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第百二十二話 ルドとフィー

「なぜ戻って来た!!!! 逃げろと言ったはずだ!!!!」


 呆然としてしまい動けない。掴まれた肩が痛い。なぜクフィアナ様はこんなに怒っているんだ。

 逃げろと言ったのに戻って来てしまったことがそんなに許せないのか……。キーアを殺しておいて今さら戻って来るなんて、ということか……。


「クフィアナ様、落ち着いてください。皆が驚いております」


 マクイニスさんが溜め息を吐きながらこちらに近寄ると、クフィアナ様の肩に手を置き、俺から引き離す。

 クフィアナ様の手はグッと力が籠められたあと、俺の肩から離れた。


「す、すまない……でも、なぜ戻って来たのだ。私は逃げろと言った。行けば良いと言った……」


「あ、あの……す、すみません……でも、俺……」


 なんて答えたら良いのか分からなかった。ナザンヴィアの情報を伝えたいだけだったけれど、皆が俺を受け入れてくれた。そのことに浮かれすぎていたのかもしれない。


「すみません……話だけしたら……出て行きます……」


「ちょ、ちょっとリュシュ!!」


 アンニーナが驚き肩を掴む。


「ハハ、ごめん、皆もありがとう。こんな俺を受け入れてくれて。でもそうだよな、一度逃げ出した俺がなにを今さら戻って来ようとしてるんだって話だよ」

「リュシュ!」


 フェイも俺の肩を掴んで険しい顔をした。受け入れてくれていた皆には申し訳ないな……。


「すみません、話をしたらすぐに出て行きますから……話だけは聞いてください」


 それだけはどうしても伝えないといけない。これだけは譲れない。


「ち、違うんだ! そうじゃない……出て行けなどとは言っていない……」


「え?」


 クフィアナ様は困ったような戸惑うような顔。


 そのとき隣に立つマクイニスさんが溜め息を吐いた。


「いい加減にちゃんと向き合ったらどうですか? この方は《ルド様》なんでしょう? この方はまだ全てを思い出してはおられないようだ。貴女も覚悟を決めなさい」


「?」


 なんのことを言われているのか分からない。皆、そういった顔だ。

 ただ、ビビさんはクフィアナ様に寄り添い、宥めるように頷いた。クフィアナ様は戸惑いと泣き出しそうな弱々しい顔になった。



「わ、私はリュシュに出て行って欲しいわけではない……ただ……争いとは無縁の場所で幸せになって欲しかっただけだ……」


「…………」


「君の幸せがこの場所ならば……それを止める権利は私にはない……ないのだが……でも……どうしても……」



 クフィアナ様は苦しそうに言葉にする。その姿に俺も苦しくなる……。


 そんな苦しそうな顔は見たくない……、そんな顔をさせたいわけではない……、俺はお前が一番大事だったから……


「フィー……」


「!?」


 咄嗟に口に出た言葉。前世で俺が呼んでいたクフィアナ様の愛称。俺だけがそう呼んでいた。

 側近の二人以外の皆は意味が分からず呆然としている。


 クフィアナ様は俺を驚きの表情で見詰め……


「ルド!!」


 そう言葉にすると俺を思い切り抱き締めた。力強く、しかし存在を確かめるように優しく、抱き締め顔を埋めた。



「ルド……ルド……」



 クフィアナ様の声は震えていた。首元に顔を埋めていた顔を上げると、瞳からは涙が溢れ、酷く切なく、しかしとても幸せそうな顔をしていた。


 顔を上げたクフィアナ様は戸惑う俺たちに説明するかのように、ゆっくりと話し出した。



「すまない、ルド……いや、リュシュ……君の記憶や力を封じたのは私だ…………」



 そう言い、クフィアナ様は俺の額に自分の額を当てた。目の前に美しい銀色の瞳が煌めく。恥ずかしいやら照れるやら、そんなものは一切感じなかった。なぜかその状況をすんなりと受け入れている自分がいる。


 そしてゆっくりと瞳を閉じたクフィアナ様はなにか呪文のような言葉を呟き、それと同時に触れる額からなにかが弾けるのを感じた……。


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― 新着の感想 ―
[一言]  おや、リュシュの力と記憶を封じたのがクフィアナ様?  ただ、国境付近で会った時はそんなそぶりはなかったから、先の大戦の別れの時だろうか?  うーん、これは変な憶測はやめて次を読むとしましょ…
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