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俺のクリスマス戦線

作者: 望森ゆき

 Action1 会社のクリスマス会にて



 俺はべろんべろんに酔っていたはずだった。


 男たちは「二次会に行くぞー!」とか何とか叫んで、完璧に出来上がっていた。女たちはキャーキャー言いながら満更でもなさそうだった。


 二次会に行く道すがら、俺は隣を歩く同期の女子に話しかけられた。


「直人君はカノジョさんに何あげるの?」


 その一言で、酔いが醒めた。そして、少し青くなった。その様を見た女子たちはキャハキャハと笑った。


「あっれぇ~?」


「愛するカノジョさんへのプレゼント、もしかして忘れてた?」


「何あげるか決めてなかった…」


 俺がボソボソと見苦しい自己弁護をしたら、さらに笑われた。



*****


 Action2 あっちこっち走る



 俺はある店の前で、溜息を吐いた。あの夜、女子たちにもらって喜ぶものを聞いたのだ。なんせ酔っ払い相手だ。聞き出すのには、かなり手間取った。あの苦労を思い出すと自然と溜息が洩れるものだ。店の前だということを忘れて。不審者を見るような眼で女子高生たちや店員たちに見られていたことを知らずに。


 =====

 ===


「指輪なんてどう?」


 それは去年渡したものだ。俺はカノジョに金属アレルギーがあることを最近になるまで知らず、最初のころは指輪が飾られていることにショックを覚えた。だから、今年は肌に触れる金属系は贈らないことに決めていた。この提案は却下だ。


「ペアのマグカップとか?」


 難癖をつけることしかできないのかと言われそうだが、それも却下だ。なぜなら、俺のいる街は陶器で有名で、ことあるごとに貰えて、家は陶器で溢れている。


「じゃあ……」


 さらに何か言いかけてくれた女子の言葉を遮って聞いた。普段の俺なら人の話を最後まで聞く。それがマナーだと思っている。だが俺は酔いが醒めたとはいえ、酔っぱらっていたし、事は急を要する。二次会が始まる前までには聞き出さなければ一人で悩まなければならなくなる。


「俺的には、実用的な物がいいと思うんだ。女の子にとって実用的な物って何がある?」


 俺は内心焦りながら答えを待ち望んだ。


「えぇ~」


「それ聞いちゃう~?」


「言ってもいいのぉ?」


 俺は答えを急かした。すると帰ってきた答えは。


 ===

 =====


 回想を強制終了させて俺は目的のラグジェリーショップの中に入ろうとして固まった。

 だって! だって!! だって!!!

 カノジョがそこで客を相手にしているんだ!

 拙い。非常に拙い。俺は回れ右をして、女子たちを少し恨んだ。

 カノジョの顔は女子たちに知られていることを今更思い出した。そして、カノジョの働いている場所も。

 俺は次に目を付けていたところに向かって走り出した。どうかカノジョに俺だとばれませんように。そう祈りながら。


 =====

 ===


「やっぱり、下着とか」


「特に駅前にある花畑ブランドのが可愛くてお勧めよ」


 なるほど。その手があったか。俺はホクホクした。場所も分かっているし、値段もそう高くないだろうと踏んだ。だがその時、心配そうな顔をした後輩がもう一つ提案してくれた。俺は今その後輩に感謝している。“感謝感激永遠に”だ。俺が走って辿り着いた場所は、大型ショッピングセンター。


 ===

 =====


「すみません、柄タイツって何処に置いてありますか?」


 俺は恥を捨てて女の店員に聞いた。店員は顔色を変えずに俺に言ってきた。


「すみません。お客様、男物は当店では取り扱っておりません」


「い、いや。俺じゃなくて、カノジョにプレゼントしようと思ったものだから……。レディスのものをお願いします。ついでにお勧めのものがあれば教えてほしいです」


 俺の顔は赤かったと思う。それでも、店員は「分かりました」と言うと顔色を変えずに俺に尋ねてきた。


「ではカノジョ様のヒップの大きさは?」


「え?」


「腰回りのことです」


「えっと……。それは分からないんですが」


「では、お勧めのしようがございません。申し訳ありません」


 俺は狼狽した。それが顔に出ていたのだろう。店員が俺を憐れむように見やり、提案してくれた。それを聞いて、


 俺って単純だなぁ


 と思いながらもお礼を言って、次の店に行った。



*****


 Action final あげるもの



 俺はカノジョに顔を赤くしながら、紙包みを手渡した。カノジョは顔を輝かせた。渡した後になって、俺の顔は緊張で強張っていた。


 カノジョは俺からのプレゼントを開けるととても嬉しそうに満面の笑顔で言った。


「ありがとう。とても気に入ったわ。来年もよろしく!」


 最後の一言に俺はガクッとした。だが、次のカノジョの言葉で俺はタイツの店員に感謝雨霰だ。


「私、この店のポーチ欲しかったのよね。化粧品入れとしても使えそうだし。とっても嬉しい!」


 そう、あの店員は女の子女の子した草原パレードという店を紹介してくれ、更にはあげると喜ばれるものを教えてくれたのだ。店に入るのに花畑ブランドより勇気は必要なかったが、買う時はかなり気恥ずかしかった。

 俺が、ホッとしているとカノジョは笑顔のまま言った。そう笑顔のまま。


「で? 直人は一昨日、なんで私が働いてる店に来たのかしら?」


 俺が顔を青くして、


 勘弁してくれよ……


 と狼狽していると、カノジョはふふふと笑って言った。


「そのことに関してはまた明日聞き出すとして、今日は年に一度のクリスマス! 楽しまなくっちゃね!!」


 明日が怖いなぁ……


 そう思いながらも、今年もカノジョとの楽しいクリスマスの夜は更けて行く。


【完】

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