ちなみに『死の魔法』なら頑張れば使えそうな気がする。
更新('ω')!
「クラスメートからか?」
「……真理からだったのです」
挙動不審なままスマホを仕舞い込んだすばるが、妙にそわついている。
もしかしてお手洗いを探していたりするんだろうか?
「そ、蒼真。レストランは、いいのです」
「腹減ってないのか?」
まぁ、チュロス食ったしな。
「そうではなく……お弁当を持参しているのです」
「あれ、料理できないんじゃなかったのか?」
「そんなことはないのです」
食べ専とかって言ってた気がしたが。
聞き間違いだろうか。
「じ、実は、真理の分も作ってきたのですが……良かったら、どうなのです?」
「俺が食っていいのか?」
「食べないともったいないのです」
確かに、作った弁当をそのまま持って帰るというのは少しばかり寂しい。
俺も弁当を詰めることがあるので気持ちはわかる。
「じゃあ、ご相伴に与ろうかな」
「じ……じゃあ、荷物をとってくるのです」
妙に浮足立った様子で立ち上がり、高速でDエリアのロッカーへ駆けて行くすばる。
おいおい、転ぶなよ? 道がへこんだら大変だからな。
「しかし……」
これは、なかなかない経験だな。
客観的に見れば、一生の思い出レベルの幸運ではないだろうか。
美少女と制服デートに手作り弁当。
うん、ラブコメの主人公らしい、実にありきたりで悪逆な状況だ。
「ただいまなのです」
「おかえり。荷物、持つか?」
「……? 急にどうしたのです? 気味が悪いのです」
ちょっと配役らしいことをしようとすればこれだよ。
まあ、役者として不足なのは仕方あるまい。
今後、俺よりも気遣い上手な男がすばるをリードしてくれることを期待しよう。
「せっかくなので、お任せするのです」
「はいはい」
すばるが差し出した少し大きめのトートバッグを肩にかけて、テーブルベンチが設置されている広場へと足を向ける。
広場はお昼時ということもあって、それなりに込み合っていたがまだまだ空席があり、その一つに俺達は腰を落ち着けた。
周囲にはちらほらと西門高校の制服姿も見かけるが、もう耀司にあれだけ目撃情報が言ってるなら、今更警戒したところで焼け石に水だろう。
いざとなれば、週明けに魔法で記憶をちょいちょいと改竄してしまえばいい。
「む、胡乱なことを考えている目なのです」
何故ばれた。
最近ちょっと鋭いぞ、すばる。
「それよりも、はいなのです」
差し出された青い弁当包みを受け取る。
結構、大きい。
吉永さんは結構食べる方なんだろうか。
「おお、すごいな」
青い包みを解いて、やはり少し大きめな弁当箱を開くと、なかなかどうして良くできているお弁当だった。
一口サイズのおにぎり、出汁巻き卵にタコさんウィナー、具沢山な彩りのポテトサラダ、ハムに巻いた野菜スティック……オーソドックスながらどれも美味しそうだ。
「そ、そうなのです? ヘンではないのです?」
「いやいや、大したもんだ。料理できないと思っていたが、すごいじゃないか。バーベキューの時も手伝えばよかったんじゃないか?」
「う……わたしにもいろいろあるのです!」
いろいろあるなら仕方ないな。
「召し上がれなのです」
「いただきます」
手を合わせて、箸をとる。
ふと見ると、随分小さめの弁当箱を広げたすばるが、伺うようにこちらをチラチラとみていた。
「どうした?」
「何でもないのです」
こういう挙動不審な動きをするときは「なんでもない」ってことはないのだろうが、この頑固な元勇者は問いただしたところで、どうせそれを口にしない。
ま、放っておけば後でぼろを出す。
それまでは、そっとしておこう。
出汁巻き卵を一つとって、口に放り込む。
少し塩味が濃い気もするが、これはこれでなかなかにうまい。
「どう、なのです?」
「美味いよ。すばるは料理上手だな」
俺の答えに表情を緩ませるすばる。
なんだ、もしかして味の事を気にしていたのか?
「味見はしたんだろ?」
「何度もしているうちにわからなくなったのです」
「料理あるあるだな」
話しながら向かい合って、弁当を食む。
「午後からは反対側のエリアに行くか」
「なのです。『タランチュラマン』ライドに行ってみたいのです」
「よし来た」
マップを広げてルートを確認する。
「途中で『ヘンリー・ペッター』エリアのそばを通るけど、少し見ていくのはどうだ」
「賛成なのです! 魔法の杖が欲しいのです」
杖などなくとも魔法が使える俺達に必要だろうか?
「そう言えば、映画の魔法……どのくらい再現できる?」
「どれも難しいのです。武装解除の魔法なんて意味が分からないのです」
「だよな。この世界の人間の『魔法』ってのは夢が詰まってていい」
「はっ! もしかして箒に乗れば<飛行>を使ってもいいのです?」
「ダメに決まってるだろ」
弁当箱を仕舞って俺は苦笑する。
「美味かった。ご馳走様」
「本当においしかったのです?」
「ああ。文句なしだ。この調子ならいいお嫁さんになれるぞ」
軽口に一瞬虚を突かれた顔になったすばるが、顔を逸らす。
「女が料理担当なんて考え方が古いのです!」
なにも怒らなくたっていいじゃないか。
いずれ現れるだろう、この料理が毎日食べられる奴……ってのが、ちょっとうらやましくなっただけだ。
いかがでしたでしょうか('ω')
なお、「頑張ったんだから、ちゃんとナバちゃんにたべてもらうよーに!」とメッセージが届いております。
「そろそろ爆発しろ」「つづき! はやく! やくめでしょ」という方は、是非下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして、次の更新をお待ちくださいませ!