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夢国冒険記  作者: 固豆腐
50/70

イスパニアの醜聞(2)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――騒動が発覚して少し経った頃。


「報告します! 武装グループが、何者かの攻撃を受けている模様。被害に関しては不明ながら、王子の暗殺を強行するようです」


 それまで静寂していた空間は、この発言で一変した。

 ここは、問題の地点から湖を挟んだ反対側の森の中。それまで息を殺して待機していたが、この緊急事態にザワつき始める。

 とはいえ、反応するのは雑兵のみ。


「……今更、騒ぐ事もあるまい。まずは、状況を整理しよう」


 落ち着いたトーンの声が聞こえるなり、ザワザワしていた人間達も急速に沈静化。

 皆の視線が集まる中、その人物は報告をするように手で促した。


「武装グループの規模は不明ながら、警備グループに気付かれ戦闘に発展している模様。王子の動向ですが、現段階では未確認です」

「王子に関しては、報告待ちだな……他国の王族の人間。セオリー通り、一家の安全を最優先にするはず」

「はっ! 町へのルートにも人を配置していますので、動きがあれば捕捉出来るはずです」

「解った……では、我々も動くとしよう」


 話を聞き、納得したように頷くリーダーらしき男。

 固唾を飲んで命令を待つメンバー達に、指示を出し始める。


「当初の計画通り、A・B班は別荘に直行。王子達の安全を確保し、脱出しているならサポートに回れ。C班は、武装グループに対応。適度に圧力を掛け、警備グループと潰し合いをさせろ。残る人間は、不測の事態に備えてここで待機」

「「了解!」」


 矢継ぎ早に命令するも、反論や質問はゼロ。

 自分達のやるべき事が明確化された事で、全員の士気が上がっているのだろう。前のめりの部下達を見て、満足そうに頷くリーダー。

 それぞれの班長が最終打ち合わせをする中、目を閉じて静かに集中する。


“ここまでは、順調そのもの……

 王子一家の暗殺を阻止し、尚且つ手柄を国内外に宣伝する。イスパニアに恩を売ると共に、警察の無能さをアピール出来る絶好のチャンス。

 相手は落ち目の国とはいえ、かつては『無敵艦隊』とも呼ばれた大国の1つ。

 蹴落とすべきライバルとはいえ、今は利用した方がいいからな。

 スパイからの情報が正しいなら、武装グループの正体は新興勢力の政党一派。王政を廃止し、腐敗の排除を目論んでいるようだ。

 愚かな……

 キレイ事を言うのは勝手だが、それを実施した所で政治が混乱するだけ。一時的な民衆の支持は得られても、掌を返されるのは目に見えてるからな。

 別に、それでも我々は構わない。

 ただ、こっちも町を1つ掌握したに過ぎんからな。立場は同じで、上から目線で笑ってる余裕は無い。

 せっかく、絶好の機会が舞い込んだんだ。

 アイツ等には悪いが、利用させて貰う”


 1人で考え事をしていたが、その間に班のミーティングも終わったらしい。

 統制の取れた動きで各々の仕事に向かうのを見守っていると、側近が声を掛けて来た。


「……すみません。少し、宜しいでしょうか?」

「構わん。何か気になる事があるなら、遠慮する必要は無い」


 声に反応して、相手の方を向くリーダー。

 言った側は少し困惑した様子だが、そのまま話を振って来た。


「先程の報告にあった『何者かの攻撃』ですが、誰なんですかね? 内容からして、警察とは思えないのですが」

「ああ、その事か……心配するな。皆には黙っていたが、万が一に備えてを保険を用意してたんだ。タイミングからして、そいつ等だろう」

「えっ……外部の人間を雇うのは、リスクがありませんか?」

「心配するな。あの時と同じく、終わったら始末するだけよ。個人的な恨みは無いが、我々の組織はまだ脆弱だ。只でさえ、議事堂を燃やされて国家存亡の危機に陥ってるんだ。これ以上手をこまねいている場合ではない」


 リーダーの焦りを感じ取ったのか、側近もそれ以上話を広げようとはしなかった。

 黙ってその場を離れるが、入れ違う形で別の側近がやって来た。


「少し、宜しいでしょうか? 少し、気になる情報が入って来まして……」

「構わん。話してくれ」


 露骨に悩んでいる顔な事もあり、発言するように促すリーダー。

 頭の中である程度予測はしたのだろうが、返って来たのは全く別のないようだった。


「あの……海賊風の出で立ちの2人組ですが、ボスは覚えていますか?」

「もちろんだ。ヤツ等には、大きな借りがあるからな……って、おいおい……ちょっ、ウソだろ?」


 話を聞き、数日前の苦い記憶が甦ったのだろうか。

 苦々しい顔になるも、それ以上に話の流れに驚きを隠せなかった。


「まだ不確定情報ですが、警戒中の部下の中に見たと言う人間が居まして……見間違いの可能性もありますが、どうしますか?」

「ちょっと待て……本当にあの2人だとして、武装グループの手先とは考えられんからな。その報告が真実なら、おそらく偶然居合わせただけだろう」

「ならば、無視しますか? 真意はともかく、我々の今回の目的は王子一家の保護ですからね。さすがに、邪魔をして来るとは思えませんが?」

「そうだな……」


 完全に想定外だったらしく、あからさまに動揺するリーダー。

 手で待つように示しつつ、頭をフル回転させる。


“マジか……

 ヤツ等がここに居るなんて、考えても無かったぞ!

 とはいえ、アイツの考え方はお花畑そのもの。今回のような暗殺事件など、絶対に認められない暴挙のはず。

 我々が居なくても、気付いた時点で何かしらのアクションを起こすはず。

 いや……

 どんなに時間を掛けた計画も、些細な綻びから失敗に繋がるのが現実。何が起こるか解らない以上、利用出来るものは何でも利用するべきだ。

 今すぐ始末したいが、それは今じゃない……”


 手早く考えをまとめると、すぐにその為の手段を頭の中で計算。

 そのまま、報告した側近に伝える。


「いいか……タイミングが全てだから、よく聞いてくれ」


 真剣な面持ちの側近に対し、身振り手振りで説明をするリーダー。

 その眼には、明確な殺気が宿っていた。


 ――同時刻。


「フェリペ王子! 我々が命を懸けてお守りしますので、もう少々お待ち下さい」


 問題の一家はというと、まだ別荘で足止めを食らっていた。

 既に騒ぎは把握しているようだが、不安を隠す事で精一杯なのか黙って頷くのみ。


「……ねぇ、あなた? 私達は、これからどうなるのかしら」

「解らない……ただ、私達に出来る事は何も無い。今は、警備の方を信じるんだ」


 口では平静を装いつつも、両人揃って体を小刻みに震わせている。

 横に居る子供達も、緊急事態なのは理解しているのだろう。


「……お兄ちゃん……私、怖い」

「……大丈夫だ。お前だけは、俺が命を懸けて守って見せる」


 涙を溜めて抱き付く妹を、優しく抱き締める兄。

 男してのプライドからか、穏やかな声ながら覚悟を決めた表情になっている。


「こんな事を言うのは不謹慎かもしれないが、我々は公人である。国民の見本になる為にも、惨めな姿は晒せない。いざという時は、私が責任を取る。だから、皆は生きて欲しい。例え、臆病者と陰で蔑まれようと胸を張って生きてくれ」


 意を決したように口を開く王子に、家族は黙って下を向くのみ。

 しかし共に人生を歩んだ者として、黙ったまま同意するわけにもいかない。


「あなた! 国の背負う覚悟は立派だと思いますが、それだと残された私達はどうなるんですか? 同情されるぐらいなら、一緒に逃げましょう!」

「うわぁぁっ! 嫌だ! お父さん、死んじゃ嫌だよぉっ!」

「皆の言う通りだ! 生きないと! 例え恥を晒そうとも、死んだらそこでお終いなんだからさぁっ!」


 妻を筆頭に、娘と息子も大反対。

 その気持ちは痛いほど理解出来るも、本人は唇から血を流して耐えるのみ。


「生き恥を晒すなら、潔く死んだ方がマシなんだ……国政に関しては、兄者(皇太子)が居るから問題無い。お前達の生活も、保障されるはずだ……だからっ!」


 決意が揺らがないように、涙を流しながら訴える王子。

 周りが見えてないから気付かなかったようだが、ここで部屋の外から声が聞こえた。


「……誠に失礼とは思いますが、申し上げます。我々……いや、我が国にもプライドがあります。必ず……キズ1つ負わせない事を約束しますので、信用して下さい。この通りでございます」


 声に気付いて振り向くと、部屋の外で跪く警備隊の面々。

 普段役立たずと陰口を叩かれつつも、王子一家をみたら奮起せざるを得ないだろう。


「しかし、あなた方はイスパニア国民ではない。私達を守って命を落とされたら、女王陛下になんとお詫びすればいいか……」

「それが、我々の使命です。ここであなた方に何かあれば、それは存在の否定になります。ですから、どうかご命令下さい。たった一言……『命に変えて守れ』と」


 困惑する王子とは対照的に、迷わず即答する警備隊のリーダー。

 その覚悟は、一家全員に伝わったのだろう。各々顔も見合わせ、無言で賛否を問うたのだろう。

 そして一致したのか、家長が代表して口を開いた。


「イスパニア第2王子が命じる……我々一家を、ここから脱出させろ」

「「イエス・ユア・マジェスティー!!」」


 この辺りは、生まれ持ったカリスマ性だろうか。

 この瞬間を持って、警備隊を含めて全員が死を覚悟した集団へと変貌した。


 ――その頃、靖之達はというと。


「……クソッ! よりにもよって、このタイミングで雨が降るとは」

「あーっ、信じられない……下手に歩き回っても体力を消耗するだけだし、近くで雨宿りをしないと」


 急にパラパラし始めたかと思うと、瞬く間に本降りに移行。

 無視できるレベルを軽々超えたので、2人揃って慌てて周囲に目を向ける。


「……ノンキに、場所を選んでる場合じゃない。とりあえず、濡れなきゃどこでもいいんだけど」

「そうね……洞穴とかじゃなくていいから、せめて木の洞でもあればいいんだけど」


 目を凝らして探すも、そう簡単に見つかるわけもない。

 その間も体が濡れるも、どうにか我慢して場所を探す2人。


“マジで、勘弁してくれ……

 せっかく騒動に巻き込まれずに済んだのに、これじゃ意味が無い。体を壊したら、死が待ってるんだからな。

 冗談抜きで、イライラする……

 いや、こんな時だからこそ落ち着くんだ。

 さっきの集団だが、誰かを襲うつもりだったのだろう。それが、その前に邪魔をされて出鼻を挫かれた。

 じゃあ、そのターゲットは?

 反応した人間の多さから、民間人ではないはず。だとすると、大金持ちか政治家の類だろう。

 先日、連続暗殺事件があったぐらいだ。

 議事堂を破壊されて政情が不安定になっている今、警察の対応も鈍くなっているはず。こんなバカをするヤツ等が現れても、何の不思議もない。

 どうする?

 異常を知って、尚目と耳を塞ぐのか?

 今なら、俺達にも出来る事があるのでは……

 とはいえ、この雨じゃ迷子になるのが目に見えてるからな。動くのは止んだ後になるとして、まずは安全な場所を探さないと。

 細かい事を考えるのは、それからだ……”


 アレコレ考えたいのだろうが、それも雨の前に保留せざるを得なかった。

 2人で、必死に雨宿り先を探している時だった。


「……3人、いや5人ぐらいか? 誰かが、こっちに近付いて来てる」

「ええ……誰かは知らないけど、やり過ごすしか無いんじゃない?」


 人の気配を察知して足を止めると、すぐに場所を探す2人。

 とりあえず一時的な処置と言う事もあり、近くの倒木をチョイスした。


「ガッツリ雨が漏れてるけど、我慢するしかない……」

「それよりも、相手が何者か確認しないと。場合によっては、雨宿りをしていられないし」


 正体が解らないからこそ、最大限に警戒するのだろう。

 両人共、体が濡れるのを我慢して倒木に空いた穴の中で待機した。


「よりにもよって、このタイミングで雨が降るとは……服が体に張り付いて、不快極まりないな」

「……仕方ないだろ? 文句を言っても雨は止まんし、黙って働け」


 少しして姿を現したのは、5人の男達。

 雨に苛立っているようだが、どうやら何かを探しているらしい。


「おいっ……本当に、ここにアイツ等が居るのかよ?」

「少なくとも、ウチの幹部連中はそう考えてるようだな」

「まぁ、ボスが1対1で負けた相手だ……さすがに、放置するわけにもいかんだろ?」

「ああ、そうだったな。どうりで、わざわざ探させるわけだ」


 男達はノンキに話しながら捜索するが、木の中に隠れているとは思わないのだろう。

 視線を周囲に向けながら、2人のすぐ近くを通過した。


「でもさ……その2人に執着するとして、何で尾行するだけなんだ? そんな面倒臭い事をしなくても、さっさと殺せばいい話じゃないか?」

「……さぁな。何か、聞きたい事でもあるんじゃないか? とにかく、俺達に対する命令は2人の監視だ」

「そうそう、俺達は命令に従うだけでいいんだよ。細かい事は、幹部達が考えればいいんだからな」

「おいっ、無駄話はそれぐらいにしておけ……居ないに越した事は無いが、見過ごしましたじゃ笑えんぞ」


 どうにか気を引き締めようとするも、気付かないまま通過。

 靖之達には最後まで気付かず、姿が見えなくなった。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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