ネックレスは夢と共に
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・今回は、「オオダコと沈没船」の後日談です。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
【前回までのあらすじ】
靖之と舞は、カリーナとの勝負に敗北した。
敗者という現実を前に、2人は死を覚悟すると共に最後の賭けに出る事を決意した。チャンスは1度だけであり、これでダメなら命は無い。
虎視眈々とその時が来るのを待つが、その前に『ある物』を渡される。
それは、カリーナ達が追っていたモンスターを呼ぶキーアイテム。彼女達の目論見は図に当たり、計画は成功した。
目的の達成を余所に、生贄(?)となった2人に対して不吉な言葉を残して。
――騒動から、少し経った後。
「……クソッたれ! あの野郎……今に、今にみてろよ!」
靖之はベッドから飛び起きるなり、感情を爆発させた。
ただ蓄積した疲労により、前回負ったケガの状態が悪化したのだろう。緊張の糸が切れた事で、痛みを自覚したらしい。
数秒もしないうちに激痛で倒れ込むと、声も上げずに悶絶した。
おっ、落ち着け……
殺されかけはしたけど、こうして戻って来れたんだ。そこに関しては、まず素直に喜んでおこう。
問題は、次またアイツに出くわした時だ。
今回助かったのは、あくまでも偶然。
ネックレスに何の効果があるかは知らんが、あの痛み……とてもじゃないけど、物理的どうこうというレベルを超えてたからな。
何かしらの……こう、呪術的な? 得体の知れないものが付与されてたのかもしれない。
クソッ!
こんなのが続くようなら、命がいくつあっても足りんぞ。1日でも早く、この狂った現象を終わらせないと。
もう沢山だ……
冷静に振り返ろうにも、コンディションは最悪な状態である。
ただ体を丸めて耐えている中、靖之はある事に気付いた。
「……んっ? これは……っ!」
脇腹付近に固い物があるので無造作に取り出すなり、思わず固まってしまう。
そう、それは彼にとって忘れたくても忘れられない負の遺産だから。
「こんな事をしてる場合じゃない……あーっ、自分の体がもどかしい! 痛むっていったって、殆どは筋肉痛の類だからな。頭も大丈夫なのに、体中が軋んで動けん……でも……せめて、これぐらいはっ!」
靖之は渾身の力で枕元に手を伸ばすと、プルプル震えつつもスマホを確保。
ぎこちない指の動きで操作し、舞に電話を掛ける。
「あっ、ああ……佐山君、おはよう……っ!」
「奥田さん、こんな時に電話してすまない。ただ……っ! どっ、どうしても確認したい事があって」
「……いえ、それは別にいいんだけどさ。急に……っ! どうしたの?」
どうやら向こうも靖之と同じ状態らしく、辛さは電話越しでも伝わって来た。
ただ、それでも靖之は聞かずにはいられなかったらしい。
「ほらっ、アイツに渡された例のネックレス。目が覚めたら、そのまま身に着けててさ。てっきり向こうの物はこっちに持って来れないって思ってたから、ちょっとビックリしてて……奥田さんはどうだった?」
「あっ! そうそう……私も、それが気になってて。今までは、持ち込むのはどうやったって無理だったからね。やっぱり、何か特別なアイテムなんじゃない?」
「俺も、そうだと思う。生贄がうんたらとか言ってたし、何か秘密があると見て間違いない。問題は、それが何かだけど……」
「……そうね。こっちは、内容が内容だけに誰にも相談出来ないじゃない? 正直2人だけじゃ、限界があるよね」
「ドン引きされるのが解ってるから、どうしても相談自体に後ろ向きになってしまう。まぁ、こればっかりは仕方ないとしか言えない。もどかしいけど……」
「だよね……でも、手をこまねいてる場合じゃないし。とりあえず今日は学校で合流するとして、何を調べるの?」
「ネックレスに関してはもう光ってないし、そもそも調べるのは無理がある。後は地名ぐらいで他に収穫がないんだから、今日は本にスポットを当てるべきだと思う」
「確かに……言われてみれば、そうよね。佐山君も言ってたけど、学校なら修復の専門家がいるだろうし」
「まぁ、結果が出るまで時間が必要だけど。でも、このまま何もしないよりかはマシだと思う。最低でも、夜寝るまでに1つでいいから情報が欲しい」
「ええ、このままじゃジリ貧だからね」
八方ふさがりに陥り掛けつつも、どうにか確認とスケジュールを決める事には成功。
最後に、細かい部分の修正に移る。
「奥田さんは、今日の講義は何限から?」
「私? えーっと、ちょっと待ってね……ああ、2・3限だけよ。佐山君はどう?」
「僕は……2・4限だけど、4限は先生が用事とかで今週一杯は休講になってるから、問題ない」
「へぇ、いいわね。じゃあ、合流は1限目の前ぐらいにする?」
「それでいいと思う。ただ話を聞きに行くにしても、授業が始まる前に済ませる必要がある。待ち合わせは文学部の研究室棟にしたいんだけど、奥田さんは大丈夫?」
「ええ、それで問題無いわ」
「じゃあ、ちょっと早いけど9時にしよう。もちろん、解ってるとは思うけど例の本を持って来るのも忘れずに」
「了解。じゃあ、また後でね」
「ああ、また後で」
話をまとめて電話を切ると、壁時計で時間を確認する靖之。
約束の時間まで約1時間半なので、そのまま学校に向かう準備を始めた。
――同時刻。
「おっ、アーロンさんじゃないですか? あなたがこんな時間に船を出すとは、珍しいですよね?」
「まぁの……事件続きで、夜はオチオチ船も出せない。食っていく為には、背に腹は変えられんよ」
太陽が顔を出し始める頃、老父は若手の同業者に声を掛けられた。
既に仕事道具は積み込み、後は船を押し出すのみ。会話こそ普通ながら、事故が多発しているのは事実。
神妙な面持ちながら、生きるには働かなければならない。
「もうすぐ、イワシ漁が始まりますよね? それまでに、騒ぎが収まってくれるとありがたいんですけど」
「……まぁ、なるようにしかならんさ。それに、そう辛気臭い顔をするな。気持ちが後ろ向きだと、魚まで逃げちまうぞ」
「ははっ、それもそうですよね。じゃあ、僕は一足先に海に出て仕事を始めます。アーロンさんも早くしないと、ポイントが埋まっちゃいますよ?」
「なぁに、まだ若いもんに遅れは取らんさ。ワシはすぐに追いつくから、君は先に始めててくれ」
軽く言葉を交わし、青年はさっさと沖に向かって船を出して行った。
老父は平静を装っていたが、彼の姿が見えなくなると一変。神妙な顔つきで湾外を見やり、大きな溜息をつく。
もちろん、考えていたのは昨晩の事だ。
結局、彼は戻って来なかった……
1晩色々考えたが、やっぱりこの国の人間ではないと思う。でも、そんな人間が何でこんな田舎に現れたのか?
密漁者には、見えなかった……
外国のスパイなら都会に行くだろうし、誘拐犯だったら爺婆だらけの町に目は付けない。
正直よく解らんが、何か久しぶりに海に活気が戻ったような気がする。今日なら獲物に困らないだろうし、今は仕事に集中しよう。
もし彼を発見したら、弔ってやる必要があるしな。
答えが出ないので半ば諦めたようだが、同時に最悪なケースも頭にあるのだろう。
すぐれない顔色のまま、老父はボートを押し出して漁に出た。
――時は流れ、午前9時過ぎ。
「マジで、信じられない! このタイミングで、普通休講になる? しかも学会や調査の類じゃなくて、友人の結婚式って……もういい年の社会人なんだから、それしきの用で仕事を休むなって話でしょ!」
「奥田さん、ここ図書室だからね? それに、結婚式って人生の節目なんだから。そりゃあイラッとはするけど、親しい友人なら参加したいんじゃないの?」
場所が変わっても、まだ舞の怒りは収まらないようだ。
周りの目もあるので収めようとする靖之だが、それでも彼女は止まらない。
「そんなのは、どうでもいいわ! 私達は、命が掛かってるのよ? ついさっき、殺されかけたのをもう忘れたの?」
「いや、だからここは図書室だから……言いたい事は解るけど、周りの目と耳も考えないと。それに、休講は今日だけなんだから。運が悪かったと割り切って、明日また出直せばいいんじゃないか?」
「まぁ、それはそうだけどさ……でも、よりにもよってこのタイミングよ? 私達が、今晩も無事に生き残れる保証なんてどこにもない。最悪だわ」
「そうならない為にも、今は冷静になるしかない。先生が居ない現実は、ここで騒いでも変わらないのだから」
「……もう! そりゃあ、そうだけどさ……」
予定を崩され怒り心頭の舞をどうにか宥め、ホッとする靖之。
ただし、彼女が言っている事も事実だろう。気持ちはよく解るが、ここで2人揃って喚き散らすわけにはいかない。
感情をグッと抑え、目の前の現実に向き合う事にした。
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貼り紙が示すように、2人にとっては流れが来ている状態。
それに時間が時間だけに、室内はほぼ無人の状態である。調べ物をするには、これ以上ない環境といえるだろう。
それに、彼らには時間を無駄にする余裕はない。
感情的になるのを止めると、すぐに行動を開始した。
「今解ってるのは、ポーリーという地名のみ。場所はイギリスだとして、気になるのはその位置。私は地図を掻き集めて来るから、佐山君は、本の確認をお願い。ないとは思うけど、見落としがあったら怖いし」
「了解。重くて持てないようだったら、呼んでくれたら持って行くから。くれぐれも、ケガだけはしないように」
「大丈夫、大丈夫。それにケガだったら佐山君の方が酷いんだし、お願いだから無理だけはしないでね」
「いや、これしき大丈夫。心配ないから」
互いに気遣い合うと、そのまま作業を開始。
本棚の奥に舞が消えるのを確認すると、靖之は本のチェックを始めた。
「それにしても、この本には何が書かれてるんだろう。これまでの経緯からして、一連の異変に関係してるのは間違いない。ただ、今は白紙の状態。解読しようにも、プロの力が絶対に必要だからな」
とりあえず本を手に取ってページを捲るも、全く期待をしていない靖之。
本人としては時間潰しのつもりだろうが、あるページを開いた所で固まった。
「……えっ? 何だ、これ?」
散々目を通していただけに、衝撃が大きかったのだろう。
そこには、白紙のはずのスペースに字がビッシリ書き込まれていたのだから……
――その頃、老父はというと。
「とりあえず、数日分の食料さえあれば十分だからな。大物は若い連中に任せて、ワシはノンビリやるとしよう」
ポイントに到着したのか、そろそろと網を海の中に入れ始める老父。
場所は、湾を出て海岸線に少し移動した地点である。小さいながら川が流れ込んでおり、その入口に蓋をするように張って行く。
所謂、刺し網というやつだ。
「おっ! ジョンソンさん……ちょうどいい所に」
「どうしたんだ? 血相を変えて」
潮の流れを読みながら網を投入していると、少し離れた場所から声を掛けられた。
作業を止めて相手の方を見るが、顔馴染の中年漁師の1人だった。
「今日も、1人やられた……まだ20ちょいだとゆうのに、惨い事しやがる」
「……そうか。いかんせん、警察もあのザマだ。暫くは、夜は大人しくしとくしかないだろうよ」
「まぁ、そうだよな……規則を破ったんだから、自業自得な部分はある。ただ……こうも好き勝手にされてると、さすがに腹が立つぜ!」
「そういうな……元はと言えば、ワシらが好き放題にやったのが原因。事件の解決は当然だが、それ以上にウチの漁師全体の意識を変えんと意味が無い。違うか?」
「……ああ、その通りだ。今回の件で、俺も思い知ったよ」
相手は何か言いたそうだが、老父の言っている事に心当たりがあるのだろう。
少し沈黙があり、再び向こうから話を振って来た。
「警察だかの捜査は、明日からのようだ……また漁場が荒らされるだろうし、漁は今日中に終わらせた方がいいだろう」
「わざわざ、すまんな……お互い色々考える所はあるだろうが、今は我慢だ。葬儀には参列すると、親族に伝えてくれ」
「ありがとう……家族には、俺が責任をもって伝えておく」
会話は、以上で終了。
去って行くボートを見ながら、老父なりに思う所があるのだろう。だがそれを振り払って、目の前の仕事に集中。
網を入れて終わると、時間潰しなのか竿を出して釣りを始めた。
「……それにしても、あの子は大丈夫だろうか? どこの誰であろうと、ワシには関係ない。ただ、もう1度でいいから会いたい。そして、一緒に酒を飲みたいもんだ」
どこか懐かしむような顔で、空を見上げる老父。
悩みタネは多くとも、ふと靖之の顔が浮かんでそう呟いた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。
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