第3話【スットン京太郎の告白その1】
それでもめげずにアタックを続けるのが僕の流儀だ。
僕は可愛い女の子ならば誰かれ構わず告白をするわけではない。
そんな無責任な男ではない。
ただ心に決めたその人一人だけを。
ただ純粋に、そして愚直に、愛を告げる。
そう。まず僕のこの一途な思いを伝える必要があるはずだ。
「はっ、はっ、はっ……」
という荒い呼吸を右手に感じる。
段ボールで拳を補強。即席のハンドサポーター。
段ボールの中で握りしめるは、ビーフジャーキー。
よだれを滴り散らせ、その段ボールに食らいつくは、ヨークシャテリア犬。
「法香ちゃん!」
鶴亀の翌日、朝のこと。
人もまだらな駐輪場で、右手に犬を噛みつかせながら、彼女にアタックだ!
「飼い犬に手を噛まれると言うけれど、僕は絶対に法香ちゃんを裏切らない!」
はっはっはっ、という荒い犬の息遣いが聞こえる。
「わぁ」
眠たげな目をしていたが、法香ちゃんは目を輝かせてヨークシャテリアに向かう。
「毛並みふっさふさ~。どこの子?」
「これは近所のおばちゃんのとこの犬でな……」
「そうなんだー」
世間話で終わってしまった。
その犬を繋いでいたチェーン。
近所のおばちゃんから、次は柔らかいのに買い替えると言って貰い受けた。
昼休み。
鎖に金色のスプレーで色を付け、告白だ!
「うぉぉおおお!」
なんてイノシシみたいな勢いで突進し、見事なシュートを決めたサッカー選手のように滑り込む。
「金の鎖も引けば切れるらしいけれど、僕の思いは絶対にちぎれない!」
パフォーマンスのために胸元で大きく鎖を広げようとしたら、ぺきょんと音を立てて鎖が弾けた。
「乱暴じゃないのがいいなぁ」
手を開けば、金粉まみれになっていた。
し、膝は擦り切れていた。
次は汚れないやつでいこうと思った。
ならば四月。
とくれば桜!
僕は早朝に登校し、ざるいっぱいの桜の花びらをかき集めて彼女を待った。
そして、木の上から桜の花びらを撒き散らしながらアタックだ!
「あなたの心に恋の花を咲かせましょー! 咲かせましょー!」
もっさもっさと花びらを振りまく。
法香ちゃんは眩しそうに見上げてきた。
「あぁ……うん。灰じゃないんだ……」
今朝はどうも彼女のテンションが上がり切っていないようだった。
彼女から見て、見上げた僕が太陽と重なる。
「へむちょ」
と彼女はくしゃみをした。
可愛い。
ので、昼休み。
彼女を空き教室に呼び出してアタックだ。
「太陽を見るとくしゃみが出るというのと同じノリで、僕を見たら恋してほしい!」
幼稚園児のお楽しみ会で見るような、手作り感あふれる太陽を頭の上に掲げて告げる。
「わぁ。なんかなつかしい。幼稚園のときカブ抜くやつやったなぁ」
「僕は怪獣たちのいるやつをやったな」
「えー、あれ怖いよ」
なつかしい思い出話で終わってしまった。
しかし童話系はなかなか好感触のようだ。
今度は頭に大きなネジをつけてアタックした。
「僕はねじ巻き王国のねじ巻き男爵。僕は人間に恋をしないと心が宿らないんだ。だから僕と付き合ってよ!」
「え~! 素敵! お話を聞かせてよ!」
法香ちゃんはとても喜んでくれた。
ので、ねじ巻き王国の話を聞かせた。
創作短編。『ねじ巻き男爵と実り姫』。
中略。
法香ちゃんはとても喜んでくれました。
けれども、語りに熱中してしまって、肝心の告白を忘れてしまいましたとさ。
めでたくない。めでたくない。