ヤンデレとのデート
モール内にある服屋で着替えた僕らは、宮代さんの提案・・・というかワガママで、手を繋ぎながらモール内を散策していた。
このモールで出店している店は、どこも外観が普通の家で、入店する際はチャイムを鳴らす必要がある。そうすると、中にいる従業員が鍵を開けてくれて、それでようやく入店する事が出来た。
「なんか、どこもかしくも面倒な入店方法ですよね」
店に置いてあった四方八方に顔がある猿の像を見ながら、宮代さんに話しかけた。
「不思議だよね~。あ、ねね! これどうかな!」
そう言って宮代さんが見せてきたのは、緑色の目玉を模したペアリングであった。いやそれを見せて「どうかな!」は意味が分からん。どうしてそれをチョイスしたんだ。というか、ここは一体どういう店なんだ? 置いてある物を見るに小物屋だとは思うが、置いてある売り物がどれも不気味な物しかない。
「雄介君、あんまり楽しくない?」
「楽しくないっていうか、楽しめないというか・・・ここまで変な店しかないとは思ってなくて」
そこまで言って、僕はハッとした。今の言葉、店の人に聞こえたかもしれない、と。恐る恐るレジに座っている店員の方を見ると、ニコニコと笑いながら、テーブルの上に置いてある缶詰を手掴みで食べていた。
(ここもか・・・)
今いる店以外にも、三つ程見て回ったが、どこの店員もレジで同じ缶詰をニコニコと笑いながら食べていた。缶詰には何も書かれていない為、何を食べているのかは分からない。指でつまんで食べているので、豆くらいの小ささの食べ物だと思うが、音を立てて噛み砕いている所を見るに、軟骨のような物だとも思える。
「ねぇ、宮代さん・・・」
尚も奇妙な小物を熱心に見ている宮代さんの耳元に近付き、店員に聞こえないように小さく囁いた。
すると、宮代さんは頬を赤く染めながら、僕の耳元に近付き、囁き返してくる。
「大胆ね・・・!」
この人は何を言ってるんだ・・・もういいや。話はこの店を出てからにしよう。僕は宮代さんの手を引き、店から出ていった。
店を出ると、天井に吊り下げられていた戦闘機のプロペラが回転し、実際に空を飛んでいる時の音がどこからか聴こえる。
すると、周囲の店の二階の窓が開き、そこから従業員が次々と花びらを通路へ投げ始めた。まるでパレードのようだ。
「見て、雄介君!」
僕の肩を揺らしながら、宮代さんは道の先を指差した。見ると、奥から奇抜な格好をした集団が半ば発狂しながら道を歩き、その更に後方には、王冠を被った裸の巨人が首輪に繋がれて這いずってきていた。
「あれ、何・・・?」
当然の疑問が僕の口から出る。困惑しながらも、こちらに徐々に近付いてきている珍集団を見ていると、僕の頭の上に一枚の紙が降り落ちてきた。それを手に取り、内容を確認すると、あの珍集団の写真と共にこんな事が書かれていた。
【今日は愚かな王を辱める日だ! 酒の亡者の王には油を! 性の亡者の王には火を! 金の亡者の王には鉛玉を! さぁさ、絢爛豪華なパレードの始まりだ!】
「なんだこれ・・・?」
「ウオオォォォォ!!!!」
野太い叫び声を耳にし、あの珍集団の方を再度見ると、通路を歩く者や二階から顔を出している人達が、王冠を被った巨人にパチンコ玉を放っていた。痛くて泣いていても彼らは止めず、ケタケタと楽しそうに笑いながらパチンコ玉を撃ち続ける。
「出し物にしては・・・狂い過ぎてる・・・!」
「あれは流石の私もちょっと・・・ここから離れましょうか」
「そうですね」
巻き込まれる前に立ち去ろうと後ろを振り向くと、後ろからも同じような集団が来ていて、あっちにも首輪に繋がれた巨人がいた。その巨人は、その身に見合った大きな台座に座らされ、松明の火を当てられていた。
「あの、宮代さん・・・これって、まずくないですか?」
「挟まれちゃってるねー」
「よく呑気でいられますね、こんな状況で。ていうか本当に何なんだよさっきから!」
「・・・雄介君、こっち」
宮代さんは僕の手を引いて、店と店の隙間を通って裏路地に入っていく。裏路地を走っていくと、路上販売をする物が点々と存在し、どの人もどこかしらに欠損があった。何かを呟いているように見えたが、すぐに通り過ぎた為、何を言っていたのかは結局分からず、僕らはまた表の道に出た。
「全隊! 進め!」
表に出るや否や、何十人もの兵隊の格好をしたピエロが、けたたましい足音を鳴らしながら列になって行進していた。その所為でまともに道を歩けそうになく、諦めてもう一度裏路地に戻っていく。
裏路地に戻ると、道中見かけていた路上販売員らが刃物を手にしながら、こちらに襲い掛かってきた。
「なんだこいつら!?」
「私から離れないで雄介君!」
襲ってくる彼らを宮代さんは次々と倒していく。しかし、いかんせん襲い掛かってくる人数が多い。僕も宮代さんの手伝いをしようと、宮代さんに倒された奴が持っていたナイフを拾い、襲い掛かってくる彼らを待ち構えた。
「ッ!? 雄介君!」
「今度は何です―――うぉ!?」
宮代さんは僕の襟を掴み、近くの建物の扉を蹴り破って中へ放り投げた。すぐ後に宮代さんも中に入り、扉の前に棚を倒し、外にいる彼らが中へ入ってこないようにした。
しばらく扉を叩く音が続くと、突然音が止み、それと同時に宮代さんは安堵の溜息を吐きながら、その場に座り込んだ。
「ふぅー。なんとかなったね」
「はい・・・でも、まだこのモール内から出れてませんから、安心するには―――」
「落ち着いたらお腹空いたね? 何食べる?」
そう言って、宮代さんは家の中に置いてあった冷蔵庫の中を物色し始めた。この状況でよくもそんな呑気な事を・・・。
「え~と、何があるかなー・・・サバ缶、だよね? これはオレンジジュース、だよね? お酒は・・・雄介君が未成年だから駄目か」
「あの、宮代さん?」
「雄介君はどっちがいい? このオレンジジュースだと思うやつと、レモネードっぽいやつ」
「勝手に取ったら泥棒ですよ。僕、オレンジジュースっぽい方で」
投げ渡された缶をキャッチし、見るとオレンジのシールが貼ってあった。開けてみると、中からオレンジの匂いを掻き消す程の強烈な甘い匂いが漂ってくる。これほんとにオレンジジュースか? まぁ、ずっと走って疲れてきたし、飲める物なら飲むが。
僕が飲もうか悩んでいる間に、宮代さんはレモネードっぽいやつを飲み始めた。すると、宮代さんは唇を尖がらせ、訝しげに缶を睨んだ・・・よし、多分飲めるな。
「それにしても、はぁ・・・せっかく雄介君とデート出来ると思ってたのになー」
「まぁ状況が状況ですからね・・・甘ッ!?」
「まさかここまで酷いとは思わなかったよ。雄介君、いつもこんなヘンテコな夢見てるの?」
「えーと、最近見た夢は地球に宇宙猫が侵略しに来た夢で、それを人間がマタタビ持って撃退しようと・・・ちょっと待ってください、今何て言いました?」
「ん? いつもこんなヘンテコな夢見てるのって」
「・・・夢?」
僕は今、夢を見ているのか? でも、いくら現実的な夢であっても、ここまでリアルなはずがない。それに夢ってのは、大抵キリの良い所で終わるのが常識だ。もしこれが夢なのだとしたら、僕が宮代さんにデートを申し込まれた時点で夢から覚めるはず。
「言っている意味が分かりません。これが夢だっていう証拠は?」
「証拠・・・証拠かー・・・ん~・・・あ! 雄介君、そのナイフでちょっと指を切ってみて」
「ちょっとで頼む事じゃないですよ・・・それで、切ればいいんですか?」
切ってみてって言われても、別にそれで夢だと判断出来るとは思えないな。そう思いつつも、とりあえず僕は自分の親指の腹にナイフで傷をつけた。
すると、切った場所から血が少し出て、少しの痛みを感じた。
「・・・これのどこが証拠なんですか?」
「えー? 決定的だと思うけどなー」
「はぁ・・・馬鹿な事言ってないで、今はここから出る方法を考え、ないと・・・」
あれ、おかしい・・・傷が、治らない? この程度の小さな傷なら、すぐに治るのに。これじゃあまるで、他の人と同じ普通の人間に戻ったみたいだな・・・普通・・・まさか!?
「奇病が、無くなってる・・・!?」
次回
「夢現」




