ラブコメにあるまじき一撃だからやめよう。
更新です('ω')!
「んじゃ、おつかれー!」
耀司の音頭を合図に、紙コップで乾杯する。
なかなか青春っぽくていい……なんて余韻に浸っていると、隣に座ったすばるが俺の前にポテトをそっと置く。
お布施のつもりだろうか。それならそれで、せめてMサイズにしてくれ。
「蒼真、今回は助かったのです。よかったら次もお願いするのです」
「そりゃ構わんが……普段から勉強はしとけよ? あと、青天目な」
やり取りを見た吉永さんが思わず吹き出す。
「前から思ってたけどさ……。お父さんかっての! ウケる!」
「オレも同感。何ていうかさ、もうちょっとあんだろ。距離感」
陽キャ二人に笑われて、思わず顔をしかめる。
「これが……『パパみ』なのです……!?」
「そんな言葉はない」
バブみの類義語を創造してはいけない。
しかし、ズルだのなんだの言っていたのに現金な奴だ。
「そんなに効果あるなら、アタシも受けたかったな。『青天目ゼミ』」
妙ちきりんな名称をつけるのは止そう。
「あ、ここゼミでやったところだ! ……って、なるか!」
「なるのです」
俺のノリツッコミに深く頷いたすばるを見て、またもや爆笑する吉永さん。
テスト明けのテンションだろうか。いや、確かにはしゃぎたい気持ちはわかる。
灰色の中学生活と対比すれば、現状は実にカラフルで……驚きに満ちている。
「蒼真どん、蒼真どん……どうしてオレっちを誘ってくれなかったんだい……」
「誘ったが来なかったじゃないか。それに、日月は特別だからな」
あの学習法は元勇者で以前に魔力パスを繋いだからこその手法だ。
まあ、『賢人の秘薬』の供出くらいならやぶさかではないが、それでも効率は落ちる。
元勇者のすばるであれだけの負担があったのだから、耀司に流し込めばパンクして頭が沸騰するかもしれない。
「……ん?」
何故みんなして俺を見ているんだ?
耀司は何やらニヤニヤしているし、吉永さんは慈愛溢れた目で俺を見るし、麻生さんはなんだか少し驚いた顔だ。
それでもって、すばるはなんだか少し赤い顔で俺を睨んでいる。
「どうした?」
「青天目君って、天然なんだね……」
麻生さんが、なんだか脱力した様子で口を開く。
まぁ、人工ではないけど……いや、天然ってほどでもないだろう。
この間、相模と河内に「空気読めない」って言われたけども!
「そう言えば、海に行く予定なんだよね?」
いたたまれない空気を察してか、麻生さんが話題を変えてくれる。
全力で乗っかるしかない。
「ああ、夏休みに海に行く予定があってさ」
「そそ、オレの田舎でリゾートバイト。急にリゾート化して人手が足りないってんで、体力のある高校生をこき使おうってことらしくてさ」
「へぇ、いいじゃん。リゾートバイトなんてちょっと憧れるかも。アタシはまだバイトとか禁止だからできないんだけどさ……」
少し寂し気にする吉永さん。
病気は完全に治したはずだが、経過観察中であるらしい。
まったく、医者というのは疑り深い連中だ。
「よかったら、遊びに──……」
途中まで笑顔だった耀司の口が止まった。
視線の先は俺の背後。そして、ちらりと俺に目配せ。
……問題ない、気付いてはいる。
「よー、楽しそうじゃねーか? おれらも混ぜてくれよ」
振り返ると、相模と河内……あと、知らない人。
なかなかステレオタイプなバッドボーイだ。
浅黒く焼いた肌に金髪、趣味の悪い金のアクセ。
ピアスは耳と鼻にいくつか。太く筋肉質な腕にはよくわからないタトゥーも入っている。
なかなか、気合が入ってるじゃないか。
相模と河内もこのくらいやれば、キャラクター性が確立するのにな。
「調子乗ってるつってたの、こいつらかよ?」
「ッス」
男はニヤニヤしながら俺達を見る。
「お、ちょうど女が三人いんじゃねーか。遊びに行こうぜ。ひと夏の体験させてやるよ」
近づく男と相模たちに麻生さんと吉永さんが体を強張らせる。
「やめてくれませんかね。怖がってますよ」
どう穏便に場を収めようと思案しているうちに、耀司が引きつった笑いで告げる。
動きを止めた男はジロリと耀司を睨み、ずかずかと歩いていき……イスごと耀司を引き倒した。
「なんだテメェ? ナマ言ってんじゃねぇぞ?」
「暴力反対……なんつって。ぐっ」
男は半笑いの耀司を掴み上げ、容赦なく殴りつける。
耀司のうめき声が聞こえたかどうか、という瞬間……俺とすばるは同時に、そして超高速で男の前に踏み込んだ。
それでもって、男に撃ち込まれるはずだったすばるの拳を左手で止めた。
直撃そのものはしなかったものの、完全に止めきれずに発生した衝撃波が男の身体を打ち据える。
強烈に脳を含む内臓を揺すられた男は、その場で色々な液体を放出しながらどさりと崩れ落ちた。
……ま、死んでなきゃセーフだろ。
「すばる、抑えろ。殺すな」
息を荒くするすばるを右手で抱き込んで、留める。
くそ。こんな時じゃなきゃ、役得と決め込んで堪能してやるんだが。
ちなみに左手は今ので粉砕骨折&神経断裂している。
「おい、耀司。大丈夫か?」
「いってぇ……」
だろうな。かなり強烈に殴られていたし。
あとでこっそり回復魔法を飛ばしてやるから少し待ってろ。
「な、なんだよ! 見せもんじゃねーぞ!」
「どけよ! おら!」
背後では逃げようとしている相模と河内が、周囲の野次馬にスマホで撮影されていた。
「よーし、よし。落ち着け。な?」
「わたしはとても落ち着いているので離してほしいのです」
「ホントか? トドメの一撃、しないか?」
「……」
おいおい、怖えーな!
そこは、YESと答えろよ!
まったく、相模たちといい、この男といい自殺行為はほどほどにしてほしい。
すばるもすばるだ。怒ったからって聖撃込みの殺人パンチを繰り出すもんじゃない。
楽しいフードコートがPTSDに満ちた凄惨な事件現場に早変わりするところだったぞ。
「テスト明けに警察沙汰とかシャレにならねぇ。行こうぜ」
すばるを抱きかかえたまま「怪我人とおりまーす」と声を上げると、人垣がすぱっと割れる。
その間を俺達は、そそくさと通り抜けた。
いかがでしたでしょうか('ω')
本日でラストまで走ります!
最後まで、どうぞお付き合いくださいませ。