イスパニアの醜聞(3)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――靖之達の元に捜索隊が現れた頃。
「……それで、我が方の損害はどうなっている?」
「死者・戦闘不能になった者を合わせて、18名です」
どうにか矢による攻撃を逃れた襲撃グループであったが、その被害は深刻だった。
雨が降りしきる中、地面に座って休憩する事を強いられているのだ。時間が経つにつれて体力を奪われるのは、目に見えている。
非情な決断だろうが、他の選択肢を探して居る余裕は無かった。
幹部の報告に対して、組織を束ねるリーダーとして決断を下すしかないだろう。
「心苦しいが、ヤツ等(捜査当局)に情報を与えたくない。戦えない者は、楽にしてやってくれ」
「……はっ、了解しました」
苦痛に歪んだリーダーの顔を見て、幹部も心中を察したのだろう。
反論も意見を口にする事無く、同意するとその場を離れた。
“そろそろ、王子一家に動きが見られる頃だろう……
ここからなら、脱出前に捕捉出来るはず。何としても、その前に勝負を決める必要があるからな。
ただ、悠長に構えている時間は無い。
包囲とか突入プランは考えず、強行突破あるのみ。確実に始末して、動揺した隙に本国に戻るだけだ。
攻撃して来たヤツが誰であれ、もう俺達は止まれないんだからな……”
静かに目を閉じ、考えをまとめるリーダー。
自分に言い聞かせるように意識を集中している所に、別の幹部が姿を現した。
「……申し上げます。部隊の編成が終了。すぐに、進撃が可能です」
「ご苦労……ここから別荘まで、目と鼻の距離だ。警備隊が待ち構えている事が予想されるが、それさえ突破してしまえばこちらのもの。そのまま一家全員を始末し、撤退する」
準備が整ったとの報告を受け、深く頷くリーダー。
幹部に対して自分の意見を伝え、そのまま指示を飛ばす。
「プランを、AからDに変更。ターゲットは、あくまでも王子一家だ。不測の事態に対して、臨機応変に対応するように徹底させてくれ」
「了解しました」
手短に話を済ませると、自身も攻撃に備えて準備。
武器に異常が無いかチェックしつつ、静かに覚悟を固めていた。
――同時刻。
「まさか、貴様がここに居るとは驚きだ……何が目的だ?」
「……別に? そういうお前こそ、こんな所で何をしている?」
森の中を飛んでいた妖精は、急に声を掛けられ立ち止まった。
そして姿を確認するなり、からかうように微笑んだ。
「いいから、私の質問に答えろ……返答次第によっては、評議会のメンバーであろうと容赦はしない」
「ほぉ……つい数日前に『バーサーカー』に敗れたお前が、私を倒せるとでも?」
腰の剣に手を掛ける鎧の化け物に対し、挑発的な言葉を投げ掛ける妖精モドキ。
瞬時に空気が張り付くと共に、暫しの沈黙が続く。
「あんたの目的が何であれ、俺も遊びでここに来たわけではない。邪魔をするなら、排除するだけの話」
「まぁまぁ、そう感情的になるなよ。人間達の争い事なんだから、これまで通り静観していればいいだろう? それとも、我々に隠れて何か企んでいるのか?」
「……貴様に応える必要は無い。ただ、理由が無いなら引いてくれればいい」
「そう言われたら、ますます黙ってるわけにはいかんな……素直に喋るならよし。拒否するなら、強引にでも聞き出すまでよ」
事態は、解決するどころか悪化する一方。
衝突は避けられそうにないのか、両者共に臨戦体勢に突入する。
「……っ! 早い……とはいえ、姿を見失うほどではない」
「へぇ……見ない間に、少しは戦えるようになったようだな」
鎧の化け物の初撃を華麗に躱した事が、ゴング替わりだろうか。
立て続けに繰り出される攻撃を、全て紙一重で回避する妖精モドキ。
「やはり、実戦はいい……乾いた感情に潤いもたらすだけではなく、私に戦う喜びを思い出させてくれる」
「……ちぃ! さすがに、一筋縄ではいかんか……とはいえ、手を出し続ければいつかは当たる。ここで、引くわけにはいかない」
どちらも直撃弾が無いとはいえ、傍目から見ればどちらが優勢かは一目瞭然。
必死に攻撃し続ける鎧の化け物に比べ、妖精モドキは汗一つかかずに避けるだけ。それも、数分で飽きたのだろう。
攻撃の合間を縫って、サーベルで切り付ける。
「……くっ! 重さこそ無いが、鋭さが半端ない」
「おいおい、さっきまでの勢いはどうした……もう息切れか?」
甲高い金属音が立て続けに発生すると共に、鎧にキズが刻み込まれる。
一気に防戦一方になるも、盛り返すのは簡単ではない。
「さすが、評議会の現役メンバー……こうも、やられっ放しになるとは……ただ、今邪魔をされるわけにはいかない。どうにかして、ここから立て直さなければ」
「そうだ……もっと、私を楽しませろ。まさか、それがお前の全力ではあるまい」
必死に耐えつつ反撃するも、全て空振り。
ものの数分で鎧はキズだらけの状態になってしまった。
「……もう1度聞く。お前が、そこまでしてやろうとしている事は何だ? 私だって、評議会の人間。正当な理由があるなら、邪魔はしないと約束しよう」
「そうそう、簡単に信じられると思うか? 貴様が、これまでして来た事を思い出してみろ。それに評議会のヤツ等だって、いつも殺し合いをしてるだろうが!」
「大規模な戦争にならないように、妥協点を探るのが評議会の掟。ここ数年間緊張状態で済んでいるのも、我々の働きがあってこそ」
「だったら、何故私達がこんな事をしなくてはならないんだ? 元の世界に帰る事も叶わず、その目途もたってない!」
鎧の化け物の言葉に、当然とばかりに応える妖精モドキ。
ただ聞いた側は、他人事に聞こえたのだろうか。
「元凶は、貴様を含めた評議会だ。私やカリーナは、ただ指示に従っただけ。命令したからには、それなりに責任を取れよ!」
「だから、それがどうしたと言うのだ? 好き勝手に暴れて弱者を虐げた挙句、国土を交配させたのはお前達じゃなかったか? まともな生活水準になったのも、我々が介入したから。恩義こそあっても、不平不満を言われる覚えはない」
「その戦争の原因も、元を辿れば貴様達の権力争いの結果だ! 変な正義感を振りかざすなら、この現状をどうにかするのが先じゃないのか?」
「お前達に話しても、理解出来ないだろうからな。余計な事は考えず、我々の指示に従っていればいい。それだけの話だ」
言葉を交わすも、到底和解する雰囲気ではない。
痺れを切らしたように鎧の化け物が突っ込むも、結果は同じ。
「だから、お前は『バーサーカー』に負けたのだ……感情に任せて、一辺倒な戦い方に終始するとは。そんな事では、あの人間達に後れを取る日も遅くないだろう」
「その人間達を、この世界に引きずり込んだのは貴様達じゃなかったか? それでいて、自分達は安全圏でふんぞり返る。全ての元凶と言っても、過言ではない!」
「お前は、何の為に戦っている? 何の責任も負わず、与えられる事が当然だとでも思っているのか? 我々を批判するのは勝手だが、相応の説得力を持たせたらどうだ?」
「貴様等には、持たざる者の気持ちなど解らんよ。泥水を啜り、砂を食んで屈辱にも耐えて来た。いつまでも、アゴで使えると思うなよ!」
感情剥き出しで挑むも、攻撃は全て空振り。
自身より遥かに小さな相手に、完全に翻弄されている。
「あの2人も、ここに来ている。自分の考えが正しいと思うなら、ヤツ等と戦ってみろ。今のお前では、逆に返り討ちにあうのが関の山だろうが……」
「何を偉そうに……あの時は、『バーサーカー』の邪魔が入っただけ。戦闘自体は、終始私が押していたからな」
「そう思うなら、お前は何の成長もしてないと言うしかない。哀れで愚かな、鎧に縋り付いた亡霊よ」
「貴様! どこまで私を侮辱すれば、気が済む……許さん! 貴様だけは、今日この場で殺してやる」
淡々と告げる妖精モドキに、殺気剥き出しで攻撃を続ける鎧の化け物。
ただ、同じ展開に飽きたのだろう。
「もう、何も言うまい……答えは、次会った時に聞くとしよう」
「……おのれ! どこまでも、コケにしやがって。そう簡単に、逃がして堪るか!」
呆れたように告げてその場を去ろうとする妖精モドキに、怒りを爆発。
それまで使っていなかったビーム攻撃を仕掛けようとするが。
「我を忘れて、単純な駆け引きにすら気付かんとは……あの2人と戦うまで、頭を冷やしてるんだな」
「……なっ! しっ、しまった!」
鎧の化け物が攻撃動作に入って、一瞬硬直した瞬間だった。
この隙を妖精モドキは見逃さず、一気に距離を詰めて右拳をフルスイング。鈍い金属音が周囲に響き渡ったかと思うと、対象の姿は遥か彼方である。
まるでピンポン球をバットで撃ち返したように吹っ飛んでいた。
「あのバカがここで何をしていたかは、調べれば解る事。それよりも、ヤツ等(武装グループ)がどう動くか。また2人がどう介入するか、じっくり見定めさせてもらおう」
それだけ呟くと、静かに上空に飛翔。
観察対象を求めて、いずこかへ飛び去ってしまった。
――その頃、靖之達はというと。
「まずは、情報を整理しよう……さっきのヤツ等の口ぶりからして、最初の騒ぎとは無関係のはず。だとするなら、そいつ等は何をするのが目的かだ」
「……そうね。私達と無関係として、小競り合いがあったのは事実。相手が誰かが解らないから断定は出来ないけど、それを言うなら騒ぎがあった事自体が異常だもの」
不審者5人組をやり過ごした後、少し離れた場所に移動して話し合いをする2人。
どこに誰が居るか解らないだけに、中腰の姿勢と小声になるのは仕方ないだろう。
「……これは俺の推測だけど、誰かの殺害を企ててたんじゃないか?」
「えっ? こんな森の中で? 確かに可能性はあるでしょうけど、さすがに考え過ぎなんじゃないの?」
靖之の言葉に、首を傾げる舞。
露骨に否定されるも、言った本人も単純な思い付きではないらしい。
「いや……戦争状態でもないのに、こんな騒ぎになってるんだ。政治家か誰かが静養か休暇で来た所を襲撃しようとしたのなら辻褄が合うだろ?」
「うーん……確かにそれっぽくは聞こえるけど、ちょっと強引じゃない? 断定するには早過ぎるっていうか……」
靖之の説明に対して、懐疑的に答える舞。
言った本人も判断材料が少ない自覚はあるらしく、他の話題にシフトするようだ。
「さっきの5人組だけど、ヤツ等の立ち位置が解らんからな。そもそも、何で俺達がここに居るのかを知ってるのが不気味だ」
「やっぱり、気になるのはそっちよね……そこを見誤ると、この森の中で包囲されかねないわけで……」
「だからといって、このまま動かずにいて見つかった時の事を考えると怖い。慎重と臆病を勘違いしてると、それこそ逆効果だろ?」
「確かに……この状況は、もどかしいわね」
言葉を交わすも、簡単に妙案が出る程甘くないのだろう。
両人共に下を向き、必死に頭を使っているようだ。
“どうする……
舞の言う事も、正しいと思う。騒ぎを起こしたグループばかり考えていると、ヤツ等への警戒が弱まる。
明確に俺達を探している以上、マークするべきはそっちだ。
とはいえ、何をしていたのか気になるのも事実。
せめて、この周辺の土地勘があればよかったんだけどな。隣接する道はおろか、ここの地名すら解らない始末。
やっぱり、ここは安全策を採るべきなのか?”
靖之なりに考えてはみたものの、結論は出ないまま。
それは、隣の舞も同じようだ。
互いに口を開けず、時間だけが経過。
無言の状態が、5分ほど続いた頃だろうか。
「マジかよ……ひょっとして、これは気付かれたんじゃないか?」
「……これは、間違いないんじゃない? って、悠長に構えてる場合じゃないでしょ?」
まだ距離はあるものの、多数の人間の気配をキャッチした2人。
ただでさえ迷っていただけに、この異変に動揺を隠せずワタワタしてしまう。
「……仕方ない。騒ぎが気になるが、まずは安全を確保してからだ。幸いまだ距離もあるし、こっちがヘマをしなければ捕捉される事は無いはず」
「そっ、そうよね……焦っても、相手に勘付かれるだけだし冷静に行動しましょう」
すぐに逃げる決断を下すと、すぐに移動を開始。
足跡等の痕跡が残らないように注意しつつ、迫って来ている方向と逆に向かった。
“クソッたれ……
何の偶然か、こっちは騒ぎのあった方向じゃねぇか。注意していれば鉢合わせる事は無いだろうけど、油断は禁物。
万が一の時も想定して、集中しなければ。
でもなぁ……
誰かと誰かが、戦闘状態にあるのは間違いない。それにコイツ等が関与してないなら、その2グループは何者なんだ?
まず考えられるのは、議事堂を襲撃したグループ。
とはいえ、アイツ等は化学兵器騒動を起こしたばかり。それなりに損害も出たはずだから、立て続けに動くとは思えない。
じゃあ、ウォルコット議員率いるクーデター勢力か?
いや、彼らは捜査当局が徹底マークしているはず。それを回避しつつ、また騒動を起こすだけの動機があるとは思えない。
だとするなら、一体何者だ?
いや……何も情報が無いんだから、いくら考えても全て推論の域を出ないからな。だったら、自分で調べるしかない。
さっさとコイツ等を撒いて、原因を探る。
それさえ解ってしまえば、俺達が今日何をするべきかが見えてくるだろう。”
時間は掛かったが、靖之なりに結論は出たようだ。
そして、実行するべくやるべき事に集中した。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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