第19話「死神の休息」
最近になってPVの見方が分かった作者・十握剣です。
「どぅしてよ、高校生のガキィがこんな傷作って何処に行ってやがったんだ、まったくよ」
今現在、零や他の皆は黒須学園の敷地内にある第一病棟の一室に眠らせてもらっていた。
何故、黒須学園なんかに病棟があるかと言うと、そもそも黒須学園は『私立』であり黒須学園の理事長を務めている人はかなりのお金持ちらしく、学園には色んな施設が立てられているのだ。
室内温水プールが三つあるやら、スポーツをする専用の敷地があるやら、お茶会をしたいからと言って豪華な洋風と和風の屋敷を立ててあるなど、お金持ちを完全にアピールしている。
元々、女学園だけあって、怪我をするのは少なかったのだが、お嬢様だけあって傷を負ったら学園に何かと面倒なこと言い掛けてくるかも、と理事長は考え、万全な施設体勢となったのだ。
校舎にも保健室があるのだが、そこにも数多くの保健室が用意してあるのだ。
しかも一室一室に一室専用保健教師が配属されているのだ。
元女学園だけあってその全員は女性教師だ。
たが、女性だけの保健教師たちだったのだが、男子との共学になった為に男性教師も取り入れたらしい。
一名なのだが、
「愛手先生〜、また黒神くんが逃げだしましたぁー」
「あァ? 早く捕まえろ」
「了解しましたー、でも病棟の中ではその口に加えているタバコを吸わないでくださいね、まったく〜」
今名前を呼ばれた白衣の中には私服を着て、胸元を開けは耳にピアスと両手の指全部に銀色の指輪を付け、顔右上の所に黒色の『愛』の一文字を刺青に彫ってある長身の男性が黒須学園保健教師唯一男性教師である愛手指伸だ。
愛手はベッドでまだぐっすりと寝ている凪瀬水波と隣のベッドでも寝ている双子の妹である凪瀬火波をチラリと見てカルテを見る。
「黒神は刃物による傷、凪瀬(青)は肺に少し負担が掛かってあり、凪瀬(赤)は外傷の軽い火傷、たが、黒神以外はもう自己回復していた」
チッと舌打ちをして保健室の中にあった椅子に座る。
「・・・・妖刀育生計画か、チッ」
ガツッと机に堂々と足を上げてカルテを見つめている愛手、完全にヤンキーに見えています。
「愛手せんせ〜、捕まえてきましたよー」
「ぐ、ぐわぁ! ちょ、力強いッスねレッサーちゃん♪」
「あら、ありがとう黒神くん♪ でも淑女に向かって“力強い”は無いと思うわー♪」
「うぐぁ! きゅ、急に力がつよ・・・・ガクッ」
白衣を着た女性教員に首を締められ、意識を失った零をベッドに戻す。
「・・・・ガキィ相手にプロレス技決めてんじゃねェぞ、母瀬井」
「今のは荒れる生徒を止める体術法なのですよー、後アタシの事は“テレサ”♪ って言ってくだ───」
「“母瀬井”は凪瀬姉妹らの身体の様子を見っから診察室に連れてけ、薬谷堂と癒佐にも言っとけ」
愛手はそう言って診察室の鍵を母瀬井に渡した。母瀬井は渋々な感じで起き上がれるくらいに回復した凪瀬姉妹を診察室へと連れて行った。
「お前ぇもワザワザ逃げてんじゃねェぞ、面倒くせェんだからよォ」
ドサッと気を失っている零の前でそう言いながら椅子に座る愛手。
「・・・・やっぱ完全に回復はしてるが、内側の傷が癒えてねェ、本当に面倒だな」
愛手はそう言いながらもちゃんと零の常態を診ていた。
※
零が黒須学園第一病棟で寝ている同時刻、妖刀師・豊臣風世及び妖刀・風鈴音が戦った場所であろう廃棄工場付近の森に、炎々と赤き炎が燃ゆっていた。
「ふざけんなぁぁぁぁ!!」
そこに赤き炎と化した手腕を木々に放つ少年が居た。
「落ち着きなさい、騎烈。まだ傷は癒えていない」
「うるせぇ!!」
そしてその少年の近くで紅色の鞘に紅色の柄をした刀を肩に吊るし、紅い髪をした少女が少年に静かに語りかけた。
「紅祢! お前は何故オレを助けた!」
紅祢と呼ばれた紅髪の少女は一つため息を吐いて答える。
「良いから炎化を止めなさい。熱くて汗が出てくるじゃない」
「ハッ! よく言うぜ、冷や汗一つも出てねぇくせによー!」
「あぁもう、煩いわねぇ」
炎々と燃えている木々に紅祢は紅い柄を握り、構える。
そして、
スパァン! と紅く煌めく一閃が裂いた。
燃えていた木々は火は消え、黒い炭と化していた。
「・・・・うぜぇ」
「騎烈はすぐそうやって頭に血が上る」
パチンと鞘に刀を収めた紅祢はその場に腰を下ろして言う。
「貴方は私のパートナーなのよ、『火の妖刀師』には『火を操りし者』、つまり火の異形者である炎条騎烈が私の相方なのよ?」
「・・・・・・・・」
炎条は炎と化した手腕を普通に戻し、何か気まずそうな顔で居た。
「・・・・どうしたの?」
紅祢は首を傾げて炎条に聞く。
「・・・俺以外の、火の異形者が現れた」
炎条は紅祢に背を向けて呟いた。それを見た紅祢はクスリと可愛いらしい笑みを浮かべさせた。
「あの娘でしょ、確か名門校の・・・・クロスがくえん? 名前は・・・・・忘れたけど確か魔法型の火の異形者だったわね」
それに少し反応する炎条。
「でも私は騎烈の方が良いの、だって騎烈の方が絶対に強いと思うもの」
紅祢は真っ直ぐな瞳で炎条に言った。
「・・・・・ふん」
炎条は鼻を鳴らして森の中へと消えて行った。紅祢はそれを見てまたクスリと笑い紅祢も炎条を追って歩いて行った。
「《慎紅の斬手》と《炎人》、火炎チームは崩れちゃいないね。突風チームも大丈夫そうだし」
「だが、まだまだ成長してもらわないと、そうだろ筏井?」
筏井と呼ばれた小さな男の子は大きな帽子を被って木に寄り掛かっていた。
「白仙女さん、確かにまだ十分な戦力では無いですね」
白仙女と呼ばれた女性は白く艶やか髪を靡かせ、そして純白の衣を浮かせていた。その姿、雰囲気は何故か仙女のような感じであり、そのせいでいつの間にか名が『白仙女』となっていたらしい。
「あの方もそう思ってらっしゃる。だから、まだ戦って貰わないと、計画を邪魔する事は出来ない」
白仙女は衣をバサッと払うと宙に浮いていく。それを筏井は見向きもせずに答える。
「・・・・・分かってます。絶対にあの計画をブチ壊す、それが『斬裂く白き鎖』の全てです」
白仙女はそれを聞くと、まるで空間が布地のようになり、白仙女はそれを“掴み”そして“裂いて”その中へと“入り”そして消えた。
「本当に、仙女みたいな人だ」
筏井は何も無かったかのように消えて行った。
※
「愛手先生、凪瀬さん達の診察終わりましたぁ」
「おぉ、ごくろー」
愛手は零を診た後に部屋を暗くさせて静かに部屋から出て行った。
そして今居る所は黒須学園第一病棟管理室だ、医療関係のプリントや、薬品、器具、そしてその全具を記録したパソコンなどがあった。
「愛手さん、コーヒーです」
「おぉ、さんきゅー」
そして愛手は自分の席であろう机の前にある椅子に座る。コーヒーを愛手にあげたのは校舎から来た癒佐という女性教師だ。
「薬谷堂はどーした」
「薬谷堂先生なら残りの仕事があることで校舎に戻りましたよ?」
「チッ、アイツに新しく届いた薬品の書類渡さねぇといけねェのによ、まったく」
愛手は片手にコーヒーを持ちながら机の上に沢山乗せられている書類を見て舌打ちをした。
「愛手さん、言葉遣いが良く無いですよ。仮にも教師なのですから言葉遣いをちゃんとして貰わないと」
「・・・・この書類の薬品には消毒薬と消毒液、包帯に、あと麻酔剤も無かったハズだが・・・・・おォい! 母瀬井、そっちのディスクにデータあるか?」
「あ、え〜と、あっ、ありましたよー♪」
「聞いてますか! 愛手さん?」
癒佐はコーヒーを飲みながら輸入物の確認をしている愛手に叱る、だが愛手はコーヒーを飲み干し、癒佐と向き合う。
「俺は教師なった憶えが無ぇ」
「なっ!」
愛手の発言にまた何か言おうとする癒佐に、愛手は真剣な目で見た。
「だかな、たがよォ。俺は怪我をした奴なら片っ端から『愛の手を差し伸べる』ってーのが主義だ。“治す”なら俺は引かねェし逃げねェ。だから俺は教師になったつもりは無ぇが、校医、つまりこの学園の医師とだという自覚はある。だから別に言葉なんざ相手に伝わりゃそれだけで充分なんだよ」
つまりはこの愛手という男はこの黒須学園の教師になったつもりは無いが、黒須学園の校医になったのは自覚しているということらしい。
癒佐は愛手な目から伝わる何かを感じ、その場でため息を吐き。
「わかりました、ですが極力言葉遣いには気をつけてお願いしますよ?」
うぉ〜い、と愛手は片手をヒラヒラさせてパソコンと再び睨み合う。
癒佐も空いている席に座り、使った薬品や器具、医療機械などの報告書を書き始める。
するとそこにプルプルーと連絡用の電話が鳴った。
「どこから繋がってる、母瀬井、教えろ」
「え〜とですね、あっ、生徒会室からですねー」
(生徒会室・・・・・斑備の奴か)
愛手は連絡用の電話をパソコンの電話回線に繋げ、受話する。
「直接来たらどうだ」
『・・・・・いや、それはちょっと困るんですよね』
回線の向こうから少し困ったような声が返ってきた。
「斑備白虚か」
愛手は予想通りの相手で少し溜め息を吐いた。
『レイくんや他の皆は・・・・・・・・・大丈夫ですか』
向こうもかなり沈んでいるような声だ。
だが愛手は知っている、斑備がどんな人間なのか。
「あぁ、全然ダメだわ、アイツら動けない状態だから当分は学校休ませないといけねェな、全員」
愛手はわざとらしく、いや、零たちの現状に嘘をついた、そうしなければ。
『・・・そうですか、なら愛手先生、アナタの異形で治してやって下さいよ♪ 医療機器や薬品なども使わないから良いでしよ♪』
そう、この斑備は愛手の異形を知っていた。
『愛手先生の能力『生命の樹術者』だったらすぐですよ』
斑備の発した言葉に黙る愛手。
「おい、斑備ィ。てめェ」
『生命の樹術者、手に触れた植物や、大気中にある樹木の粉を掴めば急速的に成長させ、薬草や秘草などを自在に造れる能力。それをやれば一気に』
「斑備ッ!」
愛手はバゴンッ! と机を思いきり叩く。その拍子に母瀬井と癒佐は驚く。
「てめェはそんなにアイツらを戦わせてェのか! あァ!?」
愛手は電話の相手である斑備に吼えるように叫ぶ。
「理事長の何の計画か知らねぇがよ! 子供共らが通うこの学舎で何で刀傷を負える子供が出てくんだ! おかしいだろゥがよ!」
『・・・・・・・・・』
「斑備、てめェもその一人だ」
愛手はスゥッハァッ、と吸って吐き、そして静かに言う。
「子供は子供らしく、学舎で勉強してりゃあ良いんだよ、そしててめェも──────────────」
『分かりました! 分かりましたから、その先は、言わないで下さい・・・・・・・・・』
斑備はその後、回線を切った。
「・・・・・くそガキが」
愛手はそう言って、管理室から出て行った。
「・・・・・」
「・・・・・ご主人さま」
零が静かな吐息をしながら寝ている傍にとても心配そうに見ている黒髪長髪の女の子が立って居た。
「すみません、すみません、ご主人さま。・・・・・私は貴方様の妖刀であるのに、怪我をさせてしまいました・・・・」
「・・・・・」
零は寝ているが少女は言い続ける。
「私の、私のせいで・・・・・」
少女は零に近寄り、零の手を握り締める。
と、そこに、
「ここに居やがったか」
ガラガラーと扉を開いたのは愛手だった。
「愛手さん」
「愛手だ、あいた」
愛手はずかずかと部屋に入る。夜というのもあるが部屋には明かりをつけず、真っ暗の中に零の手を握っている少女が居た。
「黒神の傷はもう大したこと無ェぞ」
愛手は部屋にある椅子に座る。
「ありがとうございました、お陰でご主人さまは大事にいたりませんでした」
少女は深く頭を下げて愛手にお礼を言った。
「お前ぇ・・・・・名前は確かキリって言ったか?」
「ハイ! ご主人さまから頂いた名前です!」
凄く嬉しそうな顔で愛手に言う。
「・・・・・そうか、そんでお前ェは黒神の・・・・・・・・・妖刀なのか」
キリは話して良いのか躊躇ったが、主を治してもらったので頷いて見せた。
「まぁ、聞かなくても、『ご主人さま』っていう時点で気づいてるがな」
愛手は机の上に置いてあったディスクを持つと再度立ち上がった。
「キリ、大事なご主人さまを休ませておけよ、逃げ出さないよーにな」
愛手はキリにそういうと、キリはブンブンと正直に頭を下げて頷いて見せた。
愛手は部屋から出て行く。
愛手は暗い廊下を歩いていると、
「差伸っ! 黒神の容態はどうだ!?」
夜中だと言うのに心配でやって来た零たちの担任、出雲由が居た。
「チッ、愛手と呼べっつってんのによォ、てめェはどうして・・・・・」
「黒神は無事なのか!」
出雲は返答を早くしてこない愛手の両肩に手を置いて言ってきた。
愛手は首をガクンガクンさせながら零は大丈夫だと伝える。
出雲は安心したように廊下にあった椅子に座る。
「繧に送ってもらったのかァ?」
「あぁ、夜中なのに嫌な顔せずに乗せて貰ったよ、出来た弟だ」
出雲はそう言いながらも顔に手を当てて項垂れる。
そうとう心配したらしい。
「・・・・・どんだけ心配したんだよ」
愛手もそう思ったらしく、壁に背を預けながらタバコを出す。
「吸うか?」
愛手が出雲にタバコを差し出す。
出雲は迷いなくタバコに手を伸ばそうとしたが、途中で手を止めた。
「・・・・・ここは病棟だぞ、しかも差伸、お前が吸っちゃイカンだろ」
出雲は危うく共犯になりかけて止めた。愛手も舌打ちをしながらタバコを懐に戻した。
「なぁ、差伸」
「愛手って呼べっつってんだろゥが」
出雲が真剣な面持ちで愛手に聞く。
愛手も何が質問されるのか分かっているのか、真剣な顔にする。
「この学園には、何か秘密があるのか?」
「・・・・・・・・・」
妖刀育生計画を知っている教員は極僅かであり、関係者だけ聞かされているのだ。
出雲は知らされていない教員の一人だ。
生徒に危ない真似をさせない、という考え持つ者には尚教える訳にはいかなかった。
「さぁな、俺にも分かんねぇよ、ただ治すだけだからな」
愛手はそれだけ言って出雲の前まで来る。
そして手に持っていたディスクを出雲に渡す。
「それを五条に渡しといてくれや」
「銀雲にか?」
ああ、と愛手は言って戻って行った。
「・・・・・一体、何が」
次回予告〜凪瀬水波編〜
水波
「次回予告! 異常なまでな回復力を見せた零兄に驚きを見せる愛手先生。
次回は零兄がまた休むお話?
私たち凪瀬姉妹も登場するよ♪
次回
死神の奇想曲
第20話
「零と黒斬と義姉妹と」
ほら、聞こえる。
死神の
奇想曲が