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夢国冒険記  作者: 固豆腐
63/70

キジも鳴かずば(3)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――靖之達がマーフォークに発見された頃。


「……はぁ……はぁ……はぁ……と、とりあえず……ここまで逃げれば、さすがに安全のはず」


 建物の陰に隠れ、乱れた息を整えるミコット。

 周囲に人の姿や気配はなく、夜の暗闇にガス灯の光が僅かに差し込む。ここまでの経緯が経緯だけにすぐに逃げ出しただろうが、それが正解とも限らない。

 慎重を期す為か、辺りを見渡し警戒は緩めないようだ。


“おじさんを殺した人達の目的は、この小包のはず……

 何が入ってるんだろう?

 私に何が出来るんだろう?

 何をする事が正解なんだろう?

 いや、今は細かい事は考えなくてもいい気がする。されより、まずは家に帰ってシスターに報告するのが先よね。

 大丈夫……

 ここから教会まで、15分もあれば十分!”


 自分に言い聞かせるように心の中で呟くと、そのまま行動開始。

 細心の注意を払い、動こうとしたのだが。


「そっちはどうだ? この近くなのは、間違いないんだ」

「いや、ダメだ……影も形も無い」


 急に男達の話し声が聞こえ、体をこわばらせるミコット。

 慌てて物陰に身を隠す中、10メートルほど先の通路から2人組の男が姿を現した。とはいっても、酔っ払いの類ではない。

 手には銃と松明が握られており、怒りが動作に現れていた。


「とにかく、虱潰しに捜すんだ。相手は子供だからな。そう遠くには行ってないはずだ」

「解ってる。ガキが何をしようと勝手だが、あの小包にもしもの事があったらシャレにならん」

「無駄な足掻きを……あの場で殺されていれば、子供は助かったものを。俺は向こうを見て来るから、お前はこの近くを頼む」

「ああ、解った。何かあったら知らせるから、お前も無理はするなよ? 小包の確保が最優先だ」


 苛立ちを隠せないまま、2人の会話は終了。

 一方で、ミコットは絶体絶命の窮地に立たされた。


“どうしよう……早く逃げないと!

 でも、闇雲に走ったところで他の人に見つかったら意味が無い。それにこの距離じゃ、そこの人に気付かれるだけ。

 見つからずに、どうにかしてこの場を切り抜ける。

 物陰に隠れて……いえ、そんなのダメ。小さな物音でさえタブーなのに、そんな危険は冒せない。

 じゃあ、隙を見て移動する?

 それもダメだわ。既に警戒しているのに、相手のミスを待つ前に見つかるのが目に見えてるもの。

 ましてや、戦うなんて自殺行為でしかない。

 こんな時に、あの人が傍に居てくれたら……

 って、そんな後ろ向きの事を考えてる場合じゃないでしょ? おじさんが、見ず知らずの私にこの小包を託した意思を考えないと。

 受け取った時の覚悟を思い出さないと。

 通路を使って離脱するんじゃなくて、別の手段。そういえば、このエリアは住宅密集地だったはず。

 ドアはカギが掛かっているだろうけど、窓なら空いているかもしれない。

 大人の男の人は無理でも、私は子供。小さなスペースでも、体の柔軟さと身軽さを利用すれば。

 こんな所で諦めるわけにはいかない”


 ミコットなりに自分を鼓舞すると、周囲の建物を注意深く観察。

 そして捜索に必死になる男を尻目に、脱出ルートを模索し始めた。


 ――同時刻。


「どうやら、ただの集団強盗じゃないみたいだな……」

「……そうみたいね」


 靖之と舞は、足元に倒れている男を見下ろしながら呟いた。

 その後の動きは、慣れたもの。手早く対象を物陰に運ぶと、そのまま持ち物の確認を済ませる。

 もちろん、周囲の変化に目を光らせながら。


「どいつもこいつも、持ってるのは少額の金だけかよ。しかも裸の状態で、ポケットに押し込んだだけ。全く……財布を使おうとは思わんのかね」

「この時代の人間に対して、それを言う? 現代社会の今でも、アメリカとかだと裸の札をポケットにインの文化じゃない?」

「いや……確かにそうなのかもしれんけどさ。汚いというか、一般常識とか大人として最低限のマナーだろ」

「そりゃあ、私だって非常識だと思うわよ? でも、今はそんな事よりやるべき事をやらないと。文句を言うのは、落ち着いてからでもいいんだし」


 口ではブツブツ言いつつも、しっかりと手を動かし続ける2人。

 その成果なのか、持ち物の確認は3分も掛からない内に終える事が出来た。


「……どうも嫌な予感がする」

「そうね……この町で何が起こっているのか、原因だけでも突き止めておかないと」

「とりあえずコイツ等は放置するとして、他の場所も調べた方が良い。そもそも、この静けさだ……何か動きがあれば、すぐ解るはず」

「ええ、私もそう思う。ただ、どこの仲間がいるか解らないからね。私達自身の安全の為にも、警戒だけはしておかないと」


 2人は気絶している不審者を置き去りにしたまま、その場を離脱。

 周囲の変化に目を光らせている中、それを発見するのは簡単だった。


「……俺が正面から入って引き付けるから、舞は裏手を頼む」

「了解。タイミングは靖之に任せるから、こっちは頼んだわよ」


 その建物を見るなり、2人は踏み込む事を決断した。

 灯りが点いた2階建の民家で、看板を見る限り貴金属を取り扱う店の類なのだろう。ただ複数人の男が激しく言い争う声が聞こえ、争っているらしき物音も漏れていた。

 詳細は不明ながら、だからといって傍観する理由もない。

 手早く打ち合わせを済ませると、そのまま行動に移した。


“ドアを蹴破って侵入するとは、物取りではなく家主が目的か……

 口封じの類なら、悠長に調べている場合ではない。人影が見えたのは2階だから、一気に現場に踏み込むべきか。

 いや、仲間が居るか……っ!”


 靖之は2階へ急ごうとするも、途中で人の気配を感じてテーブルの陰に身を隠した。

 幸い1階部分は灯りが無い状態で、すぐに気付かれる可能性は低いだろう。ただ外のガス灯の光が入っているだけに、完璧ではない。

 状況次第で袋のネズミになるだけに、息を殺して相手の出方を窺った。


「後は、アイツが持っている物を回収するだけか……一時はどうなるかと思ったが、蓋を開けてみれば案外呆気なかったな」

「……いや、楽観視している場合ではない。俺達は上手くいったが、手間取っているヤツ等もいるようだ。警察に逃げ込まれると厄介だし、その前にネズミ狩りだろ」

「まぁ、逃げたとはいえ所詮は素人だろう? 数時間もしないうちに終わるだろうし、そう焦る事も無い」

「だといいんだが……追い詰められた人間は、何をするか解らん。万が一何かあったら取り返しがつかんし、気を引き締めておくべきだろ」


 襲撃犯らしき2人組の男が姿を現すと、雑談をし始めた。

 まさか、近くに侵入者が隠れているとは思わないのだろう。パイプに火を点けると、ゆったり一服。

 少しすると、また動きが見られた。


「とりあえず尋問はアイツに任せるとして、俺達は出入り口を固めておくか?」

「そうだな。誰か来るとは思えんが、ドアは2つ共入った時に壊してるんだ。用心しておくに越した事は無いな」

「了解。じゃあ俺は裏口を見て来るから、お前はこっちを頼む」

「ああ、解った。何かあったら、声を掛けてくれ」


 ノンキに言葉を交わすと、1人がその場を離れて行った。

 そして、1分も経たない内に。


「おっ、お前……っ!」


 裏に移動した男が言葉を発するや否や、テーブルの陰に隠れていた靖之が急襲。

 仲間に気を取られて虚を突かれたのか、そのまま意識を刈り取られた。


「……舞。そっちは?」

「クリア……靖之は?」

「こっちもOK。どうやら仲間が2階に居るみたいだから、まずはそっちを片付けよう」

「……じゃあ、急ぎましょう」


 1階エリアを瞬く間に掌握した2人は、すぐさま合流すると階段前に移動。

 軽く手のジェスチャーで合図をし、足音と気配を殺して2階に向かった。


 ――その頃、ミコットはというと。


「……ふぅ。どうにか建物の中に入れたけど、ここは?」


 通気口を使って侵入に成功したものの、どうやら民家の類ではないようだ。

 それどころか、見た事も無い景色に困惑していた。


“フックに釣られているのは、たぶん豚の肉よね?

 しかも、1体や2体じゃない……何列にも並んでるし、肉を加工する場所なのかしら。でも、このエリアにそんな場所なんてなかったはず。

 いや、今はそんな事はどうでもいいわ。

 とにかく、安全な場所を確保して小包の中身を確認。あっ、それと警察への連絡もしたいし人を探さないと。

 でも、どこに居るんだろう?”


 ミコットは整然と並ぶ肉塊を見つつも、どうにか平静を装った。

 そして、家主を探すべくトコトコと歩き回る。


“うーん……

 豚はいいとして、この変な臭いはなんだろう?

 血の臭いでもないし、腐った臭いでもない。それにどこにでも居るはずの、ネズミの気配がしないのも気になる。

 いや、そんな事より今は人を探さないと。

 あっ!

 奥に階段があるし、あっちを探そうかな?”


 灯りがあるからマシとはいえ、ミコットなりに違和感を覚えたのだろう。

 押し潰されそうな孤独感と恐怖を抑え、奥の壁際にある階段に移動した。


「あっ、あの~すみません。誰か居ませんか?」


 2階に向かって声を掛けるも、反応なし。

 声が小さいから聞こえなかったのかと思い、もう1度口を開こうとするのだが。


「……それで、逃げたヤツ等の足取りは掴めてるんだろうな?」

「資料の回収はほぼ完了しておりますので、実験等に支障はありません」

「懸念するべきは、そこではない! 資料の紛失や外部への情報漏洩など、問題外。逃げた人間を拘束したかと聞いている!」

「はぁ……抵抗した者についてはやむを得ず始末しましたが、それ以外は拘束しているはずです」


 どうやらトラブルが発生しているらしく、感情が抑えられないのだろう。

 顔こそ見えないものの、話している内容を察して階段の裏に隠れるミコット。


「おいおい……言ってる意味が解らん! あれほど生け捕りにしろと、何度も釘を刺しただろうが! アイツ等を殺したら、我々の研究はどうなる? 人員の損害は、そう簡単には補填出来んのだぞ!」

「それは、我々も理解しております。ただ、ヤツ等はただ逃げたのではありません。研究内容そのものを危険視し、警察に通報する為に反旗を翻した言わば反逆者。危険因子に目を瞑り見過ごしても、また同じ事をするのは目に見えております。だったら見せしめの意味も込めて、始末するのは当然ではありませんか?」

「だからといって、殺すなと言っている! 見せしめにするなら可愛がる(拷問する)なり、人体実験の駒にするなり利用方法はあるんだ! とにかく、貴様等も組織の一員として頭を使った行動をするように心掛けてくれ」

「……はい、畏まりました」


 物騒な単語が飛び交いつつ会話は終了したが、ミコットにとってのピンチは終わらない。

 何の用があるのか、両人揃って階段を使って降りて来たのである。


“どうしよう……

 もう考えるまでも無いけど、この人達は人殺しの仲間。もしここで見つかったら、殺されるのは目に見えてる。

 逃げるしかないんだけど、どこに……

 下手に動くよりも、ジッとしてるとか?

 いや……そんな賭けに出るより、確実に逃げられる方法を考えないと!”


 ミコットは、焦る気持ちを抑えて頭をフル回転。

 周囲をくまなく見回し、ある場所に目を付けた。


「もう、ここも潮時だな。人の目に触れ難いから今まで使って来たが、研究を続けるには不十分。この件が片付いたら、破棄した方がいいだろう」

「私も、そう思います。周辺住民に気付かれる可能性もありますし、行政機関の施設が集中したエリアと目と鼻の先。当初の予定を前倒しにし、移転するべきでしょう」

「本来なら、捜査の攪乱に使いたかったんだが……こうなった以上、仕方あるまい。方法・タイミングは、お前に任せる。頼んだぞ?」

「お任せください」


 2人はミコットに気付く事無く、歩きながら会話をするだけ。

 豚の肉塊を見ながら、話し続ける。


「議事堂での一件からまだ時間も経ってないのに、この混乱ぶりだ。イスパニアの王子一家の暗殺未遂事件も起こるは、我が国は混迷を極めている」

「……えっ? イスパニアの王子というと、あの王子の家族ですか?」

「そうだ……ウチのボスが言ってから、まず間違いない。本国の反体制グループが仕掛けたようだが、失敗に終わった。ただ、追い詰められ危険に晒したのは事実。今後、大きな外交問題に発展するのは間違いないだろうな」

「まぁ、我が国の警察ですから驚きはしませんが……それで、ボスは何と仰っていたのですか?」


 昨夜の事件の情報に対し、聞いた側は驚きを隠せないようだ。

 そして、それは隠れているミコットも同じだったらしい。


“イスパニアといえば、確か歴史のある列強国の一員のはず。

 毎日新聞を読んでるけど、今日の新聞には載ってなかったけど……まぁ、細かい話は私には難しくて理解出来ない。

 それよりも、何でこの人達がその話をするかが問題よ。

 もしかして、そのボスとかいう人が何か関与しているのかしら?”


 想定外の話題に対し、素直な疑問を持つミコット。

 ただ、話が進むにつれ見知った人物の陰がちらつき始める。


「ボス曰く、事件を利用し途中までは完璧だったそうだ。ただ、最後の最後で邪魔が入ったとお怒りだったよ」

「邪魔とは、王子一家に付いていた警備隊ですか?」

「いや……警備隊も警察関係者にしては有能だったそうだが、直接的な要因は別だ」

「……だとするなら、テロリスト達がしでかしたとかですか?」

「それも違う。邪魔をしたのは、異国の人間達。それもたった2人でボス達を翻弄した上に、王子一家を逃がしたそうだ」


 話を聞き、ハッとした顔になるミコット。

 思わず声が出そうになり慌てる彼女とは対照的に、話は先に進む。


「2人は以前ボス達と戦った経緯があり、その時も負けたそうだ。つまり、今回で2回負けた事になる」

「ボス達を相手に、2回も勝つとは……その異国の人間とは、何者なんですか? どこかの国のスパイか、それとも王室が雇った傭兵の類とか」

「いや、それなら調べれば何かしらの情報が得られる話だ。しかし、素性は不明なまま。解っているのは、異国の人間であり組織には縛られてない存在だという事のみ」

「我らにとっては、脅威ですな。今後我らの前に姿を現すかもしれませんし、部下達に情報を伝えておきます」


 危機感を募らせ表情が険しくなる2人と、目に光を取り戻すミコット。

 正反対の表情を見せる中、またしても動きが見られた。


「報告します! リーダーと、その他数名の研究者の身柄を確保しました」

「了解した。後の処理はこちらでするから、彼らをここに連れて来い。そして、まだ逃亡中のヤツ等の捜索に全力を尽くしてくれ」

「了解しました」


 突然の報告で、流れは一変。

 2人の会話も、本来のものに変化し始める。


「ともかく、邪魔者に関してはボスに任せればいい。それよりも、我々がやるべきは裏切り者の対処だ」

「はい、承知しております」

「ちょうどいい機会だ。ヤツ等には、アレの実験台になって貰う」

「……彼等が到着する前に、準備を済ませておきます」


 何かをする為か、それだけ話すと2人は再び2階に戻って行った。

 一方で、ミコットはどこに隠れていたかというと。


「……危なかった。あのままこっちに来ていたら、絶対に見つかってだろうし」


 釣られていた肉塊が動いたかと思うと、中からミコットが出て来た。

 余程緊張したのか、全身が肉塊の脂と自身の汗でベタベタ。ただ安心していられる状況ではなく、また下手に動くのも危険なまま。

 ホッとする間も無く、周囲をキョロキョロ見ながらその場を後にした。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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