駅の中で、かくれんぼ 7
「 サヨコさんが怪奇??
お姉さんはサヨコさんを知ってるんですか? 」
「 まぁね。
怪奇界で名前を名乗っちゃったんでしょうね。
肉体を亡くした残留思念だから、怪奇には憑かれなかったけど、怪奇にされちゃったのよ 」
「 怪奇界に招かれたからですか? 」
「 一寸違うかしらね。
迷い込んだり、招かれる以外にも怪奇界へ行く方法はあるからね 」
「 …………僕、もう…怪奇界へは行きたくないです… 」
「 あらぁ、それは無理よ。
ユタク君には怪奇界へ自由に出入り出来るようになってもらうんだもの 」
「 え゛っ… 」
「 大丈夫よ、ユタク君。
アタシがあげたワッカを肌身離さず持ってれば安全だから。
怪奇も手が出せないから、ユタク君を見逃してくれたのよ 」
「 僕は見逃してもらえたんですか? 」
「 そうよ。
色々と親切に教えてくれたのは生き残りたいからよ 」
「 生き残りたい??
で、でも…サヨコさんは死んでるんですよね?? 」
「 ユタク君が話してくれたでしょ。
サヨコは『 見付けてほしかった 』『 帰りたかった 』って言ってたんでしょ? 」
「 はい… 」
「 生き残れないと此方の世界へ帰れないし、死体を見付けてもらえないからよ 」
「 死体… 」
「 早くて明日には、サヨコの遺骨が駅の何処かで発見されるでしょうね。
遺骨が発見されれば、遺骨だけでも家に帰れるもの 」
「 あ……それで『 帰りたい 』って言ってたんだ…。
怪奇にされてもサヨコさんは誰かに遺骨を見付けてほしかった… 」
「 ユタク君のお手柄ね。
27年前に誘拐されたまま行方不明だったオグレ サヨコを助けてあげたんだから 」
「 27年前…… 」
「 それにサヨコが招いた被害者も帰してもらえるみたいだし。
怪奇と交渉するなんて、やり手じゃないのよ。
助手見習いとしては特待生よ❇ 」
「 …………有り難う御座います…(////)」
「 だけど…残念ねぇ 」
「 えと…何が残念なんですか? 」
「 本来はね、素人が怪奇と交渉なんてしちゃいけないのよ。
今回はサヨコから交渉条件を提示されなかったから良かったけど… 」
「 交渉条件?? 」
「 互いに交渉条件を提示して、互いに納得したら交渉成立になるの。
『 命を寄越せ 』とか『 怪奇になれ 』とか『 身体の一部と交換だ 』なんて言われたら困るでしょ?
怪奇との交渉が決裂したら武力行使になるのよ。
交渉相手の怪奇より己の方が強い事を力で示さないといけないの。
怪奇に舐められたら終わりなのよ 」
「 …………僕は…運が良かったんですか? 」
「 ユタク君の誠意がサヨコに伝わったんでしょうね。
サヨコにしてみれば、ユタク君は自分を見付けてくれた恩人だからね 」
「 ……僕がサヨコさんの恩人…… 」
「 でも──、2度と怪奇にお願いしたり交渉したりしたら駄目よ。
怪奇に頭を下げるなんて以ての外なの。
これからは気を付けてね 」
「 はい…… 」
「 数日以内には行方不明者も帰って来る筈よ。
無事な姿で──とはいかないと思うけどね 」
「 どうしてですか? 」
「 だって、サヨコは “ かくれんぼ ” がしたかったんでしょ?
“ かくれんぼ ” をする為に怪奇界に招いたのに誰にも見付けてもらえなかったんでしょう? 」
「 …………はい…。
サヨコさんは、そう言ってました 」
「 抜け殻の身体だけでも帰してもらえるんだから有り難いじゃないの 」
「 抜け殻?? 」
「 ほらほら、ユタク君。
早く食べないとデザートのパフェが溶けちゃうわよ 」
「 あっ……!! 」
僕は溶け掛かっているパフェのアイスクリームをスプーンで掬って口に入れる。
お姉さんとデザートを食べ終わった後は、駅長室へ向かった。
駅長さんと話し終わったお姉さんと一緒に駅を出たら、【 喫茶 えみゅ〜る 】へ向かった。
もうすっかり夜で【 喫茶 えみゅ〜る 】に着いたのは20時過ぎだった。
喫茶店の外に2階へ上がる階段がある。
1階は喫茶店になっていて、階段を上がると住居になっている2階に入れるようになっている。
喫茶店の右側にある階段を上がると勝手口みたいなドアがあって、ドアを開けると廊下が見えた。
手前は玄関になっていて、靴を脱いで上がるようになっている。
脱いだ靴を下駄箱に入れたら、ルームシューズを履いて廊下を歩く。
廊下の右側にはダイニングキッチンがある。
ダイニングキッチンの左側には洗面脱衣室のドアがあって、ドアを開けると洗面脱衣室の奥に浴室のドアがある。
洗面脱衣室のドアの左側には御手洗いがある。
ダイニングキッチンの前はリビングになっていて、ソファーやテレビ,本棚が置かれている。
「 ユタク君の泊まる部屋は此処よ。
アタシの部屋はユタク君の隣よ 」
「 お姉さん… 」
「 ユタク君の荷物は運ばれてると思うわよ。
お風呂も沸いてるし、先に入っちゃいなさい 」
「 はい…。
お姉さんは1階に行っちゃうの? 」
「 リビングに居るわよ。
21時から心霊特番があるから見ないとね★ 」
「 心霊特番…ですか? 」
「 心霊特番は夏の風物詩よ。
【 あなたが知らない世界 】の再現ドラマ好きなのよねぇ♥ 」
「 怖くないんですか… 」
「 ユタク君、ホラー番組はエンタメの娯楽なのよ。
今はね、CG合成作品を如何に本物らしく見せるのか──って旨趣で番組が成り立ってるの。
何れだけ視聴者を騙せるか──が腕の見せどころよ。
怖がる要素なんて何処にもないの。
全部、嘘っぱちの作り物なんだから安心して 」
「 ……本物は入ってないんですか? 」
「 本物ねぇ…。
1000枚の心霊写真の中に2枚あれば上々ね 」
「 1000分の2…ですか?
1000枚中2枚は本物なんですか? 」
「 可能性の話よ。
本物の心霊写真なんて、早々御目には掛かれる代物じゃないの。
撮ろうと狙って撮れるものじゃないのよ 」
「 殆んどの写真が狙ったわけじゃないと思うんですけど…… 」
「 ほらほら、ユタク君。
お風呂に入った入った。
アイス食べながら心霊特番見ましょ☆ 」
「 僕…は見たくないです… 」
お姉さんに促されて僕は、お風呂に入る事になった。
用意してもらった部屋には僕の荷物が置かれている。
僕は下着と部屋着と使用済みの下着と靴下を入れる袋をリュックサックの中から出すと、部屋を出て洗面脱衣室のドアを開けた。
バスタオル,フェイスタオル,ボディタオルと洗顔,シャンプー,コンディショナー兼ボディーソープは自由に使ってもいいみたい。
靴下を脱いで、着ている服を脱いで、下着を脱いだら、袋の中に靴下と下着を入れた。
僕は浴室のドアを開けて────。