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第百三話 クフィアナとリュシュ

「リュシュ……」


 慌てて立ち上がり後退る。俺は城から逃げ出した。俺にはもう城に置いてもらう資格なんてない。それに、俺は……キーアを殺した……


「キーアのことは聞いた……残念だ……だが、お前のせいじゃ……ない」


 その言葉にピクリとした。


「俺のせいじゃない? ハハ……、俺のせいじゃなければ誰のせいなんです? キーアのせいだとでも?」


 ち、違う、こんなことを言いたいわけじゃ……


「仕方がなかったんだ……」


「仕方がない……仕方がないからキーアが死んだのか……ハハ」


 あぁ、駄目だ……皮肉ばかりで返してしまう。クフィアナ様はきっと俺を心配してくれているだけだろうに……情けない……。


「俺……もう竜騎士にはなれない……育成課も辞めます……すみません、もう……城にはいたくない……」


「…………あぁ、行くといい。辛いのなら逃げればいい。辛い場所にいる必要はない…………逃げてしまえばいいんだ」


「でも…………死なないでくれ…………と…………ど……」


 クフィアナ様は優しい瞳で、しかし酷く悲しそうに俺を見詰めた。そして最後に小さく呟いた声は俺には届かなかった。



 俺はゆっくりと歩いて離れて行く。姿が見えなくなるまで、クフィアナ様はずっと俺の背中を見詰めていた……。




『リュシュ、どこ行くの~?』


「どこに行こうかな……」


 精霊たちは至る所どこにでもいた。一度姿が見えてしまうと、今まで気付かなかったのが不思議なくらい、周りにたくさんいる。

 しかもどこに行こうとも精霊たちは俺のことを知っていた。泉にいた精霊たちはそのまま泉に残っていた。違う場所では違う精霊がいるのに、今までの経緯を全部知っている。精霊の不思議だ。


 精霊たちの話では、俺は人間の前世だったから精霊たちが見える、ドラゴンの前世だったから魔力もある。しかし今世では封印をされていたから、精霊も見えず、魔力も使えず、ということだったらしい。

 それが今回の事件をきっかけに封印が解け、精霊も見えるようになり、魔力も戻ったということらしい。ちなみになぜ俺にそんな封印が施されていたのかは精霊たちも知らなかった。

 おそらく前世でなにかあったのではないか、と結論付けていた。


 皮肉なものだ……ずっと魔力が欲しかった……魔法が使いたかった。でも……でもこんなきっかけで戻っても嬉しくなんかない!

 キーアを犠牲にして手に入れた力なんて……!!



 死ぬことも出来ず、人を避け、ふらふらとあてもなく歩き続けていると、いつの間にかカカニアに帰って来てしまっていた。


 懐かしい俺の村。三年ぶりの俺の村……でも、今は帰ることは出来ない……。

 帰ったら絶対俺は甘えてしまう。俺の家族は優しい。絶対慰めてくれる。受け入れてくれる。それが分かるからこそ……帰ることは出来ない。


 村の入口まで来てしまったが、村の人間に見付からないよう、そこから森へと向かった。


 この森はあの白竜と会った場所。想い出の場所。竜騎士になりたい、と願ったあの日。あの日の約束のためだけに、俺は城を目指したんだ……それなのに……こんなことになるなんて……。


「クフィアナ様……最後になんて言ってたんだろうな……いや、そんなこともうどうでもいいか……」


 一体自分はなにをやっているのか。もうどうしたらいいのか分からなかった。


 ほとんど飲まず食わず歩き続け、ボロボロになってもなかなか死ねない自分の頑丈さに嫌気が差した。


 森の奥に進むと国境が見える。フェイたちが一年間過ごした国境だ。あれを越えるとナザンヴィア……。


「ナザンヴィアにでも行こうかな……」


 ドラヴァルアにいると常に竜を思い出す。キーアを思い出す。忘れたいわけじゃないけれど、死ぬことすら出来ないのならば今は離れたい……キーアは許してくれるだろうか……。




 どうやって国境を越えようかと悩んでいると精霊たちが協力してくれた。精霊の不思議な力で俺の姿を隠してくれたのだ。


 そうやって姿を隠した俺は誰にも見付かることなく国境を越えた。



 ナザンヴィアへと入ると、ドラヴァルアと同様に森が続いていた。その森をふらふらと再び歩いているうちにとうとう限界が近付いたようで、俺はそのまま意識を手放した。


 ようやく俺は死ねるのか……


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― 新着の感想 ―
[一言]  クフィアナ様はなにか知ってますね。それを伝えることはできなかったけれど。  しかし、ここで問題のある隣国に入ってしまうとは。どうなってしまうんだろう。
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