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夢国冒険記  作者: 固豆腐
70/70

キジも鳴かずば(10)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――爆発発生直後


「命令とはいえ……これでは只の虐殺ではないか」

「俺達の責任と言えば聞こえはいいが、殺される側からすれば言い掛かりでしかない。恨まれて当然だろうな」

「汚れ仕事。帰る場所も無い以上、それも生きる為と割り切ってこなして来た。しかし、こうも心が痛くなるとは……」


 生存者を発見、即殺害しつつもマーフォーク達の顔は一様に暗かった。

 それでも容赦する素振りは見受けられず、淡々と作業に従事している。


「生体反応無し。このエリアは完全にクリアしました」

「証拠になり得る痕跡も見受けられません。時間もありませんし、さっさと本丸に向かいましょう」

「どの道、この辺りは地図上から消えて無くなるんだ。隠蔽工作になんか熱を入れずに、早く終わらせてしまえ」

「……そうだな。いくら仕事とはいえ、気分が良いものではない。今回ばかりは、自分達を正当化しようにも無理があり過ぎる」


 区画内の人間の殲滅を確認したのだろう。

 次のエリアに移動を始めようとした時だった。


「おいっ! そっちに1人行ったぞ!」

「闇雲に攻撃するな。相手は1人だ。数を生かして確実に殺せ!」

「落ち着け! 建物内の制圧戦マニュアル通りに動けばいい。多少動けるとはいえ、所詮は人間だ。俺達マーフォーク相手に何が出来る!」


 近くから声がしたかと思うと、連続で矢の放射音が発生。

 戦闘など想定していなかっただけに、慌てて救援に向かった。


「何があった!」

「生きていた人間の中に1人だけ生きの良いヤツが混じってただけだ。こっちは俺達が対処するから、お前等は持ち場に戻れ」

「そんな悠長な事を言ってる場合か! 始末するどころか、さっきから相手に振り回されてるだけだろうが!」

「五月蠅い! 俺達に指図するな!」


 状況を確認しようにも、当人グループは感情的になるばかり。

 援護しようにも乱戦になっており、下手に手を出すと同士討ちになりかねない。


“マズいな……

コイツ等は、さっきのゾンビ共との戦闘で前に出過ぎて崩れたからな。ここで名誉挽回したかったんだろうが、これじゃあ逆効果だ。

 気持ちは痛いほど解る。

 華を持たせてやりたいが、今はそんな余裕も時間も無い。こっちに気付く前に、射線が通り次第一気に片付けるか。

 ただでさえ後味が悪いんだ。

 早く終わらせんと“


 頭の中で考えをまとめると、手でメンバーに指示を出す。

 意図する事はすぐに伝わったらしく、静かに所定の位置に移動していった。


「くそっ! ちょこまかと逃げまってないで、正々堂々戦え!」

「一方的に殺そうとしておいて何を! 正々堂々と言うなら、私と1対1で戦ったどうなのさ!」

「非力な人間がほざくな! いいだろう……お望み通り、1対1で戦ってよろうではないか。お前達! 手を出すなよ」

「今更対等な勝負とか片腹痛い! そんな出来レースに乗れるか!」


 互いに頭に血が上りきっているのか、罵倒し合いながら殺し合いを継続。

 だから、後方からの矢の射撃に両者共に気付かなかった。


「なっ……余計な事を!」

「手柄が欲しいのは解るが、時と場所を選んでくれ。1分1秒が惜しい今何を優先すべきか、それぐらい解るだろう?」

「ああ、貴様に言われなくてもそれぐらい解っている!」

「じゃあ、さっさと止めを刺してアレを片付けに行くぞ」


 文句を言う相手を正論で丸め込み、荒れそうだった場を収めて見せた。

 そして、虫の息の人間の元に歩みを進める。


「……人間の生きようとする執念は凄まじいな。命は弱さを許さない。圧倒的な力の差がありながら、そこまで粘れた精神力。我らは驕っていた。力があるからと、人という生物を見下していた。何人か集まった所で烏合の衆。何も出来はしないと思い込んでいた。だから、本来負けるはずの無い相手(ゾンビ達)に醜態を晒したのだ。礼を言う。これは世辞ではない。弱さに気付けた事を感謝する」

「もう苦しまなくていい……せめて、生まれ変わるなら平和な世界で」


 語り掛けるような言葉に、マーフォーク達は感じ入るものあったのだろう。

 神妙な空気が漂う中、それを遮るように口を開いた者がいた。


「……おっ、お待ち下さい!」

「急にどうした。人間に情でも移ったか?」

「いえ、そうではありません! この女は例の2人組の片割れです!」

「バカな! その2人は、確か婆に殺されたはず……」


 ターゲットの想定外の正体に驚きを隠せないのだろう。

 攻撃の手が緩むと同時に、指示待ちの雰囲気が生まれてしまった。


「どうしますか? 命令通り処理するのは簡単ですが……」

「いや、我々の独断で処理するのはどうなんだ? ヤツ等は、この世界における数少ない手駒。上に聞いてからでも遅くないんじゃないか?」

「おいっ! 処分するのか、それとも見逃すのか? 早く決めてくれ!」


 なかなか答えが出ないまま、迷いを抱えたまま戦闘は継続。

 圧倒的に有利な状況にも関わらず、焦りが混乱に変わろうとしていた。


「おいっ、先行の偵察隊から連絡が入った……マズイ! 婆がいるぞ!」

「……よりによって、このタイミングで? 急いでカリーナ様に連絡! 我々もすぐに合流するぞ」

「ちょっと待て! 援護に向かうのはいいが、コイツはどうする? 下手に放置すると、背後から一発貰うかもしれんぞ」

「そうだ。背後の敵を片付けないで前進する部隊がどこにいる? コイツ等がいざという時に機能しないのは、さっき証明されたばかりだろ。変に期待するぐらいなら、ここで処理した方が俺達の利益になるんじゃないのか?」

「簡単に処理とか言うが、俺達だけでアイツ等と渡り合って行けるのか? 組織力で劣る側が消耗戦に付き合って勝てるわけがないだろ」

「じゃあ、どうしろと? 婆に気付かれるのは、もう時間の問題だ。それからだと、人間に対応している場合ではなくなる。だったら、今ここで始末するべきだ」

「貴様ら! 冷静になって頭を使え。要は、女をここから先に進ませなければいいんだ。婆への対応は、カリーナ様からの指示に従えばいい」


 最悪の敵の出現に空気が一変。

 危険度を量りに掛け、すぐさま目的を変更した。


 ――同じ頃


「やっとここまで逃げて来たのに……」


 命からがら化け物から逃げ出したミコット。

 細心の注意を払ったつもりのようだが、最後の試練が彼女に降り掛かっていた。


「落ち着いて……相手の一挙手一投足に集中しないと。ここまで来て見つかったら、今までの苦労が水の泡だもの」


 自らの心臓の鼓動を感じつつ、足音と気配を殺し慎重に歩みを続ける。

 その視線は、何かを探し建物内を徘徊する異形の生き物を捉えていた。


“お願い……一瞬でいいから、向こうに行って!

 贅沢は言わない。

 30秒あれば、そこのドアを通って先に進める。私を信じて託して死んでいった人達の為にも、どんな手段を使っても生き残らないと。

 こんな所で死ぬわけにはいかない!“


 それはトカゲのような体に、ヤモリのような吸盤の付いた手足の指を持つ化け物だった。

 頭はカメレオンに似ており、時折長く柔軟性のある舌が出入りしている。明らかに現生生物に当て嵌まらない存在であり、何より体は返り血に染まっていた。

 見つかればどうなるかは、火を見るより明らかだろう。


“あぁ、神様!

 私を救ってなんて、都合の良い戯言は言わないわ。

 でも、ここを切り抜けないと全てが無駄になる。今日この場に居合わせたのが運命なのだとしたら、他の存在に頼るなんて出来ない。

 自分の意思で、判断で生き残ってみせる。

 絶対に最後の瞬間まで諦めない!“


 固唾を飲んで相手の動きを注視する中、石が転がるような音が聞こえた。

 もちろん、彼女がたてた物音ではない。靴先に小石が当たったレベルではあるものの、静寂が支配する空間では悪目立ちする。

 反射的に硬直するミコットに対し、化け物はやはりというべきか敏感に反応した。


 ドンッ!


 目前の柱を前足でなぎ倒すと、器用に持ち上げ生物が居ないか確認。

 何もないと解ると、音源周辺を執拗にチェックし始めた。


“っ!

 危なかった……たまたま体が動かなかったから気付かれなかっただけで、こんな幸運が何回も続くとは思えない。

 小さな物音にも反応する事が解った以上、足音にも気を付けないと。

 私から離れて行ってる今の内に、出来るだけ距離を稼ぐ。

 絶対に焦ってはいけない。気配を消し、自分の存在を察知させない事に集中すれば道は必ず開けるのだから。

 とはいえ、気になるのは化け物のさっきの反応よ……

 あそこまで敏感に反応するんだったら、わざと音を立てて誘導するっていうのは?

 いや、そんな小細工が通用するような相手とも思えない。いつ殺されるか解らない状況で、一か八かのギャンブルに賭けるなんて愚の骨頂。

 冷静に相手の動きを見定めて、確実にこの場から離れなければ“


 捜索範囲を広げる化け物を横目に、ミコットは静かに相手を観察する。

 押し寄せる恐怖に耐え、必死に彼我の距離をキープ。ガレキと砂煙を器用に利用し逃げ惑う中、動きは本能に従う単調なもの。

 理性心を維持出来たのか、化け物に対し気付いた事もあるようだ。


“……やっぱり動きがおかしい。

 さっき音を立ててしまったから、私を探しているのは解る。とはいえ、それにしては神経質になり過ぎてるんじゃないの?

 注意力が散漫というか、他に意識が向いているような。

 まるで、近くに居る別の何かを警戒しているような気がする。

 怯えているわけじゃない。現に盛んにこっちを見てるし、近くに私がいる事には勘付いているだろう。

 他を見ている隙に動くのは、愚の骨頂。

 何か動きがあるまで、このままやり過ごすしかない“


 化け物の変化に気付くも、要因を特定するには至らなかったからだろうか。

 慎重に行動する中、それは突然起こった。


「ちょ、ちょっと……次から次に、今度は何なの?」


 鈍い地響きが発生したかと思うと、ゴリラのような化け物が出現。

 間髪入れず、トカゲの化け物と取っ組み合いの戦闘を始めた。


「……細かい事なんて、この際どうでもいい。潰し合いをしている間に、ここから離れないと。というか、四の五の言わずさっさと逃げないと!」


 手当たり次第周囲を破壊する化け物共に、一目散に走り出すミコット。

 巻き添えを避ける為の行動だが、事はそう簡単に進まなかった。


「……つぅ!」


 飛び散ったガレキの破片が左足首の外側に直撃。

 激痛に悶絶しつつ倒れ込むも、足踏みは死を意味する。脂汗を流し、地面を這いずりながら脱出を試みる。

 周囲に目を向け思考を巡らせる余裕は微塵も無い。

 生への執念だけで、先に進もうとしていた。


 ――同時刻


「次から次にポンポンと湧いてきて……B級のファンタジー映画でも、もうちょっと自制するんじゃないの?」


 息も絶え絶えで飛び込んで来た舞の目に映ったのは、大乱闘する化け物2匹だった。

 殴り・引っ掻き・噛み付く文字通りの殺し合い。鮮血が飛び散るのもお構いなしで、両者は相手を攻撃し続ける。

 常識的な判断としては、逃げの一択だろう。

 ただ、彼女には引けない理由があった。


「あの場に靖之は居なかった。ならば、この建物のどこかで生きているはず。それがどこかは解らないけど、とにかく今は合流しなければ。私との……私を残して死ぬ? 有り得ない。そんな事があっていいわけがない」


 自分に言い聞かせるように呟くと、隠れる事なく歩き始めた。

 化け物2匹の動きを注視しつつ、最短距離で先を目指す。決して刺激せず、且つ自らの存在を気取らせない。

 不可能とも思える行動も、途中までは上手く機能した。

 しかし、現実はそこまで甘くなかった。


「何でこんな所に子供が? いや、それどころじゃ……」


 柱の1本が壊された衝撃で、裏側に隠れていたのであろう人間が吹き飛んだ。

 一瞬だが舞の動きが止まるも、すぐにフォロー。素早く抱きかかえると、近くのガレキの陰に身を隠した。

 幸い2人に気付いた様子は見受けられないものの、危機的状況に変わりは無かった。


“……さぁ、どうする?

 息はしてるし目立ったキズもないから、そこまで深刻な状態ではないはず。いや、もしかすると頭部に何かしらのダメージが入ってるんじゃ?

 交通事故も動かすのはタブーだっていうし……

 自然に目を覚ますのを待つのみか。

 この子を連れて移動するのは無理だとして、だからといってここに残すわけにもいかない。となると、2人揃って先に進む為にはやる事は1つ。

 化け物を倒す。

 それが出来ればこんな状況になってないんだけどね。

 万に一つもない可能性に賭けるのは、勇気ではなく只の無謀無策。実行するからには、それなりの根拠が必要となる。

 都合が良い事に、コイツ等は互いに相手を殺すのに必死だ。

 勝敗が決するのを待って、消耗した所に奇襲を掛ける。

 これなら、両方を同時に相手にするのに比べると何倍もマシ。とはいえ、それを差し引いても人外の化け物であるのに変わりは無い。

 肉体的に大きな隔たりがある以上、そんなリスクは避けるべき。

 他の方法を考えないと……“


 この場を切り抜けるべく思案に耽るも、その間も状況は刻々と変化。

 化け物2頭の死闘はクライマックスを迎えていた。


「クソッ! もうグダグダ迷ってる場合じゃない。いっ、一刻も早く逃げないと! この子には悪いけど、担いで行く」


 ゴリラのような化け物が背中に飛び乗ると、頭部に向けて何度も殴打した。

 相手は体や首を振って抵抗するも、ことごとく失敗。最後の反撃とばかりに長い尾で叩き付け、一瞬だが怯ませるのには成功した。

 しかし次に繋がらず、腕で首をロックされた事で勝負あり。

 骨の折れる生々しい鈍い音が聞こえると、力なく崩れ落ちた。


“長引くと読んでたけど、まさかこんなに決着が早いとは……

 様子を窺いつつ隙を見つけようにも、状況は変わった。このままだと見つかるのは時間の問題だし、三十八景なんとやら。

 プランもクソも無い。

 多少強引でも、突破あるのみ。

 この子には悪いけど、ちょっと我慢して貰わないと“


 未だ意識の戻らない女児を担ぐと、舞は間髪入れずにダッシュ。

 勝利の咆哮を挙げる化け物の脇を抜け、奥の出口を目指した。


“おっ、重い!

 意識の無い人間を運ぶのは至難の業って聞くけど、まさかここまでとは。こんなんじゃあ、次の部屋まで持つわけない。

 どこでもいい。

 隠れられる場所を――“


 想定を遥かに上回る負荷に音を上げつつも、他に選択肢がないのも事実。

 蓄積したダメージを無視して先を目指すのだが、相手はそう甘くなかった。


「……思い返してみれば、今まで靖之に頼りっ放しだったものね。そろそろ私1人でも出来るって事を証明しないと、合わせる顔がないわ」


 動く物体に反応したのか先回りしてきた化け物に、逃げられないと腹を括ったのだろう。

 女の子を地面に寝かせると、臨戦態勢に移行した。


“ウソでしょ?

 ただ腕を振り回してるだけなのに、風圧だけで体を持って行かれそうになる。こんなんじゃ、掠っただけで致命傷になりかねない。

 とはいえ、距離をとると相手が有利になるだけ。

 今の間合いを維持しながら、反撃のチャンスを窺うしかない。

 幸いな事に、当たらないから苛立って大振りになっている。落ち着いて立ち回れさえすれば、勝機は十分。

 焦ってタイミングを逃すのだけは避けないと“


 化け物の攻撃に対し、虎視眈々と気を窺う舞。

 圧倒的に劣勢の状況下でありながら、一筋の光を見出そうとしていた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 予定より投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、不確定ですが1~2ヶ月以内を目標にしております。

 お手数ではありますが、細かい情報はX(旧ツイッター)でご確認下さい。

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