不死と不老不死
前半部分が長引いてしまったので、前話で予告していた話は次にします。
猛烈な台風接近に伴い、僕が通っている学校は休みになった。窓から外を見ると、まだ朝の9時だというのに暗く、窓を叩くような雨と突風が吹き荒れている。
「外、凄いですね」
「だね。まだ酷くなるらしいよ?」
「この家吹き飛ばされなきゃいいけど・・・よし、揃った」
数字が揃った2枚のカードをテーブルに置き、コーヒーが入ったカップを口に運ぶ。おぉ、美味しい。今朝、この荒れた天気だというのに家に来た宮代さんが持ってきた珈琲豆で淹れたコーヒーだけど、程よい苦味と香ばしさがあって結構好きだ。
「これ美味しいですよ、宮代さん」
「あら、本当? それじゃあ今度からそれ持ってお邪魔するね?」
「はは・・・はぁ、言わなきゃよかった」
「ふふ、言わなきゃよかったね・・・そういえば雄介君。あれから、あのストーカー女を見かけた?」
「神田さんの事ですか? いや、会ってないですけど」
あの夢の世界に引きずり込まれた出来事から1週間が経った。あれ以来、神田さんと会う事も、どこかで見かける事は無かった。元々僕の方は知らなくて、あっちが一方的に僕の事を知っていただけだったけど。
「神田さん、上手くやれてるかな・・・あの人の奇病は眼を合わせただけで発症するから、結構生きづらさはあると思う。僕みたいに個人で完結する病じゃないから」
「奇病を治そうにも、原因が何なのかすら分かってないしね・・・私、調べたんだけど、最初に奇病が発覚した人物の能力知ってる?」
「僕が取る寸前にカード動かさないでくださいよ・・・くそっ! それで、えーと、最初の奇病? なんだろう・・・」
「不死よ」
「僕と一緒・・・」
「似てるけど、少し違うわ。雄介君のは驚異的な再生能力による不死。最初に発覚した人物のは、ある一定の年齢で止まったままの不死。そこから体が変化する事も無く、永遠にその姿のまま生き続ける奇病」
そう言って、宮代さんは僕の手元のカードから一枚抜き取った。最初の奇病、ね。そんな情報どこで知ったんだろうか。少なくとも、ネット上には載っていないはずなのに。いや、そもそも奇病自体がある種の都市伝説的な存在であって、実際に奇病を患っている人が確認された記事なんかどこにも無い。
嘘か・・・それとも、ネット以外で知ったのか。宮代さんについてはまだ謎が多い人物だ。裏の組織的な危ない連中と関係があると言われても、あまり驚かない。
「ねぇ、雄介君。君はどうして突然奇病を患ったと思う?」
「・・・なんらかのウイルス。もしくは、新種の寄生虫に寄生された結果、とか」
「ふーん」
宮代さんは目を細め、カードで口元を隠しながら僕の答えに反応した。その反応は、まるで正解に近い事を意味しているかのようだった。
なんだか、今日の宮代さんはどこかいつもと違う。具体的にどこが違うかと言われると、口では答えられないけど、なんとなく違う気がする。
「今日は随分と奇病について聞いてきますね。いつもは僕の事ばかり言ってるのに」
「あら、嫉妬?」
「改めて聞きたいんですけど、どうして僕に付き纏うんですか」
「雄介君が好きだからよ」
「好きだからって、人殺しを躊躇わずに出来るんですか?」
「そうだよ」
「ハッキリ言います。異常ですよ、それ」
「それじゃあ私達仲間だね。人殺し仲間」
やっぱり知ってたんだ。ここまで僕の個人情報や考えを熟知しているんだ、過去に僕が人を殺した事も知っていて当たり前か。
「言い訳みたいですけど、あれは正当防衛です。こっちは殺されかけたんですから」
「死ねないのに?」
「死ななくても、痛いのは痛いんです。だから、もっと痛みを感じる前に、殺したんです」
「その人の顔、憶えてる?」
「正直、憶えてません。暗かったし、怖かったし・・・」
顔を憶えていないのは本当だ。でも、あの時感じた恐怖や痛みは決して忘れられない。今でも夢に出る程に。
あの日、学校からの帰り道、後ろから誰かが追ってきているのが分かり、振り切ろうと裏路地に入っていった。
でも、そいつは裏路地に先回りしていて、僕が暗がりに来た所でナイフを突き刺してきた。僕は刺された場所を手で抑えながら、弱ったフリをして物陰に移動した。
物陰に隠れた僕を確実に殺そうと、そいつはゆっくりと近付いてくる。僕の傷が完全に治っている事も知らずに。
すぐそこにまで近付いてきたタイミングで物陰から出て、僕はカバンに入れていたカッターでそいつの喉を突き刺した。そいつは苦しそうな声を漏らしながら後ろに下がっていき、僕は弱ったそいつを押し倒し、それから必死になってカッターを突き刺した。
何度も・・・何度も・・・それからしばらく経って冷静になった僕が目にしたのは、暗がりでも見える赤い血。それと同じものが僕の手にもあり、そこで僕は初めて人を殺してしまったのだと理解した。その途端に恐ろしくなって、僕は逃げるようにその場を後にした。
その後、そいつがどうなったかは分からない。ニュースになる事が怖かったが、不思議とそういった話が出てこなかった。
となれば、宮代さんはどうやってこの事を知ったんだろうか? あの場面をどこかで見ていた? ニュースに取り上げられなかったのは、宮代さんがあの死体を処理してくれたからか?
「私、雄介君の事をいつでも見守っているから。この先もずっと・・・」
宮代さんはそう言って、僕の手元からカードを抜き取った。
「はい、私の勝ちー!」
「え・・・あー」
色々考えていた所為で、ババ抜きに集中出来なかった。改めて手元に残った1枚のカードを見る。そのカードは、ジョーカーだった。
「私が勝った・・・という事で、雄介君には今日一日、私とくっついてもらいまーす!」
「はい・・・は? 聞いてませんよそんなの!?」
「勝者が絶対! それじゃ早速!」
勢いよく席を立った宮代さんが、僕の膝の上に乗り、真正面から抱きついてきた。まさか、勝つ為に色々と気になる話をして、僕の動揺を誘っていたのか? だとしたら、僕はまんまと引っかかったようだな。
「ほら! 雄介君も私をギューッてして! ギュー!」
するか! と言いたいが、宮代さんの匂いがこれでもかと充満していて、抱きしめ返そうとしてしまってる。ここで抱きしめ返せば、絶対に宮代さんは調子に乗って、もっとマズい状況になってしまう。だからこそ、ここで強く拒否しなければいけないが・・・くそ、なんでこの人こんなに落ち着く匂いしてるんだ!
ピンポーン。
僕の理性が崩壊しかけた所で、チャイムが鳴った。すると、宮代さんの力が弱まり、僕から彼女を離す事が出来た。あ、危なかった・・・あのままだったら、僕は負けていた。
「僕見てくるんで、下りてください。」
「でも、今日一日くっついたままって―――」
「変な人と思われたくないんですよ! ほら早く!」
「う~・・・分かった・・・」
納得いかない様子で、宮代さんは僕の膝の上から下りてくれた。僕は急いで席から立ち、玄関の扉の鍵を開けた。
「はい、どちら様で―――」
「ッ!? き、北崎さん! この前は本当に申し訳なく、本当にすみませんでした! それで、今日来たのはですね! 改めて北崎さんに―――」
僕は急いで扉を閉め、鍵を掛けた。扉の先にいた人物は、誠実そうな服を着ているにも関わらず、目が見えない程の黒いレンズのゴツいサングラスを着けていた。
明らかにおかしい人だ。口調も落ち着いていなかったし、そもそも外は台風が来ていて、とても外を出歩く状況じゃないはずだ。
「き、北崎さん!? どうして突然閉めたんでしょうか!? やはり突然の来訪は失礼だったでしょうか!?」
「すみません! 多分人違いです! 人違いですから!」
「そんなはずありません! あなたは北崎雄介さんです! 忘れるはずがありませんよ!」
名前を知られてる? でも、あんな人とは知り合った記憶が無い。まさか、またストーカーか!?
「この世界には同姓同名の人間が存在するので、多分僕じゃないです!」
「私が会いに来たのはあなたですよ! 北崎さん! もしかして、忘れてしまったんですか? 私ですよ! 神田理子です!」
「神田理子・・・え? 神田理子?」
「はい! 私を救ってくれた北崎さんに、改めてお詫びとご挨拶に伺いました!」
次回
「友達、あるいはヤンデレ」




