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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 迷宮の夢
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一触即発

 台風で荒れる中、僕の家に訪れた神田理子。このまま帰すのも可哀想だし、とりあえずタオルと母の服を渡して着替えてもらい、椅子に座らせた。

 

「はい、コーヒー。」


「あ、わざわざありがとうございます。」


 神田さんは髪を拭いていたタオルを首に掛け、コーヒーが入ったカップを両手で持ってゆっくりと飲んでいく。僕も自分のコーヒーを一口飲み、ふと隣の席に座る宮代さんを見た。宮代さんは神田さんの眼を避けて見ており、机の下に隠している右手には果物ナイフが握られていた。

 さては、神田さんがおかしな行動を起こしたら、迷いなく刺すつもりだな? お願いだから家の中で殺人事件を起こさないでくれよ。


「コーヒー、美味しいです。北崎さん」


「え? あ、そう・・・それで、何の用?」


「あ、そうですそうです! この前のお詫び、と言っても大した物じゃないんですけど」


 そう言って、神田さんはカバンの中から箱を取り出し、それをテーブルの上に置いて開けた。箱の中には、筒状のスポンジ生地の中にクリームが詰め込まれた菓子が六つ入っていた。


「どういった物をお持ちしようか迷ったんですけど、どうせなら私がよく食べる所のお菓子がいいと思って。味も良いですし、何より香りが―――」


「アウト。あと2回」


 ニコニコと笑いながら、持ってきたお菓子の説明をしていた神田さん。そこに割って入るように、宮代さんが冷たい声色で呟いた。

 おそらく、僕が甘い物が苦手だというのに、詫びの品でいかにも甘い物を持ってきた事に怒っているんだろう。そして2回という言葉。これは、あと2回気に障るような言葉や行動を起こしたら殺す、という宣言だ・・・どうしよう、滅茶苦茶緊張してきた。


「えっと、アウトって?」


「雄介君はね、甘い物が苦手なの。ストーカーの癖にそんな事も知らないの?」


「あなたが言えた事ですか? いつも北崎さんに纏わりついて・・・少しは北崎さんのプライベートも考えなさいよ」


 それはそうだけど、ストーカーの神田さんが言っても説得力が無いよ。あと、今言ってほしくなかったなー。宮代さん、無言で指二つ立てちゃったよ、次は無いぞって顔してるよ。

 

「えっと、神田さん!・・・最近、どう?」


「はい! 北崎さんの言う通りに、現実と向き合ってみようと思いまして。とりあえず、このサングラスで奇病を防いでいるんですよ」


「あー、それでサングラスを。でも、神田さんの奇病って、眼が合えば発症するんじゃ?」

 

「正確には、相手も私の眼をハッキリと見なければいけないんです。現に北崎さんと今、眼を合わせて会話をしていても何ともないでしょう?」


 言われてみて気付いた。確かに、神田さんと顔を合わせていても、前のように夢の世界に引きずり込まれていない。意外と簡単に防ぐ事が出来るんだな。


「あとですね! 早速お仕事も見つかったんです!」


「へぇー。サングラスを着けてても大丈夫な仕事ってあるんだ。それで、どんな仕事なんですか?」


「配達員です!」


「配達員、結構大変そうですね・・・えっと、何の配達員ですか?」


「配達員です!」


 あ、これは掘り下げない方がいいな。多分配達しちゃいけない物を配達する仕事だ。だからサングラスを着けていても大丈夫なのか。う~ん、素直に喜べないな。現実と向き合って生きようとしている事は嬉しいけど・・・まぁ、いっか。別に僕には関係ないし。


「面接を受けに行った時、どうしてか会社が地下にあって、そこに社長さんと社員さんが揃ってたんですよ。怖い社長さんと社員さんだなーって思ってたんですけど、話したら結構優しくて、おまけにお仕事用の車も頂いたんですよ! 私生活でも好きに使っていいって言ってくれて!」


「へ、へぇー・・・」 


「あ、そうだ! 今度一緒にドライブに行きませんか? 費用はこっちで全部出すので、二人で―――」


 その瞬間、隣から物凄い殺気を感じ取り、僕は咄嗟に宮代さんの右腕を掴んだ。見ると、あともう少し僕が遅れていたら、宮代さんは神田さんを果物ナイフで突き刺していた状況だった。


「雄介君? どうして止めるのかな?」


「宮代さんこそ。僕の家を事故物件にするつもりですか?」


「あらあら? もぉー、宮代ちゃん。何を勘違いしたのかしら? 私はただ、北崎さんをドライブに誘っただけですよ?」


「なら私も同行しても構いませんよね?」


「は? 嫌よ」


 神田さんのその言葉と態度に、宮代さんの怒りは如実に表れた。掴んでいた僕の手を払い、大きく振りかぶって、神田さんに果物ナイフを突き刺そうとする。マズい、このままだとこの家が事故物件になってしまう!

 そう思っていた矢先、神田さんは着けていたサングラスを外して奇病を発症し、宮代さんを夢の世界に引きずり込んだ。


「眠ったか・・・ふぅ、危なかった~」


 椅子にもたれかかって眠る二人をよそに、僕はすっかり冷え切ったコーヒーを一気に飲み干した。多分、あと数分もしたら二人は目を覚ます。その数分が、僕にとっての憩いの時間だ。


「・・・食べてみるか」


 テーブルの上に置かれていた菓子を一つ取り、一口だけ食べてみた。甘い・・・ひたすらに甘い。やっぱり苦手な物は食べるもんじゃないなと思いながら、宮代さんが飲んでいたコーヒーを飲んで、口の中の甘さを苦味で消した。

 

「ふぅ・・・今の内に二人を外に放り出そうかな?・・・うん、そうしよう」


 僕の予想は、夢から覚めた宮代さんは懲りずに神田さんに襲い掛かる。そうなった場合、神田さんの血が買ったばかりのカーペットに染み付いてしまう。

 そういう事なので、二人を順に外へ引きずっていき、扉の鍵を閉めた。リビングに戻って、テーブルの上のカップや菓子を片付け、新しく淹れたコーヒーを飲みながら窓を見た。外は風や雨が激しく渦巻き、電線がグワングワンと揺れ動いている。


「凄い天気だなー」


 こんな日でも仕事に行かなければいけない父さんと母さんが不憫でならない。最悪、今日は家に帰れないんじゃないか? そうなれば、今日のご飯は僕が作らないといけないな。


「この天気じゃ外に出歩けないし、冷蔵庫に何か入ってたっけか?」


 冷蔵庫の中を確認しようとした時、玄関から扉を叩く音と共に、宮代さんと神田さんの声が聞こえてきた。


『北崎さん!? どうして私は外にいるのでしょうか!?』


『雄介君! 鍵が開かないんだけど、鍵変えたの!?』


 もう目を覚ましたのか。というか宮代さん、僕の家の鍵が変わったの知らなかったのか、意外だ。


『北崎さん、聞こえてます!? 寒いし、風が痛いので、出来れば中に入れてもらえないでしょうか!?』


『あれ? 雄介君! これピッキング出来ない鍵穴になってるよ! これじゃあ中に入れないよ!』


 あの二人、本当に同じ場所にいるのか? 片方は台風の猛威に苦しんで、もう片方は鍵が開かない事に苦しんでる。まぁ、どっちにしても、これで少しは頭が冷えただろう。

 コーヒーカップを持ったまま玄関に行き、ドアチェーンを掛けたまま、扉の鍵を開けてあげた。

 すると、勢いよく扉が半開きになり、その隙間からびしょ濡れになった二人の顔が覗き込んでくる。そんな二人を見ながら、僕はコーヒーを一口飲んだ。


『あの、北崎さん? チェーンが掛かってるようですけど・・・』


「うん、そうだね」


『いや、このままじゃ入れないんですけど・・・』


「うん、そうだね」


『ねぇ、雄介君! 鍵を変えるなら一言欲しかったな! 新しく合鍵作らないといけないじゃない!』


「勝手に作るな・・・はぁ。中に入れてあげますけど、条件があります。一つ、殺し合わないでください。二つ、僕に変な事はしないでください。三つ、台風が去ったらすぐに帰ってください。いいですか?」


 僕が出した条件に、二人は頷いた。本当は入れたくないけど、どうせ入れなきゃ帰らないだろう。僕が扉の鍵を開けると、二人は急いで中に入ってきた。


「条件を破ったら、問答無用で外に放り投げますから。いいですね?」


「「はい、分かりました・・・」」


「・・・はぁ。それじゃあ、まずは風呂場に行って着替えてください。その後は、お昼にしましょう」


「それじゃあ雄介君! 一緒にお風呂入ろ!」


「はい、宮代さんアウトー」


 早速条件を破った宮代さんを外へ放り投げ、扉の鍵を閉めた。


『あーごめん雄介君! 今のはいつもの癖というか、無意識に言っちゃっただけなの!』


「神田さん、着替えの服用意しとくので、風呂場に行っておいてください」


「え・・・は、はい」


『ごめんって! 雄介君! 雄介くーん!』

次回


「変化」

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