第22話「夜月の光は魔煌の輝き、闇は拡がる」
この回は主に芦田が活躍!
2012/07/27 改善!
帝黒町、“町”とはなっているがその人口は遥かに町よりも“街”に近くなるほどに人口密度を占めていた。
大きく出来た新築の立派なお店や、はたまた古い昔から馴染みのありそうなお店、そして帝黒町に遊びに来た人々を見上げさせるように王立ちする建造物、ましてや世界遺産なんかに認定された自然もこの町にはあった。その自然も豊かな訳でその四季揚々に彩る景色を観る為にわざわざ遠路はるばるやってくるお客様が多い、その為に旅館や出店、飲食店が数多く出されていたりする。
そう、店も沢山あれば人員も欲しい、欲しければ雇う、出来れば手軽に。
そして考えた。
そうだ!!
Arbeitだっっ!!
『御食事処・あした』
黒神零は一時期アルバイトをしていた所である。
そしてその『御食事処あした』と言うのは零の自称・親友(?)である芦田峰春の実家でもあり、その『御食事処あした』の店長は芦田家の大黒柱にあたる人物、
「いやぁあ! まさか俺の新定食全部ダメになるとはな、ワハハハハ!」
何とも豪快に笑っている髭ダルマ親父もとい、この芦田鍬形が芦田峰春の父である。
どこか暑苦しくも、父性のおおらかさを醸し出している鍬形はの気のせいなのか、零も安心する感覚に陥るのだ。
ずっとあの髭ダルマ親父のことを考えるなんて俺はホモかッ! とやっと気付いた零がとったの方法は“放置”だった。
「お父、零お兄ちゃんを困らせては駄目だ」
襟首まで伸びた茶髪を片方だけ三ツ編みにした可愛いらしい小学生の女の子、芦田楸が父・鍬形の袖をひっぱりながら言う。
「困ってる訳じゃ無いんスけど、まさかこれだけの為に呼ばれたんスか俺は?」
「こ、“これだけ”の為ににッッッ」
漫画のように黒い棒線が現れて、物凄く落ち込む鍬形。芦田のネガティブ部分はこの父親から受け継いだのが分かる。
「ねぇ〜お父さぁん、嗄は何処に行ったのー?」
一旦着替えの為に部屋に戻っていた芦田家の三女・芦田榎が降りてきた。恰好は何とも際どい感じになっているジーンズの短パン、そして薄い白い模様入りのシャツ。髪はポニーテールから普通にして、綺麗に整えて長く下ろした感じだった。
嗄とは榎の双子の妹であり当然芦田の妹でもある。
「本当にお前の妹なのか? 一度DNA検査した方が良いよ?」
「お前根本的に失礼だな!?」
お客様の為にある畳に座って携帯をいじっている芦田に零は凄まじい真剣な顔で聞いた。
「・・・・・・?」
榎は疑問に思いながらも鍬形に再度聞く。
「ねー、嗄はー?」
「カレルはバキ姉に荷物届けに行ったろうが、朝父ちゃん言ってたぞ」
「えっ、マジでー!?」
「灰中の鞄あったし」
芦田は面倒臭そうに榎に言って、携帯を見せる。
画面には帝黒町らしき電子地図が映っていた。
因みに灰中とは榎と嗄が通っている中学校を略した名で学校名は灰神中学校と言う。
「何これ」
零がそう言って芦田の携帯を取る。榎も気になり零と一緒に携帯画面を観る。
「GPS」
「・・・・ちょっと待て、え、ウソ、マジかよお前・・・・」
零はかなりかなり冷めた目で見ながら芦田から一歩引く。
「えっ! 何だよ!?」
芦田は何で引かれているのか分からない様子で零から携帯を取り返そうとしたが、榎の手刀を喉に食らった。
こう、ズガッ! と。
「おう゛ぇえええぇぇぇおおおお!!!」
芦田は当然痛がる。
「か、嗄までそんなことするなんて・・・・アンタは正真正銘の変態だ!」
「あう゛ぁ・・・・あ゛ぁ!? あ、そういう事!? 違う! これはなんと言うか我が子を心配する親心と言うか!」
何故嗄に手刀されたのか気付いた芦田は言い訳がましく言うが榎は止まらないで進む。兄の息の根を断つ為に。
「折るか」
「はぁあぁ!?」
「おら♪」
バキッ
零は笑顔で芦田の携帯を逆パカ、つまり折った。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!? 俺の妹の現在位置が分からなくなったぁぁぁぁ!!」
「ええぇ! 携帯よりそっち!」
零は折っておいてなんだが芦田のツッコミ所に驚いた。
その後、父・鍬形が復活して見た光景が何故か娘の榎が息子であり榎の兄である峰春がボコボコに殴られている場面だった。楸は姉の豹変ぶりにかなり驚いていた、そしてそんな光景を見ていたもう一人の人物黒神零も楸がその内この光景に馴れていくんだろうなーと悲しそうにしながら奥の部屋に入って行った。
芦田家の家は表はお店になっており後ろに回れば普通の民家のようになっている。ただ稼ぎが良いらしく中庭も付いている。
「俺ん家のアパートより全然良いじゃねーか」
奥の部屋に行くとリビングとなっており中庭を眺められるように出来ている。
基本女の子が住んでいるからか男のむさ苦しさは一片も無い。片付けられており床も綺麗になっている。
「おっ♪」
零は中庭で元気そうに尻尾を降っている動物を見つける。
「久しぶりだな、カナ〜♪」
零は中庭に行くと元気そうに足下まで駆け、摩り寄ってくる大型犬ゴールデンレトリバー、名前がコンと言う犬が可愛く鳴く。
この犬は芦田家の前に捨てられていて、そこを芦田が見つけ、かなり凄まった顔で『飼う!』と言い出したことにより芦田家に新たな家族が増えたらしい。
ゴールデンレトリバーのゴールデンから抜き取り日本語で最初『金』と名付けた芦田だったのだが随分日が経ってからメス♀だと言うことを知った芦田はすぐに名前を変更した。同じ漢字で読み方が違うことから『金』から『金』に変更になったのだ。
「毛がフサフサでふわふわだなコノヤロー♪」
元々動物好きな零は人懐こいコンが大好きだった。
だが零は認められない事が一つあった。
それは、
「クソォォ! ちょ・・・・今から嗄を迎えに行って来るわ、カナの散歩と一緒になっ!」
奥からボコボコに腫れあがった顔面を気にしないでやって来たのはシスコンの持ち主である芦田峰春だった。
「させない! 嗄までお前の毒牙に染めさせてたまるか!」
「おまっ! 兄貴を“お前”呼ばわりってひどくね!? ちゃんと俺の事は『お兄ちゃん♪』って呼んでくれ、あと『大好きだよお兄ちゃん♪』とかでも可!」
「可じゃないわよォォォォォォォ!!」
ドカァァッ! と芦田の溝に榎のパンチがクリーンヒット。
「オェ゛ェェェ!!」
丁度円を描くように中庭に吹っ飛ばされる芦田。
零は華麗に芦田を避け、芦田はバサァッと地面に落ちる。
「受け止めろよ!?」
「ヤダ」
「え、即答!?」
「シネ」
「何でだッ!?」
芦田が零に食って掛かるが悉く罵倒を浴びさせてくる零に心を打ち砕かれそうになる芦田、そんな芦田に愛の手が・・・では無く。
ペロペロ。
コンが芦田の頬を舐めていたのだ、飼い主を思いやる優犬、零は思わず涙腺が崩壊しそうになった。
「コ・・・・・コン」
ワンッと元気よく鳴くコン、芦田はもふもふなコンに抱き着く。
「コンは優しいぞォォォォォォォ!!」
そして芦田はいつの間にか持っていたリードをコンの首輪に付け、ダッシュする。
「あ、逃げたあの変態!」
「不覚・・・グズッうぐっ!」
榎は逃げて行った芦田を背後から忌々しそうに睨み、零は涙腺崩壊し、今の場面に泣いていた。
「ハッハッハッ・・・・・・ちょ、待っ・・・て・・・早いぞコン!?」
芦田はカナに引っ張られている状態で街道を走っていた、もう日が落ち、夜がやって来る時間帯になると言うのに帝黒町は賑わっていた。部活帰りの学生の集まりや迎えを待っている学生、そして出勤帰りのサラリーマンの人たち。他にも色んな人たちが出回っていた。
そんな学生やサラリーマンたちを飲食店などに誘う香ばしい匂いが芦田や他の人たちのお腹を擽った。
ぐぅ〜ぅ〜。
なんとも言えない腹の虫が芦田のお腹から聞こえた。
「腹減っちまったぜ」
芦田はお腹を摩りながら呟く。
誰に?と聞かれたらそれは芦田の横でちょこんと座って待っている芦田の愛犬・コンに言ったのだろう。
「ワンッ!」
コンも元気良く飼い主の返事をする。返事を聞いた芦田は嬉しそうに笑いながら妹の元へと走って行った。
芦田家から少し離れた場所には黒羽土駅という駅があり、そこから通う学生や勤労者人が沢山利用している。そんな黒羽土駅に一際目立つ女性が立っていた。
何故一際目立っているのかというと、それはかなり“美人”な女性だったからだ。テレビや雑誌等に載ってそうな綺麗で出てる所は出て、引っ込む場所は引っ込んであるナイスなプロポーション、そして渦巻く欲望から醸し出た大人の色気を引き出すような麗しい赤い瞳、背丈まで伸びた長い桃色と茶色が入り乱った髪で一目見れだ傷んでいないと判る美髪。
そしてその全ての味を上手く出している女性の恰好も抜かりは無かった。
綺麗で色欲を掻き湧かすような美脚を露にした赤いミニスカートを履き、上半身は赤と紫色を上手い具合に交差させたラインが入っている衣服。そしてその上から灰色のコートを肩に乗せているその女性は駅で皆に注目されているのに何の反応もせずにただひたすら待っていた。
その女性の前にテクテクと歩いて来る女子学生に手を振った。
女子学生もその女性が手を振っているのに気付き、恥ずかしながら小さく手を振り返した。
「遅いわよ、嗄〜」
「バキ姉が持って行く物を忘れちゃいけないんでしょ」
「いい加減“バキ姉”は止めてよねえ。私の名前は椿って言うんだから昔みたいに『椿お姉ちゃん♪』って読んで♪」
「それは嫌」
「うふふふー、そんな冷たい態度を取る嗄も可愛いわねぇ〜♪」
椿と呼ばれた女性は頬を紅潮させながら妹である嗄に抱き着こうとしたが阻止させられた、主にゴールデンレトリバーを連れ歩いていた芦田に。
「公衆の前だと言うのに問答無用に妹に頬を赤くしながら抱き着こうとするなバキ姉」
ワンワンッ!
コンも芦田の味方になりながら吠えた。
「春じゃない、どしたの?」
若干邪魔されたことに頭にきた姉の椿だったのだがワザワザ駅まで犬のコンまで連れて来て、何故だろうと思った椿は素で芦田に聞く。
「逃げてきた」
速急に答える芦田、何故か周りをキョロキョロしながら言った芦田が、椿にとって一番分かりやすい行動だと思った。
「まさか零くん家に居るの?」
「・・・・・・・・・・・・居るけど」
芦田は言い辛そうにそれを言うと椿は目をキラキラさせていた。
「帰るわよ!」
「ダメだ、さっさと仕事行け!」
「何よ春! まさかアンタだけ零くんを独り占めする気じゃ無いでしょーね!」
何故か嗄は引いたような目で兄の芦田の顔を見た。
「俺は女が大好きじゃ! 誰が男と【ピーーー】や【ピーーー】をやったり【ピピピピーーーーーー】をしたりするブバァァ!?」
芦田の言葉は最後まで言えることは無かった、嗄が顔を真っ赤にしながら芦田の腹をパンチしたからだ。
生憎もう一人の妹、榎よりは弱いパンチだったのだが完全無防備だった腹にいきなりパンチを食らっては弱くてかなり痛かった。
「くぅぅぅぅ・・・・・かなり悔しいわ! でも確かに仕事をサボる訳にはいかないか、電車も来る頃だし行って来るわ」
恐らく夜勤なのだろうか、日も沈み掛かったと言うのに電車に乗り込もうとする姉を見送る妹と弟、弟は腹を押さえて悶えていて、それを面白可笑しく笑っている椿は手を振りながら電車に乗った。
「カレルぅ〜かれるよ、じゃなくて帰るぞー」
「うん」
「ハハハー、スルーかぁー(泣)」
嗄は学生服特有のスカートをひらひらさせながら帰路を歩いて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
妹の嗄と他愛の無い話をしながら我が家に着いた芦田と嗄。
「俺コンを中庭に連れてくから先中入ってろよ」
「・・・・・?・・・何で店閉まってんの?」
不思議そうに我が家が経営している『御食事処・あした』の入口を見ながら芦田に聞く。
「父ちゃんが零にオリジナル定食を食べさせる為だけに今日は休業にしたらしいぞ」
顔を向けないまま芦田は愛犬コンを犬小屋に連れて行った。
嗄は呆れたように小首を傾げながら店の入口から入る。
すると、
「もっと酒持って来ォォォォォォォい!! 今日は飲むぞォォォォォォォ!!」
「ご主人様! この髭ダルマのオジサン面白いですね♪」
「黒神せんぱぁぁぁいっ♪ 俺らにもアルコールぷりーずっスよぉ〜♪」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 銃耶テメェ何普通に学生が酒飲んでだお前ェ!? あとキリお前はその危険ワード出すな、別に髭ダルマオヤジとかOKだけど!」
「黒神先輩、日本酒ドコにあるんですか、鍬形さんが持って来いとうるさいので・・・・・」
「白宇お前も順応すんなッ! つか良いの!? 鍬形ここの責任者だろゥが!?」
凄い事になっていた。
嗄は店の中で何故か酔っ払っている父親の姿と名門高として名高い黒須学園の生徒たちが未成年で酒を飲んでいる姿を見て呆然とする。
何がどうなった?
「榎コラッ! 何で芦田家にあんなに人数居んだ!?」
芦田は店の中で好き放題に騒いでいる連中の声を耳に聞き入れながらソファで暢気にポテチ食べながらテレビ鑑賞している妹の榎に聞く。
「ん〜? 何か最初は黒くて長い髪をした可愛い女の子がやって来て零さんに『ご主人様ァ!』と叫びながら抱き着いて来たのが始まりで、その後お腹を空かした黒須学園の学生さんが来て『喉を潤す為にアルコールを貰ってもOKっすか?』とか凄い事言ってきたんだけど・・・・・」
「で、出したのか!?」
榎が疲れたような顔で言う。
「止めるハズの大人、父さんが上げたみたいで・・・・・」
「あのオヤジ店を潰す気か!?」
うがァー! と芦田が騒いでいる店の中に移動すると、
「タケノコタケノコっっ、にょっきっきー♪」
皆何かのゲームをしていた。
「うわっ何この状況!?」
芦田がでろんでろん状態の零が畳の上でガーガーと膨大な鼾を響きかせながら寝ているのを見ながら言う。
零が俯せになりながら寝ていたのでキリが零の背中を枕にして可愛いらしく寝息を立てていた。
「おぅおぅイーヒッ、ヒックッ、お〜う我がむしゅこよ〜、オデに酒注げや〜ヒックッ」
「大人が筆頭に酔っ払ってんじゃねぇぇぇぇ!!」
おかしくなるんじゃないかという程に顔を赤くする鍬形に芦田はコップに入ってあった水をぶっかけようとしたが、ピタッと動きを止めた。何故急に動きが止まったかと言うと、
「・・・・・・・・・・・・親に、ヒックッ、それは駄目ですよウックッ、明日先輩」
「比較的に白宇が一番まともそうだが生憎目が据わってるぞ白宇!? あと痛い、おまえのその筋肉たっぷりの腕が俺の手首をいらん方向にへと曲がってる、曲がってます・・・曲が・・・・・曲がってるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ!!? そして字が違ぁぁぁぁぁぁぁう久々!!!」
うぎゃぁぁぁああああ!? と呻き声を上げながら巨漢の白宇に脇蹴りするが筋肉で芦田の蹴りが弾んだ。
だがアルコールが入っているせいか白宇はすぐに芦田を離して千鳥足で一緒に来た銃耶の方にへと歩いて行くと、
「銃耶ァァァァ! 酒は駄目だあああ!!」
「ぶはぁぁぁぁああああああああ!?」
いきなりラリアットを繰り出した。銃耶は他の奴らより全然酔ってないでグビグビと日本酒を飲んでいたのだが白宇の強烈なラリアットを受けて気絶した。
現在、『御食事処・あした』の店内にて、酔っ払い四人(キリは飲んでいなかった)が大口を開けて寝息を立てて爆睡していた。
芦田はこの状況をどう打破するか思索を巡らせる、が。
「・・・・・ほっとこう」
ほっとく事にした。
※
日が完全に落ち、周りが暗くなっている。
暗い夜道を黒いツンツン頭に黒縁メガネを掛けた学生服の少年、鉛銅黒護と隣で歩いている黒護の同級生であり“ある秘密”を共有する者同士の鼓枝飛久がトボトボと歩いていた。
「生徒会長、詳しい話は明日って言ってたけど・・・・・オレ正直、まだ信じられねーよ」
飛久は気分悪そうにそう言うと黒護は若干頬を引き吊った。
自分にも飛久に隠し事をしているのに。
「な、なぁ、ショー」
「・・・あんだよオレも混乱中なんだぞ、後なに『ショー』って?」
「飛久の『飛』から取って読み方を変えてショーにしたんだ」
「は〜ん、あっそ」
明らかに興味無さ気に飛久は帰路を歩いて行く。
「ショーは今日も太鼓の練習あんのか?」
「あるよ、山可屋太鼓『山猿』チームの練習」
「山猿って、山猿って読めるのに?」
「知らねーよ、昔から代々受け継がれて来た大切なチーム名を馬鹿にすんじゃねーぞ、黒護!」
「いやしてないでしょ」
そしてその後から飛久は山可屋地区だからバスで移動する為に黒護と別れた。
そして今、黒護は暗い夜道を一人で歩いていた。
「・・・・・“硬化”」
辺りに人が居ないかを確認した後に自分の異形が夢では無いか確認する。
黒護が呟くながら右手を見ると黒色に染まり鉄を粘土のように簡単に曲げられそうに見える夢では無い“鋼の手”を確認した。
「・・・・・気持ち悪ィのかな」
自然だった。
自然にそんな風に呟いた黒護は自分で言った言葉にどれほどの意味を込めて呟いたのか、分からなかった。
そしてそんな風に思い耽っていた黒護の背後から何かが近付いていた。
「そぉんな深く考えなくても良いのにな」
「─────ッ!?──」
黒護はすぐに背後から聞こえた声に反応して振り返る、が。
キュガンッ! と黒い何かが黒護を“凪ぎ払った”。
※
芦田は妹たちに後を任せて二階へと上がる。
母親は只今訳ありで別居中なのだが、幸いにもうすぐ兄と共に帰ってくる。
「母ちゃん久しぶりだな、母ちゃん特性麻婆豆腐が楽しみだ」
風呂も入ったし歯も磨いたし、後は疲れた体を休ませる為に寝るだけだ。
芦田は二階の自室にへと入る。部屋は『大した広く無い普通の部屋』で前に零や尾井群、雹華に言われた事があった。
失礼極まり無いな、と芦田が思いながら辺りを見ると、まあ妥当だな、と納得する。
「ふわぁあ〜」
自然に出た欠伸、眠いという信号だ。
芦田はそれを素直に従いベッドにへと入る。
そして暖かい毛布に包まれながら思い出した。
(会長に、今日は満月だから月見をしたら、とか言われたよう・・・・・・・・・・・・寝る)
思い出したがもう毛布の中、布団を退かす程芦田の意思は強く無い。
芦田はすぐに夢の中へと赴いたのだった。
ふわふわ。
芦田はまるで雲の上に寝ている感覚に襲われた。
あぁ、夢か。
芦田はすぐにこれが夢だと認識する。
夢の中だと知るやすぐに芦田は目を開けて、感覚通りに白い雲の上に立っていた体を動かす。
まるでトランプリン、いやトランプリンより遥かに柔らかい雲。
「ぶはっはっはっは! 雲を食べるのが俺の夢だったんだーー! 一体どんな味だこらー!!」
芦田は雲にかぶり付く、綿雨のように触感なのだが、口の中に含むと水の味がした。
「うん、まぁ、妥当、うん・・・・・予想は、してた」
かなり落ち込んだ芦田は独り愚痴りながらいると、雲の平原の向こう金色の何かが近付いていた。
芦田も気になり、その金色の何かに向かう。
するとその金色の何かが人形に見え、テトテトと芦田の方にへと必死に走って来ていた。
「んんんん〜? 人なのか? ハッ! まさか天に住まう女神様とかとかぁぁ♪♪」
かなり馬鹿な考えをして勝手に駆け出す芦田、こういう馬鹿はまっすぐに殺られるタイプだと作者は思った。てか作者とか書いてすみません。
そして芦田が見たものとは、
金髪の女の子だった。
「キタァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
電車男のように喜び上げる芦田。
芦田は駆け寄って来た少女を見た。
かなりの美少女だった、綺麗なのは顔だけでは無く髪は地に付く程長く、太陽のように光輝く金色の美髪で太陽の光を浴びれば目が眩む程に輝き背中を全部包み込んでいた。
服は白いワンピース一つ着ているだけで背は芦田より少し小さい位だった。
「うわ、ちょ、うわーー」
芦田はかなりテンパり始めて、言葉が出て来ない。夢の中なのだから何をしても良いだぞ、と外道な考えを思案している中、金髪の美少女が口を開く。
「・・・・・あなたの名前は・・・」
無表情のまま金髪の美少女は芦田に訪ねた。
そして芦田は変態なだけか無表情のまま喋った金髪美少女にどツボに入った。
その証拠にパクパクと口をあんぐりしていた。
金髪の美少女は小首を傾げて「?」と不思議そうに芦田を見る。
そして美少女の質問に芦田はやっと反応する。
「あ、あの、え〜ゴホンゴホン! ゴホッ!? ゲホッゲホッ、ゴホッゲホッ!!? オヴェェェ!!」
声が裏返ったので一回直そうと咳をすると変な器官に入り激しく咳き込む。
夢なのに変なとこリアルにすんな! と芦田が思っていると目の前の金髪の美少女はコクリと頷く。
「成る程、あなたはゴホッゲホッオヴェェェさんですね」
「ゲホッゲホッ!? 激しくに違います!!」
また小首を傾げて「?(クエスチョン)」を浮かばせる。そんな時まて無表情、芦田は浅く興奮する。
えぇ〜、と芦田は息を整えて言う。
「僕の名前は芦田峰春と申します、淑女」
大変気色悪い極まり無い。
零が居たらそう告げていた。
だが無表情だった金髪の美少女の頬に何故か、何故か! 『何故か!!』赤くしていた。
「知りました、あなたの名を・・・・・では私もすぐに行きます」
ん?
行くとは?
芦田がそんな風に思った瞬間だった。
雲の上に居た芦田の足下が突如、消えた。
「ぬ、えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
当然、芦田は暴れるように手足をばたばたとするが芦田の身体は落ちていく。
「うわぁぁぁあああああ! この落ち方も変にリアルだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして天高く空にあった雲から落ちていた芦田は下方に聳える大地。
芦田は何の抵抗も出来ずに落ちて行く。
(せめて夢の中だけでも幸せになりたかったー・・・)
かなり悲しみに満ちた表情で地に落ちて行く芦田、が上空から“何者”かが追い掛けてくる。芦田はそう感じてさっきの金髪の美少女だと思い、必死に吹き上がる風を抵抗して上空に目を向ける。だが向かって来ていた“者”はあの美少女では無く。
黒い翼を生やした青年だった。
黒い翼を生やした青年は大きな黒翼を羽ばたかせ、弾丸のように振り落ちてくる。
芦田はギョッとした顔で必死に避けようと身体を泳がせる。だがそんな所をして避けれる筈も無く黒い翼を生やした青年は獲物を殺し仕留める鷹の如き眼で芦田を捉えて急降下してくる。
あの黒い翼は絶対に危ない。
芦田がそう思って覚悟を決める。夢の中だとしても殺されるなんて嫌だ。
そんな考えを空中でしていた芦田に救いの手が差し伸べられた。
ガキィン! と黒い何かが黒い翼の生えた青年を止めたのだ。
黒い刀に黒い衣。
そして芦田の見知る顔。
黒神零が止めてくれたのだ。
「零ィィィ!!」
芦田が叫ぶが零は振り向かない、零は黒刀を黒い翼を生やした青年と激突し、刀と翼が交差させ、ギリギリと音を立てて弾かせる。
(なんだよこれ? 夢にしては変にリアル過ぎる)
ビュウビュウと風の抵抗を受けながらも芦田は冷静に考えられた。
そして空中で戦っている零が押されているのが分かった。
そして零が相手の翼に妖刀を弾かれ、黒い衣が無くなった瞬間、零の胴体を真っ二つに“切り裂いた”のだ。
「───んなッ!!?」
当然芦田は驚く、親友が真っ二つにされて平常心を保てる程芦田の精神は強く無い。
「てめえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
芦田は手をバタバタと振るわせながら青年に叫ぶが、青年は不気味な微笑みを浮かばせて、次に仕止める獲物に飛び掛かる。
力が無い。
何も無い。
芦田はそう思ったのはその時だけでは無かったのだ。
生徒会の一年生が拐われた時、炎条騎烈に敵えなかった時。
芦田は夢の中でも無力、本当にやってられない。
なんて惨めだ、なんて弱いんだ。
雲の上で美少女に会えて何を糠喜びしてんだ。
そう思いながら芦田の首に振り下がる死の翼刃に芦田は何の抵抗も無しに目を瞑った。
◇◆◇◆◇
芦田は目を開ける。
目に映ったのは見覚えのある自室の天井。
───あぁ、やっぱり夢か。
「・・・・へっ、呆気な」
芦田は自分の不甲斐なさと無力感を漂わせ、芳しく無い思いをしながら自分で寝相悪く蹴っ飛ばした布団に手を掴む。
無造作に布団を持ち上げると、丸くなって寝ている夢の中で出会った少女が居た。
「あ、・・・・・え、は?」
当然芦田は混乱する。
とうとう夢と現実を間違えてしまう程疲れているのか、と考えを迫られ、掴んでいた布団をまた被せた。
「ふむゅ・・・・」
如何せん幻聴まで聞こえてしまった芦田。
取りあえず自室にある窓を開け、そして今の気持ちを整理する為に確認の一言。
「キタァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
幻だとしても幻聴だとしても死ぬほど嬉しかった芦田峰春だった。
※
『また目覚めたのだ、新たな妖刀師が・・・・』
「そのようですなぁ」
無機質のような声、そう感じさせる声に反応するのは黒須学園の教師を務めている銀髪の男性、五条銀雲。
銀雲が居るのは黒須学園の豪華施設が施されている外庭。
『順調のようだな』
無機質、感情の何も感じさせない声に淡々と銀雲は答える。
「この黒須学園だけでもう三人目の妖刀師が目覚めていますなぁ、いやぁええ事ですわァ」
『ふむ・・・・・』
「貴方の計画が順調という事、まぁええ風向きですねェ」
銀雲の言葉を聞いて静かに話す謎の無機質の声。
『数が肝心なのでは無い、その妖刀師の「質」を観てみたいのだ・・・・・そう、数が関心では無い』
銀雲は綺麗に掃除してある庭の木製の椅子に座り、白いスーツの首もとを弛め、
「・・・・・“契約”の事は決してお忘れ無き事を・・・」
いつも細めていた目が鋭い眼光を虚空に向け放ちながら静かにそう言うと、『分かっている・・・・・』とだけ返事し、もう返ってくることは無かった。
銀雲は右胸にあるポケットから煙草の箱を取り出し、その中にある白い煙草を抜き出して口に加える、太股辺りにあるポケットに手を差し込んでライターを探すが、パタパタと叩いて確認。
どうやらライターを忘れてしまい。
この煙草どうしよう、と口に加えていた煙草をフルフルと揺らしていると、
「・・・・よぉ、朝からご苦労だな銀雲」
「あろ? 愛手先生じゃ無いですか、こないな朝からどないしたんです?」
「俺はこのクソ広ぇ学園の医療施設の点検と保健室にある薬品の確認、せしてクソガキ共のもうすぐ始まる身体測定の準備をする為に徹夜続きの毎日ですがァ、てめェこそこんな朝ッぱら何してんだぁ、あァ?」
「嫌やなぁ、そんな喧嘩腰にならんで下さいよ、あ・・・牛乳飲むとカルシウム摂取出来てイライラ解消とあったんやけども・・・保健の先生ならもうとっくに聞いたことのある話ですなぁ、いやぁ〜、すんません」
何とも楽しい会話とは思えない二人、『愛』の刺青を彫ってある愛手はいつも着ている白衣からライターを取り出して思いっきりヒュッバンッ! と銀雲に投げつける。
「まったくテメェと居ると楽しくて仕方ねェぞ、癌死ね、ゴジョウ先生」
ボッと火を出してずっとくわえていた煙草に火を付ける。愛手は相変わらずチャラい感じの恰好に白衣を着た不良保健教師は銀雲の横に座る。
「ありがとうございます、アイテ先生」
「あァん!?」
隣の銀雲にガンつけしてくる愛手、保健教師あるまじき行為である。
「そんなの疲れるだけだと、テメェは知っているじゃねェのか?」
愛手は銀雲が何をしているのか分かっていた。
「自分は別にどうなったってエエんよ、大事なんは『契約』の事だけや」
銀雲が真面目な顔をしてそう言うと白煙を吐き捨てながら立ち上がる。
「今日は休日、愛手せんせも休んでくださいな」
それだけを言うと、ライターを愛手に返して校舎にへと歩いて行った。
「・・・・クソ面倒臭くせぇ奴だ、チッ!」
愛手も愛用の煙草を吸い、苦みを噛み締めて早朝の青空を見上げた。
うわぁあああ!!!
アルバイト普通に全然違う英単語だったのな読み返して理解しました、恥ずかしッッ!!
なんだこりゃ恥ずかしッッ!!
この話を読んだ方は意味を分からないとおもいますが、改善する前はArbeitでは無く意味不明な英単語をそのまま投稿していたのです(*/□\*)
えっ………読んで下さってた方は生暖かい目で流してた感じですよね(汗)
そしてオリジナルな苗字使ってるな自分、『愛手』ってなんだ?