表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢国冒険記  作者: 固豆腐
6/70

オオダコと沈没船(3)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・今回は長編の3パート目です。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

【前回までのあらすじ】

 偶然出会った老父から連続海難事故の話を聞き、調査に乗り出した靖之。

 とはいえ、新聞の情報だけでは不十分である。とりあえず海岸に向かった所、そこで舞と合流した。

 そのまま手掛かりを探そうとするも、突然沖で船らしき物が炎上。

 直後には謎の帆船が出現するに至り、2人は撤退を決断する。ただ常識では考えられない性能を見せる相手に、対応は後手に回ってしまう。

 そして町まで後少しの距離で、メデューサとマーフォークの化け物に発見された。




 ――2人が拘束されて少し経った頃。


「さて……そう肩肘張る必要はない。まずは、雑談でもしようじゃないか」


 靖之と舞は例の船に連行されると、船長室に移されカリーナと対面していた。

 とはいえ、暴行を受けたわけでもなければ尋問をされたわけでもない。むしろ、その逆ともいえる待遇を受けていた。

 まず、ボロボロだからと新品の海賊風の服にチェンジ。

 逃げる際に負った細かいキズの治療まで、相手が負担した。

 もちろん経緯が経緯だけに、まともに受けるほど2人もバカではない。世の中、タダほど高いものはないのだから。

 どうにか逃げ出そうと、虎視眈々とそのチャンスを窺っていた。


「どうした? せっかくの料理も、冷めると不味くなるぞ?」


 目の前のテーブルには、海鮮を中心とした様々な御馳走がズラリ。

 カリーナは2人に勧めつつ自身は平然と口にしていた。それもナプキンや前掛けを使った、お手本のようなマナーで。

 実際は2人共空腹なのだが、互いに顔を見合わせると無言のまま首を振って拒否。

 徹底抗戦の構えを取るが、言った本人は至って普通に食事を続ける。


「食べないのは勝手だが、だからといって貴様等を解放する事もないからな。それに、心証って大事だと思わないか?」


 無機質な言葉に、今度は決意が揺らいだのだろうか。

 不安そうな顔を見合わせると、遠慮がちではあるが料理を手に取った。


「……そうだ。ちゃんとした話をするには、それなりのコンディションでなければならない。身だしなみや、腹ごしらえもそう」


 2人のとったリアクションは、どうやら正解だったらしい。

 しばし無言のまま、3者は食事に集中。それはテーブル上が空の皿で埋まり、部下らしき魚人が片付けに来るまで続いた。

 そして、尋問は当初より雰囲気が和らいだ状態でスタートする。


「まどろっこしい話は、時間の無駄だからな。単刀直入に聞こう。貴様等はどこから……どんな世界から、この世界に迷い込んだ?」


 想定外の質問に、身構えていた2人は困惑したのか反応が遅れてしまう。

 ただ、脳裏には『あるモノ』がすぐに浮かんだ。


 ――20分後。


「なるほど……そっちの世界では我々のような生物は存在せず、伝承等の架空の存在なんだな?」

「ええ、その通りです。僕もこっちの奥田も、ただの学生。寝るたびにこっちの世界に飛ばされるから、困ってるんです」

「佐山の言う通り、出来るなら自分の世界で過ごしたいだけです」

「……ほぉ。なら、我々と同じだな。違いがあるとすれば、貴様等は寝ている間だけで済んでいるという点だ。こっちは、かれこれ1ヶ月以上帰れてないからな」

「「そっ、そうなんですか……」」


 どうやらカリーナ達も靖之達と似た境遇のようで、思わぬ所で共通点が出来た形だ。

 同時に、この現象の解決策が見つかる可能性も秘めている。


「貴様等は、どうやってこの世界に来た? いや、理由が解れば苦労しないって言いたいんだろう? 私もそうだ。でも、違う世界の住人がこうやって顔を合わせてる。互いの情報を突き合わせれば、何か解るんじゃないか?」


 カリーナの言葉に、すぐに返答しない2人。

 アイコンタクトをするも、両名共に考えがまとまらないようだ。


 いや……

 確かにもっともらしく聞こえるが、この化け物は本当の事を話してるのか?

 俺達と同じ理由なら、次々にここの漁師を殺している理由は何だ? 今日もやったし、先月からの分も含めるなら相当な数になる。

 しかも、現場は全て数キロの範囲の中だ。

 そういえば、さっきタコがどうとか言ってたな……

 化け物のペットなのか、それともクラーケン的なアレなのか。正直、俺の想像力では見当もつかんけど……

 まぁ、そんなのはどうでもいい。

 問題なのは、コイツが言ってる話を信用していいかという事だ。

 例の本が呪いか何かと仮定して、コイツがその犯人なのかもしれない。そして計画に沿ったうんたらとかで、俺達を監視してるとしたら?

 さっきはつい本当の事を話してしまったけど、もしかしてマズかったんじゃあ……

 いや……仮にそうだとして、こっちは生殺与奪権を握られてるんだ。交渉出来る立場でもないのに、危険過ぎる。

 ここはやっぱり、本当の事を話すしかないか……


 靖之なりに考えてはみたものの、結局まとまらないまま。

 それでなくても主導権を握られ、完全アウェーな環境である。舞も同じなのか、両者は観念したように同時に頷いた。

 そして、靖之が代表してカリーナに詳細を伝える。


「――以上が、僕達がここ数日で経験した事の全てです。羊皮紙本が何かしらの引き金になったようですが、あなたもご存じのようにドタバタしてまして……検証等は、まだですが」


 全ての説明を終えると、考え込むような仕草を見せるカリーナ。

 2人にとっては、自分達の命が懸かっているのだ。固唾を飲んで見守る中、突然ドアをノックする音が聞こえる。

 意識外の出来事に心臓が飛び出しそうな顔で驚く人間を尻目に、部屋の主は至って冷静。

 すぐに入るように促すと、部下らしき魚人が入って来た。


「カリーナ様……アジトに到着しました。夜明けまでまだ時間がありますが、どうしますか?」

「そうか、ご苦労。人目に付くのは避けたいからな……アレが見つからん以上、今日はもう十分だ。コイツ等の処遇は私が決めるから、見張りと整備班の連中以外は休んでも構わない」

「了解しました。失礼します」


 会話は、たったこれだけで終了。

 カリーナは視線だけで部下を見送ると、再び2人を見据えて話を進め始める。


「ただ座って話をするのも、退屈でつまらないだろ? 時間も勿体ないし、歩きながら話そう」


 そう言うなりおもむろに席を立つと、手のジェスチャーで付いて来るように指示。

 当然2人には断る権利も無く、言われるがまま船長室を後にした。


 クソッたれ……

 どうする? どうすればいい?

 ここで逃げ出しても、周りには敵しか居ない状況。それどころかアジトがどこかも解らず、土地勘もゼロときてる。

 仮にこの場は逃れられても、いつかは捕まる。

 その先に待っているのは、俺達の死だ。まずは観察に集中し、隙が出来るのを待つしかないだろうな。

 奥田さんが足を痛めてるのを考えると、勝負は最初の1回のみ。

 失敗は、絶対に許されない


 靖之なりに案球を働かせている間に、甲板に到着。

 魚人共の大半は既に休憩中なので、働いているのはごく一部のみ。さりげなく周囲に視線を向け、状況把握に専念する。

 一方で、カリーナは先頭を歩いている為だろうか。

 脱走を企てている事実に、まだ気付いて無いようだ。ただ平然と歩いているのに対し、動きがあからさまに固い2人。

 力関係が露骨に現れる中、それでも中央部ぐらいまで移動した所だろうか。

 メデューサは顔だけを対象に向けると、2人に対して話を振って来た。


「貴様等は、大学生だと言っていたな? そんなお前達から見て、違う世界に飛ばされるって事が現実に起こると思うか?」

「いえ……誰かが言っただけなら、頭のおかしいヤツとしか思わないでしょうね。でも、紛れもない事実ですから。受け入れるしかないですよ」

「私達は、刺激やスリルを全く求めてませんから。願いは、元の生活に戻る事。その為なら、多少の無理は覚悟してます」


 カリーナの問い掛けに対し、警戒心を剥き出しにする2人。

 あからさまに信用してないと言っているが、言われた側は苦笑するのみ。


「いいねぇ……若いっていうのは。これから自分達が殺されるかもしれないのに、ゴマをすったり媚びようとしたり命乞いもしない」

「そりゃあ、そうでしょう。助けてくれとか解放してくれとか泣き付いて、『はい、そうですか』と言うわけでもなし。俺だって、男ですから。友達を守りたいし、そもそも女の子を前にして泣き言なんて口にしない。臆病者だって、覚悟を決める時ぐらい解りますよ」

「あなた以外、周りには誰もいないこの状況……女だって、勝負所ぐらい腹を括る。まして、数日とはいえ同じ苦労を共有した友達。1人だけ逃げるぐらいなら、一緒に死んだ方がマシなだけ」


 口調こそ穏やかだが、内容は宣戦布告と同じである。

 ただでさえ危うかった3者の間の緊張感は、瞬く間に急上昇。全員が沈黙し、足が同時に止まった瞬間だった。

 靖之がカリーナの腰に対して全力でタックルした。


 ――同時刻。


「いくら何でも、遅過ぎる……もしかして、彼も犠牲になったんじゃないか?」


 靖之と先程遭遇した老父は、一向に戻って来ない彼を心配して家の外に出ていた。

 とはいえ、少し前に何かが爆発する音を聞いたばかり。さすがに再び現場に向かうのは怖いらしく、自宅前を行ったり来たりするだけ。

 室内に戻ろうかとも考えたが、調査を頼んだのは自分自身。

 さすがに無責任だと感じたらしく、ソワソワしつつも戻って来るのを待ち続けた。


「あらっ? ジョンソンさん……また、海の様子を見に行ってたのかい? 何をした所で、結果は同じ。悪い事は言わない……今は、家でジッとしときなよ」

「ああ、マリー婆さんか……」


 隣家の窓が開いたかと思うと、同年齢と思わしき老婆が顔を出した。

 ご近所さんであり、互いに知った仲である。身を案じて声を掛けてくれるのはありがたいが、今はそれどころではない。

 ただしここは田舎の漁師町であり、閉鎖的な環境である。

 対応1つで村八分も有り得るだけに、無視するようなマネもしない。


「いや……さっき、沖で爆発するような音が聞こえただろ? 今度は、どこのバカが漁に出たのか気になってな」


 とりあえず、それっぽい話をして誤魔化す作戦のようだ。

 本人はこれで適当に話を終わらせるつもりだったが、返って来た答えは意外だった。


「いやだね~ジョンソンさん……役所か警察だかが、数日前から事件の調査を始めたばかりじゃないか。おおかた密漁船でも見つけて、沈めたんだろうさ」

「……え? 役所か警察って、ここ数日そんな人間は見かけてないが?」

「そりゃあ、ジョンソンさん。あんたは、昼間は家で漁具のメンテナンスをしてるでしょう? 役人は夜に仕事をしないんだから、見なくても当然さね」

「あっ、ああ……それもそうか」


 ケラケラ笑うマリーに対し、釈然としないジョンソン老。

 とはいえ他に話す事も無く、自然と会話は終了した。


「ジョンソンさんも年なんだから、あんまり無茶しちゃダメよ? あっ! そうだ……明日料理を持って行くから、一緒にランチでもどうさね」

「ああ……それは、ありがたい。酒と土産の干物を用意して待ってるよ」

「じゃあ、お昼頃窺うわ」


 軽く食事の約束を済ませると、マリーは顔を引っ込めると窓を閉めた。

 ただ、残された老父の顔色は優れない。


 私の名前は、アーロン・ジョンソン……

 妻に先立たれて、かれこれ20年になる。息子達は金を求めて都市部に移住した上、ここ数年は音沙汰なし。

 無理もないだろう。

 いつまでも閉鎖的な環境から抜け出せない、化石のような老人共。己の漁場を守る為にケンカを売り続けたせいで、周辺の町との関係も最悪だ。

 今回の事件も、協力してくれているのは表面だけ。

 船も昼間の数時間しか出さず、来る人間も子供が数人だっていうじゃないか?

 全ては、自分達の行動が跳ね返っているに過ぎない。せめて息子達だけでも、まともな環境で暮らしてくれ。

 今回の事件で何かが変わると思ったが、それには遅過ぎた……


 半ば諦めにも似た表情を浮かべ、そのまま自宅に帰ろうとする老父。

 しかし何かを思い出したのか、ピタッとその足が止まった。


 ちょっと、待てよ……

 さっきマリー婆さんが言ったのが本当なら、役所の調査は数日前から始まっているはず。しかも、活動するのは日中だけ。

 じゃあ、さっき会った少年は何者だ?

 今考えると、明らかに外人みたいな顔立ちだったからな。服装も違和感というか、アレは血の臭いか?

 でも、こっちの話を聞く姿勢は真剣そのもの。

 現に、例の爆発を調べに行ったからな……


 ここに至り靖之の正体に疑問を持ったらしく、呆気に取られる老父。

 まさか彼らが化け物と対峙しているとも知らず、彼は不安げな顔で海の方角を見詰めた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 ジャンルとしては、変則的な転移系ローファンタジーです。

 感想・レビュー・評価・ブックマーク・誤字報告等も、宜しければお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ