キジも鳴かずば(7)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――カリーナが部下に指示を出している頃
「すいません……ちょっといいですか?」
「……逃げた学者連中の事か? 外に出た所で、周囲は完全に俺達の監視下にある。そう神経質になる必要もあるまい」
耳元で報告して来る若い男に対し、上司と思われる中年の男は淡々と返した。
ただ、内容はそれとは別件だったらしい。
「いえ……設計図に従ってブツを組み立てたのはいいとして、幾つか不可解な点が見受けられまして」
「不可解な点だと? 抽象的な言い方じゃなくて、具体的に不具合の内容を言わんか……って、おい! もしかして、動かないとかじゃないよな?」
「それは大丈夫です。ただ、ブラックボックスといいますか……組み立ててみて解ったのですが、一部に謎の部品が存在するんです」
「謎とか、そんな事はどうでもいい。俺達としては、作動するかどうかが問題なんだ。それさえ果たせれば、他の問題など無視してもお釣りがくる」
両者の認識にズレを残したまま、会話は進行。
強引に話を終わらせるかに思われたが、周囲の目が気になるのだろう。慌ただしく動き回る作業着の男達に視線を向け、報告者に柱の陰への移動を手で指示。
聞こえないように声のボリュームを絞り、話を続ける。
「ただでさえ、当初のタイムスケジュールより大幅に遅れた状態だ。日の出までの撤収を考えれば、これ以上のタイムロスは許されない。起動は予定通り行う。その上で、その謎の部品を調べるのならやればいい」
「あなただって、ブツの内容は知ってるでしょう? 正確に起動しなければ、我々も巻き添えになります。ここに至るまでの苦労を無駄にするつもりですか?」
「それは解っている。ただ、賽は投げられたのだ……失敗した場合は、口封じで始末される。お前も、それを理解した上でここに立っているのではないか?」
「ええ、殺される覚悟はしてますよ。でも、それは出来る事を全て行使した末での事。可能性に目を瞑り、勢いに任せた結果ではありません。大勢の仲間や犠牲になった学者連中の為にも、我々には責任があるんです。時間までには間に合わせますので、部品を調べさせて下さい」
「……確かに、お前が言うのも一理ある。そこまで言うなら、いいだろう。ただし、起動するまでの間だ。いいな?」
報告者の熱意に押されたのか、男は妥協策を提示。
頷いて同意すると、そのまま踵を返してブツの様子を見に移動した。
「どうにか許可が下りたぞ」
「ありがとうございます。ご迷惑をかけ、申し訳ありません」
「そんな事はどうでもいい。万が一があったら、それこそシャレにならんからな。起動するまで時間はあまり残ってないが、ギリギリまで粘ってくれ」
「解りました……期待に沿えるように死力を尽くします」
作業をしている自身の部下に声を掛けると、肩をポンッと叩いて激励。
そのまま自分も作業に加わろうとしたのだが、背後から急に声を掛けられた。
「すいません……警備班の者ですが、少しよろしいですか?」
「……ああ、構わんよ。でも、俺でいいのか? 何かあったのなら、リーダーに直接話に行くべだろう」
「既に報告はしました。でも、人手が足りないらしく……具体的な指示が出ないので、やむを得ず」
「解った。ただ……ここではなんだ。周りに人が居ては、お前も話し難いだろう。場所を変えよう」
声のトーンと表情から、事態の重さを理解したのだろう。
部屋の隅に移動した上で、改めて話をするように促した。
「つい15分ぐらい前から、外で警備をしていた人間が姿を消しまして。いや……犯人を捜すべく応援の人間も出したのですが、今度はそいつ等まで……」
「……何だと。明らかな襲撃じゃないか! このタイミングでここに敵が殺到したら、ブツの起動どころではなくなる。なんでこんな状況を無視出来る!」
「こっ、声を抑えて下さい! 周りに聞こえます……」
「あっ、ああ……そうだな。すまない」
想像を超えた事態に感情的になり、慌てて止められる。
それでも指摘されて冷静さを取り戻したらしく、咳払いをして話を先に進ませた。
「どんな情報でもいい。敵の人数、装備……いや、どこの人間かでも構わん。現時点で襲撃犯について解っている事を教えてくれ」
「情報を掴もうにも、いきなり姿を消した状態でして。襲撃犯の人数や装備はもちろん、相手が警察かどうかも不明です。ただ、その少し前に怪しげな2人組を見たとの報告は受けております」
「なるほど……おそらく、その2人組が先行して偵察していたんだろうな。襲撃犯はその様子を背後で観察し、効果的にこっちの警備の人間を排除した。それで、先に見た方のヤツ等の特徴は?」
「顔つきから判断して、10代後半から20代前半の東洋人の男女2人組と思われます。武器は手にしてないようですが、銃の類は隠し持っている可能性は高いかと。後服装ですが、海賊を思わせるようなボロボロの出で立ちのようです」
どうやら靖之達の情報は漏れていたようで、そこから相手の推測をスタート。
全て仮定ながら、どうにか襲撃犯を特定しようと試みるようだ。
「警察にしては動きが早過ぎるとは思っていたが、その出で立ちから考えると相手は外部勢力とみて間違いないな。目的は、考えるまでもない。どこから情報が洩れていたかは解らんが、ブツの横取りを目論んでいるのだろう」
「では、どうしますか? 正直、数的に考えても包囲されれば我らに勝ち目はありません。起動するのは諦めて、脱出するべきでは?」
「いや……幾ら俺達が状況を説明したところで、リーダー達上の人間達は聞く耳を持たないだろう。最悪ヤツ等を巻き添えにして、起動するのを早めかねない。それだけは、どんな手段を使っても止めなければ」
「それは、解ってます。ですが、ここで話している間にも敵が攻めてくるかもしれません。そうなったら、自爆を決断するのは明らかじゃないですか?」
どうにかして対応しようにも、急に解決策が見出せる状況ではないようだ。
口を開こうにも言葉が出ず、少し沈黙が続いた時だった。
「ちょ、ちょっと待て! まだ何もしてないのに、急に動き始めたぞ」
「えっ、おいっ! 何をしてる……早く止めるんだ!」
「今やってます! すぐに止めますので、少々お待ち下さい」
ブツに異変があったらしく、作業をしていた人間達は揃ってパニックに陥った。
当然ながら、非常事態を目の当たりにして会話は中断。慌てて状況を確認するも、想像以上に事態は深刻だった。
青白く発光し、空中に浮遊していたのである。
“何が起こっている……
ただ、手に入れた設計図に従い、パーツを組み立てただけ。何をどう間違えば、こんな意味が解らない現象が発生するんだ?
いや、現実として目の前で起こっているからな。
故障の類ではないとして、どうにかして原因を究明しないと。
クソッ!
敵の襲撃も発生している今、これ以上のトラブルは致命傷になりかねない。上層部はどう考えているかは知らんが、撤退だ。
ブツの確保を最優先に、この町から脱出する。
幸い、まだここには作業をしている人間が残ってるからな。俺達も含めて全員が盾となって、逃げるべきだ。
話し合う余地などない!”
男は素早く考えをまとめると、その旨を伝えようと相手を探す。
しかし、想像を超える事態に全員が混乱を極めていた。
「おいっ! 一体何が起こっている?」
「そんな事、俺が知るかよ! どうするんだよ? このまま続けるのか、それとも中止するのか?」
「黙って見てないで、どうにかしろよ!」
「判断を待っている場合かよ! 早くしないと、取り返しのつかん事になるんじゃないのか?」
「なぁ……このまま放置していて、爆発とかしないよな? もしそうなったら、ここにいる俺達全員がお陀仏なんじゃ……」
誰も具体的な行動を示せないまま、瞬く間にパニックが連鎖していく。
事態が収拾不能になるのは明白であり、当の上層部に至っては呆然自失だった。
“ダメだ……
あの調子じゃ、上の連中は使い物にならない。後で責任問題になるだろうが、ここで敵の襲撃を受けるのだけは避けなければ。
となると、拘束している学者連中の処分だな……
こんな状態では、アイツ等を連れて逃げれるだけの余裕はない。申し訳ないが全員死んで貰うとして、ブツをどこに運ぶかだ。
馬車を使おうにも、敵もそのぐらいは解っているはず。
移動手段を奪うと目にも、真っ先に潰しているだろう。そうなると、徒歩で運び出すしかない。
でも、襲って来る敵を躱しながらそんな芸当が出来るのか?
いや……他に方法が無い以上、もうやるしかない”
どうにか1人で答えを出し、実行するべく指示を出そうとした時だった。
恐れていた事態が現実となってしまう。
「……てっ、敵だ! 早く来てくれ!」
「撃て! 相手は数人のはず……足止めさえ出来れば、物の数ではない!」
建物の内部で断末魔の悲鳴が聞こえ、直後に応援を乞う声が聞こえた。
ただ奇襲を受けたらしく、応戦する銃声にも統率性は見受けられない。
「狼狽えている場合か! ここで食い止められなかったら、俺達は袋のネズミなんだぞ。ブツを回収する数人以外は、私に続け。攻撃しているヤツ等を押し戻し、脱出する時間を稼ぐんだ!」
事態を重く見た男は、腰の拳銃を抜いて空に向かって発砲。
水を打ったように静かになる面々に向かって、指示を飛ばした。
――同時刻
「カリーナ様、そろそろ建物への攻撃が始まったと思われます」
「街中に人を分散して配置していて、建物の中に居るのは幹部を含めて少数のはず。我らも加勢している事を考えると、ものの10分もあれば片付くだろうな」
カリーナは部下のマーフォークから報告を受けるなり、満足そうに頷いた。
とはいえ、経験豊富な彼女である。表情に余裕こそあれ慢心した素振りは見受けられず、判断は冷静そのもの。
すぐに次の一手を繰り出すべく、指示を飛ばす。
「建物の制圧は2人を前面に押し出し、我々は存在を隠してサポートに徹するだけでよい。街を監視をしいる各小隊は、敵の歩哨を排除しつつ逃げ出した学者の捜索に移行。見つけ次第、全員排除せよ」
「畏まりました。それで、我々はこのまま待機しますか」
「とりあえずは、そうなるだろうな。ゾンビ共が街の外に退いたとはいえ、相手はあの婆だ。このまま黙って引き下がるとは思えんし、どこかのタイミングで必ず動いて来る」
「姿を見せない辺り、さすがというか……了解しました。それでは、また動きがありましたら」
手短に報告を終わらせると、指示を伝えるべく部下は音も無く姿を消した。
かくして再びカリーナ達のみとなり、再び無言の時間が始まった。
“回収に関しては問題無い……
注意するべきは、婆がどう動くかだ。アイツの目的は、おそらく街の住人を生贄にしたキメラの召喚のはず。
本来存在しない生物を産み落とし、この世界線を変える。
気持ちは解らないでもない。
我らが元の世界に戻ろうにも、手掛かりすら掴めてないからな。強引に変化を付ける事で、アクションを起こそうとしているのだろう。
それだけ、婆にとっても八方塞の状況。
しかし、だ……
狙いが上手くハマったのならまだしも、成功する確証はどこにもない。むしろ失敗した場合、次に何が起こるかは想像も出来ない。
私達の力だけではどうしようも出来ない状態になってからでは遅いのだ。
あの2人がこの世界に迷い込み、少しずつではあるが変化は出て来ている。何故、アイツはそれが待てない?
例え評議会の現役メンバーだとしても、止めてみせる。
今、この世界を歪ませるわけにはいかないのだから”
カリーナは自分なりに覚悟を固めると、目を閉じ静かに事態の推移を見守った。
しかし、変化はすぐに現れた。
「カッ、カリーナ様……ッ!」
「……信じられん。ヤツは本気か!」
「如何しましょう……我々としても、放置するべきラインを超えております」
部下のマーフォーク達が色めき立つ中、静かに目を開けるカリーナ。
彼女が見詰める空には、白く輝く魔法陣が現れていた。
――その頃、靖之達はというと
「……ふぅ。あらかた片付いたのはいいとして、問題はこいつをどうするかだな」
「そうね……どう考えても普通じゃないし、迂闊に触るのは危険じゃない?」
建物の内部に侵入した靖之と舞は、数人の敵と交戦。
無事に制圧した所で、部屋の内部を調べようとしていた。
「なぁ……ここに到着した時から気になってたけど、何か様子が変じゃないか?」
「……えっ? 私は、特に何も感じなかったけど」
「いや、明らかに変だ。ここに来る途中に何回か敵と戦ったけど、アイツ等はここを守るのが仕事だろ? それにも関わらず、こうも呆気ないのはいくら何でも変じゃないか?」
「言われてみれば、確かにそうかもね。とくに抵抗らしい抵抗もなかったし、そもそも人の数が少な過ぎるわ」
靖之の言葉を受け、舞も違和感を覚えたらしい。
一旦気になったら最後、違和感は不安に変わる。互いに言葉にはしないものの、マイナスの感情が芽生えているのだろうか。
同時に好ましくないのも理解しているらしく、すぐに言葉を続ける。
「……とりあえず周囲の警戒をするとして、問題はこの箱だな。あっちの世界の代物なのは間違いないとして、ここにある以上放置は出来ない」
「でも……下手に触って、何か起こるかもしれないし。どうする? 何か手掛かりが無いか、周りを調べてからでも遅くないんじゃない?」
「ああ、俺もそう思う。まだ日の出まで時間もあるし、隠れている敵に注意しつつ手分けして探すか」
「じゃあ私は机とか棚を調べるから、靖之は持ち物チェックをお願い」
2人は軽く言葉を交わすと、すぐに行動を開始。
視線を周囲に向けて警戒しつつ、手を動かし始める。
“クソッたれ……
アイツ等が、この街のどこかに居るのは間違いない。そして、この箱には何か意味があるはず。
ただ、ここに居たのはこっちの世界の住民。
俺達でさえ積極的に接触しないのに、アイツ等が接触するとは思えない。もちろん、人間に変装するとかして利用したんだろうけど……
そうまでして、何をするつもりだったんだ?
見当もつかないが、だからこそ迂闊に触るわけにはいかない。一連の騒動の規模を考えても、何か目的があるはず。
どんな些細な事でもいい。
まずは手掛かりだ!”
考えてみたはいいが答えが出ず、焦りを隠せない靖之。
倒れている敵の所持品を物色していたが、突然その手が止まった。
「久しぶり……というほどでもないか。2人とも元気そうでなによりだ」
「俺としては、あんたには2度と会いたくなかったが」
「こんな得体の知れない物まで用意して、私達に何か用でも?」
背後の空中で漂う妖精を見るなり、すぐさま臨戦態勢を取る2人。
口でこそ平静を装っているが、全身から滝のような汗を流している。
「まぁ、そう警戒しなくてもいいだろう。たかが数日ぶりとはいえ、こうしてまた出会ったんだ。私だって、目的はお前達と同じ。ただ、自分の世界に帰りたいだけ。お互い協力出来るなら、それに越した事は無いだろう?」
「へぇ、あんたの口からそんな言葉を聞くとは思ってもみなかった。では、単刀直入に聞こう……この得体の知れない箱の中身は?」
「話してもいいが、それを聞いてお前達は見て見ぬふりをするのか?」
「俺達やこの世界の人達に害が無いのであれば、勝手にすればいい。だが、そうではないのであれば話は別だ」
箱の正体を聞き出そうとする靖之に対し、露骨にはぐらかす化け物。
それどころか一触即発の空気になるも、話は先に進む。
「これは呼び水よ。その箱は、この街の住人の命を代償にキメラを召喚する装置。街は破壊され、この世界に変化を及ぼすキッカケになる」
「貴様っ! 俺達やあんたの目的は、元の世界に戻る事。だが、その為に罪の無い人間の命を奪うのは断じて違う」
「そんな甘い戯言を垂れ流していて、何が出来るというのだ。ただイタズラに、時間だけが過ぎているだけではないか?」
「俺達やあんたの問題を解決するのに、全く関係ない世界の人達を巻き込むなよ!」
想定外の箱の中身に、感情を剥き出しにする靖之。
だが当の化け物は意にも介さず、言葉を続ける。
「お前達がどう考えようと、起動したからには召喚するのは時間の問題。それでも止めたいのであれば、私を倒してみせろ」
「何だと……あんたを倒せば、この箱は止まるのか?」
「ああ、その通りだ。装置の動力源は、私のマナだからな。それが止まれば、起動できなくなる。お前達人間2人に、それが可能ならばの話……ではあるが」
「確かに、俺達2人では手も足も出ないだろう。だからといって、あんたを見逃すわけにはいかない」
最初から話し合いをする余地もないまま、険悪な空気はピークに到達。
靖之が言い終わるはいなや、2人は化け物に向かって特攻をかけた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
予定より投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、不確定ですが1ヶ月以内を目標にしております。
お手数ではありますが、細かい情報はツイッターでご確認下さい。




