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夢国冒険記  作者: 固豆腐
62/70

キジも鳴かずば(2)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――不審者達が建物に侵入した頃。


「……こっ、これだけは……これを、ヤツ等の手に渡すわけには!」


 建物の陰に座り込む、血だらけの男。

 年の頃は、40~50ぐらいだろうか。ボロボロの作業着を身にまとい、時間に追われているのか伸び放題の無精ひげを蓄えていた。

 そして、何かの事件に巻き込まれたのだろう。

 既に周囲の地面には血だまりが出来、体を動かす余力も残っていないのだろう。


「だっ……誰でもいい。俺の代わりに……」


 最期の力を振り絞って体を動かそうとするも、バランスを崩して倒れるだけ。

 意識も遠のいているのか、目の光が失われようとしていた。


「もっと早く気付くべきだった……全ては、俺の心の弱さが招いた事。だからこそ、まだ死ぬわけにはいかんのだ」


 気力で腕に力を入れ、必死に立ち上がろうと抗う男。

 しかし、何かがぶつかり吹っ飛ばされてしまう。


“……えっ、ウソでしょ?

 いや、今はそんな事はどうでもいい。さっきの人達がどこに居るかわからないし、まずはこの場を離れないと。

 大丈夫……足首は痛いけど、歩けないほどでもない。

 落ち着いて、私。

 警察は頼りにならないし、今頼れるのは自分だけなんだから。どうにかして、誰にも見つからずに教会に帰らないと。

 立ち止まっている場合じゃない!”


 その少女は何かに当たって壁に激突したものの、原因を確かめる事を放棄。

 乱れた服もそのままに、走り去ろうとするが。


「……そっ、そこの人……待ってくれ」


 消え入るような声が聞こえ、思わず足を止めてしまう少女。

 同時に条件反射なのか、振り返って口を開いた。


「……おじさん、どうかしたの?」

「……すまない。見ず知らずの、しかも子供に声を掛ける。不審者か酔っ払いだと思っているだろうが、待ってくれ!」


 常識的に考えるなら、即座に逃げ出すべきシチュエーションである。

 男としては自覚があり、尚且つ彼女こそ求めていた存在なのだ。藁にもすがる気持ちで訴えたようだが、それは相手にも伝わったのだろうか。

 おそるおそる近付いて来ると、目の前でしゃがんで目を覗き込んで来た。


“解ってる……

 この状況を考えると、おじさんを無視して逃げるべきだって。1秒でも早く教会に戻って、全てを忘れて自分のベッドに潜り込む。

 気が付いたら朝になって、また新しい1日が始まる。

 でも、どうしてだろう?

 この人を見捨ててはいけないって、誰かが囁いているような……目と耳を塞いで現実から逃げたら、大切な何かを失うような気がして。

 ……そうね。とりあえず、話だけ聞いてみよう。

 それで手に負えないようだったら、断るか見なかった事にしよう。この人だって、私が子供だって解ってるだろうし。

 どうやら事件に巻き込まれたみたいだけど、そう難しい事は頼んで来ないはず”


 女の子は自分なりに考えをまとめると、ジッと相手の目を見て反応を待った。

 当の男の方も想定していない行動だったのか困惑した様子だが、ゆっくりと口を開いた。


「これを、どこか安全な場所に……いや、完全に破壊して欲しい。大丈夫、そんなに頑丈な代物ではない……石を投げつける程度で十分だろうし、子供の君でも可能だろう」

「おじさんが必死なのは解るけど……どこの誰かも解らない私に頼む?」

「いや、君が言いたい事は解る! だが、このままでは取り返しのつかない事になるんだ。せめて、話だけでも聞いてくれないか?」

「……私が赤の他人だって事を忘れないでね?」


 自分自身が逃げている立場なのを考えると、警戒するのも無理はないだろう。

 男にチャンスは与えたものの、いつでも逃げ出せるように周囲への警戒は怠らない。


「私は、これを作る事で国の発展に貢献出来ると思っていた。だが、ヤツ等は危険過ぎる。どんな手段を使ってでも、破壊しなければ……だから、頼む」

「ええ、壊す必要があるのは解ったわ。でも、そこまでする必要がある物って何なの? それが解らない事には、引き受けるわけにはいかないわ」


 震える手で小包を取り出す男に、女の子は冷静に対応。

 情に流されるつもりはないようで、それは相手にも伝わったのだろう。


「……これはっ!」


 男が口を開いたかと思うと、突然銃声が発生。

 当たり所が悪かったのか、どうやら即死したのだろう。作業着に血を滲ませ沈黙するのに対し、女の子も虚を突かれたのは同じ。

 それでも本能が働いたのか、小包を手に持ちその場からの脱出を図る。


“どうしよう……どうすればいい!

 おじさんはダメだとして、このままじゃ私も殺されるだけ。せっかくここまで逃げて来たのに、こんな所で死ぬわけには。

 死にたくない!

 まずは、安全な場所を確保する。そこで犯人達の目的を見定め、私がやるべき事を決断する。

 どこの誰かは解らないけど、目の前で人を殺された。

 ここで目を背けたら、明日からどんな顔を晒して生きて行けばいい?

 子供だから?

 仕方なかった?

 何も無かったと、現実から目を背ける?

 確かに、おじさんは私にとって見ず知らずの他人ではある。それでも、訴えかけている目は本気で私を頼っていた。

 だったら、逃げるべきじゃない。

 あの時、あの人は見ず知らずの私を助けてくれた。おじさんは意思を無駄にしない為にも、現実と向き合う。

 今度会った時に、胸を張って報告する為にも……”


 心の中で、何かのスイッチが入ったのだろうか。

 安全な場所を探しつつも、その行動から迷いが消えていた。


 ――同時刻。


「……バカが。黙って自分の仕事だけやっていれば、死なずに済んだものを。本当に、バカなヤツだ」


 先程射殺された男を見下ろしながら、犯人と思わしき男は虚しそうに呟いた。

 とはいえ、被害者に同情したのは一瞬だけ。持ち物をチェックする為か、すぐに服に手を伸ばす。

 とはいえ物取りの類ではなく、財布等には目もくれず無造作に投げ捨てる。

 そこに、仲間と思われる別の男が姿を現した。


「どうだ……始末したか?」

「ああ、見ての通りだ。それよりも、例のブツの回収が先決だ。ボサッと突っ立ってないで、お前も手伝え」

「おっ、おう……それもそうだな」

「誰かに見られたら、厄介だからな。さっさと終わらせるぞ」


 周囲を警戒しながら、慣れた手つきで持ち物を確認し始める男2人。

 しかし、目的の物を見つけられず徐々に焦りの色が強くなり始める。


「おいおい、勘弁してくれ……あれが無かったら」

「……落ち着け。コイツが持ち出したのは、確かなんだ。逃げるのに必死で、どこかに隠す余裕も無いからな。探せば必ず……」


 諦めずに手を動かし続けるも、結果は同じ。

 被害者が所持していない事が確定し、雰囲気は悪化の一途を辿った。


「もしかして俺達に回収される事を恐れて、どこかに隠したんじゃないのか? その辺に捨てるなら、逃げながらでも十分だろうし」

「こんな路地で、そんな都合のいい場所があると思うか? ちょっと探せば解る話だし、それなら安全な場所に逃げる事を優先するはず」

「だったら、ブツはどこに消えたんだ! あれが無かったら、俺達の命は無いんだぞ?」

「だから、静かにしろ。警察に通報でもされたら、ブツを探すどこじゃない。消えるはずがないんだから、どこかにあるはずだろ?」


 仲間割れ寸前になりつつ、どうにか取り繕う事には成功したらしい。

 とはいえ、それが崩壊するのも時間の問題だろう。苛立ちを隠せず腰に手を当ててウロウロする仲間の男と、冷静に周囲に視線を向ける始末した男。

 対照的な動きをする2人だが、動きはすぐに現れた。


「……どうやら、ネズミが1匹逃げたらしい。ブツを持っているのは、ソイツだ」

「おいっ、どういう事だ?」

「ここを見てみろ……あっちの方角に、足跡が続いている。大きさと形から見て、おそらく女のガキ。時間的に考えて、仕事帰りのバカが偶然アイツと出くわしたんだろう。歩幅が小さいのは、走って逃げたから。銃声に驚いての行動と考えると、辻褄が合うからな」

「なるほど……ネズミ狩りの時間だな」


 地面に残る足跡から、目撃者の存在を暴き出す男。

 もう1人の男はすぐに捕獲を試みようとするが、手で制して話を振る。


「このガキが何者か知らんが、とっさの行動といい、油断するべきではない。確実にブツを回収する為にも、保険を掛けておくべきだ」

「保険って……今こうしている間も、ガキは逃げてるんだぞ? 悠長な事をやる前に、すぐ探すべきだろ」

「だからこそだ。夜で、視界が利かない状況なんだ。ガキが地元の人間だとするなら、俺達の裏をかく事も考えられる。心配するな……あんな大事件が起きた後だ。一般人が、汚い子供に手を貸すとは考えられん」

「……言われてみれば、確かにそうだな」


 最初は食い下がったものの、追加の説明でトーンダウンする男。

 ようやく落ち着いたと判断したらしく、詰めの部分を口にし始めれる。


「こんな状況だからな。死体を隠すのは後にするとして、お前は他のヤツ等を呼んできてくれ。そうだな……3人もいれば十分だ。その間に、俺が下準備を進めておく」

「了解。でも、ガキがどう動くか解らんのに、1人で大丈夫か」

「頭が回るとはいえ、所詮は子供だ。行動パターンなんて、たかがしれているからな。こっちは俺だけで十分だ」

「……そうか、じゃあ頼んだぞ」


 話がまとまるや否や、即座に行動開始。

 2人は死体を放置し、その場から走り去って行った。


 ――その頃、靖之達はというと。


「……どうにか仲間を呼ぶ前に倒せたけど、さすがに物騒すぎじゃない?」

「まぁ、無理もない。先日の議事堂の件以降、国全体が浮足立ってるからな」


 靖之と舞は、路地裏で不審者の首をそれぞれ締め上げて気絶させている途中だった。

 最初こそ抵抗していたが、それも数十秒だけ。完全に両人の意識を断ち切ったのを確認し、服の一部を破って手首と足首を拘束。

 そのまま、持ち物の確認を始める。


「昼間、あんな事があったばかりだからな。今日ぐらい、何も起こらなければいいんだが」

「そうね……毎日色んな事件の連続で、気が休まるヒマも無かったし。せめて、今日ぐらいは平和だといいんだけど」


 口から出る単語と自身の行動に矛盾を見せながら、作業を進める2人。

 ただ、そう簡単に求める情報が得られるわけもない。


「このバカ共は放置するとして、これからどうするかが問題だな……」

「ええ……郊外に移動するつもりだったけど、さすがにアレだし」


 想定外の出来事に、次の行動に苦慮する靖之と舞。

 互いにプランが無いだけに、沈黙が続く。


“参ったな……

 こっちを確認する前に、いきなり銃で撃って来たからな。とりあえず排除したのはいいとして、問題はそこじゃない。

 コイツ等が何者か、気にならないと言えばウソになる。

 とはいえ、これまでそれで痛い目を見て来たのも事実。あまり首を突っ込みたくないというのが、本音ではある。

 それでも、議事堂の件を皮切りに重大な事件が連続している。

 しかも、向こうの世界の住人の動きも活発だ。

 とりあえず、自分達の安全を確保した上で町を散策。いつものように、朝になるまで待つ作戦でいくか。

 昼間は、響の件でやるべき事が山積みだからな。

 慎重に行動しないと”


 靖之なりに、頭の中でアレコレ考えている時だった。

 少し離れた場所で、何かが割れる音がするのが聞こえた。


「……どうする?」

「……コイツ等の仲間だろうな。ただの強盗の類かもしれんし、そうじゃないのかもしれない。とりあえず、様子を見に行くのも手だとは思う」

「スルーして、後で取り返しのつかない事になるのは避けたいからね……確認すれば、安心出来るし」

「じゃあ、決まりだな」


 野次馬根性ではないが、見過ごすのもリスクだと判断したのだろう。

 周囲の動きを注視しつつ、静かに現場に向かった。


 ――その頃、少し離れた場所では。


「なぁ……何で俺達が、人間共を監視しないといけないんだ?」

「ブツブツ言ってないで、しっかり働け。見逃しでもしたら、お叱りを受けるだけでは済まんのだぞ?」


 建物の屋根の上で、監視の目を光らせるマーフォーク2体。

 両者に温度差があるとはいえ、どうやら重要な任務でも与えられているのだろう。僅かな変化も見逃すまいとするも、今日は町全体が眠った状態である。

 緊張の糸が緩みやすい環境なのは、否定できない。


「人間共が何をしようと、責任はアイツ等にある。我々が介入する必要があるとは、俺には思えんがね」

「自分達で作った物なら、自己責任で済む。ただ、この時代の科学技術を考えてみろ。完全な、オーバーテクノロジーだろ?」

「確かにそうなのかもしれんが、それも時間の問題じゃないのか? 原理さえ解ってしまえば、なんてことも無い。皆、ナーバスになり過ぎだ」

「……おいおい。俺達がこっちの世界に飛ばされてから、異変が続いているんだ。これ以上、歪が大きくなったら取り返しのつかん事になるんだぞ?」


 どうやら、単純な人間観察の類ではないのだろう。

 無視出来ないワードが出る中、マーフォーク達の会話は続く。


「とにかく、全ての元凶は評議会のバカ共にある。何がしたいのかは知らんが、自分達の都合で関係ないヤツ等に迷惑を掛けるなよ……」

「ああ、俺もそう思う。だからこそ、今回の件の首謀者を割り出す必要がある。まぁ、あの婆あたりが1枚噛んでるのは間違いないだろうが」

「あーっ、嫌だね……あの婆が関わったら、ロクな事にならんからな。今回の件も、ウチに火の粉が飛んで来なければいいんだけど」

「その辺りの事は、カリーナ様に任せておけばいい。俺達は、与えられた自分の仕事をするだけだ」


 明確な解決策がないだけに、早々に会話を終わらせるようだ。

 そして、監視作業に集中しようとするのだが。


「ほぉ……誰かと思えば、いつぞやの人間共じゃないか。おいっ、あそこを見てみろ」

「えっ……って、マジか。アイツ等がここに居るとなると、今回の件はちょっと荒れるんじゃないか?」

「だろうな。だが、俺達としては好都合。細かい指示はカリーナ様に報告してからだが、退屈せずに済みそうだ」

「ああ、アイツ等なら俺達の存在を知ってるからな。囮として使うには、これ以上ない相手。上手くいけば、あの婆に一泡吹かせる事も可能だろう」


 マーフォーク達は、路地裏を歩く2人の人間をロックオン。

 すぐに指示を得るべく、自身のボスへの報告を急いだ。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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