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夢国冒険記  作者: 固豆腐
68/70

キジも鳴かずば(8)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――靖之達が特攻を仕掛けた直後


「貴様等は、婆が2人に気を取られている間に(キメラの)召喚を阻止しろ。間違っても、気付かれるなよ」

「解っております。ですが……人間2人だけに相手をさせるのは、いくら何でも荷が重すぎるのでは?」


 遂にターゲットの姿を捉えたものの、状況の悪さに焦りを隠せないマーフォーク。

 ただ、さすがは集団のトップと言うべきだろうか。カリーナは瞬時にマナを発動させ、戦闘態勢に移行。

 禍々しい緑色のオーラを身に纏い、武器のカトラスを出現させた。


“召喚まで20……いや、15分といったところか。

 こちらに勘付かれるのを避ける為に力を抑えているとはいえ、所詮は人間だ。2人は、もっても数分が限界のはず。

 せめて、私が到着するまで持ち堪えてくれれば。

 それにしても、何故このタイミングなんだ?

 元の世界に戻る為に変化を生み出すにしても、今である必要はないはず。焦った末の短絡的な発想とは思えんからな。

 もしかして、良からぬ事でも企んでいるのではないか?

 そもそも、2人の止めるのであればゾンビ生物を当てれば十分。わざわざ計画を話した上で、自ら相手をしている。

 まるで、こちらを誘っているかのように……

 いや、アレコレ考えている場合ではないな”


 カリーナは、湧き出た疑念を心の片隅に置いた。

 そして、矢継ぎ早に指示を出す。


「婆の相手は私がして時間を稼ぐ。それよりも、貴様等は何としても召喚を阻止しろ。アレが出てきたら、取り返しがつかなくなるからな」

「りょ、了解しました」

「聞いての通りだ。他のヤツ等は、先程決めた作戦パターンに則って行動。我々を妨害しようと、ゾンビ共を動かして来るだろうからな」

「「了解!」」


 矢継ぎ早に指示を出すと、何かを詠唱して魔法陣を足元に作り出すカリーナ。

 そして慌ただしく動く部下達とは別に、音も無く姿を消した。


 ――同じ頃


「……どうやら行ったみたいだな」

「何なんだ……外に出れたと思ったら、今度は得体の知れない怪物かよ」

「……もうダメだ」


 捕まっていた場所から逃げ出した研究者達だが、どういうわけか通路で蹲っていた。

 近くには、何者かに殺害されたであろう仲間達の遺体が数体。どれも体がバラバラか酸で溶かされた状態で、無残な有様であった。

 絶望の淵に叩き落された状況ではあるが、立ち止まってはいられない。


「ここで話していても状況は変わらないし、現実は見ての通りだ。我々がやるべき事は、たった1つ。速やかに建物の外に脱出し、外部に助けを求める。ケガをしている動けない者には、周りの人間が手を貸して欲しい」

「でも、あの化け物がまた襲ってきたら……」

「……1ヶ所に固まって移動するのは、リスクが大き過ぎる」

「何人か先に脱出して、助けを呼んで来た方が……人数が少ないと、それだけ化け物に発見される可能性も減りますし」


 リーダーの全員で脱出案に対して、否定的な意見が続出した。

 ようやく捕えられていた場所から出られた、と思われた矢先での惨劇である。完全に心が折れてしまうのも、無理もないだろう。

 賛同者が1人もいない中、それでも引く素振りは見せない。


「人間が相手なら、隠れてやり過ごす事も出来るだろう。しかし、化け物が相手では話にならない。隠れる場所など存在せず、振り切れる可能性などゼロと同じ。ならば、全員で突破するべきだ」


 1人1人の目を見て訴えかけるも、当人達は互いの顔色を窺うばかり。

 誰も自分の意見を口にしないが、その間も状況は変化していた。


「……聞いての通りだ。ここから場所が離れているとはいえ、同じ建物の中じゃたかがしれている。このまま結論を先送りするのか、それとも1歩踏み出すのか……1人でも多く脱出するには、他に方法はないと考える。もし反対するなら、皆を納得させる代替案を示してくれ」


 何かが破壊される音と、直後に響き渡る複数の悲鳴。

 自分達も同じ経験をしているからこそ、何があったかは明白だろう。全員が力なく頷くまで、時間は掛からなかった。

 ただ、各々の目には絶望の色が濃く映し出されていた。


 ――その頃、靖之達はというと


「どうした? まだ数分しか経ってないのに、息が上がって動きが鈍くなってるぞ。召喚を止めるんじゃなかったのか?」


 笑みを浮かべる妖精に対し、靖之と舞は既に息をしている有様だった。

 互いに声を掛ける余裕もないらしく、ガムシャラに殴り掛かるも全て空振り。時間が無いというプレッシャーからか、動きも大振りになっていた。

 2人は素人の一般人だからと言えば、マシに聞こえるかもしれない。

 だが、傍目から見れば実力差は歴然である。


「……まだまだ、私達はピンピンしてるもの。ねぇ、靖之?」

「街の人々の命が懸かってるんだ。まだ数分しか経ってないのに、諦めるわけにはいかない」


 両人共に自らを鼓舞しながら拳を振るうも、虚しく空を切るのみ。

 10秒・20秒と時間が刻まれるにつれ、焦りの色が滲み始める。


“解ってた事とはいえ、こうも違うとは……

 向こうから全く攻撃して来ないのは、おそらく召喚を俺達に見せつける為。そうじゃなかったら、今頃とっくに死んでるからな。

 後残り何分か、(キメラが召喚される)その時まで反応を楽しむのだろう。

 僅かでもいい、せめて油断してくれれば……

 ヤツを倒すのは不可能でも、あの(召喚に必要な)機械を破壊する事は出来る。それさえ成功すれば、街の人達は助かる。

 だが俺達の攻撃を躱しつつ、動きを常に観察していて隙が全く無い。

 時間だけを、ただ闇雲に消費しているだけ。

 どうにかしないと!”


 靖之なりに考えを巡らせるも、打開策のキッカケすら掴めないようだ。

 その一方で、相手も歯ごたえの無さに飽きを感じたのだろうか。急に黒いオーラを全身に纏い、黒いドレスが禍々しい甲冑に変化した。

 只事ではないのは誰の目にも明らかであり、2人も攻撃を止め反射的に距離をとった。


「お前達2人は、私にとって最後のキーパーツになる存在……故に手加減してきたが、いつまでも悠長に待っていられないのでな。ここで死ぬなら、所詮そこまでの器だということ。悪く思うなよ」


 そう言い放つなり、化け物は突っ込んで来た。

 瞬く間に距離を詰め、腰の剣が2人を襲う。


「しま……っ!」


 最初に狙われたのは、靖之だった。

 ただ初撃は首のブローチが反応し、盾を形成したので防ぐ事に成功。しかし体勢を大きく崩した上に、相手も反応を予測していたのだろう。

 返しの2撃目が、右肩に食い込んだ。


「……」


 鎖骨・肺・心臓等を断ち切られ、鮮血が辺りを赤く染めた。

 そして靖之が地面に崩れ落ちた時には、舞に刃が向かっていた。


「……っ!」


 心臓を狙った突きはブローチが反応して防ぐも、衝撃は殺せずたたらを踏んで後退。

 追撃の左ボディブローが直撃し、倒れ込んでしまった。


「正直、もしかしたらと期待していた。しかし、こうも脆いとは……所詮人間と言えばそれまでではあるが、残念だ。せめて、最期ぐらい苦しまずに逝かせてやろう」


 舞の眼前に立ち、血で濡れた剣を掲げる化け物。

 悲しげな表情を見せ、止めを刺そうとするのだが。


「感傷に浸っている所悪いが、(キメラを)召喚させるわけにはいかない。大人しくゾンビ共を連れ、ここから去るがいい」


 何の前触れもなく機械が両断されたかと思うと、陰からカリーナが姿を現した。

 完全に機能を停止し、破壊された事を目で確認しつつ言葉を続ける。


「……我々には我の事情があり、この世界に住む人間達も人間達なりの事情がある。焦って暴走した結果、また無駄な犠牲が出た。そうまでして――」

「無駄な犠牲だと? 2人の姿をよく見ろ……平和な世界の人間として生を受け、これまで緩やかな日常を歩んで来たのだろう。それが自らの意思に反した因果に巻き込まれ、足掻き続けた結果がこのザマだ」

「一方的に命を刈り取っておいて言う事か! 2人が今後の重要なカギになるのは、アンタだって解っていたはず……何故だ? 生かさず殺さず利用する方法など、いくらでもあったはず。牙を剥いて来たからといって、これじゃあ何の意味も無いだろ」

「これまで目立った手助けもせず、ただ放置していただけなのはお前ではないか? それに仮に今回私が見逃したとして、遅かれ早かれ2人はこうなっていただろう。ちょっとは巻き込んだ側の者として、責任を感じたらどうだ?」


 言葉を交わしつつ、相手への警戒は怠らない両名。

 一触即発の状況の中、カリーナは焦っていた。


“間に合わなかった……

 女の方はまだ生きているとはいえ、あの吐血量だ。肋骨が砕けただけではなく、内臓もかなり損傷しているはず。

 十中八九再起不能だろうが、それ以上に男が死んだのが痛すぎる。

 仮に完治したとしても、心の支えを失ったのだ。自ら命を絶たずとも、結果として後を追う形になるだろう。

 ちくしょう……

 まさか、問答無用で殺しに来るとは。

 どうする……どうすればいい?

 同じような境遇の人間が、他にもいる保障はどこにもない。悠長に探している時間も、それに割く余力も無いんだぞ?

 いや、今はそんな事よりも婆をどうするかだ。

 召喚を止めたとはいえ、時間稼ぎに過ぎない。ヤツが直接マナを込めれば、不完全な状態とはいえ出て来てしまう。

 ここに来て、2対1は話にならん。

 そもそも、正面から戦って勝てる相手ではないからな。

 短期決戦に持ち込み、婆を引かせる!”


 自分と相手の実力差を加味しつつ、腹を括ったのだろう。

 有無を言わせず、そのまま相手に切り掛かるカリーナ。


「いいぞ……あの時とは違い、良い太刀筋だ。貴様もこの世界に飛ばされ、それなりに修羅場を潜って来たとみえる」

「確かに、アンタと比べれば私は格下だろう。だからといって、ここで引き下がるわけにはいかない。どんな手段を使っても、(キメラの)召喚は止めさせてもらう」

「この期に及んで、まだ召喚を止めようとするか? 我々にとって必要なのは、変化を生み出す事。その為なら、人間共の犠牲などあってないようなもの」

「どこまでも自分勝手な言い分を……力で支配しようとするのは勝手だが、いずれ高い授業料を払う時が来る」


 刃と言葉を交えつつ、互角の戦いを繰り広げる両者。

 しかし、均衡は徐々に崩れていく。


「無関係な者を巻き込まないようにする姿勢は、素直に評価しよう。ただ、それだけでは自己満足に過ぎないのではないか? 半端な強さを盾に、自己を正当化するだけでは何も守れない。その砂糖を塗り固めたような考えの結果が、私との実力差であり先程の2人の死因だ」

「戦場の現状も知らず、命令するだけの輩に何が解る! 散々汚れ仕事を押し付けておいて、問題が露見した途端に切り捨てる。評議会の尻拭いをする為に、どれだけ私達のような存在が犠牲になったか!」

「見ず知らずの非戦闘員と、自らの部下達。守るべき優先順位も、いざというときの責任を負う覚悟を持っていなかった結果だろう。貴様が政治を理解し、上手く立ち回っていなかっただけ。それでも否定するのなら、自らの実力を持って証明してみせろ。上っ面の言葉など、戦場では何の説得力も持たない」

「ああ、そうだな……だからこそ、止めてみせる。例えアンタに勝つ事は出来なくとも、(キメラの)召喚だけは絶対にさせない」


 直撃こそ免れているものの、出血が目立ち始めるカリーナ。

 ジリ貧になるのを避けるべく、攻勢を強めようとするのだが。


「……っ!」


 突然頭上の天井が爆発し、衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 慌てて状況を確認しようとするも、目の前には想定外の光景が広がっていた。


「獣人……婆にも殺気を向けているし、どうやらヤツが呼んだわけではないみたいだな。どこの誰かは知らんが、随分とまぁ落ち着きのない。下手に暴れられても面倒だし、さっさと黙らせるか」


 カリーナを尻目に、妖精に対して人型の獣が力任せに拳を振り回していた。

 ゴリラのような体に、牡牛のような頭をしたモンスター。体格では優位ではあっても、その攻撃は単調そのもの。

 背後から仕留めようとするも、急に手が止まった。


「……まさか! いや、そんなバカな」

「気付いたか……そうだ。私にとっても賭けだったが、どうやら上手くいったらしい」

「まさか……そんなバカな。アイツは只の人間のはず。いくら我々が何か仕込んだとして、獣人に変身するわけがない」

「それはどうかな? いくら人間とはいえ、こちらの世界に迷い込んだのだ。因果か定め運命かは知らんが、因子は持っていたんだろうな」


 攻撃を避けながら淡々と喋る妖精に対し、動揺を隠せないカリーナ。

 切り掛かるタイミングを完全に見失った中、更に言葉が飛んで来る。


「いい頃合いだ……このまま(キメラの)召喚を強行してもいいが、もう時間が時間だからな。貴様との決着も含めて、コイツに免じて先延ばしにしてやろう」

「待て! ここまで騒ぎを大きくしておいて、素直に私が見逃すと思うのか? 例え刺し違えてでも、今日この場で決着を付けてやる!」

「若いな……お互い、元の世界に戻りたいという目的は一緒なんだ。先はまだ長い……その時が来るまで、勝負は預けておこう」

「クソッ……逃がすか!」


 問答無用で離脱する素振りを見せる妖精に、飛び掛かろうとするカリーナ。

 まさにその瞬間、部下のマーフォークから連絡が入る。


「カリーナ様……郊外のゾンビ共が街の中心部に向かって進軍中です。こちらは我々が対処していますが、既に街の内部の何ヶ所かで高濃度のマナが発生しております」

「何だと! こんな時に、マナの発生源に気付かなかったとは……なるほど、そういう事か。解った。街の内部に関しては、こちらのメンバーを回す」


 部下の報告を聞き、何かを察したような顔をするカリーナ。

 そして、全ての元凶も余裕の笑みを浮かべていた。


「聞いての通り、どこかのバカの尻拭いをする破目になったんでな。今回は引き下がるが、また同じような事をするのなら容赦はしない」

「貴様に止められるなら、そうすればいい。私は、どんな方法を使ってでも目的を達成する。それだけだ」


 それだけ言葉を交わすと、妖精は音も無く姿を消した。

 一方で、攻撃していた目の前のターゲットを失い獣人は困惑。周囲をキョロキョロ見回し臭いを嗅ぐも、手掛かりは得られなかったようだ。

 カリーナもまた倒れた舞と化け物を交互に見ると、そのまま影も形も無く消失した。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 予定より投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、不確定ですが1ヶ月以内を目標にしております。

 お手数ではありますが、細かい情報はツイッターでご確認下さい。

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