。


【お店どこも閉まってたから戻る・・・ごめん】


「ふっ、別にいいのにさ」


【別にいいですよ。気を付けて帰ってきてください】


【!? 雄介君からの初めての返信だー! すぐ帰るね!】


「ふふ」


「・・・なんだか、本当の姉弟みたい」


 視線を携帯から神田さんに移すと、サングラスで隠れているが、優し気な笑顔を浮かべていた。その表情は、まるで仲良くじゃれつく雄猫と雌猫を見ているようだった。

 

「うん・・・なんとなくですけど、北崎さんとあの女の関係が分かってきました」


「どういう風に見えます?」


「家族です。血の繋がりが無くても、特別な存在だと互いに思っている。現に、今の北崎さんは幸せそうです」


「そうですか? 別に、僕は以前から変わってないと思いますけど」


「いいえ、変わりましたよ。あの女には劣りますが、私だって以前から北崎さんを陰から見ていたんです。以前のあなたは、そんな風に笑わなかった。ずっと、独りで寂しそうにしていた」


 そんな風に笑わなかった、か。僕自身は変わってないと思っていても、他人から見たら違って見えるんだろう。でも、確かに宮代さんと一緒にいると、よく笑うようになったし、冗談も言えるようになった。僕が気付かなかっただけで、僕は変わってきているんだ。

 考えられないな。だって、初対面でいきなり家に侵入してきて、僕の上に覆い被さって告白してきたんだ。その時は、宮代さんの事なんか知らなかったし、ただただ怖かった。

 でも今は、少なくとも怖くはない。未だにくっついてくるのは嫌だけど、それ以外は慣れた。それでも、やっぱり僕なんかを好きでいてくれる事だけは、やっぱり受け入れられない。宮代さんと一緒にいればいる程、もっと相応しい人がいると思ってしまう。それとは逆に、この先も傍にいてほしいとも思っている。 

 矛盾している。僕の中にもう一人の僕が生まれたみたいだ。


「なんだか、羨ましいです」


「宮代さんが?」


「いえ、あなた方が。私には、縁が無い話ですし。この奇病さえ無ければ、私にも・・・北崎さんにとっての宮代葉月のような相手がいたかもしれません」


「神田さんにも出来ますよ。今だって、こうして僕と一緒にコーヒーを飲んでる。向かい合わせで」


「ふふ。その言い方だと、勘違いさせてしまいますよ?」


「そうですか? 少なくとも、僕は神田さんと友達だと思っていますよ」


「・・・ありがとう。北崎さんがあの時、私を夢の世界から現実に連れてきてくれたから、今こうしていられる。本当にありがとうございます、私にもう一度現実で生きてみようと思わせてくれて」


 そう言って、神田さんは深くお辞儀をした。改めてそんな風に感謝されると、なんだか照れるな。

 あと、嬉しくなる。僕だって、こうして神田さんと話せる事が嬉しいんだ。もう二度と、本田さんのように、必死になっても救えなかった事なんて体験したくない。こんな僕でも、誰かを救う事が出来ると、自分に自信を付けたいんだ。

 だから、神田さんがこうして現実世界で生きようとしてくれて、僕は本当に嬉しい。まぁ、こんな事、恥ずかしくて口に出して言えないけど。


「あ、そうだ! そういえば私達、まだちゃんと自己紹介出来ていませんでしたね?」


「あー、確かに。一緒にコーヒーを飲みながら話してるのに、名前しか知らないってのは、おかしな話ですね」


「それじゃあ、私から! 私の名前は神田理子。歳は27歳で、趣味は甘い物を食べる事。好きなタイプは私の事を理解してくれる人、つまり北崎さんの事です!」


「直球ですね。それじゃ、僕も。名前は北崎雄介。歳は16で、趣味はスノードームを眺める事。好きなタイプは・・・えっと・・・ごめんなさい、まだ分かりません」


「ふふ・・・あはははは!」


「はは、あははは!」


 別に笑うような事は言ってなかったし言わなかったが、どうしてか笑いが込み上げてきた。僕って、こんな風に笑うんだな。まだこんな風に、自然と笑う事が出来たんだ・・・体は化け物でも、心までは、まだ人間のままだったんだ。

 すると、玄関からチャイムが鳴り、それと共にメールが届いた。


【着いた】


「一言だけかよ。まったく・・・ふっ」


 玄関に行き、扉を開けると、全身ズブ濡れになった宮代さんが、満面の笑みを浮かべて立っていた。雨で濡れた髪や、後ろの悪天候の所為で、とても恐ろしい笑顔に見える。


「散歩楽しかったですか?」


「寒かった!」


「あーそれは良かったですね。それじゃあとっとと風呂に入ってきてください。あとで宮代さんが僕の部屋に置いてった服を適当に持っていくんで」


「それじゃあ一緒に―――っと、危ない危ない。また追い出されるところだった」


「ほら、さっさと中に入ってくださいよ。まったく・・・おかえりなさい、宮代さん」


「ただいま! 雄介君!」 

次回から新章です。


「転校生はお嬢様」

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