第5話「妖刀・黒斬」
はぁ〜い! 僕の名前は黒神零って言いまぁす。
いやぁ、今朝は本当に寒いね〜。この街って本当に寒いんだよね〜。
平気で早朝の温度とか1℃とかいっちゃいますからね〜あと1℃さがったらマイナスの世界だっつぅの(笑)!!
アッハッハッハ。
さてと、何故急に俺がこんな事を言っているかというと、今の俺は現実逃避をしたいからで、必死に現実とは程遠い思考に耽っていたのだが、どうにもこうにも逃避しきれない現実にへと戻される。
戻りたくない、もっと眠っていたい、夢に中へダイブしたい、でもやっぱり現実にへと戻される。
ああ、分かっているさ、これはどうしようもないくらいな現実。目を背けることを決して許してくれない冷たい世界。そんな世界に俺は生きている。だったら受け止めるしか方法は無いんだ。
頑張れよ、俺。
きっと世界は、お前が考えているより、優しい色に染まっているから・・・・、
よぉぉぉぉぉぉぉおおおおおしぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!
俺は確固たる意思で先程から目を閉じていた瞼を開けた。
受け止めるんだ! この変えられない現実を、受け止めるんだぁ!
何故、俺がこんなに取り乱してるかというと、理由は・・・・、
「くぅ〜くぅ〜」
俺の布団の上に・・・・・・・・・・・・、
「ん・・・う・・・・くぅ〜」
女の子が寝ていたからだった。
※
「むほぉぉぉぉ、美味しいです、美味いです、美味ですぅー!!」
魚肉ソーセージを必死に貪り食っている黒髪長髪の女の子が零の部屋にまるで居るのが当たり前かのように座って食べていた。
零はそんな魚肉ソーセージを美味しそうに食べている女の子を見ながら眉間に皺を作り、この世の終わりみたいな顔で、叫ぶ。
「おおおおお俺は、俺は記憶が無いくらいに欲求が溜まってついには見知らぬ女の子を部屋の中に入れてしまったのかぁぁ!!?」
零は受け止められない現実を前に『ぬぁああああ!!!』と嘆きながら部屋の壁に何度も頭を打ち付けた。
「どうされたのですか? ご主人様?」
零は黒髪の女の子から放たれた“一言”で体が再度フリーズした。
「ちょ・・ぉ・・・・ちょぉ・・・ぉ・・・ぇぁちょっと待って、待って下さい!!! きき君は今何つった? 何て言った? 何て発言した!?」
「・・・・・・?・・・・・・・・・何ですか“ご主人様”」
「ぎゃあああああぁぁぁ!!!! 犯罪じゃぁあその一言ぉ!! 恐ろしい、なんて恐ろしい言葉を言いやがった、その一言で俺の人生がバンザイしながら終わっちゃうとこだよ!! 望んでいないぞ、望んで言わせたんじゃないぞ俺は!! 俺は健全なる精神男子♂だぁア!!」
決して広くない部屋の畳の上を意味不明な言葉を発しながらゴロゴロと転がり、最早パニック状態の頭を冷却させるという方法が思い浮かばない零はやはり叫ぶだけ。
「さっきからどうしたのですか、ごしゅ・・・・」
「ストッォプ!!」
やけに発音の良いストップで、ようやく零は少しづつ冷えてきた頭で黒髪の少女の前に正座した。そして零は柔和な顔を必死に作り、語りかける。
「まずその犯罪的な言葉はやめましょう。いや、その言葉が犯罪と決め付けるのも可笑しいですね――――――――ですが、そのような言葉を使うような間柄では無いのですよ、私たちは」
「ムムム? 何故ですか!? 主である貴方に『ご主人様』と言って何が悪いのですか?」
「ふふふふ、善し悪しの話では無いのですよ、主に私の世間的に見られる反応がほぼ壊滅的なのです。だから少女よ、ふふふふふふ、それやめて下さいね?」
「むう、それとはなんです! わたし分かりません!」
ふふふ、それは困りましたね、と先程から悟ったような顔で喋る零に、魚肉ソーセージをまた黒髪の女の子に渡すと黒髪の女の子は『おぉ!!』と言いながらまた貪り食べる。
そんな女の子を見ながらこの後は警察にでも出頭かな、と考えていると玄関から声が聞こえてきた。
「零兄〜どうしたんだよ、何かあったの? 隣まで丸聴こえだぞー」
零の義理の妹である白瀬水波の声だった。
(ぎゃあああああ!! 身内キター!! やべぇだろこれはやべぇだろ!!? 兄が見知らぬ女の子を部屋に連れ込んでるとかッ!!!)
妹が来たことにより更にパニック状態になってしまった零だったが、当の黒髪の少女は魚肉ソーセージを口にくわえたまま首を傾げている。
「零兄から返事が無い・・・・・・・はっ! まさか零兄に何かあったんじゃ・・・・・・!!」
水波は返事が返って来ない零に心配し、何やらガチャガチャと音が聞こえてきた。義理とはいえ兄を心配するその姿勢に思わず涙腺が軽く崩壊しそうになるも、零は息を潜め、無反応で寝ていますよアピールをする。
(うううぅ、昨日会ったばかりだと言うのに心配してくれるなんて、どれだけ優しい子なんだよ水波! だがな水波、当たり前だが鍵が掛かっているドアを開けられるハズが無いんだ。今日を無事に迎えられたら、ちゃんと謝ろう・・・・・さて・・・・・マジでこの娘どうしよ)
再び意識が黒髪の少女に向き、さてどうしようかと悩んでいると、ガチャ、というドアの鍵が開いた音が響くと同時に開く音も聞こえた。
「ぁぁぁぁ・・・・・・・まさか・・・」
「いやぁさぁ、いざという時の為に零兄の部屋の合鍵を作っておいたんだよね〜いやぁ良か・・・・」
零の部屋から玄関からは大して遠くもないからすぐに水波は零の寝室兼居間でもある部屋に入り、襖を開けようとしたが、
「うぉぉぉおお! 待て水波!! 入って来るんじゃないン!!」
零は水波が襖に手を掛けようとした瞬間に叫んだ、それはもう必死に叫んだ。
「どっ・・・どうしたの零兄? そんな大声で?」
零は慌ててた為、声が少し高くなっていたらしい。それもそのハズ、零はつい先日に義妹達と会い、そして共通の学園に通う、つまり妹達は“兄”である零をまだどんな“兄”なのかは知らないのだ。
それがこんな光景を妹である水波に見らられてしまえば今後の“兄の威厳”が無くなってしまう
そう零は瞬時に思い、間一髪の所で襖まで移動して堅く閉じる。
「いやな水波〜、今はちっとばかし忙しくてなぁ〜。そこ開けられると困るんだよな〜、アハハ・・・・・」
零は苦し紛れに言い訳を考えていた、それはもう必死に、
「・・・・壁に頭をぶつける程忙しいの零兄〜?」
「ふっ、水波。男はみんな忙しい時は壁に頭をぶつけるもんなんだ、分かってくれ・・・・・(何言ってんだオレ・・・)」
零がクールっぽく言うが、人間混乱すると本当に意味が分からない行動やら言葉を吐く。
「・・・そんな言い訳があるハズが・・・・・・・・ってちょっと待って、“朝”で“忙しくて”入って来るなって・・・・・まさか/////」
水波は急に慌てた様子が無くなり、襖の前に居る零でも水波の様子に気付いた。
「ん? どうした水波?」
零が急に大人しくなった水波が気になり声を掛けるが返事が無かった。
「・・・・わわ・・・そそそ・・・そんな、ここここんな朝早くから・・・・ななな」
何やら一人でソワソワしていた
そんなソワソワしている水波の様子を伺いながら零はどうするか悩む。はっきり言って今は水波生憎、黒髪の女の子は魚肉ソーセージに夢中だ、さっきから食べてるな、魚肉ソーセージ、
因みに何故こんなに魚肉ソーセージが零の部屋にあるかと言うと魚肉ソーセージの安売りが先週、街のお店“みかど”で大量販売していたのを近所のおばさんと死闘の末に勝利品として大量に購入したのだ(一本50円)
だが当の本人は五本食べて飽きていたので処理法が見つかり助かってはいるのだが
「さて…俺も妹が俺に対してどんな想像をしているのをだいたい予想がついて来て“ある意味”での兄の威厳が無くなりつつあるから…開けるか…」
半分は面倒臭くなってきていたらしく今の状況でもう兄の威厳とかの問題は「もどぅ〜でもいぃやぁ〜的」な感じなので零は襖を開けた
するとそこに襖の間を必死に覗こうとしていた義理の妹が居た、水波は「きゃあ!!」と小さく驚いた、顔の両頬が赤く染まっている、が…魚肉ソーセージを必死に貪り食べている黒髪の女の子を見ると水波は硬直した、
「あの〜水波ちゃん? 何故に固まったの」
「……にいの……」
「へっ?」
「零兄のバカァァァァァァ!!」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
※
あの後の零は死の境界線を踏みそうになりつつ所を後からやって来た水波の双子の妹、凪瀬火波によって救い出された
。
そして現在、ボロボロになりながらも学園に赴き、黒須学園生徒会室に集まっていた。
「こんな朝早くから何の用だいレイくん、ふわぁ〜」
会長は大きな欠伸をしながら言った、会長の横には副会長の大月詠と、昨日いきなりなんらかの用事で消えていた南郷雹華が並んで立っている、俺たちが生徒会室に来る前から居たらしい。
今、生徒会室にいるのは零、水波、火波、黒髪の女の子、そして何故か芦田も居た
「何でテメェも居んだよ」
「ふっ、俺みたいな男前な奴はこんな早朝からも忙しいのさ…」
「峰春くんにはこの生徒会室の掃除を任していた所だったんだよ〜、いやぁ〜使えるよね峰春くん♪」
会長はまんべんな笑顔で芦田を見ると芦田は『ヒィッ!?』と小さく震えていたが詠が芦田に優しく、そして何処か怪しげな声で「気が効く男の子って女の子にモテるのよね〜」と言うと芦田はデヘデへとニヤつきながらだらしない表情を浮かばせて綻ばせる。
(…斑備会長の毒牙と大月副会長の妖艶に負けたのか……巧みに芦田を使ってやがる)
零が既に上手く利用されている友を憐れ見ながら思った。
「さて…そろそろそっちの事情も聞こうかなレイくん、その娘が原因みたいだね」
斑備会長の目が黒髪の女の子に集中した。他の皆も同じように目線が集中する。
「ええ…今朝起きたら寝てたんスよ、この娘が」
「……零兄が連れ込んだんじゃないの?」
零が黒髪の女の子を見ながら言うと水波はふて腐れたような顔をして話に入ってきた
「……零お兄ちゃん…」
「ちょ…やめて…そんな目で兄を見ないで、確かに一時は意識が無くなる程欲求が溜まり、見知らぬ女の子を連れ込んだと思ったが今思うと記憶あるから、昨日昨晩の記憶あるから」
火波のイタイ目線が気になり必死に零の思いを妹に伝えた
「零くんって以外に大胆なのね〜♪」
「…零……お前……」
「えぇ!? 大月副会長と雹華までもが俺にそんな目を!?」
詠はまた零のネタが出来た事に対して笑い、雹華はお前は普通だと思っていたのに、と辛い目で見られた。
何気に斑備会長も笑みを浮かべている
そして最後にこの男も……
「あぁれぇぇぇぇ〜〜〜?? ちょっとちょっと零く〜ん♪ 人のこと散々ロリコンとかさぁ〜言ってた癖にぃそれは駄目だろ~! ぷぷっ! 俺がロリコンならテメーは変態だっつぅの〜(笑)」
「んだとゴラぁ!! こちとらテメェを同じ人間として見て我慢してやってんだぞゴラァ!? なぁにが(笑)だ屑が!! 土に帰れよゴミがぁ!! あぁそうだ今日からテメェは塵男と名乗れ、そしてゴミ箱に帰れ」
「えぇえぇぇぇ!? オレの親友今まで我慢してオレを人間として見てきたの!? そして俺はズェッタイに塵男名乗らんぞ・・・─────ん? ってキャアアアアアアアア!!! 何急にゴミ箱にオレの頭を入れようとしてんじゃぁぁぁあ!! 痛い痛い痛い痛い! 首の骨が折れる!! はい分かった今日から塵男と名乗るから許して下さい!!」
零は芦田をゴミ箱にねじ込んでいる、そんな様子をマジマジと見て笑っている黒髪の女の子と凪瀬姉妹
だが斑備会長と詠は互いに顔を見て頷く
「ふっ、やっと君にも生徒会の仕事を手伝えることが出来るね、レイくん♪」
斑備会長は眼鏡をクイッと上げて零に言う、零は芦田をゴミ箱に頭を突っ込ませてやっと落ち着きを取り戻していた所だった、黒髪の女の子はそんな芦田の姿を見て爆笑している
「まるで今まで俺は生徒会の仕事やってなかった的な発言ですね会長、それとこの娘は関係あるんですか?」
「実は大いに関係してるんだよ、この学園では少し珍しい計画が建てられているんだ」
そこで斑備は一呼吸分の間を空けてから、再び重く唇を震わした。
「その名は『妖刀育生計画』と言ってね、黒須学園の理事長を務めている人から聞いた話だとこの学園に入学した者の数名に妖刀が送られているんだよ」
零は斑備会長の言っている言葉の意味を一つ一つ理解していこうとしているが、未だ意味が分かっていない様子だった。だが段々と嫌な展開になってきている事を微々たる直感で感じていた零。
義妹の凪瀬姉妹は何が何やらといった感じで頭上にクエスチョンマークを浮かばせ、
斑備会長はそんな三人を眺めながらまた話し始める。
「送られると言っても直接妖刀を手渡し行く訳じゃない、この学園の敷地内には特殊で巨大な術式が施されていてね。この学園の敷地内に居ると少しずつ構成されていくんだ、妖刀がね」
零はここでふと疑問に思い、斑備会長に聞く
「…じゃあその妖刀は何処に構成されているんですか?」
「ふふふ、良い質問だね。そしてそこが重要なんだよ、構成されている所…ズバリそこは」
零、水波、火波と三人は斑備会長の答えを待つ
そして…!!
「…実はそこの所だけ不明なんだよ〜、アハハハ」
「えぇぇ~~・・・そこ重要じゃ無かったんですか、てか絶対重要ですよね」
零はまさかの斑備会長の返ってきた答えに驚く。
「でもね〜僕が思うに、その形状、能力は人によって変わり形造られ…そして与えられたその妖刀の銘を知る、まぁ想像の中で創り上げられているんだよ、妖刀を」
零は思った……まさかと、
「レイくん、君はもう理解しているんじゃないかい?その娘の正体。夜に聴いたんじゃないかい? その娘の銘を…」
零は愕然とした、正に予想的中、そして呟く、黒髪の女の子の銘を
「まさか……黒斬か?」