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すぐ傍にヤンデレがいる  作者: 夢乃間
第一部 一章 食人狂
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罪 

 あの日から三日経ち、学校では本田美也子が自宅で殺された件を知り、話題を生んでいた。ある人は「本田さんは殺された!」と言い、またある人は「人を殺した罪悪感に耐えかねて自殺した。」と憶測を立てている。そんな話をしながらも、みんなは最後にこう呟く。


【残念だ】


 何が残念なのだろうか? 本田さんが亡くなって悲しいのか? あるいは本田さんのような美人を失い、他人に自慢出来るネタを失った事? いずれにせよ、本心から出た言葉ではない事は分かる。

 だって、誰も本田さんの事を知らないからだ。知らないから喪失感を覚えず、それぞれのいつもの日常に戻る。本田さんの事なんか見ていなかった頃のように。

 それが何故か凄く嫌で、気持ち悪くて、教室に戻らずに放課後まで屋上でサボる日々が続いていた。今まで休まず授業を受けてきたんだ、これぐらい・・・あと一週間くらいサボり続けても罰は当たらないだろう。


「こら! この不良め!」


 床に寝っ転がって、ゆっくりと空を流れていく雲を眺めていると、宮代さんが僕の両頬をブニュッとしながら覗き込んできた。


「ふぃなふぃふぉふぁんはって・・・」


「私はいいの! このまま留年して、雄介君と一緒のクラスになるの!」


 サラッととんでもない発言をする・・・それにしても、この人も不気味な人だ。いや、前から不気味だとは思っていたけど、本田さんの一件以来、宮代さんに対して若干の恐怖を覚えてしまっている。

 あの時、宮代さんは迷う事なく本田さんを刺し殺し、僕に本田さんが過去に喰った人間の残り物が詰まった浴室を見せた。まるで最初から全て分かっていたようだった。


「ふぃなふぃふぉはん・・・ッ!? いい加減にしてください! 喋りにくいんですよ!」


「あはは、ごめんごめん! それで、何かな?」 


「・・・宮代さんは、知ってたんですか? 本田美也子が以前から人を喰っていた事を」


「ううん、知らなかったよ。でも、図書室で初めて眼を見た時、すぐに分かったよ。この子は他の人と少し違うって。雄介君は隠れてたから見てないけど、あの時のあの子、凄く怖い眼をしてた。あの子は私が一歩でも踏み出そうものなら、裾の中に隠していた鉛筆で、私の喉を突き刺そうとしてたんだ」


「どうして裾の中に鉛筆を隠してるって分かるんですか?」


「右手は裾から出してるのに、左手は裾の中に隠したままだったもの。裾の中の左手の動きと、私との距離から察して、隠していたのは鉛筆だと想定出来た。別に襲い掛かってきても対処は出来るし、最悪の場合、あの場で殺す事も出来た・・・でも、出来なかった。だって、雄介君の知り合いなんだもん」


 宮代さんの話を聞き、最悪の場合にならなくて良かったと、心の底から思う。あの時の僕は、まだ本田さんの事を普通の人だと思っていた。もしあの時に本田さんを殺そうものなら、今こうして宮代さんと話なんかしていない。


「それから色々調べていく内に分かった事があったの。あの子の両親と幼い妹、それらが10歳の時に失踪。調査に来た警察には「愛想をつかして、お金を残して出ていった」と言っていたそうよ。さて、雄介君に問題です。本田美也子の両親と妹はどこへ消えてしまったんでしょうか?」


「・・・本田さんの胃袋の中、ですか?」


「正解。さてさて、もう一つ問題です。本田美也子は初めて食べた人間の味が好物になってしまいました。それからどうしたでしょうか?」


 本田さんの両親がどんな人だったか分からない。でも、あの大きな家や、本田さんが10歳から今まで何不自由なく暮らせていた事から察するに、両親の遺産は相当なものだろう。となれば、その遺産を横取りしようと、親戚が良い顔をして近付いてくる。

 まさかとは思うが、両親の遺産をちらつかせて、寄ってきた親戚の人らを食べてたんじゃ・・・。


「はい、正解」


「まだ喋ってませんよ・・・・・・え、正解なんですか?」


「うん」


「親戚を呼び寄せて喰ってたんですか?」


「そうみたい。ちなみに全部で6人。両親や妹さんを含めると9人も食べちゃってたみたい」


「はぇ~・・・」


 よくもそんなに喰ったもんだ。それだけ食べてしまえば、もう人を喰う事に慣れて、罪悪感なんて無かったんだろうな。そうとは知らず、僕は体を張って本田さんを常人に戻そうとしたのか。とんだ無駄骨だな。


「そんな事ないよ、雄介君」


「だから思考を読まないでくださいって!」


「確かにあの子は狂っちゃってたけど、雄介君を好きになってから変わり始めたよ? 思い返してみて、雄介君を初めて家に呼んだ時、あの子は食べようとしなかったでしょ?」


 言われてみると、確かにそうだった。あの時の僕は、自分でも呆れてしまう程に軽率な行動をしていた。

 でも、あの時の本田さんは僕を食べようとしていなかった。やろうと思えばいつでも出来たし、それこそ今回のように薬を盛って眠らせている間にでも。

 だけど本田さんはそれをしなかった。ただずっと、僕と話をしていただけだった。


「あの子なりに変わろうとしたんだよ。雄介君に言われて、雄介君に自分を好きになってもらおうと・・・でも、雄介君はそれに気付かなかった」


「それで段々と元に戻っていって、ああなった・・・」


「罪な男の子だね、雄介君」


「・・・別に、どうでもいいですよ。本田さんは勝手に僕を好きになって、勝手に狂った。ただそれだけです」


「どうでもいい? こんなに引きずっていて?」


「・・・」


「ここから真面目に話すわ・・・あの子は元々狂ってたの。仮に雄介君が本田美也子の想いに応えて付き合ったとしても、あの子はいずれまた人を喰い始めていた。もう殺すしかなかったのよ。あの子の為にも」


「・・・ほんとに、どうでもいいんです。本田さんが死んじゃった事や、宮代さんが本田さんを殺した事も・・・ただ、初めて他人に深く関わって、初めて他人に自分の再生能力を見せて、自分でも笑っちゃう程に必死になって更生させようとした・・・なのに結局全部無意味だった。それが気に喰わないんです・・・!」


 そう、結局僕は自分の事しか考えていない。自分が努力した事が無意味に終わって、どうしようもないやるせなさを覚えてるだけ。そこに本田さんに対する特別な思いなんて存在しない。つくづく僕は最低だなと思うよ。

 

「結局僕は、他人と関わらない方がいいんですよ。自分の為にも、他人の為にも・・・僕の事、嫌いになりましたか?」


 鼻で笑いながら、隣で寝そべっている宮代さんに聞いてみた。あとはこの人だけだ。この人さえいなくなれば、僕は元通りの日常に戻れる。誰とも深く関わらず、誰にも自分の本心を見せず、一人孤独のまま生きていく・・・そんな退屈な日常に。

 でも、そんな僕の期待を消し去るように、宮代さんは笑顔で答えてくれた。


「嫌いになんかならないよ」


 どうして? 何故こんな面倒な僕をそれでも好きなままでいられるんだ? 何故いつもと変わらず、鬱陶しい程眩しい笑顔を見せてくれるんだ? 

 

 なんで僕は・・・安心してるんだ・・・?

 

「雄介君。私はあなたを嫌いになんかならない。例えあなたが私以外と愛し合っても・・・世界を滅ぼしても・・・私を殺しても・・・私は雄介君を嫌いになんかならないし、傍を離れるつもりもない」


「なんで・・・なの・・・?」


「愛してるから。あなたに幸せになってほしいから。だから私は、あなたが幸せになるまで、ずっと傍にいる」


 なんだよ、それ。滅茶苦茶気持ち悪いし、キモイし・・・それに・・・そんな想いを抱く相手が僕なんかじゃ、もったいないよ・・・。 

 ほんとに分からない人だ、宮代さんは。美人な癖に言動は気持ち悪いし、人の考えは読むし、僕なんかを好きになるし。何一つとして、彼女の事を理解出来そうにない。

 でも、そんな宮代さんだからこそ、僕の退屈な人生は吹き飛ばされる。僕を面倒な思いにさせてくれるから、感情が蘇ってくるんだ。


「・・・宮代さん」


「ん?」


「僕、まだ宮代さんの事を全然知らないし、鬱陶しいとも思ってます」


「あ、あはは・・・」


「でも・・・嫌じゃ、ないんだと思います。まだ確定は出来ませんけど」


「ッ!? そ、それって! オッケーって事!?」


「え? 何が?」


「嫌じゃないって事は、好きって事でしょ!?」


「違っ!? 嫌いじゃないってだけで―――」


「雄介君ー!!!」


「ぐわぁ!? 抱き着くな!!! 早まるな!!! あー、もう! やっぱり宮代さんの事は嫌いだー!!!」 


 宮代さんの事も、僕が今感じているこの想いが何なのかも、今の僕にはまだ分からない。分からない事だらけだけど、少なくとも僕はこの日常を楽しんでいるんだと思う。

 宮代葉月が傍にいる、この日常を。

次回


「着ぐるみの中にヤンデレがいる。」

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