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夢国冒険記  作者: 固豆腐
65/70

キジも鳴かずば(5)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――靖之達が敵と交戦状態になった頃。


「位置の特定は出来ていないが、婆の存在は確か……現状では、それだけか」

「申し訳ありません……現在全力で捜索中でして、もう暫くお待ち下さい」


 部下からの報告に対し、側近のマーフォークは落胆を隠せなかった。

 周囲に居る面々も、気持ちは同じなのだろう。平静を装いつつも、あからさまに落胆の空気が漂っている。

 ただ、ボスのカリーナだけは違った見方をしていた。


「婆が姿を現したという事は、何か動きがあったのだろう。我々の存在に気付いている以上、姿を見せるのは得策ではないからな。となると、先程の爆発で何か動きがあったと考えるべき……あの2人は?」

「つい先程ですが、救援と思われる敵5人と戦闘状態に入ったとの報告が入っています。ただし相手の動きは緩慢で、2人が優勢になりつつありとの事」

「ならば、後数分もすれば制圧出来るだろうな。第2派は確認出来たか?」

「……いえ、現場に向かう人間は確認出来ておりません。ゾンビ共も同様で、特に変化なしとの事」


 部下から情報を受け取り、爆発現場の現状を掴むカリーナ。

 彼女からの指示を待つべく一同が固唾を飲んで見守る中、腕組みをして思案に耽る。


“まさか、このタイミングとは……

 アレの情報を人間に渡した理由は、この際どうでもいい。どんな企みがあるにせよ、所詮は素人の集まり。

 我々がサポートすれば、あの2人の事だ。データの揃った資料が、向こう渡る心配はしなくてもいい。

 問題は、婆がここに来て姿を見せたかだ。

 そういえば、ちょっと前に発砲音が何回か聞こえたな……あの時は仲間割れの類だと判断して放置したが、何かしらのイレギュラーが発生した?

 その対処をする為に、婆が動いているとすれば……

 いや、今の段階では憶測に過ぎない。こちらが動くにせよ、居場所を突き止めない限り逃げられるだけだからな。

 とにかく、今はイレギュラーの正体を突き止める事が先決だ”


 頭の中で素早く情報をまとめると、それを実行するべく部下達に指示。

 各々が動き出して、数分経った頃だろうか。


「……カリーナ様。町の外周部に展開中のゾンビ共に、動きが見られます」

「だろうな……2人が妨害しているのが明らかな以上、放置は出来ん。サポートに入っている連中にも伝え、行動を徹底させろ」

「いえ……逆です。町の中心部に向かうのではなく、包囲を解いてそのまま撤退する動きを取っています」

「何だと?」


 遂に相手が動いたと思うも、想定の真逆の動きだと解り動揺を隠せない一同。

 その場に居る全マーフォークがカリーナを見るも、驚いているのは彼女も同じだった。


“このタイミングで撤退だと?

 2人の妨害を知り、計画に重大な齟齬が発生した……いや、我々の意図に気付いて手を引く事にしたか。

 真相は解らんが、これで正面からの衝突の線はなくなった。

 とはいえ、こうなる事は婆だって解っていたはず。わざわざ展開したゾンビ共を、退かせる理由にはならない。

 となると、残るはイレギュラーが想像以上に深刻な影響を与えた可能性ぐらいか。

 厄介だな……

 探らせているヤツ等からの報告で、こちらが詳細を掴むまでが勝負になる。婆に勘付かれずに、それが出来るかだ。

 迷っている時間は無い”


 心の靄は晴れないまま、決断を下すカリーナ。

 ゾンビの集団の監視を継続しつつ、イレギュラーの正体解明を急がせた。


 ――同時刻。


「……とりあえず、これで全員だな?」

「ええ……他に居ないし、最後のはずよ」


 無言で横たわる男達を見下ろしながら、靖之と舞は制圧を確認。

 周囲の安全を確認するも、すぐに持ち物のチェックには移らなかった。


「とにかく、逃げたヤツ等がどこに行ったのかが問題だ。ただ……闇雲に探しても、時間の無駄。何か手掛かりでもあれば、辿って行ける……」

「建物も、今や見る影もないからね。ガレキを漁ってるぐらいなら、このまま足で稼いだ方が……いや、土地勘がない私達じゃ限度があるよね」

「確かに……だからといって、コイツ等の身ぐるみを剥いだところで足取りが掴めるはずもない。全く……俺達を始末する事は出来なくても時間稼ぎを果たした以上、まんまとしてやられたわけだ」

「本当に……何ていうか、想像以上に疲れたわ」


 足取りが掴めず、徒労感に襲われる2人。

 思わずその場に棒立ちになってしまうが、彼等の足元に1枚の紙切れが落ちて来た。


「んっ……これは?」

「どうしたの、靖之? 見た所メモみたいだけど、何が書いてあるの?」


 思わず拾い上げる靖之に対し、遅れ気味に中身を聞く舞。

 両人共に集中力が欠けているようだが、目を通すなり一変した。


「……なるほど。敵さんは慌てて逃げたから、気が回らなかったんだろう」

「えっ? これって……でも、私達にとっては願ったり叶ったりじゃない」

「ああ、今の俺達には千載一遇のチャンスと言ってもいい。ご丁寧に、地図まで書いてくれてるからな」

「ここからだと結構近いし、すぐに向かいましょう。相手が気付いたら、また面倒な事になりそうだし」


 靖之から紙を渡された事で、舞も内容を把握し重要性を理解したようだ。

 即決で行動方針が決まり、そのまま倒れた敵を放置して移動を開始した。


“まさか、こんなメモを回収し忘れるとは……

 マークされている場所は、ここに来るまでに遭遇した事件現場と完全に一致。数が多い事を考えると、敵の規模は相当のはず。

 こっちは、俺達2人しか居ないんだ。

 数で攻められると勝ち目がないし、勘付かれないようにしなければ。

 それと、気になるのはヤツ等の目的だ。何かを回収か奪取しているけど、それだけの価値がある物だろ?

 もしかして、何日か前に出くわした毒ガスの類か?

 それとも、全く別の代物か……

 何にせよ、放置して後で大事になったらシャレにならんからな。これ以上政情不安が加速する前に、何としても阻止する。

 頼むから、間に合ってくれ”


 靖之は、焦る気持ちを抑えて目的地に向かった。

 よもや、自分達を監視する存在がいるとも知らず。


 ――その一方で、ミコットはというと。


「どうやら泥棒の類ではないようだが、かといって関係者とも思えない。もう1度、聞こう……御嬢さんは誰で、何の目的でここに居るのか」

「……えっ? わっ、私はその……」


 妖精の化け物に質問され、まともな返事が出来ないミコット。

 相手が人間ならまだしも、自身が追われている身の上に目の前には化け物である。ジリジリと後退するだけで、状況は絶望的なまま。

 咄嗟の反応も出来ない中、問いは続く。


「御嬢さんは、見てはいけない光景を目にした。このままでは、明日の朝には身元不明の死体として川に浮かぶ事になるだろう。そうだな……年は、10歳前後といったところか。若いのに、まだ死にたくないだろう? それとも、未来に悲観した自殺志望者とか?」

「あっ、あなたが何者かは私には解らないわ。でも……まだ、こんな所で誰にも知られず死ぬわけにはいかない」

「ほう、死にたくないと? 世間知らずの子供にしては、胆が据わっているじゃないか。パニックに陥って逃げ出さないだけ、その辺の大人の人間よりマシ。まぁ、そう警戒しなくてもいい。私は御嬢さんの素性と、ここに居る目的を知りたいだけなのだよ」

「ウソ……そうやって話を聞き出して、用が済んだら口封じで殺すんでしょ? さっき目の前で殺された、あのおじさんのように」


 話を聞き出そうとする化け物に対し、警戒心を露わにするミコット。

 力関係はハッキリしているものの、自身の命が掛かっているのだ。逃げ出すチャンスを窺うも、出来るのはジリジリと後退する事だけ。

 一方の化け物も、あくまでも話をする事に終始。


「暫く観察させて貰ったが、君に後ろ盾となる組織が無い事は解っている。それにも関わらず、1人で脱出する事に成功した。その判断力と行動力は、本当に素晴らしいと思う。ただ……だ。逃げるのに必死で、出血の処理を忘れたのが痛い。私が何もしなくても、先程の仲間が始末しようとここに来るだろう。そう、時間の問題というやつだ」

「だからといって、おばさんは見逃してくれないでしょう? だったら、このまま話してても一緒。私から話す事は、何も無いわ」

「いやぁ……本当に強情だねぇ。御嬢さんがどう思おうと、私の気分次第で生きるか死ぬかが決まる。だが、殺されるのはどのみち一緒。そう言いたいのだろう」

「……ええ、そうね。確かに、私は道端の石ころと同じ。日々の糧を得る為に働き、そして人知れず消えて行く存在。でも、今は違う。どうしても……どんな辛い事があったとしても、果たさないといけない目的がある。その時まで……誰に邪魔をされようと、私は石に齧りついてでも生き残らないといけない」


 ミコットは脳裏にある人物を浮かべ、そう宣言した。

 決意は化け物にも伝わったようだが、それ以上に興味も持たれたようだ。


「目的か……人間がよく口にする、仲間の為とか恋人・友人といった安っぽい心の支え。いざとなれば平気で裏切る、それが人間の性というものだ。だが、御嬢さんは違うと誓えるのか?」

「他の人は、どうでもいい。物心がついた時から、他人は信用出来ないと解っていたから。でも、あの人は違う。あの人なら、私も変われると思った。どんなに惨めで苦しい生活を続けても、心まで腐ったらお終いだもの。再びあった時、胸を張って報告する。そして目的を果たすのが、今の私の生きる意味なのだから」

「神に縋らないところを見ると、それだけ地獄を見たという事か……同情するつもりは毛頭ないが、御嬢さんがそこまで執着する人間は誰なのか。是非、この目で確かめたいものだ」

「あの人は、私なんかとは比べ物にならない。おばさんが誰なのかは知らないけど、そう簡単に捕まえられないと思うけど……」


 ミコットなりに、話が自身から別に移ったと判断したのだろうか。

 どうにか逃げ出すチャンスを見出そうと、相手の動きに注視しつつも話は進む。


「最後の最後まで、脱出のチャンスを窺うのもいいだろう。ただ……やらなければならない事があるのは、私も同じ。海賊の魚人共もウロついている以上、いつまでも御嬢さんの相手はしていられない。もう1度だけ聞こう。君は何者で、ここで何をしていた」

「私はただの孤児の1人。確かに、見てはいけない現場に鉢合わせしたかもしれない。でも、だからといって黙って殺されるわけには……絶対に諦めない」

「そうか……ならば私の手元が狂うよう、神に祈るがいい」

「私は神様を信じない。信じるのは、あの人だけ」


 化け物は腰の剣に手を掛けるなり、目で追えない速度で一閃。

 ミコットは恐怖から反射的に閉じるも、その刃が体に到達する事は無かった。


「……なるほど、そういう事か。どこの誰の仕業か知らんが、命拾いしたな」

「えっ、ウソ……何? これは……」

「何も知らされてないようだな……可哀相に。御嬢さんがどう考えていようと、もう元の生活には戻れない」

「元の生活? それって、どういう意味なの?」


 化け物の刃は、盾の形にトランスフォームしたブローチによりガードさせた。

 そして攻撃した側は、その意味が解っているのだろう。剣を納刀するや、心の底から憐れんだような表情を見せた。

 しかし、当のミコットにとっては寝耳に水でしかない。

 慌てて真意を問おうとするも、その意思はないようだ。


「いずれ、嫌でも理解するだろう。そして御嬢さんが縋る男も、君と同じ運命の身。1人ではないと解れば、自暴自棄になる事も無いだろう。私が出来るアドバイスは、これぐらいだ」

「あの人も……私と同じ?」

「そうだ。ここで会ったのも、何かの縁だろう。最後は私が引導を渡してやるから、それまで精々足掻くといい。もちろん、我々の仲間になるというなら話は別だが」

「ええ、どっちも遠慮するわ。あなたは信用出来ないし、あの人なら何とかしてくれる。私は、そう信じてるから」


 化け物はミコットの言葉を鼻で笑うと、上空に無音で飛翔。

 どことなく飛び去って行くのを見届けると、その場にへたり込んだ。


「何の話かさっぱりだけど、とにかく命拾いしたのは確か……そうだ! こんな所で、ノンキに休んでる場合じゃない。さっさと逃げないと!」


 緊張から解放されるも、すぐに現実に引き戻されるミコット。

 とりあえず考える事を止め、家(教会)に向かう事に集中した。


 ――同じ頃、化け物を追っているカリーナ一行は。


「……それで、マナの反応があったのはこのエリアで間違いないんだな?」

「はい……短時間ですが、間違いありません。現場に部隊を向かわせましたので、じきに詳細が判明するはずです」


 待ち焦がれた情報だけに騒然とするも、緊迫した空気は漂ったまま。

 動くに動けない中、数分の時間が永遠にも感じられた。


「捕捉さえしてしまえば、後は包囲するだけ。こちらの動きに気付かれないよう、メンバー全員に徹底させてくれ」

「了解しました」

「タイミングだ……相手が、あの評議会の現役メンバーという事を忘れるな。その気になれば、この町ぐらい簡単に消滅させる化け物だ」

「はっ、承知しております」


 部下と側近は、この後の動きの話に終始。

 慌ただしい周囲とは裏腹に、ボスのカリーナは1人思案に耽る。


“反応があったマナの量からして、どこかに飛び去ったか……

 我々が探しているのは、婆も把握しているはず。それにも関わらず、あえて目立つ行動を採った意味が解らない。

 人間相手なら、姿を消せばいい。

 姿を見られたのであれば、口封じすれば十分。

 移動するにしても、我々に気付かれない方法はいくらでもあるからな。むしろ、自分に注意を引き付けるのが目的だとしたら?

 ゾンビ共も引いた今、私達の関心は婆の動向のみ。

 この動きには、何か隠された意味が必ずあるはずだ。それを見誤ると、取り返しのつかない事になるだろう。

 カギになるのは、人間共の動き。

 こっちがまともに動けない以上、あの2人の働き次第だろうな”


 カリーナは考えをまとめると、静かに靖之達が居る方角を見詰めた。

 その胸中に、言いようのない違和感を抱えたまま。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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