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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
二章 迷宮の夢
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侵食される夢

 

「ふふ・・・探したよ、北崎雄介君」


「・・・あなたがこの夢の世界の主、ですか?」


「そう。私の名前は神田理子。ふふ、こうしてお話が出来るなんて、なんだか照れちゃうね」


 あれが、この夢の世界のもう一人の主・・・なるほど、確かに宮代さんの言う通り平凡な見た目の女性だ。

 でも、平凡なのは見た目だけで、彼女が持つ奇病の能力は底の知れない厄介さがある。この世界が傾きだしたのも、おそらく彼女がした事なのだろう。世界の変化の影響を受けていないのも彼女だけのようだし。


「・・・それにしても、あなたまで私達の夢の世界にいるのね?」


「私は雄介君を守る騎士だからね」


「あっちで北崎君を襲っておいて、よくそんな事を言える」


「そっちもストーカーの癖に・・・雄介君、ここで待ってて」


 そう言うと、宮代さんは人間離れした跳躍力で飛び上がり、神田理子に蹴りを放った。宮代さんの放った蹴りの威力は、神田理子の頭部が引きちぎれんばかりに吹っ飛ばし、あっさりと倒してしまったかに見えた。


「やっぱり平凡ね」


「―――それはどうかしら?」


「ッ!?」


 決着がついたかと思われた瞬間、突如として上空から時計塔が落下してきて、宮代さんを巻き込んで建物へ衝突した。


「宮代さん!?」


 落下してきた時計塔が衝突した建物に突き刺さっている所から察するに、おそらく宮代さんは死んだだろう。

 それにしても、どうして時計塔が突然落下してきたんだ? 偶然にしては、落下してきたタイミングや位置が、まるで宮代さんを狙ってきたかのようだった。考えられるのは、神田理子の力だ。あいつはこの世界の主で、世界の変化の影響を唯一受けない存在。つまり、あいつはこの世界の出来事を操作できる、言わば神様に近しい存在という訳か。

 だけど、そうだとしたら一つ疑問が出てくる。この世界は、神田理子によって眠らされた僕とあいつの夢だ。だとしたら、僕もこの世界の出来事を操作出来るはずなのに、それが出来ないどころか、この世界の影響を受けている。


「北崎雄介君」


「ッ!?」


 考え込んでいる内に神田理子にすぐ目の前まで迫られ、僕は反射的に後ろへ下がった。すると、下がった場所の壁が崩れていき、下に広がる暗闇の中へと落ちていった・・・かと思いきや、眼の絵画が並ぶ広い屋敷の中に僕は立っていた。


「ここは・・・!?」


 突然の変化に焦りや戸惑いを隠せない。そんな僕を周囲に飾られてある眼の絵画が嘲笑っているように思えた。

 そう思ってしまった途端、絵画の眼から歯が生え、ケタケタと笑い声を上げ始めた。その男とも女とも違う不気味な笑い声に、僕はすっかり怖気ついてしまう。 

 

「静かに!」


 屋敷内に響き渡る神田理子の声。その声に従うように、絵画の笑い声は消え、元の眼の絵画へと戻っていった。


「ごめんね、北崎雄介君・・・いえ、ここは敢えて雄介、と呼ぶべきかしら」


「神田理子! どこだ! どこにいる!?」


 周囲を見渡すが、あいつの姿は何処にも無い。くそ、さっきからあいつに好き勝手されてばかりだ。


「どうしてこんな事を! 目的は!」


「もちろん雄介を独り占めする為よ。あ、私の能力を一応説明した方がいいわね」


 すると、僕の目の前にドレスを着たおとぎ話の姫様のような女性が現れた。


「どう? こっちでの私の姿は。現実という悲劇の世界から解放された、本当の私の姿は」


「ふざけた事を・・・! それは平凡なあんたが思い描いた理想の姿だろ!」


「理想こそがこの世界の要。私はこの世界の孤独なお姫様。そして孤独を忘れさせる召使いとして、あなたはここに来たのよ」


「ご指名させてもらって悪いんですけど、僕は人に指図されるのが大っ嫌いでしてね!」 


「ふふ。ほーんと、君は可哀想で可愛いんだから」


 こいつ、宮代さんよりも面倒くさい女だ! さっき見た現実の世界の姿から察するに、歳はおそらく20後半くらいだろう。いい歳して夢見がちな発言をするのもそうだが、よりによって理想の姿がおとぎ話の姫様だなんて・・・待てよ・・・試してみるか。


「人の前に立つなら、歳相応の格好をしてほしいものですね」


「・・・」


「ドレスはともかく、その容姿は流石に・・・キツい」


「グッ!?」

 

(お、効いてるな。さてさて、変化は?)


 周囲の絵画を見てみると、若干だが、絵画に描かれている眼の色が褪せていた。さっきこいつが言っていた「理想こそ夢の世界の要。」という意味が分かった。

 この夢の世界は神田理子の想いによって変化が訪れる。絵の色が褪せた所を見るに、少し現実の非情さを思い出させてしまったようだな。


「・・・罰だよ。お姫様の機嫌を損ねた、罰ッ!!!」


 綺麗に偽った顔を歪ませながら、神田理子は僕の足元に鉄の茨を生やした。鉄の茨が僕の手足をキツく縛り、棘が喰い込んでくる。


「ぐっ!?」


「アヒャ! アヒャヒャヒャ!!! 私に悪口を言ったんだから当然の報いだよねぇ!!! 君が悪いもんねぇ!!!」


「ぐ、ぐあぁぁぁ!? そ、そんな・・・この夢の世界は、僕が見ている夢でもあるのに・・・どうして・・・!」


「それはねそれはね!? 私が君の夢の主導権を握っているからだよ! 随分ヘンテコな夢だから手こずったけど、もう私の物よ! 想像力が違うのよ、私と君とじゃ!!!」


 なるほどそういう事。想像次第で、この夢の世界の主導権を握れるのか。いや、まさかこんな簡単に引っかかるとは思わなかった。こういう奴には、一度優位に立たせて調子づかせればいい。そうすれば、こっちが知りたい事を勝手にベラベラと喋り出す。

 それにしても、想像力か。僕にはこいつのように自分の姿を変えたりする事や、世界を想像して作り出す事は無理だ。

 でも、ある一つの想像なら、僕はこいつよりも勝っている自信がある。


「痛いでしょ!? なら早く謝って! 私を傷付けた事を! 私に現実を思い出させた事を!」


「やだね」


「・・・はぁ?」


 目を閉じ、僕は想像した・・・化け物を虐げる狂人達のパレードを。

 

(醜い不死身の化け物。それを楽し気に虐げる狂人。その様を見て、踊り狂う傍観者達。笑い、狂い、いつまでも夜明けの来ない狂気のパレード)


 その時、僕の手足を縛っていた鉄の茨が腐り落ち、あの音楽が聴こえてきた。パレードで流れるような楽し気な音楽が。目を開くと、屋敷の中は炎に包まれていた。


「いや・・・いやぁぁぁぁぁぁ!!!」


 自分の世界が焼け焦げていく様を見た神田理子は泣き崩れた。すると、炎に包まれた屋敷が、まるで張りぼてのように倒れていき、パレードの集団が現れた。

 首輪で繋がれた巨人を狂人達が松明やパチンコ玉で虐げ、人影達がそれを見て笑っている。自分で想像しておいてなんだが、今すぐここから立ち去りたい。

 

「これで夢の世界の主導権は僕になりましたね。さぁ、夢から覚める方法を教えてください」


「・・・」


「早く教えてくれないと、僕らもあのパレードに巻き込まれますよ。あんたと違って、僕は細かい所まで想像出来ないんですから」


「・・・ぅぅ」


「泣いた・・・はぁ。いい大人が、子供の前で泣かないでくだ―――」


 その時、異変が起こった。あれだけうるさかった狂人達のパレードが、音も無く消えていった。僕は想像した物や存在を消す方法なんて知らない・・・という事は。


(主導権を奪われた!?)


 嫌な予感を感じ、僕はすぐに神田理子から距離を取った。あれだけ狂った想像を容易に超えたんだ、あれ以上の狂気に満ちた世界に変わる・・・そう思っていたが、そんな僕の予想とは程遠い世界へと変化した。

 変化した世界は、天高く聳え立つ石の壁に囲まれた世界だった。重苦しく、冷たい・・・孤独に満ちた世界に、僕と神田理子は立っていた。 

次回


「迷宮」

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