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第6話 ミラベルお姉様

 セドリックはしっかりとミラベルとの出会いの場を設けてくれた。


 翌日、デスタン侯爵家に来て4日目、ようやくリリアーヌは義姉ミラベルと出会う機会を得た。


「は、初めまして、ミラベル様」


 ミラベルの私室の一角、応接スペースでリリアーヌはかしこまった。

 対面でソファに座るミラベルの隣には2歳になるミラベルの息子がスヤスヤ眠っていた。


「初めまして、リリアーヌ嬢。気さくにお姉様と呼んでいただいて構いませんわ。本当の姉だと思って」


「それでは……ミラベルお姉様。私のことも、どうぞ本当の妹だと思ってくださいませ」


「ええ」


 ミラベルは赤毛に青い目をした女だった。

 デスタン侯爵が茶髪、セドリックが金髪。髪の色が合わない。


「驚かれた? 私とセドリックは異母姉弟なのです」


「ああ、そうだったのですね……」


「母は私が小さいときに亡くなって、後継ぎのいなかったお父様がすぐに迎えたのがセドリックのお母様。お母様は優しい方で、私のことも実の娘のように扱ってくださいました……。私が離縁されてお腹を抱えて実家に出戻ったときは我が事のように泣いてくれた……ああ、お労しいお母様」


 ミラベルは窓の向こうを見つめた。

 遠くに屋敷が見えた。

 セドリックの母が療養している離れなのだろう。


「……お母様の病状について、あなた何か聞いて?」


「い、いえ、半年ほど休養されているということくらいしか……」


「そう……。私もちゃんとは知らないの。セドリックの婚約破棄が原因なのかしらとも思うけど、それでこんなに悪くなるものかしら……」


 ミラベルの顔には気遣わしげな色が浮かんでいた。


「……ああ、暗い話をしてしまったわ。明るい話をしましょう。ほら、私の息子のアンベールを見てちょうだい。天使のようでしょう?」


「はい、とても可愛らしくてらっしゃいます」


「……あなた、ごきょうだいはいて?」


「後継ぎの兄が1人、お嫁に行った姉が2人、小さな妹が1人」


「すべて同じお母様?」


「はい……」


「そう、それはそれは褒められたでしょうね……」


 ミラベルは遠い目をした。


「小さな妹さんがいるということは、子供の世話は慣れてらっしゃる?」


「は、はい。花嫁修業だと思えと言われました」


「そう……それじゃあ、安心ね」


「ミラベルお姉様?」


「……私に再婚の話が何通か来ているのです。お父様もセドリックも隠しているつもりだけれど、男の嘘なんてすぐ分かる」


「再婚……そ、それは、おめでとうございます……あ、でも、アンベール様が……」


「そう。経産婦を欲しがるなんて、大抵は後継ぎを産ませるのが目当て。余計な火種になるアンベールは連れて行けません。お父様は私のためにお話しを拒んでくれているけれど、場合によっては……」


 ミラベルは切なそうな顔でアンベールの頭を撫でた。


「……だから、もしもの場合、アンベールをお願いします。後継ぎになんてわがままは言いません。ただ、デスタン侯爵家の子供として、置いてやって欲しいのです」


「……よく分かりました。もしもの時は、アンベール様のことはお任せくださいませ」


「ありがとう、リリアーヌ」


 ミラベルは微笑んだ。


 セドリックは姉の事情を踏まえて、アンベールを養子に迎えると言ったのだろうか?

 だとしたら姉弟の思いは少しばかりすれ違っている。

 しかし、嘘や秘め事を無闇に暴くなど余所者(よそもの)がしていいことではない。


「……こう言ってはなんだけれど、お姫様よりはあなたのようにしっかりしたお嬢さんがセドリックのお嫁さんで良かったわ」


「…………」


 グレースのことを悪く言われることは、我慢ならない。

 しかし、ここまで弱さを見せた義姉にそんな怒りはぶつけられない。

 リリアーヌはただ黙り込んだ。


「……セドリックは、無愛想でしょう?」


「は、はい……」


 そんなことはない、とはさすがに言えなかった。


「……ごめんなさいね」


 ミラベルは困ったように笑った。


「せめて私がお母様の引き継ぎを出来てればよかったのだけれど……それすら怠ってしまいました……あなたには苦労をかけますね」


「……苦労は、覚悟の上です」


 元から代わりの嫁入りだ。

 何があろうと、リリアーヌは受け止める覚悟だ。


「そう」


「……私は、セドリック様を幸せにするためにここにいるのですから」


「……弟のこと、よろしくお願いします」


 義姉は頭を下げた。

 リリアーヌはそれに礼を返した。




「ふー」


「いかがでした?」


 私室に戻ったリリアーヌの肩を軽く揉んでやりながら、ラウルトは彼女の様子をうかがう。


「……良い方でした」


 リリアーヌは端的に答えた。


「……ああ、このお屋敷、セドリック様さえいなければなんて過ごしやすいところなのでしょう」


「あらあらまあまあ」


 ラウルトは苦笑した。


「……跡取りのアンベール様もいるのだし、要らないかもしれないわ。セドリック様」


「酷いおっしゃりよう……帰りたくなりました?」


「いいえ」


 リリアーヌはきっぱりと言い切った。


「私はグレースとの約束を守ります」

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「追放された聖女はお見合い斡旋所に再就職します」
元聖女が他人の恋愛模様を通じて、自分も恋愛していく物語、完結です。
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