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第百十七話 ナザンヴィアの者たち

 薄暗い部屋のなか、男の呻き声が響き渡る。酷く苦しむ様に、寝台の横に控える青年は不敵に笑った。




 ナザンヴィア城の内部では戦慄が走っていた。王が崩御されたのだ。しかしそれだけではなく、王の死因に城の者たちはおののいていた。




 王は魔術師たちと怪しげな術を執り行っていた。上層部にしか知らされず、城で働くほとんどの者は王が何を行っているのかを知らなかった。

 しかし徐々に城の内部で諍いが起こるようになってきた。空気が重く、なぜか部屋はいつも暗い雰囲気となった。


 感覚の鋭い者たちは明らかな異変に皆逃げ出して行く。しかしそれを許さない王は逃げ出した者たちを捕まえ、どこかへと連れ去った。その者たちの行方を知る者はいなかった。


 次第に王の体調が優れない日が増えて来た。そしてついに床に臥せるようにまでなってきたのだった。

 それからは第一王子が全てを取り仕切るようになってきた。第一王子のシルヴィウス、第二王子のラヴィリーグ、二人は容姿こそ似ていたが考え方が全く違い、いつも国政について対立していた。


 シルヴィウスは王の考え方に沿い、怪しげな術を引継ぎ、そしてドラヴァルアへの侵攻を進めていた。それに対しラヴィリーグは穏健派の者たちと共にドラヴァルア侵攻を食い止めようとしていた。


 逆らう者に容赦がなかったシルヴィウスはラヴィリーグを排除しようとしていた。しかしラヴィリーグを守る者たちの手によっていつも後一歩のところで逃してしまう。


 命を奪おうと画策したとき、いち早く気付かれ逃してしまった。シルヴィウスは苛立ちを隠せない。


 そんなときに王が崩御されたのだ。死因は謎に包まれていたが、城の者たちの間では例の術のせいではないのか、と噂されていた。現に術に関わった者たちは次々と謎の死を遂げていたり、行方不明になっていた。そして城の者たちはその気配に触れ、徐々に精神を病んで行く者が増えて行った。


「シ、シルヴィウス殿下、ほ、本当に大丈夫でしょうか……」


 顔色悪く、冷や汗をかきながら震える声で聞く男。この国の宰相だ。王が崩御されてからというもの、次は自分の番ではないのかと恐れているのだ。


「何の問題もない。それよりもラヴィリーグは見付かったのか?」


 低く冷たい声で宰相を見下ろすように鋭い目線で睨む。


「ひっ、い、いえ、申し訳ございません、まだ……」


「いつまで時間を掛けているつもりだ」


「も、申し訳ございません! 国中探したのですが見付からず! もしや、国外に逃げているのではと……」


「ならば、国外を探せば良いだろう」


「は、はい!!」


 宰相は逃げるように部屋を飛び出して行った。




「フン、役立たずが。せっかく父上が死んだのだ。あの術を完成させるまでラヴィリーグに邪魔はさせんぞ」



 あの術……あれは五百年前の戦いのとき、ナザンヴィアが編み出した術。あのときはドラヴァルアに敗戦したが、あのときの術はひっそりと残されていた。

 王が古い書物のなかから見つけ出したのだ。それ以来、王は憑かれたように術を完成させようとしていた。

 実際、取り憑かれ命を落としているのだから笑える話だ。


 自分は絶対そんな間抜けな真似はしない。シルヴィウスは笑った。


 あの術は禁呪。人の命を使って作り出す邪法だ。多くの人間の命を一つの魔石に捧げ続けるのだ。最初は一人。一番に犠牲になった魔術師。書物に載る、命を吸い上げる魔石を作製し、その魔石は作製した者の命を喰った。


 一度人の命を喰った魔石は、後は自然と命を吸い上げて行く。触れた者たちを誘い込むように命を吸い上げて行くのだ。


 そうして多くの命を吸い上げた魔石は不気味な気配を放った。その気配を浴びた者は皆精神を病んで行く。王も同様だった。皆、魔石に吸い寄せられて行くのだ。

 王は辛うじて周りの人間が必死に止めた。しかし魔石の力に魅入られた者は死を免れなかった。


 王の傍でそれを見守って来たシルヴィウスは、自分まで同じ轍は踏まないとあらゆる手立てを講じ、それを防いだ。


「父上が死んだおかげで私は国王になれる。後はラヴィリーグを始末するだけだ。あの術を完成させ、今度こそドラヴァルアを手に入れてやる」


 シルヴィウスは窓の外を眺め不敵に微笑んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言]  この第一王子は術で自爆しそうだ。対策もどこまで通用するのか。絶対、制御できなくなりそうですよね。
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