イスパニアの醜聞(6)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――鎧の化け物による攻撃の直後。
「……冗談じゃない! 状況は、どうなっている……」
「後ちょっとだっただろ! 後一歩の所まで追い詰めておいて、このタイミングで攻撃を受けるとは……」
王子一家を暗殺しようとした矢先の出来事に、グループ全体が混乱を極めているようだ。
幹部達が事態を把握しようと試みるも、誰の耳にも声が届いていない。
「報告します! 後方の部隊とは連絡が途絶……個別に撃破されたらしく、伝令も戻って来ません」
「相手の所属は? いや……規模がどの程度かは、解っているのか!」
「いえ! 奇襲を受けた直後から混乱した状態が続いていまして、全容の把握には至っていません」
「とにかく、今警備の連中と戦っている場合ではない! どうにか体勢を立て直し、足止めさせるのだ!」
ようやく部下が現れるも、目を覆いたくなるような内容である。
指示を出しはするものの、幹部の顔色は真っ青なままだった。
「報告します! 側面ですが、こちらも敵の猛攻を受け壊滅的な被害が出ている模様。救援要請が出ていますが、どのように対処しますか?」
「対処もクソもあるか! 死守せよ! 王子一家を目の前にしているんだぞ? ここまで来て逃がしたら、もう我々に袋のネズミも同然。押し返せとは言わん……せめて、始末するまで足止めをするんだ!」
「しっ、しかし……既に防衛網は突破される寸前です。このままでは、ここに敵が雪崩れ込むのも時間の問題と思われます」
「ちぃ……可能な限り人を向かわせるから、それまで持ち堪えるように伝えておけ!」
後方に続き側面も危機的状況だと判明し、苛立ちを隠せない幹部。
他の幹部も報告に対応するも、内容は全て同じようだ。
「ダメだ……押し返すどころか、全滅を避けるのも怪しくなってきたな」
「……信じられん。まるで、待ち伏せでもされていたかのような惨劇ではないか!」
「状況に対して、悲観してる場合か? このままでは、こちらがスリ潰されるだけだろ!」
打開策どころか、自分達の死が脳裏よぎるのだろうか。
全員が感情的になるばかりで、まともな論議にすらならない。
「そう言えば、ウチの大将はどこに行った? まさか、流れ弾に当たって死んだんじゃないだろうな?」
「解らん……なんせ、突然の攻撃だったからな。気が付いた時には、この有様だ」
「生死不明なんだから、俺達だけで対処するしかあるまい。このままノンキに指示を待ってると、冗談抜きで全滅だぞ?」
組織のトップが行方不明という事実に対して、咄嗟の判断が下せない幹部達。
そうこうしている間にも、事態は悪化の一途を辿っていた。
「裏道を捜索中の先遣隊ですが、敵の奇襲を受けて全滅した模様。更に、こちらに向かって進行中です」
「えっ、ちょっと待てよ……ウソだろ? なぁ、何かの冗談ではないのか?」
致命的な報告を受け、呆然とする幹部達。
ただ報告者の沈痛な表情を見る限り、現実だと認めざるを得なかった。
「……ここまでだ。これ以上は、損害を無駄に増やすだけ」
「おいおい、冗談じゃない! 今さら、どこに逃げるっていうんだ!」
「そうだ! ダメージは大きいが、ターゲットとは目と鼻の距離。敵を食い止めつつ、残った人間で打って出るべきじゃないのか?」
後ろ向きの発言をする1人に、残る2人は猛反対。
完全に意見の割れた様子に、報告に来た部下は黙って下を向く事しか出来ない。
「足止めが出来てないから、このザマなんだろうが! 逃げるにしても、それは成功した時も同じ話。ここにしたって、いつまで安全か解らないんだ。だったら、今は一旦引くしかないんじゃないのか?」
「確かに、そうかもしれんが……じゃあ、引いた後はどうするんだ? 相手だって、バカではない。警備はこれまで以上に厳重になるし、もうチャンスなんて無いはずだ」
「王族に牙を剥いた時から、退路は存在しないんだ。我々はここで全滅するかもしれんが、志を受け継ぐ者達が立ち上がるはず! 彼らの為にも、弱腰な姿勢は見せられない」
説得しようと試みるも、2人は頑なに受け入れようとしない。
打開策が見出せないまま、絶望的な空気が周囲に充満していた。
――同時刻。
「王子……大丈夫ですか? ペースに問題があるのなら、早めに仰って下さい。我々の方で、対応策を練りますので」
「いえ……私は大丈夫ですが、妻と子供達が心配です」
降り続く雨とぬかるんだ地面により、移動スピードが鈍化した王子一行。
泣き言1つ口にしないのは立派だが、疲労は確実に蓄積しているようだ。
“これは、マズいな……
どれだけ我慢しようと、人間には限界がある。そして、女性と子供は男と比べて体力が少ないからな。
そうなったら、取り返しが付かない。
ただでさえ、国際問題になりかねない行為なのに……
もし万が一の事でもあれば、挽回は不可能だ。警備に関係した人間の首では、到底済まなくなってしまう。
議事堂での一件から、まだ数日しか経ってないのだ。
我が国の命運は、偏に俺達の両肩に掛かっていると言っても過言ではない。
しかも、王子一家の覚悟を見せられたのだ。いつまでも、無能なままでは格好がつかんからな。
絶対に、守り抜いて見せる。
その結果、我々が全員命を落とす事になろうとも”
警備隊のリーダーは、警備対象一家を横目で見ながら覚悟を固めた。
そして、さりげなく声を掛ける事も忘れない。
「……とにかく、ケガだけはご注意下さい。ここでもし誰かが負傷した場合、我々だけで対応するのは不可能ですので」
「解っております……皆さんの御好意に、家族を代表して感謝を」
一番体力のある王子が、家長として警備隊に対して礼を口にした。
その精神力に感銘を受けたのか、護衛する側の士気は高い状態をキープしたまま。
「ちょっと、失礼します……何か、動きがあったようなので」
周囲を警戒中の仲間が来たかと思うと、リーダーと話始める。
必然的に全員の足が止まるが、王子一家は体力の回復に努める事に専念していた。
「攻撃を仕掛けて来たグループですが、どうやら何者かの攻撃を受けているようです」
「……何者かの攻撃って、どこの誰だ? 配備中の警備班は、既に全滅したと報告を受けているが……」
「解りません……ただ奇襲を受けたらしく、混乱と士気の乱れが深刻なのは確かです」
「……どうも、怪しいな。そいつ等も素性と目的が解らん以上、不気味過ぎる」
報告に対して、警戒心を露わにするリーダー。
少し考え込む仕草を見せ、部下に話を振る。
「その攻撃を仕掛けたヤツ等だが、我々の事は気付いているのか?」
「現時点で、その様子は見受けられません。しかし動きが組織的な上に、事前に攻撃プランを練っていたのは明白。既に勘付かれていると考えておくべきだと思います」
「なるほど……とはいえ、こっちには女性と子供2人が居るからな。ペースアップはもちろん、ここ(裏道)を外れるわけにもいかん」
「解っております。我々も痕跡が残らないように注意しつつ、尾行にも目を光らせておりますので」
正体不明の集団に対し、出来る範囲で対策を立てる警備班。
簡易的な打ち合わせは終わり、再び警備対象に声を掛けるリーダー。
「お待たせして、申し訳ありません。打ち合わせも終わりましたので、そろそろ移動を再開したいのですが?」
「あっ、ああ……そうですか。解りました。我々でしたら大丈夫ですので、宜しくお願いします」
王子の言葉に続き、無言で頷く家族達。
疲れ果てた様子で無理をしているのは明白ながら、目の力だけは健在だった。
「目的地は、裏道の抜けた先になります。日が昇る頃には到着する予定ですので、もう暫くご辛抱下さい」
「はい……お願いします」
手短に予定を伝えると、そのまま移動を再開。
相変わらず王子以外は無言ではあるが、必死に周りの人間達のペースに付いて行く。
――その頃、攻撃を仕掛けた側はというと。
「敵部隊の被害は、壊滅的な模様。組織的な反撃も無く、混乱した状況のまま推移しています」
「……ご苦労。引き続き、圧力を掛け続け包囲殲滅せよ。ただし、無理な力押しは必要ない。不測の事態には、現場の判断で臨機応変に対応するように」
「了解しました」
「無力化が成功したら、我々の部隊に合流。あっ、そうそう……投稿する輩は、無視して始末しろ。後々面倒になるからな」
まずは、報告に来た部下に対して簡潔な指示を飛ばす首謀者。
そのまま走り去るのを尻目に、今度は横に居る側近達に声を掛ける。
「ヤツ等が失敗した最大の要因は、末端の部下のレベルの低さだ。だから情報が洩れ、我々が利用出来たわけだけどな」
「まぁ、部下のレベルに関しては我々も笑えませんからね……今回はプラスに作用しましたが、ちゃんと引き締めておきます」
「そうだな……ついこの前、邪魔をされたばかりだ。反省する所はしっかりやらんと、後で大きな代償を支払う事になりかねん」
「……解っております」
当事者なだけに、全員の顔色が暗くなる。
同時に、話の流れでその邪魔者達の処遇にシフトした。
「例の2人組ですが、どうしますか? せっかくの機会ですし、この場で始末する事も可能かと思われますが」
「……いや、我々の目標はあくまでも王子一家。2人に関しては手を打ってあるし、無理に人を割く必要もない」
「……了解しました」
「いや……こちらの意図に気付かなければ、また違う場所で出くわす事もあるだろう。そうなったら、この手で始末するまでよ」
あくまでも、今回は重要視していないと強調する首謀者。
それ以上話も広がらず、話題はメインターゲットに移った。
「それで、王子一行の様子はどうだ?」
「……そうですね。先程の報告を聞く限り、裏道の使って徒歩での移動を継続中。日が昇る頃には、目的地の町に到着していると思われます」
「なるほど……我が国の警察にしては、優秀なようでなによりだ。彼らには、引き続き警備を頼むとしよう」
「ええ……せいぜい、頑張って我々へのアシストをしてもらうとしましょうか」
自身の計画が順調なのを確認し、笑みが漏れる一同。
ただし笑っているのは一瞬だけであり、すぐに気を引き締める。
「我々が一家を保護するにせよ、相手側に警戒されては意味が無い。いかに演出で警戒心を解くかがカギになるだろうな」
「問題は、警備をしているヤツ等でしょうね。ここまで、警備して来たプライドがあるでしょうし。そう考えると、簡単に身柄を引き渡すとは思えませんし」
「人生で、最初で最後の晴れ舞台だ。ヤツ等にそこまでの忠誠心があるとは思えんが、事実ここまで守り抜いたわけだからな」
「少なくとも、ウチの末端の構成員よりかは優秀でしょうね。本当に、アイツ等の意識の低さときたら……」
途中から愚痴になりそうだったので、手で制する首謀者。
そして、少し視線を宙に向ける。
“あの2人に関しては、保険を用意してあるから問題無いはず……
出来る事なら直接始末したかったが、それよりも王子一家の身柄の方が重要だからな。彼らの立場を最大限に利用し、表舞台に打って出る。
その為にも、つまらないミスで躓きたくないからな。
警備をしている連中には悪いが、邪魔をするなら消えて貰うだけ。我々の組織力拡大の為にも、利用するまでよ。
方法は、いくらでもあるからな……”
首謀者は少し頭の中でシミュレーションをすると、幹部に対して声を掛けた。
そして、特に反論が出ないまま決定する。
――その靖之達はというと。
「……くっ! ぬかるんだ地面とはいえ、相手はたかが人間2人……私が……何故この私が、ここまで苦戦しなければならない!」
苛立つ鎧の化け物に対して、必死に応戦する2人。
互いに決定打が出ないまま、勝負は一進一退の攻防が続いていた。
「ヤバッ……危なかった。とはいえ、ここまではどうにか戦えてはいる……ただ、こうも長引くとしんどいな」
「まっ、まぁ……こればっかりは、仕方ないんじゃない? それより、油断禁物……こっちは、まともに当たっただけで致命傷なんだから」
攻撃自体は、一方的に2人が当てているのだ。
それでもパワーに圧倒的な差があるので、互角なだけの話。
“さぁ、どうする……
均衡が崩れたら、あっという間に殺されるのがオチだ。この化け物が頭に血が上っている間に、どうにかして倒さないと。
とはいえ、正攻法では時間の無駄。
物理では勝負にならない以上、他の物を利用するしかないんだけど……
ダメだ。
映画や小説じゃあるまいし、そう簡単に打開策なんてあるわけがない。起死回生の奇策とかではなく、もっと現実的なプランを考えないと。
例えば、身近な物を利用するとか……
あっ!
あった……あるぞ。この状況に加えて今のコイツが相手だからこそ使える、とっておきのアイデアが。
ただし、これは半分運頼みだからな。
舞と話をしてる隙もないし、やるなら俺の独断でやるしかない。しかも、失敗したら後が無いギャンブル的な作戦。
チャンスは、1回だけだ!”
靖之は、周囲に視線を向け『あるアイデア』を思い付いたらしい。
そして、鎧の化け物の攻撃を躱しながらタイミングを計り始めた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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