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夢国冒険記  作者: 固豆腐
66/70

キジも鳴かずば(6)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――ミコットが化け物と遭遇した頃。


「ちょっと靖之……大丈夫?」

「えっ? あっ、ああ……問題無い」


 心配そうに顔を覗き込む舞に、靖之は咄嗟に取り繕う事しか出来なかった。

 誰かの気配を感じたとか、胸騒ぎとかの類ではない。それは、彼にとって思い出したくない過去の記憶。

 必死に目の前の事に集中しようと試みるも、逆に鮮明な映像と共に脳内に再生される。


『君のお婆さん……残念だが、息を引き取った』

『……そうですか。解りました』


 今から約2ヶ月前の、とある月曜日。

 入院中の病院から急変の連絡を受けて駆け付けるなり、担当医からそう言われた。何とも言えない表情の医師に、彼は抑揚のない言葉を返す事しか出来なかった。

 それから事務的な作業をこなすわけだが、その部分の記憶は曖昧なまま。

 気が付いたら、病室で無言の祖母と対面していた。


『何か言うべきなのかもしれないけど……なんでなんだろう。言いたい事はあるはずなのに、何も出て来ないんだ……』


 まだ温もりが残る頬を撫で、ジッと顔を見詰める。

 次の言葉が口から出ず、かといって涙も流れない。


『老衰を起因とする不整脈だ。昨日の晩ご飯もウチのナースと談笑しながら完食していたし、本当に突然としか言えない。顔を見たから靖之も解ると思うが、理想的な最期だと思う』


 様子を見に来たのだろう。

 背後に立つ医師に、靖之は振り向かずに黙って頷いた。


『そっとしておいて欲しいのは解るが、敢えて言わせてもらう……耐えろ。そして余計な事を考える暇も無い程、何かに没頭するんだ。勉強でも部活・サークル活動でも恋愛でも趣味でも、内容は何だっていい。いつになるかは解らないけど、前向きに捉えられる時まで歯を食いしばって耐えるんだ』

『……はい』

『どうしても耐えられない時はいつでも言って来い。慰めにならないかもしれんが、背中を押す事は出来るだろう』

『……ありがとうございます』


 か細い声で応える靖之に、医師はそれ以上言葉を続ける事はなかった。

 踵を返して去って行く靴の音を聞き、残された者は膝から崩れ落ちて慟哭した。


「ねぇ、靖之……さっきから様子が変だけど、本当に大丈夫なの?」

「いや……ちょっと考え事をしてただけだから。大丈夫、問題無い」

「本当に、大丈夫なの? 思い詰めたような表情に見えるけど……」

「いやいや……そんな事より、メモに書かれた場所も近い。集中しないと」


 舞の言葉で我に返ったのか、咄嗟に言い繕う靖之。

 とはいえ嫌な記憶のフラッシュバックに、心は乱れたまま。


“落ち着け……余計な事は考えるな。

 目の前の事に集中するんだ。

 この騒動が何かを回収する為だとして、その何かが全く解らないのが問題なんだ。この前の時のような毒ガスの類なのか、それとも爆弾の類なのか。

 犯人共を追う手掛かりはあっても、肝心な部分の情報は謎のまま。

 とはいえ、ここまで大勢の人間を同時に投入してるんだ。これ以上被害を大きくしない為にも、早くブツの内容を特定しなければ。

 でも、このままでは……”


 もどかしさを感じつつも、2人は目的地に向かった。

 まさかの監視者がいるとも知らず。


 ――その頃、町の一角では。


「こんなはずじゃなかった……こんなはずじゃ」


 路地裏で蹲った白衣姿の男は絞り出すように頷いた。

 年は40代半ばぐらいか。

 どうやら、命からがら逃げて来たのだろう。白衣はゴミや泥でグチャグチャ。顔はもちろん、体の複数ヶ所に擦過傷が見受けられた。

 恐怖かそれとも孤独感なのか、彼は小刻みに体を震わせる。


“みっ、皆居なくなってしまった……

 私達は、ただ日々の生活を豊かにしたかっただけ。金銭や名声を否定するつもりはないけど、それが全てじゃない。

 社会構造の変革と、社会構造の劇的な変化。

 それに伴う国力の増加は、国民全員が恩恵を受けるべきなんだ。

 しかし、未だに幼い子供達を犠牲にする悪習が蔓延している。将来を担うはずの財産を食いつぶして、何を得られようか?

 私達はそれを変えたかった。

 すぐには無理でも、5年……いや、10年あれば。そう信じて研究をしてきたし、手の届く距離にまで来ていた。

 だが、議事堂の爆破事件で全てが水の泡。

 私達がやろうとした事は、無駄だったのか?

 違う……例え状況は絶望的でも、最期まで諦めるわけにはいかない。犠牲になった仲間達の為にも、祖国の未来の為にも生き延びなければ。

 こんな所で死ぬわけにはいかない”


 男は折れそうな心を奮い立たせると、その場に立ち上がった。

 そして、どこかに向けて走り出した。


“この場に留まるのはマズイ……

 相手の人数はもちろん、どこに居るかも解らない。闇雲に逃げるは危険とはいえ、安全な場所に隠れないと。

 朝まで耐えられたら、後はどうにかなるはず。

 クソッ!

 信じられん……

 襲って来た時の手際が良さといい、武装した人間の多さ。無我夢中で逃げたら助かったものの、間一髪だった。

 あれだけ情報が漏れないように注意していたにも関わらず……

 身内に内通者が居たとしか考えられない!

 ……いや、感情的になるのはよそう。目に見える証拠があるわけでもないし、今は自分が何をするべきなのかを考えないと。

 そうだ、冷静になるんだ。

 私達が開発しようとしているのは、電波を送受信する装置。直接手で作動させる必要のない、画期的な発明になるはずだった。

 アイツ等がどこまで内容を知っているのかは解らない。

 だが価値が解る人間にとっては、是が非でも手に入れたい代物。

 手を加えれば、何かしらに悪用する事も可能だろう。

 だからこそ、犯罪者共の手に渡すわけにはいかない。ましてや、海外への流出など言語道断。

 死守しなければならないのは設計図だ。

 それさえこの世から消し去れば、我々の犠牲だけで済むのだから……”


 男なりに、腹を括ったのだろうか。

 その顔からは、先程までの動揺や怯えは消えていた。


 ――同時刻


「……警察は何をやってるんだ。このままじゃ、ただ殺されるのを待つだけじゃないか!」

「静かにしろ……あの無能共(警察)が、こんな状況下で何かしているとでも? どうせ何も出来ず狼狽えているだけだろ」

「だったら、このまま黙って殺されろとでも? 既に多くの仲間達が犠牲になり、残ったのは我々のみ。やっとここまで来たのに、全てを奪われた上で始末されるなんて……」

「だったら、どうしろと? 相手は完全に武装していて、こっちは丸腰。そもそも、人数すら把握してないんだぞ? 移動する事すらままならないこの状態で、出来る事などゼロに等しい」


 倉庫らしき部屋の中で、男達は苛立っていた。

 両手両足首は鎖で固定され、白衣は泥と血でグチャグチャ。移動しようにも、近くの柱に繋がれて動ける範囲には限界があった。

 八方塞の状況ではあるものの、完全に心が折れたわけではないようだ。


「……トーマス。お前の右に木箱があるだろう。中身が何か見られるか?」

「ちょっと待って下さい……あっ! いけるかもしれません」

「すまんが、どうにかしてこじ開けてくれ」

「……解りました。ちょっと待って下さい」


 大半が苛立ちを隠せない中、1人の中年男性が小声で指示を出す。

 言われた側の若い男も意図を理解したのか、すぐに行動を開始した。


「……よしっ、OKです。中身は、グリスと……金属製の釘と鎖です」

「なるほど……解った。そのまま蓋を閉めて、開けた痕跡を可能な限り消してくれ」

「はい……それで、次は何をすれば?」

「ちょっと待て」


 箱の中身を聞いて頷く男に、前のめりで指示を仰ぐトーマス。

 明らかに焦れている彼を声で押しとどめ、今度は全員に声を掛ける。


「皆、焦る気持ちは解るがよく聞いてくれ。今から、各々の周辺にある木箱の中身を調べて欲しい。そして、どんな物でもいい。拘束を解く物や、逃走に役立ちそうな物を捜すんだ。もちろん、アイツ等に気付かれないように」


 彼の言葉に静まり返る一同。

 ただ、言われてすぐに納得するわけではない。


「ちょっと待って下さい! ここに連れて来られるまでの経緯を忘れたんですか? 逃げたら問答無用で撃たれ、口答えしただけでボコボコ……無謀すぎます!」

「建物の構造を把握してないのに、どうやって逃げ出すんですか! 不本意ですけど、ここは警察の到着を待った方が……」

「相手は、時間を掛けて今回の事件を計画したはず。今は姿は見えなくても、必ず近くで監視している。仮に部屋の外に出られたとして、闇雲に動いて建物から脱出出来るとは思えません」


 既に多くの仲間が犠牲になっている現実を前に、どうしても二の足を踏む一同。

 決断を下せない面々に対し、トーマスは語り掛ける。


「目的が達成されたら、我々は用済みだからな。口封じに全員殺されるのは、目に見えている。ここまで入念に計画を立てた相手だ。逃げたとして、全員が助かるとは私も考えてはいない。しかし、半分……いや、1人・2人でもいいんだ。ここから脱出し、事実を伝える人間がいなければ取り返しのつかない事になる。無意味な死か、それとも抗った上での死か。もちろん、私の考えを皆に強要するつもりはない。各々自分で考え、どう行動するのか考えてくれ」


 仲間全員の顔を見ながら、トーマスは自分の考えを伝えた。

 当然ながら、言われた側もすぐに答えられる問題ではない。互いの顔色を窺いつつも、考えてはいるのだろう。

 重苦しい空気が室内に充満する中、決断を迫った男はというと。


“解らない……

 アイツ等の目的が機械本体と設計図の奪取だとして、ここまでする必要があったのか?

 いや……確かに画期的な発明ではあるし、将来性を考えれば無限の可能性を秘めている。それは疑いようの無い事実だ。

 でも、相手は武装した犯罪者達。

 誰かに雇われたにしては、統率がとれすぎている。

 せめて、背後から集団を操っている何者なのかが解れば。それが無理でも、国内の人間か海外の人間なのかでもいい。

 真実を突き止めて、最悪のケースを回避する。

 もしかすると、この前の議事堂が炎上した事件と関係しているかもしれない。

 ここから脱出する事さえ出来れば……

 少し前に爆発が何回かあったようだし、人の動きも慌ただしくなっている。自分の目で確認しないと何とも言えないが、警察が動き始めたのか?

 ほんの少しでもいい。

 混乱した時に生じる隙さえ突ければ、逃げ出すチャンスは十分にある。

 この状況下において、その可能性に賭けるだけか……”


 トーマスなりに、可能性を見出したのだろうか。

 未だ考えをまとめられていない面々に、決断を促す。


「すまないが、もう時間がない。皆の意見を聞かせてくれ」


 口にしなくても、事の重大さの認識は全員が同じ。

 少し時間が掛かったものの、1人1人決断を下した。


 ――数十分後


「……本当に2人だけのようだな」

「はい、間違いありません。住民にしては服装が変ですし、何より動きが怪し過ぎます」


 建物の物陰から、2人組の男が監視の視線を投げ掛けていた。

 視線の先には、辺りをキョロキョロと見渡す男女が1組。どうやら発見されている事には気付いていないらしく、動きに変化は見られない。

 それに対して、男達の反応もまた慎重だった。


「どうします? このまま引き付けて、一気に始末しますか?」

「いや、ダメだ。口封じするにしても、背後関係を吐かせてからでも遅くない」

「……確かにそうですね。ここの存在を知っているのは、俺達以外だと学者連中ぐらい。偶然にしては出来過ぎてますからね」

「そうだ。何事も、最後の詰めが肝心……アイツ等には悪いが、洗いざらい吐いてもらう。多少、手荒な手段にはなるが」


 男達はそう言葉を交わすと、すぐに行動開始。

 質問を投げ掛けた方の人間は姿を消し、もう1人はターゲットの尾行に移行した。


“午前2時前か……

 そろそろ学者連中の口封じも終わって、ブツの回収も終わった頃。後はこっちの痕跡を消すだけだからな。

 ただでさえ、議事堂での1件で混乱が続いている。

 まともな捜査どころではないはず。

 ここまでする必要はないとは思うが、念の為だ。今回雇ったゴロツキ共も、後で始末するから問題無い。

 しかし、コイツ達は何者なんだ?

 暗くて顔がよく見えないが、東洋系の移民か……それに年も、どう見ても10代にしか見えない。

 服装こそ浮浪者のそれだが、それにしては動きが機敏過ぎる。

 どこの誰が雇ったにせよ、見つけたからには逃がしはしない。確実に捕え、始末するのみだ。

 悪く思うなよ”


 最大限に警戒をしながら、数分経過した頃だろうか。

 何かの異変に気付いたのか、男の足がピタッと止まった。


「どういう事だ? ここに居るはずのヤツは――」


 周囲を見渡したかと思うと、直後に男は力無く地面に倒れ込んでしまった。

 そして、背後から何者かが姿を現した。


「……こちらは全て片付きました」

「そうか……それで2人の様子は?」

「我々の存在には気付いていません。ただ、この程度の尾行に気付かないのはいかがなものかと」

「そう言ってやるな。アイツ等も人間の子供に過ぎない。逆にここまで生き残っている事を褒めるべきだろう」


 その場に居ない誰かと言葉を交わすも、納得はしていないのだろうか。

 倒れた男の胸から長槍を引き抜き、なおも言葉を交わす。


「それで、我々はこの後どうすれば?」

「貴様等は、引き続き2人のサポートを頼む。解っているとは思うが、くれぐれも我々の存在に気付かれるなよ?」

「ええ……それは問題ないですが、コイツ等に任せておいて本当に大丈夫ですか? この調子で間に合うとは思えませんが」

「我々としては、アレさえ起動しなければ後はどうでもいい。人間共の問題は、人間共で解決するべき事。最小限の介入に留めておかんと、今後の活動に支障が出るだけだ」


 若干空気が重くなりつつも、淡々と言葉を交わす両者。

 長槍で貫かれた死体も、蒼い炎で包まれたかと思うと数秒で灰となって消えてしまった。


「……解りました。こちらは引き続き2人の動きに注視しておきます」

「退屈な任務だが、油断はするなよ? あの婆が何かしてくるかもしれん。少しでも異変があれば、指示を仰いでくれ」

「了解。それでカリーナ様は?」

「私は婆の動き次第だ。何事も無ければそれに越した事は無いが、何か嫌な予感がする……胸騒ぎとかではなく、確信に近い何かを」


 会話はこれで終了したが、空気が重いのは終始変わらなかった。

 それは、今後の展開を予期したかのように。


 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 1年以上投稿出来ず、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、不確定ですが1ヶ月以内には間に合わせます。

 お手数ではありますが、細かい情報はツイッターでご確認下さい。

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