第13話 小悪魔委員長爆誕
「それで、どういうことなのかな?」
昼食を終えて、軽く休憩……といった夏の午後。
木陰に座り込んでラノベを開いた俺の前に、麻生さんがそんなことを口にしながらしゃがみ込んだ。
あまりに破壊力のある光景に、思わず目を逸らす。
「青天目君? ちゃんとこっちを向いてくれる?」
「無茶をおっしゃる」
谷間、内もも、──、どこに視線をやっても、もれなく犯罪確定だ。
かと言って、文字通り面と向かって麻生さんの顔を直視するのも気恥ずかしい。
この委員長殿も、もれなく美少女なのだ。
「なにか都合が悪いことでもあるのかな~?」
「健康優良男子にはちょっと刺激が強いかな」
「……えっちだ。でも、ちゃんとこっち向いてくれると嬉しいな」
「ご勘弁を。それで、えーっと……どういう?」
俺の誤魔化し気味な返事に「わかってるくせに」と苦笑する麻生さん。
それに軽く首を振って俺も笑顔を張り付ける。
「ヨガの神秘なんだ」
「それはさっきも聞いたけど?」
いいじゃないか、ヨガってことにしておけば!
浮く、伸びる、消える、火を噴く!
日本のサブカルチャー的には、こういう問題はだいたいヨガで解決できるはず!
「日月さんはすぐに教えてくれたけど?」
「嘘だろ!?」
「ほら、やっぱり何か隠してる」
「……oh」
まさかのカマかけ。
麻生さんがこうも強かな人だったとは予想外だった。
「打ち上げの時から、ちょっとヘンだなって思ってたんだよね」
「問題があるから秘密にしてるんだ。あんまり深掘りしないでくれると嬉しいかな」
「ヒミツなんだ? もうバレちゃってるのに?」
少し悪戯っぽい笑顔を俺に向ける麻生さん。
クラスメートのチャーミングな一面に、胸が少し高鳴ってしまう。
「いろいろ事情があってね。秘密にしておいてくれると助かる」
「どんな事情かな?」
「実は……異世界から転生してきた元魔王なんだ」
「もう、また? 中二病は早めに治さないと!」
決死の覚悟で告げた神秘的な事実は、麻生さんの楽しげな笑い声に葬られてしまった。
「いいよ。今回はそれで納得する」
「ありがとう。それと、日月が迷惑をかけてすまなかったな」
「あはは、お父さんみたい」
まぁ、保護者ポジであることは認める。
最近は随分と落ち着てきたと思ったのに、まさかあのような暴挙に出るとは。
あとで、もう一回お説教が必要だな。
「でも、青天目君の格好いいところが見れて得したかも。キュンとしちゃった」
「え?」
俺が聞き返すと同時に、麻生さんが立ち上がる。
見上げviewも最高に危険な彼女が小さく笑って手を振った。
「それじゃ、日月さんと吉永さんが待ってるから。また後で!」
「あ、ああ」
砂浜を軽快に駆けていく吉永さんの後ろ姿を見送って、俺は軽く目を閉じる。
眼福を記憶に留め置くには、余計な情報を遮断する必要があるからな。
「うひひ。魔王レグナ、ついに常夏の春か?」
余計な情報をねじ込まれてしまった。
ていうか、近くで見ていたなら少しくらいフォローしてくれたっていいだろうに。
「耀司、いたのか」
「おう、ついさっきからな。いやー、今日のイインチョは攻めるねぇ」
「やっぱり?」
「ばりっばりの大攻勢じゃねぇか。さすがに気付くって」
ニヤニヤ顔の耀司に、溜息で返す。
こいつの思惑もいまいち読めないところがあるんだよな。
魔王軍にも似たヤツがいたのだが、そいつは裏切ったので処断した。
……少なくとも目の前の友人は、何か企むことはあっても裏切ることはあるまい。
「んで、どうすんの?」
「どうするとは?」
「可愛い女の子が三人。夏。リゾート……後は言わなくてもわかるよな?」
「ああ、もちろんだ」
浮かれたみんながつつがなく夏を楽しめるように、うまく立ち回らないとな。
特に、浮かれ過ぎの元勇者には要注意だ。
トラブルを起こすだろうと身構えてはいたが、まさかあのタイミングでとは恐れ入った。
俺にしたって気を抜きすぎて、うっかり魔王ムーブを晒してしまったのだが。
「ま、がんばるよ」
「おう。期待してるぜ」
この夏をプロデュースしてくれた親友に余計な迷惑をかけないためにも、気を引き締めていかないとな。
「さて、俺は軽くバーベキューの準備してくるから、耀司は女子ズと遊んで来い。女の子、好きだろ? ただし、節度を持ってな?」
「おいおい、魔王レグナ? 話、聞いてた?」
次にその名で俺を呼んだら、エチゼンクラゲに好かれる呪いをかけてやるからな。
「お前が遊ばなくてどうするよ?」
「ん? 俺?」
「そうだよ!」
そりゃあ、水着の美少女と楽しい時間を過ごすのはやぶさかではないが、陰キャの俺には少しばかり眩しすぎる。
それに、耀司が全然楽しめていない気がするんだよな。
どうしたものかと考えていると、誰かが砂煙をあげながらこっちに近づいてきた。
まぁ、女子の中で砂煙が出るほどの脚力を出せるヤツといえば、元勇者殿しかいないが。
「みつけたのです!」
「別に隠れちゃいないけどな」
「お、いいところに。日月ちゃん、こいつの事、よろ」
「任されたのです!」
あれ、勝手に話が進んでいくぞ?
俺は、木陰でラノベタイムをキメるはずだったんだけど。
「では、いくのです」
「……仕方ないな」
この残念勇者がまた恐ろしいマネをするかもしれないし、見張りは必要かもしれない。
特に、少しばかりはしゃぎ過ぎだしな。
「ん」
差し出された手を握る。
少しひんやりとした体温を感じつつ、俺は引き上げられるままに立ち上がった。
「じゃあ、耀司。あと頼むわ」
「おうよ。いってら」
ひらひらと手を振る耀司に軽くうなずいて、俺はすばると一緒に砂浜へと向かうのであった。




