第13話【ダディ予告】
人生で何の役に立つのかもわからない授業をきっちり受けて、僕は帰宅した。
それにしても…と、僕は思い返す。
法香ちゃんの親御さんへ挨拶するのは急らしい。
卯月やハイネのときとかは急でもなんでもなかったのだが、やはり恋愛が絡むと特別なのだろうか。
特別、かぁ。むふふ、と、晩御飯を前にしているのにも関わらず顔が緩む。
僕と法香ちゃんの特別の恥じらい。ほっこり、いい気分になる。
ヒエールたちが他の男子たちとイチャイチャラブラブする性癖を持っていることなんてどうでもよくなってきた。
「あらキョーちゃん。みっともなくバカ面晒してどうしたのかしら~?」
母上がそんな僕に話しかけてくる。
母上は僕よりも背が高く、体のあらゆるパーツがほっそりとしている。桃色のティーシャツにクリーム色のエプロン姿。そして相変わらず、平和な話し方だ。
「母上。いえ、少々浮足立っていました」
「あらあら~。生まれたときのほうがまだ顔が引き締まっていたと思うのに、この十五年間で一体何を学んできたのかしら~」
「多くを学んでおります、母上。本当に、多くを」
「たとえのひとつも出てこないのかしら~。あなたは本当に金喰い虫ね~」
母上は、今日もぽやぽやとしていて毒がない。
そういえば卯月から、僕は母上に関する感覚がマヒしていると聞いたことがある。
何のことはわからないが。
母上は父上がいないと特に気が抜けてしまうようで、この有様である。
晩御飯のコロッケと天ぷらをごろごろと並べながら、母上はテレビをつけた。
「母上、今日もご飯をありがとう。いつも美味しくいただいている」
「あらあらあら~。そうよね~。取り柄のひとつもないならせめて礼儀くらいはちゃんとしなきゃね~」
喜んでくれているようだ。
「そういえば、ケイちゃんが週末に帰ってくるんですって~」
「父上が?」
「そうよ~。ロクに金にもならない大学講師を一ヶ月もやって帰ってくるんですって~」
僕の父親は大学教授だ。
海外の教授ランキングの中でもそこそこ上位に君臨しているらしい。
我が父上ながら誇らしいことこの上ない。
「そうか、父上が帰ってくるのか……」
「アレを父親と慕うだなんてあなたは本当に脳みそピーマンね~。アレはもはや父親とかそういう次元の生き物ではないわ~」
久方ぶりの父上の帰国に、母上も喜ばしいようでいつもよりも口数が多い。
週末は賑やかになりそうだ。
やはり家族というのは、仲が良いことに越したことはないな。
僕はナスを丸ごと揚げた天ぷらを頬張った。
少し食べ辛かったが、美味しかった。