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いろんな方法の中から自分に合ったやり方を覚えて活用しよう

裾や袖がほつれた時やファスナーが取れかかった時など、今自分で直せたらって思うことはたくさんあると思います。たくさんの方法の中から自分のやりやすい方法を見つけて、それを活用して簡単に直せれば、お直しもきっと楽しいと思います。

パッチワークは、丁寧にすることで仕上がりが全然違ってくるので、最初は面倒かもしれませんが、徐々に慣れてきます。そして自分で工夫することもできるようになります。

自分で作ったものには愛着が湧くし、プレゼントにしても喜ばれると思います。

 一週間は普通に過ぎていった。

僕が裁縫をすることなんて、もう誰も話題にすることすらなくなった。

これでもう誰かからからかわれることもなくなって僕はほっとした。


洋介は相変わらず朝練を頑張っていて、僕から見てもカッコいい。

朝練で忙しい洋介に代わって、副委員長になった池崎美和子はクラスをきっちり取り仕切っている。

僕と翔太は、目立たず騒がず で静かに高校生活を過ごせている。それが僕らには心地よいのだ。



 「母さん、次の土曜日はなに?」 

 「なあに突然。」

 「いや、別に  次は何かなって思っただけだよ・・・」

 「次は『まつる』と『くける』の予定。」

 「なにそれ?」

 「服の裾や袖口がほつれたときに直すためのやり方。」

 「ふーーん  よくわからないけど、わかった。」

 「なにそれ? ふふふ。」




 今日の放課後、部室の前で鉢合わせた八重から、次は何かと聞かれたときに僕は 知らない と答えた。

八重は少しがっかりした顔をした。

 ただそれだけだ。  それだけのことだが、桜を描きながら八重のがっかりした顔が浮かんできた。



 土曜日の午後一時。

ピンポーン


 ・・・八重だ・・・・・


「あら、八重ちゃんだわ。」

母さんはそう言いながらいそいそと玄関へ向かった。


「こんにちは。」

「いらっしゃい。  さあ、あがって。  けんちゃんもいるから。」

「はい。お邪魔します。」 


 八重は母さんの後についてリビングに入ってきた。

「おう。」

「うん。」


「なにそれ?」

母さんは僕たちの会話?を聞いて笑っていた。


「けんちゃんには言ってなかったけど、八重ちゃんから連絡があって、袖口がほどけたときの直し方を

 教えて欲しいって。  けんちゃん、学校で八重ちゃんに話したんだって?」

「え?  あ・・  」


 僕は照れ隠しにぶっきらぼうに答えた。

まさか八重が気にしていたから母さんに聞いて話した なんて言えない。


「けんちゃん、八重ちゃんも来たし。  始めるわよ。」

「え?  あ、はあ・・・」


 母さんはテーブルの上に裁縫箱を置いて、布が入った箱も並べて置いた。


「まず、基本中の基本 『まつる』ということをやってみよう。」

「まつる?」

「そう。  服の裾や袖口は切りっぱなしになってないでしょ?

 きちんと折りあげられていて、3センチか4センチくらいの裾上げ幅 ヘム幅って言うんだけど、

 それから縫い付けられている。 このやり方を『まつる』って言うの。」

「ふーーん。  まつる  ねえ。」

「そう。」

「僕の服、ミシンで縫ってあるけど?」

「ミシンでもできるけど、ミシンじゃ難しい布もあるし、ほつれが短かったらミシンを出すより

 縫った方が早いのよ。 」

「ふーーん。」

「文句は言わない約束よ。」

「文句じゃないよ。  わかった。やるよ。」


「じゃあ、針に糸を通して玉結びをしてね。」

「「はい。」」


 僕たちは母さんに言われた通り、針に糸を通して玉結びをした。

母さんは二人分の何かを用意していた。


「はい、これね。」

 

 それは最初の時とは違って、縦20センチ横50センチくらいの大きさの布で、横の布目の側を三つ折りにして、その折り目をしつけ糸で留めたものだった。


 ・・・・僕が知らないうちに母さんはこれを準備してくれていたんだ・・・・・


「これを使って『まつって』みましょう。」


「『まつる』ってなにさ?」

「今までみたいに『縫い合わせる』のではなくて、『縫い留める』ってことかな?」

「へえーーー。」

「いろんなやり方があるんだけど、基本中の基本からやっていこうか。」


「はい。」


「じゃあ、布を両手で持って、ヘムの 折り返し部分の裏側から針を入れてそのまま針を抜きましょう。

 玉結びや玉留めは表から見えないようにするのよ。」

「でも母さん、ここって裏だよね?」

「確かに。 服からすれば裏だけど、 それでも玉留めや玉結びは見えなくする方がきれいだからね。」

「ふーーん、そうなんだ。」


「裏から入れて、針を抜いたよ。」

「そうしたらその位置で表布をちょっとだけ針ですくって。」

「どれくらい?」

「そうね。  布目一針か二針くらいかな。」

「そんなにちょっと?」

「そうね。 表から見たときに縫い留めたってことがわかりにくいようにするためね。」

「ちょっと  すくう・・・」


「すくったらそのまま針を折り返し布まで通してしまって。」

「・・・ 通したよ。」 「通しました。」

「それじゃあ、2センチ位先の表布をすくって  を繰り返す。

 まつっている糸が折り返し部分の上から下に、斜めになりながら縫い留める形になると思うんだけど?」


「2センチね・・・」

「絶対2センチってことじゃないのよ。大体そのくらいが目安ってこと。」

「糸が  確かに斜めになってる。」

「よかった。それを何回か繰り返したら、折り返しの裏側に出してから玉留めをする。」

「玉留めを隠すためだね?」

「そうよ。 一つできたじゃない。  思ったより簡単でしょ?」


「まあね。  で、次は?」

「次はね、さっきと同じように玉結びをして、折り返しの裏側から針を出して。」

「え?同じこと?」

「ここまではね。」

「そっか。 わかった。やってみるよ。」


「そこまでできたら、そこから1センチ先に針を入れて表布をちょっとすくって、そのまま針を斜めに出し  て 1センチ先の折り返し部分に針を入れて通すの。

 まつっている糸は折り返しの下から上に、上から下にジグザクになってると思うよ。」

「針を斜めに出して・・そのまま斜め先1センチに通す・・・

 それからまた斜め1センチ先の表布をちょこっとすくう・・・・」


「二人ともできてるじゃない!」

「はい。」 「なんとかね。」


「じゃあ、次ね。」

「まだあるの?」

「まだある。  さて、玉結びを折り返しの裏から出しましょう。」

「ここまではいつも一緒だね。」

「そうよ。」


「そのまま表布をちょっとすくってから、そのまま折り返しの折り目に針を入れて2センチ先に針を出す。」

「え?」

「糸が表から見えないようにするやり方。  『奥まつり』って言うのよ。」

「『奥まつり』 へえーーー 

 まつってる糸を見えなくするのか・・・

 今までの二つには名前はないの?」

「あ、最初にしたのは『立てまつり』で、次が『斜めまつり』よ。」

「縦横の縦 と 斜めってこと?」

「立つ 座るの『立つ』と 『斜め』よ。」

「それ、おかしくない?」

「え?」

「なんか名付けに一貫性がないというか・・・」

「そんなこと考えたことないわ。

 そんなことはどうでもいいのよ。 とにかく、そういう名前ってことでいいの!」

「え?  なんだかなーーーー?」


「大切なことはまつった糸が目立たなくするってことだから、どのやり方でもいいのよ。

 自分がやりやすいやり方でまつればいいのよ。」



「この三つ以外、他にはないの?」

「それは今から。」

「あるのか!!」


 僕の言葉に八重がクスリと笑った。

 


「『返しぐけ』とか『ねじりぐけ』とか言うんだけど。  

 最初は一緒だから、玉結びをして折り返しの裏から針を出して、一回すくって針をそのまま抜いてね。」

「はあ・・・?『返しぐけ』・・・『ぐけ』ってなに? 」


「『まつる』も『くける』も結局やることは同じ。

 なるべく表から見えにくくなるように、目立たないように裾を始末していくってことよ。

 なぜ言い方が2種類あるのか なんて私に聞かない。

 名称をそのまま受け入れる! 

 さあ、始めて。」

「わかったよ。  やり方によって使い分けられているってことだね。 もう聞かない。」



「できたよ。  八重は?」

「私もできた。」


「じゃあ、次は今抜いたところから少し 1ミリ位戻ったところに針を入れて、そのまま2センチ先に針を出

 す。」

「え?  戻る?」

「そう。  布目2本くらいだから、1ミリくらいになると思うんだけど、戻って針を入れるの。

 だから『返しぐけ』ね。  戻るから。

 そしてそれでできた糸の形がねじれているから『ねじりぐけ』とも言うの。  同じ作業よ。」

「戻るのか・・・」



「これ、結構面白いね。この形。  ちょっとおしゃれ。でも面倒。」

「そうね。滅多に使うことはないんだけど、知識として、知っていて損はないからね。」

「うん。  そうだね。 

 で、もう終わりかな?」

「もう少しある。」

「まだあんの?」

「今度はこっちの布ね。」



 母さんが僕らに渡したのは、長さは同じ50センチくらいだけれど、片方が折りたたんであるだけで、

切りっぱなしになっている布だった。

 よく見ると、折り返した布の端の5ミリ位内側にミシンがかけられている。

そしてさっきと同じようにしつけ糸で留められている。


「母さん、これは?」

「なにが?」

「切りっぱなし。」

「でも、ミシンがかかってるでしょ?」

「うん。」

「それを『捨てミシン』って言うのよ。

 縫い合わせてるわけでもなくて、直接役に立ってるとは思えないでしょ? 

 でも、必要なの、 この一本のミシン目がね。」

「ふーーん。」


「今からするのは『千鳥ぐけ』とか『千鳥』とか言われてる縫い方よ。

 今までは利き手の方から縫い進めてたでしょ?

 今回は利き手じゃない方から縫い始めるのよ。

 右利きのけんちゃんは左端の、ミシン目の下から糸を入れてそのまま出して。  全部抜くの。」

「・・・・・ こう  かな?」

「そう。  八重ちゃんもオッケイ。

 じゃあ、今度は表布に針を入れるんだけど、入れるところはね、今針を出したところから利き手側に

 5ミリ位戻ったところで 表布をすくうのよ。」

「え?  針を出したところより5ミリ右側に 戻ってから 表布をちょっとすくう。」

「そう。糸が斜めになっているでしょ?

 そうしたら今度はミシン目の下の際に、また5ミリ戻って布一枚にだけ針を入れるの。

 5ミリ戻ってすくう、また5ミリ戻ってすくう を繰り返すのよ。」


「・・・・ これ、ちょっとカッコいい。」

「そう?  それは良かった。」

「それで止めるときはまた裏に糸を入れて玉留めを隠す?」

「そう。 二人とも十分きれいにできてる。

 今度は『立ち千鳥』よ。」

「ええ?  今度はなに?」

「『立ち千鳥』はね、『千鳥ぐけ』と違って上も下も表布をすくうのよ。」

「上も下もって・・  じゃあ、表から見たら二か所すくった糸が見えるってこと?」

「そうね。  表からは見えないけれどしっかり縫い留めたい時に使うやり方よ。」

「ふーーん。  これはさっきとある意味やり方は一緒だから楽だな。」



「母さん、さっきから思ってたんだけど、どんな布もこのやり方でできるってこと?

 布端も折りたたんでるけど、全部このやり方でいいんだね?」

「・・・・それは   違うなあ・・・」

「え?」

「布の厚みや作るものによって違う。」

「じゃあ、どうするんだ?」

「そこか・・・・・」

「?」


「八重ちゃんもいるし、そこから説明した方がいいね。」

「八重って  僕はどうでもいいのか?」

「そうじゃないけど、八重ちゃんにはいろんな知識が必要になるもんね。」


「ありがとうございます。」


「じゃあ、準備はしてないけど、一緒にやりながらってことで。  どう?」

「それでいいけど?」 「私も大丈夫です。」

「それじゃ。」

そう言うと、母さんは立ち上がってどこかに行ったと思ったら、箱を持って戻ってきた。


「この中にいろんな布が入っているから、これらを使ってやっていこう。」

「好きなの選んだらいいのか?」

「あまり薄くなければね。」


 ・・・・・・・・・


「選んだよ。」 「私も選びました。」


「見本で使ったのは、端を二つ折りにしてアイロンをかけただけの物なんだけど、

 折ったところから2ミリ位内側にミシンをかけて、それからまつる これが端ミシンって言うの。」

 これはあまり布が厚くない場合にやる方法。

 ミシン かけてみる?」

「僕はいいよ。」 「私もいいです。」


「じゃあ今度は厚手の場合ね。厚手の布の時には裾もなるべく薄く、全体を軽く仕上げたいから、

 バイヤステープを使って布をくるんで仕上げていくの。

 本当ならミシンをかけるんだけど、短い場合は手縫いで十分だから、実際やってみましょうか。」

「はあ?  」 「やってみます。」 「そっか・・・」


「ヘム幅はだいたい4センチくらいにするのが基本だから、 裾の出来上がり線から4センチ強で布を

 裁つのね。今回は見本の布だから布端から4センチ強で模様の切りがいいところを出来上がり線という

 ことにしましょう。」

「それ いる?」

「仮定として。

 そうしたら、裾出来上がり線から3、5センチのところにバイヤステープを縫い付けるの。

 バイヤステープな三つ折りになっていて、それを開くと折れ線が二本のあるでしょ?

 その一方を3,5センチの位置に合わせて待ち針を打つ。  心配なら躾をかけて留めてもいいけど。   今回は練習だから、待ち針だけでいいと思う。  あ、縫うのは幅が狭い方ね。」


「えっと  こう?」

「あ、ごめん。私の説明不足。

 表布の表側に縫い付けるのよ。 バイヤステープの端を織り込んで縫うと切りっぱなしにならないのよ。」

「じゃあ、縫い始めは二重になるってことだね?」

「そうよ。  スカートとか袖とかだったらグルリと一周するでしょ?

 その時に最初にバイヤステープの端を折って縫い始めて、最後はそこに重ねる方法と、最後の端も折って

 突き合わせにして仕上げる方法とがあるの。  どっちでもいいのよ。」

「『突き合わせ』ってなに?」

「重ねないってこと。離れてもダメだし、重ねてもダメ。『突き合わせ』ってそういうこと。」

「へえ 『突き合わせ』ってのがあるのか。 ふーーん。」


「バイヤステープの折り目に添って縫うの。 しっかり縫った方がいいから半返し縫いか全返し縫いでね。」

「最初に小袋を作った時のやり方だ!」

「そう。八重ちゃんは知ってる?」

「はい。知ってます。」

「じゃあ、大丈夫ね。

 最後まで縫ったら玉留めで止めて、糸を切る。」


「切ったよ。」


「縫い目にアイロンをかけようか。」

「アイロン?」

「手縫いでもミシンでも、縫い目にアイロンをかけると仕上がりがきれいになるのよ。

 ちょっとした手間だけど、これ、大切。」

「わかった。 アイロン、かけるよ。」 「はい。」


「次は布を切り揃えるのよ。 バイヤステープはまっすぐだから、それに合わせて表布を切るの。」


「切ったよ。」  「切りました。」


「じゃあ、またアイロンね。」

「え?またアイロン?」

「そう。さっきは縫い目にかけたでしょ?  今度は仕上げるためのアイロン。

 縫い目の下にある幅が広い方のバイヤステープを折り上げてアイロン。

 それから5ミリの縫い代をくるんでから、またアイロン。

 そうしたらバイヤステープを躾で止める。  待ち針でもいいのよ。」

「待ち針でいいや。」 「私も待ち針にしよう。」

「それからバイヤステープと布との際を縫う。  ミシンの時は『落としミシン』っていうんだけど、

 今回は手縫いだから『落とし縫い』って言うのよ。」

「そんなにいちいち名前があるんだ?」

「名前がある方がわかりやすいでしょ?  バイヤステープでくるむことを『パイピング』って言う。

 トコトン名前があるでしょ?  一言で伝わるから覚えると便利よ。」

「なるほどね。  必要な人には必要なんだ。」

「『落とし縫い』か『落としミシン』ができたら、またアイロン。

 それからまつって仕上げるのよ。」

「へえ。  でも今はそれはしなくていいよね。」

「そうね。」


「あの・・・」

「うん?なに 八重ちゃん?」

「それって、『トリミング』って言うんじゃないんですか?」

「ああ 『トリミング』は縁飾りのことね。

 今回は飾りじゃなくて布端の始末だから『パイピング』だわね。

 『パイピング』で縁飾りを指すことはあるんだけど、逆はないの。

 だから、縁飾りは『トリミング』で、布端の処理は『パイピング』って使い分けてるのよ。」

「そうなんですか。」


「それにね、この二つには大きな違いがあってね、それは裏の始末のことよ。

 『パイピング』も『トリミング』も途中までは全く同じ作業をするのよ。

 バイヤステープの幅が狭い方の縫い目線と布の出来上がり線より5ミリほど控えた線を縫い合わせる。

 縫い目にアイロンをかける。

 次、バイヤステープを縫い目に従ってアイロンをかけるんだけど、その時からね、違うのはね。


 『パイピング』の時はバイヤステープのもう一方の折れ線にアイロンをかけて線を消すのよ。

 それから5ミリの布をバイヤステープでくるんでアイロンで整えてから『落としミシン』か

 『落とし縫い』で仕上げるの。  だから裏には切りっぱなしのバイヤステープが残ってるの。

 まつって仕上げるための作業だからそれでいいのよ。


 『トリミング』は縁飾りだから、裏から見てもいいように仕上げないといけないのよ。

 だから縫い目にアイロンをかけて次にバイヤステープを折り上げためのアイロンをかける時に、 

 バイヤステープのもう一方の折れ線を消さないのよ。

 そのまま5ミリの布をくるむんだけど、それからバイヤステープの折れ線に従って折り込んで、

 ミシン目に添って、表に見えないようにまつって仕上げるやり方もあるし、幅広のバイヤステープを使っ  て5ミリの布をくるんだ後に幅が広いことを活用して、『落としミシン』で仕上げるやり方もあるの。」

 


「柄物のテープを使っても布端の処理をすれば『パイピング』だし、無地の物を使ってもくるんで仕上げれ  ば 『トリミング』だしね。  別にバイヤステープを使わなくても、好みの布を45度の斜めに切って

 使えばそれでもいいし。 ただきっちり45度に切るというのが難しいのと布の無駄が出るのは難点かな。

 いらなくなったネクタイのきれいなところを使うのも手だけどね。」

「ネクタイですか?」

「ネクタイは45度のバイヤス布でできてるからね。」

「へえ。  知らなかった・・・」

「長くは取れないからあまり役に立たない話かな。」

「そんなことないです。」



「じゃあ、次は別のやり方ね。」

「次? まだあるのか?」

「ヘムの端から5ミリから7ミリ内側に一本ミシンをかけるの。 それがさっき『千鳥』をしたときに

 話した『捨てミシン』よ。」

「それでおしまい?」

「違う!!」

「え?  さっきはそれだけだったじゃない。」

「さっきは目的が『千鳥』だったからね。

 今回は裾の始末が目的だから、きちんとしなきゃね。」

「ふーーん。  さっきは手抜きだな?」



「それはさておき、『捨てミシン』を一本かけた後、ほつれない布の場合はそのまま仕上げたらいいのよ。

 でも、ほつれる布の方が圧倒的に多いから、布端のほつれを止める処理をしないといけないのよ。

 それが、『ブランケットステッチ』。 『縁かがり』とも言う。」

「『ブランケットステッチ』ならわかります。」


「母さん、僕にはそこまで必要だとは思わないから、おやつの準備をするよ。」

「え?  わかった。 じゃあお願いね。」


 僕は台所に立った。



「今日ね、けんちゃん、朝早く起きて、作ったのよ。

 八重ちゃんが来るからよ、きっと。」

「え?  」


「八重ちゃん、『ブランケットステッチ』を知ってるなら説明、要らないかな?」

「いいえ。 お願いします。」

「じゃあ、一緒になってみようか。 

 けんちゃんがそのうちコーヒーかお紅茶を淹れてくれるわ。  それまでね。」

「はい。

 布の裏側から針を入れて、その時は『捨てミシン』の下からね。

 針が出たところの2ミリ位横から針を入れて、それでできた糸の輪の中に針を入れる。

 5ミリ先に針を入れて糸に針を引っかけて、そのまま針を抜く。

 その繰り返しで縫い進めるの。」

「はい。  」



「できたよ。」

僕は三人分の紅茶と手作りの簡単バナナケーキを運んだ。


「え?これ、けんちゃんが作ったの?」

「え?  ああ  まあね。」

「すごい!  おいしそう!」

「簡単だよ。

 ホットケーキミックスにバナナをつぶしながら混ぜて、牛乳で硬さを適当に調整して、

 オーブントースターで様子を見ながら焼くだけだよ。」

「それでも、時間かかったでしょ?」

「簡単って言ったろ?  そんなこと、どうでもいいから食おう。」

「うん。」


「ケーキも冷蔵庫で冷やしてあるから、 とってもおいしいわ。」

「そりゃあよかったね。」


 僕達三人はケーキと紅茶で一息ついた。  気分転換になった と思う。


「もう、おしまい?」

「そうね。  八重ちゃん、何かある?」

「・・・・

 あの  透ける生地の時はどうするんですか?」

「なるほど。  ジョーゼットみたいな生地のことね?」

「はい。」


「透ける生地の時はね、スーツみたいにしっかりした仕立てにしたい時は三つ折りにすることが多いと思う。

 しっかりと三つ折りにして、その重さで全体を落ち着かせることができるしね。

 逆にワンピースとか軽く仕上げたい時は『よりぐけ』にすることが多いかな。」

「『よりぐけ』って?」

「ちょっと待ってね。」


 母さんは箱の中からペラペラな布を取り出した。


「こんな風にね。」

母さんは布の端を指先を使ってクルクル巻いて待ち針を打った。

「こんなふうに、布をクルクル巻くのよ。  こよりを巻く時みたいにね。

 やってみる?」

「はい。」

八重は渡された布を持って、母さんの真似をしてやってみた。

「難しいです・・・」

「ううん・・  それじゃあ片手に待ち針を持って巻きましょう。」

「はい。」


「そう。 できたじゃない!

 そこを待ち針で留めて、それから少し細かい感覚でまつるのよ。

 まつり方はどれでもいいのよ。やりやすいやり方でやればオッケイ。

 玉結びや玉留めは表に出さない とか、基本は一緒よ。

 細かくまつるのは布のほつれを防ぐため。」

「わかりました。  私もいつか、待ち針を使わなくてもできるようになりたいです。」

「そんなこと、どうでもいいのよ。  使える道具は活用しなくっちゃもったいないでしょ。

 自分にとってやりやすいように、楽な方法でやるってことが続く秘訣よ。」

「わかりました。」


 

 「八重ちゃん、今日パッチワーク持ってきてる?」

「はい。  でも途中までしかできてなくて。」

「どこまでできてる?」

「一応  ここまで・・・」


 八重は持ってきたトートバッグから袋を取り出して、その中から布のかたまりを出した。


 10センチ八枚のフォーパッチは全部縫ってあった。 もう一つは縦の布七本があるだけだった。


「ここまでしかできてなくて、すいません。」

「十分よ。 って言うか、これでいいのよ。」

「え?」

「縦布を縫い合わせる前にアイロンをかけたほうがきれいにできるから。

 先にアイロンをかけましょう。今ここにアイロンがあるから丁度いいわ。

 よかった よかった。」



「まず、縫い目にアイロンね。」

「はい。」


「母さん、僕は何をすればいいんだよ?」

「なんでもどうぞ。」

「ええーー?  そんな・・・・」

「八重ちゃんみたいにパッチワークをしてもいいし、今日の復習をしてもいいし。

 ノートをまとめてもいいし、晩御飯の準備をしてくれてもいいしね。」

「え? う う う・・  わかった。」



 僕は仕方なく台所に立った。 晩御飯の準備をすることにした。

母さんは、自分がしてほしいことを最後に言う傾向がある。

きっと八重に持たせる何かしらも作れ ということなんだろう。

僕は冷蔵庫を開けてチェックした。


・・・・はてさて なにを作ろうか・・・・



ピンポーン

 

「ちょっとごめんね。」

母さんは玄関に走って行った。


「ただいまーーー!」


「あ、ねえちゃん、おかえり。」

「あ、けんちゃん、ただいま。  なにしてんの?」」

「二人が忙しいから、晩御飯の準備。」

「優しい===!!!」

「今日は早いじゃないか?」

「今日は部活が早く終わったから急いで帰ってきたのよ。」

「ふーーん。 そんなことより、手伝って。」

「わかった。  着替えてくるわ。」

「その前に手洗い、うがいだろ?」

「はいはい。」


 姉さんはペロリと舌を出してから、八重に、

「八重ちゃん、いらっしゃい。」

「ねえちゃん!」

「はいはい。わかってます。」

「ゆっくりしてってね。」

そう言うと、洗面所に向かった。


 しばらくすると台所に戻ってきた。

僕達は二人で晩御飯の準備を始めた。



「台所は二人に任せて、私たちはこっちに集中しましょう。」

「あ、はい。」

「縫い目にアイロン、かけた?」

「はい。」

「次は全体ね。 パッチワークの場合、ミシンの時は縫い代は割る、手縫いの時は縫い代は片方に倒す。

 それが前提。今回は手縫いだからどちらか片方に倒すってことね。 

 さあ、9枚縫い合わせた縦の布からかけましょうね。」

「はい。」

「これは中心を底にして両方が上にくるんだから、それを考えてアイロンをかけないとね。」

「?」

「アイロン台に、裏面を上にして布を置いて、中心の五枚目を基準にアイロンを上下に動かすのよ。」

「上下に動かす。」

「そう。 中心で折った時に縫い代が縫い目の上にくるようにするの。

 表から見たときに、布の重なりが上にあるようにするの。」

「どうしてですか?」

「縫い代の重なりが下にあると、埃がそこに溜まってしまうからよ。」

「埃 ですか?」

「そう。  長く使ってると埃って知らないうちに溜まるでしょ?

 それは布も一緒。だから埃が溜まらないように考えるのよ。」

「そうなんですか。   わかりました。」

「じゃ、三本とも同じようにアイロンをかけたらフォーパッチにかけましょう。」

「はい。」


「次はフォーパッチね。

 まずは縫い目にアイロンをかけましょう。」

「はい。」

「あのね、フォーパッチの縫い代は、中心の縦の縫い代をまず、どちらかに倒すの。

 今回は横2枚のファーパッチだから2枚しかないからね、次の縦の縫い代はその反対に倒す。

 それを繰り返すの。


 もし、何枚かを縫い合わせた場合は、縦の縫い目を左右交互になるように倒すのよ。

 そして次の段の縦の縫い代は最初の段の縫い代と逆方向に倒すの。

 それを繰り返すのよ。


 横の縫い代はね、縫い代の中心が四方に倒れるように組み合わせながら上下に倒すの。

 これが一番縫い代が一定の厚さで整うことができるのよ。」


「はい。  交互にアイロンをかけるんですね。  やってみます。」


「基本がわかっていれば、何枚縫い合わされた物でも大丈夫よ。」

「はい。わかりました。」


「アイロンができたわね。」

「はい。  アイロンはできました。」


「アイロンが済んだら縦の布を縫い合わせないといけないわね。」

「それは明日までにやってきます。」


「まだいいんじゃない?」

「いいえ、今日は兄が帰ってきているので早く帰らないといけないんです。」


「え? もしかしたら壮介君が帰ってきてるの?」

「そうなんです。」


 壮介というのは八重の一番上の兄で、他県の料理学校を卒業後どこかのホテルに勤めているらしい。

僕の姉さんは、昔から壮介君にあこがれていて、幼稚園の頃は『壮介君のお嫁さんになる』と言っていた。

もしかしたら今でもそうなのかもしれない。

 ちなみに二番目の兄は孝治と言って姉さんとは同級生だ。


「もしかして、こっちに帰って来るの?」

「そうですね。できれば近くのホテルとかに勤めたいって言ってて。

 昔アルバイトをしたホテルが丁度募集をしていて、それで。」

「そうなんだ・・・  近くのホテルに決まったら、みんなで食事に行かなきゃね!

 ねえ、お母さん!!」


「そうね。行かなきゃね。」

母さんは小さくフフフと笑っていた。


「じゃあ、八重ちゃん。今日はここまで ということで。

 でも、明日ここで縫い合わせてもいいんだから、無理しなくてもいいのよ。」

「はい。  明日は何を持ってきたらいいですか?」

「そうね・・・

 二つのポーチに使う裏布と綿と。 あとは裁縫道具かな。

 足らないものはここにあるもので何とかできると思うから。

 替えが利かないものだけ持ってきてね。」

「はい。  わかりました。  ありがとうございます。」


「けんちゃん、八重ちゃんを送ってあげて。」

「わかってるよ。  

 それより、コロッケ作ったんだけど、壮介君がいるんだったらいらないかな?」

「どうしてそうなるの?」

「だって、壮介君はプロみたいなもんだから、素人が作ったものなんて食べないかなって。」


「そんなこと、ないです。  私が作ったものも食べるもの。」


「それとこれとは違うと思うけど・・・」


「せっかく二人で作ったんだから持って帰ってもらったら?」

「そうよ!  私も手伝ったってこと、壮介君に言ってね、八重ちゃん。」


「あ、はい。伝えます。」


 八重は小さく笑いながら答えた。  八重も姉さんの気持ちを知っているに違いない。


 僕はコロッケをタッパーに入れて、キッチンペーパーで覆ってから袋に入れた。

それを持って僕は八重と家を出た。


 八重の家は近いから、二人で歩くのは短い距離だったが、僕にはなんとなく長い時間に思えた。


「これ。」

八重の家の前で紙袋を八重に手渡した。

「いつもありがとう、けんちゃん。」

「姉ちゃんのこと、壮介君に売り込んどいてやってくれよな。」

「うん。 わかった。  じゃあ、おやすみ。」

「おやすみ。」


 この短い二人の会話が僕には楽しかった。


「ただいま。」

「おかえり。」

「けんちゃんが家の前まで送ってくれたの。」

「そうか。」


 八重の家の玄関が開いた。

「健ちゃん!」


 その声に僕は振り返った。  壮介君がこちらに向かって走ってきた。

「いつも八重を送ってくれてありがとう。 健ちゃんが送ってくれるって聞いて安心したんだ。

 おばさんにはいろいろと教えてもらって、その上に送ってもらって。

 今日もコロッケをもらったって。」

「姉ちゃんと作ったんで、味の保証はできないけど。」

「ははは  そんなことはないけど。  そうか。早希ちゃん、元気?」

「元気すぎて困ってます。」

「そっか。 それはなにより。  健ちゃんも気を付けて帰って。」

「はい。わざわざありがとう。  じゃあ、おやすみなさい。」

「おやすみ。  おばさんと早希ちゃんにもよろしく。」

「はい。  じゃあ。」


 僕は小さく一礼をしてから振り返って家に向かって歩き始めた。



 五日目  ノート四冊目  実技 


 裾の始末

   布の始末方法 

    ・端ミシン   布端を1センチ折り込んで、折山から2ミリか3ミリにミシンをかける

            縫い目にミシンをかける

    ・パイピング  バイヤステープまたはバイヤス布を使う

            バイヤステープの片方の折り目に軽くアイロンをかける

            布の表側の、端から5ミリの位置にアイロンをかけた側のバイヤステープを置く

            ミシンをかける または 半返し縫いで縫い留める

            縫い目にアイロンをかける

            布とバイヤステープの幅をそろえて切る

            バイヤステープを折り上げてアイロンをかける

            切り揃えた二枚をバイヤステープでくるみアイロンをかける

            しつけをかけて縫い留める

            布とバイヤステープの際にミシンをかける これを落としミシンという

            半返し縫いで縫い留めてもいい

    ・三つ折り   薄手の布の場合  

            ヘム幅になるように整えて一回折ってアイロンをかける

            もう一度折り返してアイロンをかける

    ・捨てミシン  布端から6ミリか7ミリに一本ミシンをかける

            ほつれない布を始末するときに使う方法

    ・縁かがり   ブランケットステッチと同じ

            捨てミシンの際の下から針を入れて抜く

            少し横にもう一度針を入れてその時に出来た糸の輪に針を通して抜く

            5ミリ位横に表から針を入れて布端にある糸を針にかけてそのまま抜く

            繰り返す

            最後は糸を裏から表に通して抜く

            そのすぐ横から針を裏に通して抜いて玉留めで留める


   まつる くける  布端を始末した後それを表布に裏から縫いあげる

            表から見たときに目立たないようにする

            利き手側から縫い進む場合と逆方向に進む場合がある


     ・斜めまつり 利き手側から縫い進む

            ヘムの裏から針を通して2センチ先の表布を小さくすくう       

            そのまま布の折り返し部分に針を通す

            2センチ先の表布を小さくすくう  くりかえす

            糸はヘムの上から下にわたっている

     ・立てまつり 利き手側から縫い進む 

            ヘムの裏から針を通す

            その位置の表布を小さくすくう

            そのまま2センチ先に針を通して抜く

            その位置の表布を小さくすくう   くりかえす

            糸はヘムの下から上にわたっている

     ・奥まつり  利き手側から縫い進む

            ヘムの裏から針を通す

            その位置の表布を小さくすくう

            すぐに折り返し部分の中に針を入れて2センチ先に針を出す

            その位置の表布を小さくすくう  くりかえす

            糸はヘムの折り返し部分に入っているので表からは見えない

     ・千鳥ぐけ  利き手の逆方向に縫い進む

            布端は捨てミシンをしておく 

            表布の裏から針を通す

            2ミリ位戻った位置の表布を小さくすくう

            さらに6ミリ位戻った位置の 捨てミシンの縫い目の下の際を1ミリ位すくう

            6ミリ位戻った位置の表布を小さくすくう  くりかえす

            糸が交差した状態になる

     ・立ち千鳥  利き手の逆方向に縫い進む

            布端は捨てミシンをしておく

            表布の裏から針を通す

            2ミリ位戻った位置の表布を小さくすくう

            さらに6ミリ位戻った位置の 捨てミシンの縫い目の下の際を表布と二枚すくう

            6ミリ位戻った位置の表布を小さくすくう  くりかえす

            糸が交差した状態になる  表から見るとすくった糸が上下2か所にある

     ・撚りぐけ  薄手の布で軽く仕上げたい時に使う方法

            利き手側から縫い進む

            こよりを撚るように布を撚る

            布の裏から針を入れて抜く

            続けて布を撚りながらまつる  まつり方は自由   くりかえす

     ・ねじりぐけ 裾はパイピングまたは端ミシンで処理されている

            利き手側から縫い進む

            ヘムの裏から針を入れて抜く

            その位置で表布を小さくすくう

            すくった位置から2ミリ位戻ってヘム部分に針を入れる

            そのまま針を通して2センチ先に針を出す

            その位置の表布を小さくすくう   くりかえす

            まつり糸がねじれた状態になっている

            

     ・パイピングとトリミングの違い

            パイピングはバイヤス布の布端をそのままにしてまつることで表から隠す

            トリミングは裏から見ても良いように布端をきちんと始末する

 

  八重のパッチワーク  

     ・アイロン  縫い目にかけて整える

            手縫いの場合は縫い代は片方に倒し、ミシン縫いの時は縫い代は割る


            底を中心に上下で縫い代を倒す方向を違える

            縫い代は袋の口方向に倒す

            縫い目位置に埃がたまらないようにする


       フォーパッチのポーチの表布のアイロンのかけ方

            縦の縫い代一か所をどちらか片方に倒す

            その下の縦の縫い代は逆方向に倒す 

            四枚が集まった位置の縫い代が重ならないように横の縫い代を倒す

            横の縫い代を倒す方向は自然に決まる

            フォーパッチでもナインパッチでもアイロンのかけ方は同じ


       次回必要な物 フォーパッチのポーチに使う裏布

              キルト綿

              しつけ糸

              ファスナー


       次回の予定  裏布で内袋を作る    

              



                   

 翌日の午後一時頃、インターフォンが鳴った。

母さんが玄関に向かった。


「あら、壮介君、久しぶり。  元気そうね。

 来年こっちに帰って就職するつもりだって?」

「はい。  できればそうしたいと思ってます。

 いつも妹がお世話になってます。

 あの、これ。  みなさんで召し上がってください。」


 壮介は手に持った紙袋を母さんに渡した。

「まあ、気を遣わなくっていいのに・・・  でも、ありがとう。

 壮介君もあがったら?」

「ありがとうございます。  でも、今から行くところがあるので、僕はこれで失礼します。」

「あらそう?  残念。

 早希ちゃんは部活に行ってしまって、今いないのよ。壮介君が来てくれたって知ったら悔しがると思うわ。

 また今度、時間があるときにゆっくり ね。」

壮介は困ったように、

「はい。今度是非。  じゃあ。」

と答えた。


 壮介が玄関から外に出たのを見送ってから八重が家に上がってきた。


「壮介君?」

「うん。挨拶したいって言うから、一緒に来ただけ。」

「そっか。  壮介君もとうとう帰って来るんだ。」

「そうできたらいいなあ って。」


「八重ちゃん、壮介君がこれ。  昨日渡したタッパーに。」

母さんが見せてくれたのは、タッパーに入った手作りクッキーだった。  


「おいしそう!  さすがよね。 」

「ほんと、うまそう。  僕が作るバナナケーキとは違うな。」

「そりゃそうよ。」

「言ってくれる。ま、しゃーないけどさ。」


「私が作ったクッキー、兄から教わったんです。」

「じゃあ、絶対においしいわね。

 三時に出しましょう。  みんなでいただきましょうね。」


 母さんはタッパーを台所に持って行って蓋を少し開けた。



「さあ、八重ちゃん、今日は何から始めようか?

 昨日の縦布を縫い合わせた?」

「はい。アイロンもかけました。」

「上出来!  じゃあ次は綿と裏布を張っていきましょうか。」

「はい。」


 八重はトートバッグの中からあれこれ出してテーブルに並べた。


「で、 どっちからする?」

「・・・フォーパッチのポーチから・・

 母がとっても楽しみにしてくれているので、なるべく早く仕上げたいなって思って。」

「わかった!!

 アイロンはかけているから、キルト綿を張っていきましょう。

 表布と綿だけでもいいんだけど、縫いにくいから裏に薄手の布を裏打ち布として使いましょう。

 この箱の中にあるから選んでね。  出来上がりより全体的に縦も横も大きい布を選んでね。」

「いいんですか?  すいません。  じゃあ・・・」


「ねえ、母さん。」

「なあに?」

「僕も簡単なパッチワークをしたんだけど、八重と一緒に教えてよ。」

「え?  あ  ホントだ。  いつのまに けんちゃん・・・」

「まあね。  八重みたいに凝ってないけどね。」


 僕が作ったのは、ただ縦の布をつらつらと


「十分よ。 十分パッチワークよ。 すごいじゃない。きちんと縫い代も考えてあるしね。この場合はね、  縫い目にアイロンをかけたらどちらか一方に縫い代を倒すようにアイロンをかけたらいいのよ。」

「わかった。  やってみる。」


 僕がアイロンをかけている間に八重は布を選んでいた。


「さあ、八重ちゃん、一番下に裏打ち布、真ん中にキルト綿、その上に表布を重ねましょう。

 重ねたら全体の真ん中に待ち針を打って、それから左右に待ち針、次に上下に待ち針ね。」

「はい。」



「けんちゃんはキルト綿、どうするの?」

「綿はいらない。  表布と裏布だけで、紐でシュッて引っ張るやつにする。」

「ああ、巾着ね。  ヒモは上で引っ張る?  それとも途中で?」

「ううーーん  上かな。」

「そう。それでひもは一本で締めるのか二本で締めるのか、どっち?」

「二本だって。」

「あら、早希ちゃんの?」

「ああ。  なんか、欲しいんだってよ。」

「そう。けんちゃんは綿を張らないんだから両脇を縫い合わせるのよ。だから中表にして半分に折りたん 

 でから縫い代2センチで袋の口の8センチ下までを待ち針で留めましょう。」

「わかった。」


「八重ちゃんは中心から斜めに、四方向、角に向かって待ち針を打ちましょう。」

「はい。」

「待ち針が足らなかったら私のを使ってちょうだいね。」

「はい、ありがとうございます。」


「待ち針を打つときは、必ず中心を片方の手で押さえて、ずれないように気を付けてね。」

「はい。」


「けんちゃん。 待ち針が打てたら底から8センチ下のところまで半返し縫いをしよう。」

「両方共?」

「そう。ヒモが二本なんだから両方ね。

 もし、ヒモ一本なら片方は全部縫ってもう片方は8センチ下までね。」

「わかった。  半返し縫いか。」


「八重ちゃんは次は躾ね。

 しつけも待ち針と同じ順番でかけるのよ。」

「はい。」


「三枚重ねた表布は縦横を90度回転させて、中心の近くを手で押さえてから中心に針を横向きに入れるの。

 それから3センチ可4センチ位、だいたいの目安でいいから、そのくらい上にまた横向きに針を入れるの。

 その繰り返し。 しつけ糸は斜め 斜めに見える形になるのよ。 そして一番上まで来たら半返し縫いか

 全返し縫いを一回してから3センチくらいでしつけ糸を切る。  玉留めはしないのよ。」

「はい、やってみます。」

「見てるから大丈夫。一回できたらいつも同じことをするだけだからね。」

「はい。」


「できたら表布を180度回転させて同じ作業をするの。これで底部分のしつけが終了ね。」

「はい。」


「次は表布を90度回転させて今度は縦に向けてしつけをする。  同じように中心近くを手で押さえて

 中心から針を入れてね。  作業は同じ。  その次は180度回転させてしつけ。

 これで縦横のしつけができたことになるのね。」

「そうですね。」


「そうしたら今度は斜めね。

 ここもやっぱり中心から斜め45度に躾をかけるの。 四方向ね。」

「はい。」

「もう少しだから、頑張ろうね。」

「はい。」



「けんちゃんは両脇、縫えた?」

「うん。」

「じゃあ、次は裏布の準備なんだけど、疲れただろうからお茶にしましょう。」

「わかった。僕もそれがいいと思うわ。」


「八重ちゃん、フォーパッチのしつけが終わったら手を休めてお茶にしましょう。」

「はい。」

「壮介君が作ってくれたクッキー、せっかくだからいただきましょう。」

「え?  姉ちゃんが・・・」

「早希ちゃんの分とお父さんの分は置いておくから大丈夫。」

「ならいいけど。」


 僕の言葉に八重がクスっと笑った。


 三人でのお茶の時間はゆっくりと流れて、気分転換にはちょうど良かった。


「けんちゃん、桜のこと、おばさんに話した?」

「言ってない。」

「桜のことって?」

「おばさん、けんちゃん、毎日桜を描いてるんですよ。

 美術部の人たちもあきれる じゃない 驚くほどで。

 部のタブレットだから持って帰られないんだと思うんですけど。」

「今頃はタブレットに描くの?  スケッチブックじゃなくて?」

「いつの話してるのさ。」

「けんちゃん用に買わなきゃね。」

「え? ほんとに!?」

「だって、部の物をずっと借りることはできないでしょ? 他の人が使えないし、迷惑じゃない。」

「夏にバイトをして買うかと思ってたんだ。」

「じゃあ、夏休みにバイトをして返してくれたらいいから。 指定してくれたら商店街の電気屋さんに

 取り寄せてもらうけど?」

「もう決めてるんだ。」

「パンフは?」

「ある!」

「じゃあ、あとでね。」

「よっしゃーーー!!!」


 母さんと八重はそんな僕を見て、顔を見合わせて笑った。


「さて。もう一仕事、頑張って行こう!!!」

「はい。」  「へい。」


「八重ちゃんが先ね。

 今しつけができてる四方向のしつけと平行に3センチくらいの間隔でしつけをかけて布の浮いた部分を 

 なくしてしまうの。

 しつけのやり方は今までと同じ。 玉結びをして針を横に入れて布をすくってから、糸が斜めになるように

 針をまた横に入れて布をすくう を繰り返す。

 これで三枚をしっかりしつけ糸で留めることができるからね。」

「はい。  やってみます。」

「見てるからやってみてね。」

「はい。」


「オッケイ。 その調子で全体を留めてね。」

「はい、」


「次はけんちゃんの裏布ね。」

「布は選んだよ。」

「はい。 じゃあ、まず布を切りましょう。」

「同じ大きさ位だからそのままでいいんじゃね?」

「これは内袋だから表布とは必要な大きさが違うのよ。」

「へえ、そうなんだ。」


「縦の長さは全体で7センチ短くっていいのよ。」

「どうして?」

「紐通しの部分は全部を重ねる必要はないからね。 紐を通しにくくなるし布ももったいないからね。

 横幅は表布次第。  表布がしっかりしていたら同じ幅でいいけど、表布がよく伸びる布、例えば

 ニットだったり、ジャージだったり の時は表布より全体で4ミリ位、片方2ミリってことね、狭く

 仕上げると表布が伸びて形が崩れるってことがあまりないのよ。」

「あまり  てことは幅を狭くしても伸びることがあるってこと?」

「そうね。  中に何を入れるのか、どれだけの頻度で使うのか、によると思うのよ。

 けんちゃんが使ってる布はしっかりしてるから、逆に言えば融通が利かない布だから幅は同じでいいわ。」

「わかった。 で、8センチ下まで縫うってこと?」

「表布より全体で7センチ短いんだから、片方3,5センチ短いってことでしょ?」

「あ、そっか。  じゃあ、4,5センチ下まで縫うってことだね?」

「そうじゃないのよ。 ゆとりをもって5センチか5,5センチ下まで縫って。後で理由がわかるから。」

「へえ。  半返し?」

「そうよ。」

「わかった。 縫っとくよ。」


「八重ちゃんはしつけ、できた?」

「はい。できました。」

「ほんと、きれいにできてる。

 じゃあ縫い目に添ってキルティングをしましょうね。」

「はい。」



「キルティングもしつけと同じ。 中心から縫い始めるの。

 玉結びをして裏から針を入れて、強く引っ張って玉結びを中に入れて隠して、それから縫い目に添って

 小さい縫い目で縫っていく。 並み縫いをするの。」

「はい。

 裏の中心に針を入れて  表に出して  引っ張って  玉結びを中に入れて隠して 

 小さく並み縫い。」

「その調子。端まで縫って一回半返し縫いをして玉留め。  これは隠さなくても大丈夫。」

「はい。」

「次は逆方向の底の縫い目に添って同じことをする。 次は縦中心を上下に縫う。

 その次は真ん中の縫い目を中心から左右に縫う。

 それを両面したら一応キルティングはおしまい。」

「はい。」


「これは帰ってからする?」

「え?」

「内袋を作ろうか?」

「あ、はい。  そうします。」

「じゃあ、内袋に使う布を出して。」

「はい。」


「けんちゃんは表も裏の縫い目にアイロンかけておいてね。」

「へーーい。」

「それが済んだら縫い代を割って、底の縫い代は三角に仕上げてね。

 そこまでできたら言って。」

「へい。」



「出来上がりが一辺20センチの正方形だから、内布は幅44センチ長さ42センチで切る。」

「はい。」


「ポケットは好きな大きさで、一つでも二つでも。」

「大きいポケットと小さいポケットを付けたいと思ってます。」

「じゃあ、幅44センチ長さ17センチ位を一枚と、幅12センチ長さ15センチ位を一枚準備ね。

 これは目安だから、自分の好みでいいのよ。」

「はい、わかってます。」


 そう言いながら、八重は母さんが言った通りの大きさに布を切った。


「ポケット口は先に布端の始末をしましょう。

 1センチ2センチで三つ折りにして、まつってもいいし、半返しで縫ってもいいし。

 出来上がりの好みで決めてたらいいわ。」

「・・・・じゃあ、半返し縫いにします。」

「じゃあ二枚とも始末しておいてね。」

「はい。」


「けんちゃんはアイロン、できた?」

「うん。」

「じゃあ、表布の袋の口から開き止まりの8センチにアイロンをかけるよ。」

「うん。」

「開き止まりから5センチはまっすぐ、そこから端までは、端で1ミリほど縫い代を広くする気持ちで

 斜めにアイロンよ。」

「斜め?」

「そう。 折り返して紐通しにするんだから、少し控える形で整えておくのよ。」

「ふーーん  そうなんだ。  裏布も?」

「裏布は表に合わせて折るからアイロンは必要なし!」

「わかった。」


「アイロン、できた。」

「じゃあ、縫い代を底から開き止まりの2センチ下まで中とじね。」

「中とじって、あの 縫い目を合わせて待ち針を打ってからちょっと緩めに、2センチか3センチで

 縫い合わせるって  あれ?」

「そう、それ。  よく覚えてたじゃない。」

「何回かやったからね。  開き止まりの2センチ下までだね?」

「そう。」



「八重ちゃんはポケット口の半返し縫いができたみたいだから、内袋にポケットを付けようか。」

「はい。」

「大きい方は底中心にポケットを中表状態に合わせて、ポケットの縫い目線と底が合うように待ち針を打って

 ここはしっかりと半返し縫いか全返し縫いで縫い付けるのよ。」

「はい。」



「中とじができたら開き止まりを始末するんだけど、表布と裏布は片方3,5センチずれてるはずだから、

 それぞれの中心をそれだけずらして合わせて待ち針を打ったら、そこから二枚の布を添わせるように

 左右に待ち針を打つ。」

「中心を、長さをずらして 待ち針  で  左右に添わせて  待ち針・・・」 

「そこで裏布の幅が決まる。

 開き止まりの縫い代同士を内側に合わせて、裏布を表布にまつりつける。」

「待ち針が邪魔。」

「ははは じゃあ、一本くらい抜いたら? それでまつって。  両方ね。」

「はあ・・」



「縫い合わせたポケット布は上に折り上げて、中心位置で適当に待ち針を打って仮止めしてね。

 もう一枚のポケットをつけましょう。」

「はい。」

「まず、ポケット布の始末してない三方を内側に縫い代1センチくらいで織り込んで形を整えておこうか。」

「はい。」

「それができたら内袋のもう片方に付けるのよね。

 位置は好み。 上にファスナーが付くからそれを考えて一を決めて、決めたら布の真ん中を待ち針で

 仮止めしてね。」

「はい。」

「ポケット布の三方を内側に入れながら待ち針を打ちましょう。」

「はい。」

「底の二つの角は三角に折ってもいいし、そのまま四角でもいい。これも好みね。」

「はい。」

「決めたらそのようにしてポケット布を裏布に縫い付けてね。」

「はい。」



「開き止まりをまつったら袋の口を裏側に1センチ3センチの三つ折りにして待ち針を打つ。

 折り返しの端から5ミリのところをしつけ糸でとめる。

 表側からしつけ糸の1ミリしたを半返し縫いか全返し縫いで縫ってからしつけ糸を抜く。」

「ちょ ちょっと待って。  一度に言われても困る。」

「前に似たようなことをしたことあるんだから大丈夫。

 思い出しながらやってみて。」

「・・ わからなくなったら聞くよ?」

「わかった。」



「八重ちゃんがやってるフォーパッチは一辺が10センチもあるでしょ?

 だから布とキルト綿がしっかりつながってるわけじゃないのよね。

「こんな時はこの10センチの一つ一つに糸でなにかしら模様を描いて留めるのよ。」

「そうなんですか?」

「文字でもいいし絵柄でもいい。 幾何学模様でもいいし、ほんとになんでもいいのよ。

 全部一緒でもいいし、バラバラでもいい。 

 今思い浮かばなかったら次までに考えて、家でやってくれてもいいし、ここでしてもいい。」

「なにも考えてなかったから、母に聞いてみます。」

「じゃあ、そうしましょう。

 裏布を内袋にしておく?」

「はい。 やります。」



「じゃあ、ポケット口を『かんぬき止め』で留めておきましょう。」

「『かんぬき止め』?  初めて聞きます。」

「やってみたら簡単よ。  力がかかるところを補強したい時に使う方法。

 知ってると便利だから覚えてね。

 あ、けんちゃん どこまでできてる?」

「しつけをかけるところまで。」

「じゃあ、こっちに来て。  八重ちゃんと一緒に『かんぬき止め』をやりましょう。」

「『かんぬき 』なに?」

「『かんぬき止め』。

 けんちゃんの巾着の開き止まりに『かんぬき止め』をして、糸が抜けるのを防いだり開き止まりにかかる

 力を受け止めるためにやるのよ。」

「『開き』に『かんぬき』をかけるってこと?」

「よくわからないけど、まあいいわ。やりましょう。」


 八重が困ったように笑ったので、僕は 言わなきゃよかった と内心思った。


「まず、玉結びをしましょう。」

「「はい。」」

「『かんぬき止め』をするところの裏から針を入れる。

 八重ちゃんは縫い付けたポケットの両端の浮いた部分の裏からね。端から5ミリのところね。

 けんちゃんは開き止まりのまつった縫い目の間から針を入れて、二人とも表に玉結びのコブが見えないよう

 にしてね。」

「「はい。」」

「八重ちゃんはポケットを縫い付けたところの際の表布をしっかりすくって、そのままの状態で片方の手で  縫い針を軽く押さえておいてから、縫い糸を縫い針にクルクルと7回か8回巻きつける。縫い針と巻き付 

 けた糸を一緒に軽く押さえておいて縫い針を抜いてそのまま糸を引っ張って、そうしたら根元部分に少し  大きめな糸のコブができているでしょ。そうしたら表布とポケットの際に縫い針を入れて、最初縫い針を 

 入れたところに針を出すのよ。


 そこで玉留めをしてから縫い針を布の中に入れて適当な場所に出して強く引っ張って、玉留めのコブを  

 表から見えないようにしてからギリギリのところで糸を切ってね。 

 これでポケットに手を入れたり物を入れても大丈夫。

 けんちゃんの方は巾着の開きどまり位置の、玉留めのコブが隠れるところから縫い針を入れて表に出して

 糸を全部抜く。縫い目をはさんで縫い針を入れて、最初縫い針を出したところに縫い針を出して縫い糸を

 クルクル7回か8回巻き付けて、縫い針と巻き付けた糸を軽く押さえたまま縫い針を抜いてそのまま糸を

 引き出す。 そうしたら根元に大きめな糸のコブができているでしょ。八重ちゃんと一緒ね。 それから

 コブを整えるように糸を引っ張ってコブができている根元に縫い針を入れて、縫い目を挟んで向こう側に 

 縫い針を出してそこで玉留めね。 それから裏側に縫う威張りを入れて引っ張って玉留めを中に入れて、

 プチって音がしたら布の中に玉留めが入ったってことだから、そうしたら際で糸を切るのよ。」

「「・・・・・」」

「二人とも  できてると思うんだけど?」

「はい。できてると思います。」「僕も。」



「けんちゃんはもう一方の開きどまりに『かんぬき止め』をしたらヒモを通して結んで出来上がり。」

「ヒモは結びっぱなしでいい?」

「気になるんだったらヒモの結び目を隠すようにするけど?」

「姉ちゃんのだから、隠した方がいいようなきがする。  姉ちゃん、うるさいからな。」

「まあ!  じゃあ、『かんぬき止め』をしてヒモを通してね。

 紐を隠すんだったらヒモは結んでもいいし、重ねるだけでもいいのよ。

 どっちでもいいから、できたら言ってね。」

「うん。」



「八重ちゃんは裏布を内袋にしましょう。

 中表にして底部分から合わせながら待ち針を打って、袋の口部分は角から1センチまで待ち針打ってね。

 底部分から縫い始めるんだけど、最初一回半返し縫いで、間は細かめな並み縫いね。 

 角の出来上がり位置よりも一針分手前で一回半返し縫いをしたら糸を斜めに渡してから口部分を縫うのね。

 同じように一回半返し縫いするんだけど、今回は1センチしか縫わないから、正味半返し縫い二回ってこと

 になるかな。 そこで玉留めをしておしまい。  もう一方も同じように縫ってね。

 大きなポケット布は一緒に縫うことでポケットになるのよ。

 ポケットは浮く感じがして気になるなら、その中心に一回『かんぬき止め』をしてもいいし、スナップを

 つけてもオッケイよ。」

「はい。

 パッチワークって思っていたより手間がかかってるんですね。びっくりしました。」

「そうね。  しつけがね。

 でも丁寧に作っていくことがきれいな出来上がりにつながるから、がんばろうね。」

「はい。」


 八重はそう言うとまた手を動かし始めた。


「ヒモを通して結んだよ。」

「はい。  じゃあ、ヒモの先を隠すんだけど、そのための布を選んで。」

「え?」

「けんちゃんはいろいろな布を使ってるから、その中の一つを使ってもいいし、二種類にしてもいいし、

 布の厚さをそろえさえすれば全く違い布にしてもかまわないのよ。けんちゃんのセンスで決めてね。」

「なんでもいいけど・・・同じのが残ってるから無難にまとめるよ。」

「はい。 じゃあ、長さ5センチ幅7センチ位で2枚準備してね。」

「へい。   切ったよ。」

「縦布目を中表にして縫い代1センチで最初と最後は全返し縫い一回で間並み縫いね。

 縦5センチで5センチの輪っかができるはず。

 ヒモがもっと太かったら布を大きく切って輪っかを大きくするんだけどね。

 だからこれも臨機応変に決めればいいのよ。」

「ふーーん。 そっか。」


「布を縦布目で中表にして最初と最後半返し縫いで、間は並み縫いで縫い合わせて。」

「へい。」

「縫い目にアイロンをかけてから縫い代を割る。」

「これは割るんだ・・・」

「そうしたら今度は糸を二本どりにして、布端の片方を最初半返し縫いにして残り並み縫いで、

 糸はそのまま針に通った状態にして。  この縫い方を『ぐし縫い』って言うのよ。」

「そのままにすること?。」

「じゃなくって、布を絞るために糸を二本どりにして並み縫いをすること。」

「ふーーーーん。」

「輪っかの中に結んだ紐を入れて結び目の下で固定して糸を絞って、そのまま縫い留める。」

「・・・・・・」

「輪っかを表に返してしっかり伸ばす。」

「・・・のばす・・・」

「布端を内側に折り返して整える。」

「結構細かい作業だな・・・」

「周りをまつってもいいし、四か所つまんでチューリップみたいにしてもいいし。  どっちにする?」

「チューリップ。」

「じゃあ、縫い目を挟むように裏から針を入れて糸を抜く。」

「糸は一本?二本?」

「二本のまま使って。」

「へい。」

「糸が出たところの向かいに針を入れて布をすくって絞る。」

「はあ・・」

「間の布が両方に浮いてくるから、その中心に針を入れて、その真向いに針を入れて絞る。」

「ほお・・・なるほど  チューリップだ。」

「布の裏側に針を入れて玉留めしてから、さらに針を引っ張って糸のコブを布の中に入れて表から隠す。」

「・・・隠す・・」

「もう一方もしたら出来上がり。」

「やっと・・・姉ちゃんになんかおごってもらおう。」




「八重ちゃんは内袋ができたかな?」

「はい。できました。」

「そう。  今日は表布ができないからそれは次ね。

 八重ちゃんの方にかかろうか。」

「はい。」

「もう全部縫い合わせてるし、アイロンも済んでるから、しつけだわね。」

「はい。」

「じゃあ、裏布、キルト綿、表布を重ねて、中心に待ち針 から始めるのよ。

 待ち針が済んだらしつけ。 これは一緒。

 ポケットはキルティングが済んでからでも大丈夫だから、時間があるときに好きな大きさで一枚でも二枚で

 も作っておきましょう。」

「はい。  今日はもう遅いのでここまでにします。

 しつけまでは家でやれたらやってきます。」

「そうね。そうしましょう。 けんちゃん、八重ちゃんを送ってあげてね。」

「わかってる。  片づけたら送ってくよ。」

「ありがとう。」

「おう。」



 いつものように八重の家にはすぐについた。

八重が家に入ろうとしたときに、

「今日はありがとな。」

と僕は言った。

「なに?」

「タブレットのこと。  欲しいの知ってたんだ。」

「うん。  よかったね。」

「まあな。 じゃ、また。」

「うん、 おやすみ。」


 その様子を部活帰りの洋介が遠くから見ていた。




六日目  ノート4冊目  実技


   巾着作り  ・表布を縦布目を中表にして袋の底から布端から8センチ下まで縫う

          最初と最後は全返し縫いで間は並み縫いまたは半返し縫い

         ・裏布は表布と幅は同じで、長さは3,5センチ短く準備する

         ・裏布を縦布目を中表にして袋の底から布端4センチ下まで縫う

         ・縫い目にアイロンをかける

         ・縫い代をアイロンで割る 底部分は三角形に整える

         ・縫っていない8センチは布端を1ミリほど狭くなるようにアイロンをかける

         ・縫い代を底部分から開きどまりより1センチ下まで中とじをする

          最初と最後は半返し縫いか全返し縫いにする

         ・開きどまりの表布に裏布を添わせながら待ち針を打ってからまつる

         ・表に返す

         ・袋の口を1センチ3センチの三つ折りにして待ち針を打つ

         ・折り返しより5ミリの位置をしつけでとめる

         ・表からしつけ糸の下の際を半返し縫いで縫う

         ・開きどまりをかんぬき止めでとめる

         ・ヒモを通して端を結ぶ

         ・長さ5センチ幅7センチの表布を切る

         ・縦布目を中表にして最初と最後は半返し縫い 間 並み縫いで縫い合わせ輪っかにする

         ・輪っかの片方を糸二本どりで並み縫いにする  糸はそのままにしておく

         ・ヒモを輪っかに入れて二本の糸を引っ張って縫って玉留め  『ぐし縫い』

         ・布を表に返してから布端を1センチ内側に折る

         ・縫い目をすくうように針を入れる

         ・真向いの位置をすくって糸を引っ張る

         ・両側に引っ張られた布があるから一方の真ん中をすくい、さらにもう一方の真ん中を

          針ですくって引っ張る

         ・布の裏側に針を出して玉留めをしてから針を引っ張って玉留めを布の中に入れてから           糸を切る

          


 八重のパッチワーク   待ち針をうつ しつけをかける  内袋を作る     

         

   フォーパッチのポーチの表布に綿をはる準備

         /

   裏打ち布は薄手の布を選ぶ  今回は裏布を使用する

            裏打ち布 キルト綿 表布を順番に重ねる


       フォーパッチのポーチの表布に綿をはるための待ち針を打つ

            表布の中心 袋の底部分の中心に待ち針を打つ

            一本目の待ち針を基準に底部分の中心を押さえながら左右に待ち針を打つ

            一本目の待ち針を基準に底部分の中心を押さえながら上下に待ち針を打つ

            一本目の待ち針を基準に底部分の中心を押さえながら表布の角に向かって斜めに             待ち針を打つ

  

       フォーパッチのポーチに張った綿を落ち着かせるためのしつけをかける

            表布の底からしつけをかけるので底部分が縦方向になるように置く

            底部分の中心を押さえながらしつけをかける

              布に対して横に針を通して重ねた三枚をしっかりすくう

              糸が斜めにわたるように4センチ先に針を進めて三枚をすくう

              くりかえす

              布端までしつけをかけたら一回半返し縫い または 全返し縫いをする

              糸は3センチ位で切る   玉留めはしない

              しつけをかけたところの待ち針を抜く

            もう片方の底部分も同様にしつけをかける

              しつけをかけたところの待ち針を抜く


            次は表布を縦に戻してから同様にしつけをかける

              しつけをかけたところの待ち針を抜く

            逆方向の縦中心も同様にしつけをかける

              しつけをかけたところの待ち針を抜く


            表布の四隅に向かって打っている待ち針に添って同様にしつけをかける

              しつけをかけたところの待ち針を抜く


            縦方向と四隅に向かってかけたしつけの間にある三角形の隙間を、

            縦方向のしつけに対して平行になるように同様にしつけをかける

              3センチから4センチ間隔で隙間なくしつけをかける


       内袋を作る

            裏布を幅44センチ長さ42センチで切る

            ポケット布を切る  幅44センチ長さ17センチ一枚

                      幅12センチ長さ15センチ一枚

            ポケットの口を折り返して半返し縫いかまつり縫いで仕上げる

            裏布の底に大きなポケット布を中表に合わせて半返し縫いをして上にあげる

            ポケットの中心を縫ってもいいし、スナップで留めてもいい

            もう一歩の側に小さい方のポケット布を置き待ち針でとめる

            三方を内側に折り返して半返し縫いかまつり縫いで仕上げる

            ポケット口の端から7ミリ位のところにかんぬき止めをする

            裏布を底から中表に合わせて袋の口から下1センチまで待ち針を打つ   

            袋の口の幅を1センチ縫うように待ち針を打っておく

            底で一回半返し縫い 間は並み縫いで袋の口の角から一針したで一回半返し縫い

            糸を斜めに渡して袋の口で一回半返し縫い

            今回は縫う長さが1センチなのでもう一回半返し縫い

               長く縫う場合は間は並み縫いにする

            縫い目にアイロンをかけてから縫い代をアイロンで割る


他 『かんぬき止め』 縫い針に縫い糸を7回くらい巻き付けて抜いて縫い留める

                     開きどまりや力がかかるところを補強するための方法

         『ぐし縫い』   しつけ糸2本どりで並み縫いを平行に二本

                  4本の糸を絞ったり形を整えたりするときに使う方法

                     小物の時は一本でもよい



       次回持参する者   ファスナー

                 私の巾着はできるところまでやっておく

            



 

 







  

基本がわかっていると工夫ができるようになります。自分色の何かを作っていただけると嬉しいです。

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