駅の中で、かくれんぼ 6
…………僕は…何時まで此処に居ないといけないのさ……。
時計が止まっているから今が何時か分からない。
………………これが “ 神隠しに遭ってる ” って事なのかな?
もしもそうなら…此処には僕みたいに神隠しに遭ってる人達が居るんじゃないかな?
探してみよう。
見付けてみよう。
居るか居ないのか分からないけど……、何もしないでいるよりはマシだよね?
僕は座っていたベンチから腰を浮かせて立ち上がった。
よ〜〜〜し、頑張るぞ!!
僕は男だもん!
クヨクヨするのは終わりだ!!
僕は気を取り直して「 誰か居ますか〜〜 」って声を出して歩き出した。
僕は自分が「 まるで “ かくれんぼ ” をしている鬼になったみたいだな 」って思った。
“ かくれんぼ ” かぁ……。
お姉さんの家に土足で無断で上がり込んで “ かくれんぼ ” したなぁ……。
誰も住んでない空き家だと思って居たのに、お姉さんに声を掛けられて吃驚したっけ……。
寿命が縮むかと思ったよ……。
僕は「 もういいか〜〜い? 」って声を出してみた。
誰も居ないんだから返事が返って来るわけがないんだけど、何と無く「 もういいかい 」なんて言っちゃった。
………………あれ?
今、何か見えた??
影みたいなのが見えたよ!
誰か居たのかな?!
僕は走った。
影みたいなのが見えた場所を目指して走った。
「 ──見付けたぁ!! 」
僕は声を上げていた。
人影なのかは分からないけど、何かが見えたんだから「 見付けた! 」って言わないとだよね?
「 …………フフフフフ… 」
「 ──誰なの!? 」
「 見付けられちゃった… 」
「 僕と同じ神隠しに遭った人なの? 」
「 …………神隠し?
違うよ… 」
「 えっ?? 」
「 “ かくれんぼ ” したかったの… 」
「 えっ??
“ かくれんぼ ” したかった?? 」
「 誰かに見付けてほしかったの… 」
「 ど……どうして? 」
「 …………帰りたいから… 」
「 帰りたい??
帰りたいから “ かくれんぼ ” したかったの??
分からないよ… 」
「 見付けてくれて有り難う… 」
「 ど…どう致しまして??
あの……僕以外にも誰か居ますか? 」
「 居るよ 」
「 本当!?
何処に居るの? 」
「 此方に呼んだのに誰も見付けてくれなかった…… 」
「 あの…… 」
「 君は見付けてくれたから、返してあげる 」
「 えっ?? 」
「 一緒に帰ろうね 」
「 あ…あのっ、僕以外の人達も一緒に帰せないですか? 」
「 …………どうして? 」
「 一緒に帰りたいんです…。
帰りを待っている家族が居るんです。
だから…… 」
「 ………………………… 」
「 お願いしますっ!!
此処に来ちゃった人達も僕と一緒に帰してください!!
お願いします!! 」
僕は姿の見えない声の主に深々と頭を下げた。
僕が頭を下げる事で怪奇の被害に遭った行方不明者達も一緒に帰れるなら、僕は幾らでも頭を下げるよ!
「 …………………………うん…。
いいよ… 」
「 本当??
有り難う!!
あっ、あのね、僕の名前は──── 」
「 駄目だよ 」
「 え?? 」
「 怪奇の世界で自分の名前を言っちゃ駄目なの。
怪奇に憑かれちゃうよ… 」
「 怪奇に憑かれる?? 」
「 生きてる人間は名前を名乗ったら駄目。
怪奇界では暗黙のルールだから 」
「 ……う、うん…。
教えてくれて有り難う……。
えと…… 」
「 サヨコ… 」
「 サヨコ……さん?
サヨコさんは名前を名乗っても良いの? 」
「 …………サヨコは…もう死んでるから… 」
「 あっ……ご…御免なさい…… 」
「 フフフフフ…。
君って不思議な子ね… 」
「 そ…そうかなぁ… 」
「 怪奇界に迷い込んだら、出入り口になった場所へ戻ってみて 」
「 え? 」
「 君の場合はトイレね。
トイレに入ったら、鏡を見てからトイレから出てみなさい。
怪奇界から出られるから 」
「 サヨコさん…。
帰り方を教えてくれて有り難う! 」
「 怪奇界に招かれたら、招いた怪奇に気に入られなさい。
怪奇界から出られるから 」
「 サヨコさん……。
僕はサヨコさんに気に入られたの? 」
「 フフフフフ……。
違うよ…。
君は迷い込んじゃったの。
良かったね、招かれなくて 」
「 …………招かれたら良くないの? 」
「 気に入られなかったら怪奇にされちゃうからね 」
「 えっ…… 」
「 ほら、帰りたいんでしょう?
君が使ったトイレへ向かって 」
「 う、うん…… 」
「 ワタシは……オグレ サヨコ…。
彼方の世界で会いましょう… 」
「 オグレ サヨコさん…。
サヨコさん、有り難う!
またね!! 」
僕は姿の見えない “ オグレ サヨコ ” さんへ手を振ってから男子トイレを目指して走った。
何処の男子トイレを使ったのかは覚えている。
はぁ…はぁ…はぁ……僕が入った男子トイレの前に着いた。
男子トイレの中へ入って、洗面台に掛けられている鏡を見たら、男子トイレから出た。
ザワザワと騒がしくて、人通りが多い駅に戻って来られた?!
視界に入った時計を見たら秒針はちゃんと動いていた。
僕は本当に戻って来られたのかな??
僕は急いで【 ポルの樹 】へ向かって走った。
本当に戻っているなら、お姉さんに会える筈だから!!
【 ポルの樹 】の前に着いた。
僕は大きく深呼吸してから店内へ入った。
店内には店員さんが居て、お客さんも居て賑わっていた。
僕はテーブルに向かって歩く。
テーブルには僕の初恋のお姉さん──、僕が片想いをしているお姉さんが居てくれた。
「 ──っ、お姉さん…… 」
「 ユタク君、お帰り〜〜。
デザート持って来てもらおっか 」
「 ──お姉さん、僕がトイレに行ってからどのくらい経ってますか? 」
「 えぇ?
う〜〜〜ん……10分も掛かってないわよ 」
「 そう…何ですね…… 」
「 どうしたの? 」
「 …………僕…怪奇の世界に迷い込んじゃってたみたいです… 」
「 怪奇界に? 」
「 はい… 」
僕は男子トイレを出てから体験した事を包み隠さず話した。
「 …………そう…。
オグレ サヨコ──ねぇ。
ユタク君、帰って来られて良かったわね 」
「 はい!
サヨコさんは親切な人……幽霊??…でした 」
「 サヨコは怪奇よ。
怪奇にされちゃった子なの 」
「 えっ? 」