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死神の奇想曲(カプリス)  作者: 奇想曲
18/24

第18話「戦いの序曲(はじまり)」

ガキンッ!



ジャキンッ!




「ハッ!」


「くっ!」


廃棄された工場跡地、そこには誘拐された義妹と一年生を助けに来た、黒須学園生徒会副会長である黒神零(くろがみれい)が戦っていた。

戦っている相手は一年生たちを誘拐した犯人である、銀髪で結構なイケメンの豊臣(とよおみ)と呼ばれる青年。

そして、今押されているのは戦い馴れている豊臣だった。


「こんなんでギブか? まだだぜ!」


豊臣は緑色に輝く刀身を零の妖刀『黒斬(クロキリ)』を打ち払う、ガキンッと刀同士が打ち合う特有の金属音を鳴らして零を押す。


「ざけんなっ!」


零も押されているだけでは気に食わないと黒刀を豊臣の顔に向けて斬りかかるが、




ガキンッ!




豊臣は可憐な刀捌きで()なす。そして、瞬時に緑色の刀身が零向けて振り下ろされる。


「くそッ!」


零は妖刀・黒斬の能力で布鎧(ふがい)と化した「黒刄衣(くろはごろも)」の腕で豊臣の攻撃を防ぐ。


零は豊臣から一旦下がり息を整える。


「ハァ、ハァ」


「オイオイ、死神さんがそんな息が上がって良いのかよ。つまんねえな」


豊臣は緑色の刀身を零に向ける。


「・・・・妖刀師(ブレドマスター)は言っとくがお前が産まれる前から存在していた。そして俺はお前より早めに妖刀師になって、経験を積んだ。お前との大差はやっぱり経験かな〜。そして俺の妖刀『風鈴音(カゼノスズノネ)』も最高に良かった妖刀だった訳だ」


『・・・・・・・・・』


豊臣は己の妖刀『風鈴音』を零に見せるかのように上に上げる。


「風を発生させる刀、それが『風鈴音』の能力」


豊臣は妖刀を観ながら喋る、まるで妖刀と話しているかのように。

そして零には目を向けていない、まるで余裕を思わせるような感じで話す。


「そう、そして、風鈴音(カゼノスズノネ)はこんな風も・・・・・・・・・使える!」


豊臣は一気に零に向けて風鈴音を振るう、すると、まるで見えない斬撃が飛んで来た。


「がはッ!」


零は構えずにいた為に斬撃(それ)を受ける。

だが、


「ちッ、本当に便利だな。その(ころも)は」


胸に斬撃を食らった零は胸を押さえて立ち上がるが、全然斬られていなかった、だが零の顔には苦痛の顔が見える。


「な〜る、外傷はねえが、斬られて痛覚はあるのか? ん、いや」


豊臣は胸を押さえている零をよく見ていると、


「んだよ、ちゃんと斬られてんじゃねーか。黒い衣だったから血が良く見えなかったぜ」


零は小さな舌打ちをする、気付かれた事に対しての舌打ちか、それとも隠し切れない程に弱く見えた自分に対して舌打ちをしたのか。零にしか分からない。


「あぁ、クソ、お前ほんとにウゼーな」


「自覚はしてるつもりだけどな、それで炎条にどれだけ罵られたか・・・・・、う〜〜、俺は本当にウザいのか。どうなんだ、リン」


リンとは豊臣の妖刀である『風鈴音』のことだ。

おそらく風“鈴”音の部分を抜き取って呼んでいるのだろう。

豊臣は気軽にリンに聞くと、


『ウザいですね、真剣にやる前は本当にウザかったです』


「・・・・・そこまでハッキリと言われるとすがすがしいなぁ! アハハハ」


「キリ、何か他に能力とかねぇのか」


零は呑気に妖刀と話している豊臣を横に自分の妖刀である『黒斬』に話しかける。


『・・・・出来るのは出来ますが、この能力を開花させるのもご主人様によります』


「俺が・・・・」


『ハイ、ご主人様も何気なく気付いておられるのではありませんか? 私を握っているのです、頭に直接流れていくハズです』


「頭に・・・・」


確かに、と零は思った。

戦っている最中だが頭に何かしら感じるものがあった、零はこれは何処かぶつけてこうなったんだろうと考えていたのだが、ずっと頭に何かが引っかかる感じがする。

そして今もそうだった。

掻き立てる豊臣からの、妖刀から発せられる妖気の重圧力、『妖圧(ようあつ)』に必死に受けながらも零は妖刀を豊臣に向ける。




何かが分かったような気がした。





「やってみるか・・・・・」


















場所が変わり、帝黒町の夜小貫(よこぬき)通り。

夜小貫通りとは帝黒町の数ある道通りの一つである。


そこに三人の女子生徒と、その三人を追う二人の男子生徒が走っていた。


「ハァ、ハァ。は、早く、た、助けに・・・・行かないと!」


そして一番先頭で一生懸命に走っている綺麗なピンク色に背中まで伸びている長い髪を揺らす。私立黒須学園第一学年で最近になって分かった妖刀師(ブレイドマスター)である、紺藤勇美(こんどういさみ)が走っていたのだ。


そして勿論、その後に付いて行っているのが、紺藤を慕う、土方歳絵(ひじかたとしえ)沖多総沙(おきたそうしゃ)だった。


カシャカシャと何故か刀を帯刀している土方と冲多、そしてその先頭を走っている三人娘を追っているのは同じ一学年で、やむ無く生徒会に入会した斑備白宇(まだらびしろう)鋪崎銃耶(しきざきつつや)だった。


「ハァ、ハァ。まさか斑備会長から直接、電話をよこすなんて」


「黒神副会長・・・・・もとい黒神副長たちが『誘拐犯に襲われているから助けに行っちゃってよ♪』という電話が紺藤さんにきたんですか?」


「ハァ、ハァ。そうよ、って何でそんな涼しそうな顔で走っていられるのかしら歳ちゃん!?」


「鍛えてますから、シュッ」


「いや、そんな日曜の朝にやってた仮面ライダーの物真似されとも〜、ハァ、ハァ」


もうダメェ〜、と紺藤はゆっくりとたち止まり、肩を揺らしながら息を整える。


「でもでも〜、何でそんな危険な場所に紺藤さんや私たちが行かないとイケないんですかぁ?」


冲多は可愛いらしく小首を傾げながら言う。

後ろから追って来た白宇たちも追いつく。


「ゼーハーゼーハー、そうだ! 何で、ハァハァ・・・・・俺が行かないといけない! ハァハァ・・・・・危ねぇだろ・・・うが・・・」


銃耶は地べたに手を付けてもう駄目だと言いそうに、地面に寝転がる。

道路なので太陽の日差しの暑さに負けてまた立ち上がる銃耶。

白宇は妹が誘拐されたことで頭には救い行くことしか入っていなかった。


「もう! 何言っているの! 黒神先輩や他の先輩方に迷惑を掛けてしまったというのに、こういう時にこそ、その借りを返す時なのよ!」


紺藤は土方と冲多にそう言うと、ムンッと胸を張ってまた伝える。

銃耶は紺藤の結構な大きさの豊満な胸を凝視しているが後で冲多に殺されるだろうが別の話。


「士道の徳目の一つである『義』は善悪を分別判断し善に従い、悪を退ける! よ、忘れたの?」


紺藤は信頼する二人の親友に聞くと、土方はブンブンと何回も頷いて「その通りです!」と紺藤の考えに賛同する。

冲多も力強い瞳で言った紺藤に軽い笑みを浮かばせて「そうですね♪」と快く賛同。


そして親友である妹が誘拐され、少なくとも兄である白宇の次に心配する銃耶も黙って頷く。

白宇は間髪入れないですぐに頷いていた。


「じゃ、さっそくこれ使っちゃおっか」


紺藤は皆の顔を見て、スカートのポケットから何やら赤いカードを出した。

炎のように赤く、爪で裂かれたような爪跡のマーク。


「・・・?・・・紺藤さぁん、それなんですか?」


「ふ〜ん、私にもよく分かんないんだけど、急ぐならこれ使ってって斑備会長が灯璃(あかり)さん経由で渡されたの・・・」


紺藤は赤いカードを冲多に渡して見せた。

冲多はカードを持ってよく見てみると大きな字で何か書いてあった。


「え〜と何々、『お急ぎの場合はこの七汽猫車(ナナキびょうしゃ)タクシーにお任せ、無愛想だけどイケメンと乗れます☆』だって」


冲多はピラピラ〜とカードを揺らしながら皆に言うと、紺藤は俊敏にカードを冲多から奪い、凝視する。


「こ、これは使うしか無いわよね、うん。使うわよ!」


紺藤は真剣な眼差しで赤いカードに書いてある電話番号を携帯電話で既に掛けていた。


「こ、紺藤さん、まさかイケメン目当てなんじゃ・・・」


紺藤はズバッと携帯電話を耳に当てながら土方に振り向く。


「ち、違うわよ、も〜歳ちゃんったら酷いわね。先輩たちが危ないっていうのにイケメンに食いつくなんで酷いこと私はしな────」



プルルー


プルルー



ガチャ




『はいは〜い、こちら《七汽猫車タクシー》で〜す』


「あの、無愛想なイケメンと乗れるタクシーってこれであってるんですよね!」


「「「「えっ」」」」


紺藤以外の者は全員、紺藤を見た。

それに気付いた紺藤は慌てて訂正してすぐに来てもらうように言う。


「場所は帝黒町夜小貫通りです、今からこれますか?」


『あ〜、ハイハイ。夜小貫ね。あそこだったらチヨ婆さんを送りに行った奴が居たような・・・・・、ちょっと待って下さいねぇ〜』


電話受付の人はどうやら少女らしく、声からしてかなり若い。

その少女は電話越しだが大声を上げて確かめる。


決人(ケット)〜、夜小貫通りに確かチヨ婆送りにタクシー行ったよねー』


『如月は〜ん、僕の事はケット社長と()うてるやないの〜、まぁええわ。うん、行ってるで〜』


『ほいほ〜い、あ、お待たせしました〜、こちらからタクシーを向かわせるので動かないで下さいねぇ』



ガチャと言いたい事だけ言った受付の少女は電話を一方的に切った。


「・・・何かここに来るみた〜い♪」


どことなくニコニコと嬉しそうにしながら紺藤は皆に言う。


「「「「・・・・・」」」」


そして皆は静かに、そしてゆっくりと紺藤を見ていた。









あれから数分後にそれが来た。


漆黒という色が全体に染めあげている大型のバイク。それに股がって来た金髪の青年と一緒に。


「・・・・・こちら七汽猫車タクシー」


そして金髪の青年はそう言って終わった。


「終わりかよ! まさかアンタが七汽猫車タクシーの運転手・・・・・?」


銃耶はそんな金髪の青年に言い掛けるが、無表情のままで頷く。


「ていうか・・・・・一つツッコミを入れたいのだが、良いか」


白宇は黒いバイクに乗っている金髪の青年に問いかける。


「そ、その後ろのは何だ?」


白宇は金髪の青年の後ろにある“物”に指を指した。


そこにあったのは『駕籠(かご)』だった。

平安時代や江戸時代にあった馬や牛に引かせ、それに人などが乗る場所を駕籠と呼ぶ。

要するにかなり和風というより、昔のタクシー版といった感じだ。



「うわーお、まさかそれに乗れるんですかぁ!」


冲多は嬉しそうに駕籠に近づいてペタペタと触る。

人が数人乗れるくらいの駕籠だった。

その駕籠は朱色に染まり、真っ赤で大きな車輪が付いていた。


「・・・そうだ、早く乗れ。行き先を言えば連れて行く」


金髪の青年はそう言ってヘルメットに付いているゴーグルを付けた。


「さぁ、乗るわよ皆!」


めちゃめちゃ乗る気満々の近藤は駕籠の網を開けて入ろうとしていた。


「・・・タクシーと言えばタクシーと言える、が」


「歳絵ちゃん、俺も思ったよ」


「名で呼ぶな、ポニ男」


「ポニ男って何!? 俺がポニーテールしてるからか!?」


近藤と冲多は既に駕籠の中に入り、どんな感じなのか満喫していた。

白宇も入ろうと足を上げて入ろうとしている。


「ちょっと待て白宇! 何かが、何かがおかしいとは思わないのか!」


「・・・何がだ」


白宇は片足を駕籠の中に入れたまま銃耶と向き合った。

真剣な顔で。


「それに乗るはいささか恥ずかしいと言うか、なんかもう人間的にと言うか・・・」


「何を言う!」


白宇はクワッ! と目を見開きながら銃耶に言った。


「早く行かないと白亜が危ないだろうが!」


まったく正論を言われて銃耶も残念そうな顔で白宇と駕籠の中へと入って行く。

土方も紺藤が乗るならと言って、駕籠の中に入った。


中は以外と広くなっており、座る場所もきちんとなっていた、駕籠の後部から入って行った紺藤一行。


「それでは行って下さい、運転手さん!」

紺藤は黒いバイクに乗っている金髪の青年に出発する合図の言葉を掛ける。


「場所は?」


そして金髪の青年は真っ当な質問を紺藤にしてきた。


「・・・・・・・・・」


紺藤は黙る。

そういば何処に誘拐されたんだろうか、紺藤は首を傾げて考え込んでいると土方が携帯電話を紺藤に渡してきた。


「斑備会長・・・・もとい斑備局長から電話です」


紺藤は土方から携帯電話を取り、それを耳に当てる。


『いんやごめんね、ごめんね、行き先言ってなかったね』


「丁度困ってた所でした、アハハハー・・・・」


紺藤は自分がどれだけ焦っていたのかそこで分かった、行き先も知らないで飛び出すなんて・・・・。


『え〜とね、行き先は、帝黒町の町外れにある廃棄された工場だね、しかもちょっとレイくん危ないかな〜』


なんとも明るい声で渡ってくる斑備に紺藤は軽く怒りを覚える、後輩が危ない目に合っているのにどうしてこんな明るい声で言ってくるのか。


『とにかく頼むよ、早くしないと・・・・《槙紅の斬手(ざんしゅ)》が、来る』


斑備はそれだけ言うと電話を切った。


「・・・・うん? しんくのざんしゅ?」


紺藤は斑備の言った単語に疑問に思いながらも運転手である金髪の青年に行き先を伝え、さっそく向かった。


















携帯電話を折りたたみ、生徒会室にある執務机に置いた。


「さすがエイちゃんの《月詠(つくよみ)》、便利だね♪」


斑備は横に立っている紫色長髪の少女に言う。

私立黒須学園生徒会副会長を務めている大月詠(おおつきえい)はただ無言で居た。

斑備はニコニコとこれから起こる戦いに喜びの表情を表していた。


「とても楽しい事が、起こるよ♪・・・・」


















風が吹き荒れている廃棄された工場に、銀髪の青年と対峙している“黒い何か”が居た。

その“黒い何か”はかなり異形な者となって君臨している。


「おま、何だよ・・・・そりゃ・・・・」


銀髪の青年、豊臣はその“黒い何か”を、見上げながら呟いた。


その“黒い何か”は黒い衣の下口から無数の黒い刃がコンクリートでできた地面に突き刺し、上へ上へと上がっている。


「・・・・これが黒斬の能力の一つか」


“黒い何か”から声が発してきた、と言っても突き刺している黒い刃を足場にして上から黒いフードを被った零が言ったのだが。


「・・・・チィ! また問題が起きちまったぜ、予想外の能力(チカラ)だが速攻(そっこ)叩けば問題無ぇだろ!」


豊臣は己の妖刀である『風鈴音』をぎっしりと握り斬りかかる。


風斬(かざき)りぃ!」


風の刃を纏った『風鈴音』は零の黒衣から伸びている黒い刃に斬りかかる。

風を何重もの厚く圧縮して、高密度の斬撃を生んだのその一撃は、



ガキンッ!




と鈍い音と一緒に弾かれた。




「なに、鉄をも切り裂く技だぞ!?」


豊臣は黒い刃を睨み付けながら言った。


「オラオラぁぁ! 今度はこっちが先攻だ!」


零は蹴りのように足を払うと、地面に突き刺さっていた黒い刃がギシギシと音を立て攻めこんでいく。


「舐めるな!」


豊臣も『風鈴音』を一振りすると、突風が吹き荒れる。


「舐めちゃいないさ、これが俺の能力(チカラ)だ」


零は片手に握っていた『黒斬』を豊臣目掛けて振り下げる。


「くッ・・・・!」


豊臣は風鈴音で黒斬を止めた。


「ハハハ、今の一手で終わりか? なら俺の勝ちだ!」


すると零と豊臣の円形に囲むように風が一気に上に上がる。


「『風砕点(ふさいてん)』、風圧でお前を圧死させる」


お前も一緒だぞ、と零は言おうとしたがすぐに口を閉じた。

風鈴音を持っている豊臣に風圧が掛からないと考えたからだ。


「終わりだ! 黒神零!」


徐々に頭上から掛かる風の圧力に零は少し焦りを持ったが、その顔には余裕の笑みが浮かんでいた。


「終わりじゃねえよ」


「なに?」


豊臣は零の言葉に些か苛立ちを持って聞く。


「気でも動転したか、もう王手なんだよ、死神」


ガチガチと刀と刀が掠れる音に豊臣は零に歓喜の表情を浮かばせる。


「二手だ」


「はぁ・・・────」


豊臣が言い終える前に豊臣は後方に一気に下がった。


ぴしゃっ! と地面には鮮血が飛んでいた。


「はぁはぁ・・・刀が、二振りだと・・・・・!」


豊臣は頬に一直線の斬り傷があった。

切口から血がだらだらと流れでていく。


「まぁな、『黒刀剣(クロタチノツルギ)』っていうんだよ、これ」


零は黒斬を握っていないもう片方の手にあるものを見せる。


柄や鍔も無く、ただ黒い刃だけがある黒刀。



「な、んだよそれは・・・・」


「言ったろ、黒刀剣(クロタチノツルギ)だって」


零は二つの刀を交差させて豊臣に切っ先を向ける。


「・・・・そんな刀一本増えた所でお前は勝てねえってうのは変わりはしね────」


豊臣は手を払って零に言いかけようとした瞬間、地面から黒い手に足首を掴まれた。


「なっ!」


「あっ・・・・確かそこにさっきお前が切り崩した鉄柱とかに埋もれてる奴が居たぜ」


しまった! 豊臣がそう思った瞬間には重い一撃を食らっていた。


「がっはぁ!」


ズバァンッ! と壁のトコまでふっとんだ豊臣は足を崩して膝をつく。


「ガハハハ! 気持悪い!」


体を黒くさせていた高校生、鉛銅黒護(えんどうこくご)は頭を抱えていた。



「・・・凄ぇ、腕が鉄になってるよ」


零は黒護の腕を見て驚いていた、片手から出ていた黒刀剣をしまう。

衣も一部みたいで黒刀は黒衣に戻っていった、無論、地面に無数に突き刺していた黒い刃も戻っていく。

そして元の黒いフードに身に包む零が黒斬の切っ先を豊臣に向ける。



「形勢逆転だな」


















「帝黒町の外れにある廃棄された工場はここしかない」


「わー! ありがとうございました♪」


豊臣と零の勝負が終わった時、紺藤たちはやっと廃棄された工場の前と着いていた。


「学生が何でこんな所に行きたかっていたのか良く分からないが、理由は聞かん。それが仕事だ」


金髪の青年は無表情のままそう言う。


「あ゛っ、そういえばタクシー代が・・・」


五人はいきなり斑備に言われて来たので見事全員財布を持ってきていなかったのだ。


「・・・お前たちの制服を見て思ったのだが、もしかすると黒須学園の生徒か」


金髪の青年は紺藤たちが着ている黒須学園指定の制服を見て言う。


「はい、そうですけど・・・はっ! まさか学生はタクシーに乗っちゃ駄目という決まりなんですかぁ〜」


紺藤はウルウルと瞳を潤ませながら青年に言うと、


「・・・・いや、あそこには姉が居るからな、無料(ただ)で良い」


なんとも気前の良い事を、と紺藤と銃耶は青年に感謝する。


「あ、あのぅ〜、この子はどうしたら良いのでしょうか?」


そして土方はゆっくり駕籠の中から出て来ると、そこには腕の中に収まる位小さな猫が居た。


「思ったんだけどよ、それホントに猫かよ! なんかライオンというかトラというか、取り敢えず猫科の動物なのは分かるんだけどよ〜」


銃耶は土方の腕の中で丸まっている猫らしき動物を指差して言う。

この猫は本当に日本などにいる猫じゃないのは一目で分かる。猫の全身の毛が赤色や朱色が混ざった感じになっており、おまけに尻尾が細長い。そして何故か片目に傷を負っている。


「あぁ、ソイツは七汽(ナナキ)って言うんだ」


「ふぇ? じゃこの子猫ちゃんってこの七汽猫車タクシーの・・・・・」


「あぁ、元となった猫だ」


「きゃぁぁぁぁ♪ 可愛いですよねぇ!」


紺藤と冲多は土方の中にいる七汽を撫で愛でる。


「七汽は駕籠の中にでも入れといてくれ」


「わ、わかりました・・・」


土方は困っていた割には少し残念そうな顔で駕籠の中に七汽を優しく入れて上げた。


「それでは、な」


金髪の青年は黒い大型のバイクを上手く旋回させて帰ろうとするが、紺藤に呼び止められる。


「あの! 良ければお名前を、今度この事でお礼に」


紺藤は頭を下げて青年に言うと、訝しげな顔になっている青年が居た。


「・・・・子供がそこまで考えるな、だが、確かに名前を教えないのは教育に悪いか・・・・」


青年は懐から何か出して紺藤に預けた。


「ではな」


青年はそれだけ言うと、バイクのアクセルを踏み、ブンブン! と高らかにバイクのエンジン音を鳴らしながら去って行った。


「・・・・確かに無愛想だったな、あの人」


「銃耶、お前も見習うのだな」


「え、なに白宇、俺が無愛想になれってか?」


白宇と銃耶は金髪の青年について言い合っていると、紺藤と土方、沖田は青年から渡された物を見ていた。


「え〜と、『七汽猫車タクシー第一車運転士、出雲(いずも)(クラウド)』さん・・・・だって」


「へぇー、繧って漢字でクラウドって読めるんですねぇ」


「ツッコミ所がソコか冲多! あっ、いや確かにそれもツッコミを入れんといけないが・・・・肝心な所は苗字だ!」


「苗字ですかぁ? あっ、確かに出雲神社ってありますよねぇ〜、何処の県にあるんでしたっけ、アレ? 下根県?」


「“島”根県だ! お前なんて最悪な間違えをするんだ!」


「あぁー♪ 私も島根県で有名な『出雲そば』食べてみたいのよー♪」


「紺藤さん、今はそんな話をしているんじゃ・・・・」


「あぁ良いですね紺藤さん♪ 僕は『ぼてぼて茶』っていうお茶が飲みたいですぅ〜」


「あぁ〜、根本的に話が捻曲がっていく〜〜」


二人はどんどんと島根県にある料理やらの話になっていった。

土方は紺藤から青年から貰った物を見る。赤色のカードだった。


(出雲って、まさか黒須学園に居る姉って・・・・!!)


土方は一人、驚いていた。









大きな駕籠を黒いバイクで引いている金髪の青年、出雲繧(いずもクラウド)は本社に連絡をする。


プルルー



プルルー



ガチャ



『はいは〜い、もしもし?』


遊吹(ユウフイ)か」


『ちょっとさぁ、繧! 遊吹じゃ呼び辛いから簡単にユフィで良いって言ってんじゃーん』


「・・・無事に送り届けたぞ」


『むぃー、シカトかよ〜。ハイハイ、分かったよ。それじゃナナキの餌が無くなりそうだから帰りに買って来てねー』


バイバーイ、と言って遊吹ことユフィは電話を切る。


「・・・・・」


青年は静かにダイユーエイトに向かったのであった。











「ハァハァ、この黒刀剣(クロタチノツルギ)を使うと、以外に疲れんだな」


零は豊臣と人型に戻ったリンを工場にあった鎖で縛っていた。


「・・・・・ここ何処だ」


「よー、芦田。生きてっか?」


ヒョコッといきなり目を覚ました芦田は疲れきっている零と、まだ気絶している水波と火波、そして一年生を見渡した。


「・・・・尾井群と雹華は?」


「雹華が一番重傷だったからな、尾井群と病院に行った。まぁ重傷と言っても軽い捻挫みたいな感じだ、あともう一人居たんだけど、どっか走って行きやがったよ」


「そうか」


芦田は同級生が生きているのに安心した。

そして誘拐犯である豊臣を見る。


「強盗マスクの内側はイケメンってか、チクショー! 何処か不満があんのかコノヤロー!」


芦田は豊臣に掴み掛かろうとしたがリンの一睨みに一瞬でクールダウンしていた。


「後は警察に任せて帰る・・・・・といきたいが、一年生全員が起きるまで待ってねーといけないんだけどな」


零は豊臣が言った、炎条の火の煙を吸った水波を心配していた。


「・・・・・悪い事は言わねぇ、早く逃げな」


「・・・あん?」


鉄柱に縛られている豊臣は零にそう言った。


「はんっ! この後に及んでそれかよ、完全に逃げる気満々じゃねーか!」


芦田は豊臣たちに言うとリンは吠えるように叫ぶ。


「別に居ても良いんですがね! こっちとしては大助かりですよ!」

リンの言葉に少しだけ不安になる零、別にリンの言った言葉だけで不安になったのではない。




莫大な妖圧が近付いているのに気付いたのだ。



「てめぇ! 誰か呼んだのか!?」


零は豊臣の胸ぐらを掴んでそう言う。


「呼んじゃ居ないさ、ただ、そうだな、ただ“妖気を詠む事が出来る奴”が居るだけさ」


廃棄工場に何かが近付いていたのは確実だった。


(クソッ! 今ここで襲われたら何も抵抗出来ねーぞ!)


それに気絶している義妹や一年生を置いては行けなかった。


「なんだよ・・・・・何かここに近付いて来んのかよ」


芦田はいきなり豊臣の胸ぐらを掴んで叫ぶ零を見て不安になっていた。


「クソッ、待ってろ。キリ!」


「ハイ! 感じています」


人型に戻っていたキリは壁の下で意識朦朧としていた炎条騎烈(えんじょうきれつ)を連れて戻って来た。


「すぐに妖刀に」


「はい・・・・・!!・・・・・危ないご主人様!」


キリに手を指し伸ばしていた零を勢い良くキリは飛ばす。



そして、






ジャキン─────






ボオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!




何かに斬られた音がすると、零の居た場所の横壁から真紅の炎が焼き抜かれていた。


「なッ!?」


ちょうど零と芦田たちから離れていた為に芦田たちは危害を受けていなかった。だが、その変わりにそこに鉄柱に縛られていた豊臣たちは炎に巻き込まれていた。


「・・・・ここね」


真紅の炎が止まったと思えば、炎が開けた穴から中学生くらいの身長の女の子が入って来た。


(紅い・・・髪)


入ってきた女の子は地に着くのではないかと言う程に長い髪に、羽織のように広がっている黒いマントに、体のラインが良く分かる黒い服を着ていた。そして一番に目立つ炎のような真紅色が綺麗な少女が堂々と立っていた。


風世(かぜ)、鎖は溶かしといた。早く行きなさい」


紅髪の少女はそう言うと、炎に巻き込まれたであろう豊臣とリンは炎で開けた穴から脱出していた。


「さて、騎烈を返してもらうわ」


紅髪の少女はバサッと黒マントを広げさせると、


「ご主人様に近寄るな!」


キリはボクシングポーズをして紅髪の少女と対峙する。


少女はキリを少し見た後に何もなかったかのよいに炎条の近くまで行く。


(コイツ・・・・・・強い、さっきの奴らなんかよりずっと)


零は怒りを露にして今すぐ殴りに行きそうになっているキリを肩に手を置いて止める。


「騎烈、起きて、騎烈」


紅髪の少女はペチペチと炎条の頬を叩いて起こそうとするが、起きない。


「騎烈・・・」


むにぃ〜と頬を伸ばす。

だが、起きない。


「・・・・起きろ」


紅髪の少女は炎条の瞼を無理矢理開ける、白目向いている。


「まったく」


紅髪の少女は、よいしょ、と炎条の肩を担ぎ、ズルズルと足を引きずりながら歩いて行く。


「・・・くっ・・・」


「・・・・・・・・・」


キリは紅髪の少女から溢れ出る圧倒的な威圧感に押されながらも睨みつける。


「あぁ、そうえば」


紅髪の少女は零たちと向き合う。


「貴方の妖刀、面白いわね。今度会う時は、闘いましゅ・・・・」


紅髪の少女は舌を噛んだらしく、口を押さえながら顔を赤くしていた。


「・・・こぬぉぉぉ!」


「おわぁあ! 勝手に舌噛んだのに逆ギレされた!」


紅の少女は背中に隠し持っていた刀を少し抜く、すると、




ボオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



ただ少し刃を出しただけで、鞘から溢れんばかりに炎が出てきた。


零もキリを妖刀にして戦闘体勢に入ろうとしたが、ガクッと体をが崩れた。


「ご主人様!?」


キリは体を崩した零を支える為に零と抱きつくような体勢になる。


「ふふふ、風世との戦闘で体にガタがついているようね」


紅髪の少女はゆっくりと零たちに近寄ろうとした時。





「黒神先輩から離れろォォォォォォ」



「なに!」


シャァン! と空を斬る音が紅の少女の居たであろう場所を、斬る。


ズサー! と紅髪の少女は炎条を担ぎながら避けていた。


「大丈夫ですか、黒神先輩」


そして零の傍には黒い髪をポニーテールにしている女の子と、黄色い首の所まで伸びている髪をした女の子が刀を出してまるで零を守るかのような体勢になっていた。


「お、お前らは」


「微力ながら助けに来ました!」


「先輩には少しだけ迷惑掛けたからね〜、私も渋々助けに来てあげたよ〜」


零は周りを見てみると、一緒に行かなかった一年生男子の鋪崎銃耶や斑備白宇も居ることに気付く。


「白亜! 白亜、大丈夫か!」


「んだよ、柱木までやられたのかよ・・・・」


銃耶と白宇は気絶している同級生を安全な場所へと移動させていた。

芦田は零の義妹(いもうと)である水波や火波を連れて行ってくれていた。


そして、一人の少女だけは戦闘体勢に入っているのに気付いた。


「・・・黒須学園の妖刀師か」


「・・・・そうですよ」


とても綺麗なピンク色をしている少女、紺藤勇美。

彼女には似ても似つかない片手にある大きな刀が目立っていた。


その刀は刀と言って良いのか、刀の形では無かったのだ。


柄があるのは分かった、だがそれ以外で分かると言えば、血を吸い続け、紫色と何かが交じった色。そして何より、刃車(はぐるま)があった。


回転出来るようになっているらしく、刃車が少しだけ回転していた。



「教えてあげますよ、これが私の妖刀です」


紺藤は刃車の付いた妖刀を振りかざすと、一瞬で電気が発生した。


バチバチ! と電撃音が鳴ると紅髪の少女の場所に電撃が流れた。


だが、




ボシュゥ! というまるで何かを燃やしたような音が鳴ると、紺藤から放った電撃が消えていた。


「なっ!?」


「止めなさい、今の貴女じゃ私に勝てないわ」


紅髪の少女はいつの間に抜いたのか、刀を鞘に収めていた。


(炎で電気を掻き消したのか!)


零は片膝を突きながらも紺藤と紅髪の少女のやり取りを観ていた。


「・・・・くっ」


紺藤も相手がどれ程の力量を持っているのか不明な為に下手な攻撃は出来なかった。

それを見た紅髪の少女は無言で零や紺藤たちを見渡すと、


「それじゃあね、哀れな小鳥と、自惚れの死神」


そう言った紅髪の少女は炎条と一緒に消えて行った。


「自惚れ・・・・か」



零はそれだけ言うと、キリに寄り掛かるように体が倒れていった。


「ご、ご主人様ぁ!?」


「黒神先輩!」


「・・・・!・・・先輩!」


三人の少女に支えられた零は静かに気を失って行った。


















「・・・任務失敗だな」


「そうです、ね」


「リン、身体は平気か」


「・・・・豊臣さんこそ」


二人は工場の周りにある森林へと逃げていた。

逃げているというより、離脱だ。

大した怪我、とまで言えないが、少なからず怪我をした豊臣はリンと歩いていた。


「大丈夫?、風世(かぜ)


「・・・・お前か」


豊臣たちの前にバサッ! と登場した紅髪の少女に言葉を掛けた。


「待って下さい! 今回の任務は失敗に終わりましたが次は・・・・」


リンは豊臣の前に立ち、豊臣を守るかのようにしていた。


「別に任務失敗したからってワザワザ重要な人材を消すほど『斬裂く白き(リッパー・ザ・チェーンズ)』は裕福じゃないわ」


紅髪の少女は炎条を静かに降ろしながら言う。


「・・・・だったら障害になるかもしれない黒神零を何で殺してこなかったんだ『槙紅の斬手(ざんしゅ)』!」


豊臣は紅髪の少女に叫びながらそう言った。


「・・・・斬崎から言われたのよ」


「なっ!」


「急な作戦変更だったし、風世ほどの妖刀師(ブレイドマスター)を止めるなら私が直接行った方が良いと判断したのよ」


「ど、どうして、急にそんな・・・・」


リンはさっきまでやっていた事が意味が無いのに怒っているのか、紅髪の少女を睨み付けていた。



「自惚れの死神がどう邪魔してくれるのか、楽しみなんだって」


「そんな理由!」


「豊臣風世、及びその者の妖刀である『風鈴音』は直ちに日常に戻れ、これは『斬裂く白き鎖』の下した命令よ」


反発しようとした豊臣を紅髪の少女はそれだけ言った。


そして豊臣も、納得のいかない顔をしていたが、リンと一緒に森林の中へと消えて行った。



次回予告─キリ編─




キリ

「今回は妖刀『黒斬』であるキリが次回予告をさせてもらいま〜す!。





零は己の妖刀『黒斬』にまだ見ぬ能力(チカラ)を開花させ、風の妖刀師を撃退する。



だが脅威は収まっていなかった。


《槙紅の斬手》という紅い髪の少女は圧倒的な力で零や黒須学園の者たちを黙らせる。


だが、零に止めを刺さずに消える《槙紅の斬手》。


それを見届けた零は力が抜いていき、気を失う。


零の傷ついた身体を治す為に学園に住まう天才医師に駆け込むが・・・?






次回

死神の奇想曲(カプリス)



第19話

「死神の休息」




ほら、聴こえます。




死神が唄う



子守歌(ララバイ)


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