ターゲットの保存とその余韻
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――約束の時間。
「……すまんな。埋め合わせは、近いうちに必ずするから」
「いや、これぐらい別に構わんから。それよりも……靖之こそ、無茶はするなよ?」
ペットショップ裏の倉庫で礼を言う靖之に対し、心配そうな表情を見せる響。
互いに次の言葉を選んでいるのか、少し沈黙が続いた。
「詳しく聞くつもりはないけど、相談したい事があったらいつでも言ってくれ。夜中だろうと、そっちに行くからよ」
「すまんな……」
「……じゃあ、明日8時に来ればいいんだな?」
「ああ、その時間で頼む」
気まずい雰囲気になりつつも、会話は終了。
その場からバギーで走り去る響を、靖之は寂しげな顔で見送った。
“そりゃあ、これだけキズだらけだったら心配するよな……
ただ、アイツを巻き込むわけにはいかない。これは、俺と舞だけで解決するべき問題だからな。
いつになるかは解らないけど、待っていてくれ。
その時は、胸を張って真実を話そう”
心の中でそう呟くと、靖之はそばに置かれたビニールシートに包まれた塊に目を向けた。
そこに、倉庫(冷凍倉庫)の様子を見に行っていた舞が戻って来る。
「靖之、お待たせ……こっちは問題無いし、さっさと運び込んでしまいましょう?」
「……了解。じゃあフォークリフトを持って来るから、舞はコレを見張っててくれる?」
「OK。私はここで待機してるから、そっちはお願いね」
「解った。すぐ、持って来る」
軽く言葉を交わすと、小走りでフォークリフトの置かれている場所に向かう靖之。
とはいえ、倉庫の脇に置かれているので距離は20メートルも無いだろう。
“さて……
高校時代に、体験学習で運転しただけだからな。正直不安しかないけど、30キロ以上ある物を人力で運ぶのは避けたい。
えーっと……
これをこうして、よしっ! 問題無いか、ちゃんと指でチェックをして……後は、エンジンを掛けるだけ。
……来た!”
簡易タイプのフォークリフトなのがプラスに作用したのか、すんなり動かす事に成功。
軽やかなモーター音をたて、舞が待つ場所に移動した。
「……ちょい右……OK……そのまま直進……ストップ」
舞の指示の下、ブツの前で停車。
アームを降ろすと、2人掛かりで乗せる作業に移った。
「……もうちょい、上げた方がいいんじゃない?」
「いや……あまり持ち上げても、腰に負担が掛かるだけ。多少強引でもいいから、このまま乗せてしまおう」
ヨロヨロした足取りながら、それでも動かす事には成功。
指を挟まないように注意しつつ、慎重にアームの上に乗せた。
「ふぅ……じゃあ、このまま中に運ぶから舞は先に行って誘導して欲しい」
「……解った。じゃあ、そっちはお願いね」
2人は疲れの色を滲ませるも、休まず次の行動にシフト。
それぞれの役割は果たすべく、動き始めた。
“さっきの2人が話していた河童の正体は、コイツで間違いないはず……
しかし……だ。駆除? したとはいえ、それだけに過ぎない。どこから来たのかも不明だし、その原因も不明。
そもそも、他の化け物もこっちに紛れ込んでいるかもしれない。
何も解決してない事を、ちゃんと認識しておくべき。いざ何か起こったら、もう俺達2人だけの手に負えなくなるんだから。
せめて、もう2~3人仲間が居れば……
いや、ダメだ!
これ以上、友達を危険に晒すわけにはいかない。どうにかして早期に原因を突き止め、浸食を食い止める必要がある。
悠長に構えてる余裕は、微塵も無いのだから……”
靖之は湧き上がる焦りをどうにか抑え、フォークリフトを移動。
倉庫内で待つ舞の元に移動すると、彼女の指示に従って停車した。
「とりあえず、これで明日の朝まで誰の目にも触れないはず。学校への連絡は(今日は日曜日の為)明日にするとして、今日はもう帰ろう」
「確かに……もうクタクタだし、夜に備えないといけないからね。このまま帰って、ちょっと休むわ」
双方共に、疲労している自覚はあるのだろう。
ブツを降ろすと、フォークリフトを元の場所に戻して家路に付いた。
「そういえばさ……このショップ、小赤(小さなエサ用の金魚)の値段安くない?」
「10匹で、190円だからな。都会のショップやネット通販ならまだしも、田舎でこれだと破格の安さだと思う」
来た道を歩いて帰るのだが、今ぐらいは趣味の話をしたいのだろう。
夕日をバックに、ペットショップの感想を口にする2人。
「大型の肉食魚を飼う以上、どうしても生餌を使わざるを得ない。エサ代の割り切りは、必要になる」
「ある程度成長したら、冷凍のエサに切り替えられるんだけどね。残酷だけど、割り切るしかない」
「金魚にしてもメダカにしても、エサ用の生餌は選別に漏れた個体達。その命を頂くんだから、感謝を忘れてはならない」
「そうね……私も、お盆の供養はちゃんとしたいと思ってる」
話題的に、しんみりするのは仕方ないだろう。
それでも暗い空気は避けたいのか、すぐに次の話題にシフト。
「そういえばさ……靖之は、イベントに参加した事はある?」
「……いや、ないな。参加してみたいけど、大型のイベントは都会に集中してるだろ? 旅費だけで、結構な出費だし。舞は?」
「いや、私も無いけどさ。せっかくだし、旅行も兼ねて今年の夏一緒に参加してみない?」
「いいなぁ……でも、俺と一緒に行くのはダメなんじゃない? 仲の良い友達とはいえ、男と女なんだし。さすがに、親御さんが黙ってないと思うけど」
舞の提案に対して、待ったをかける靖之。
ただ言った本人は、あくまでも前向きのようだ。
「ああ、ウチの親なら大丈夫。さっき言った通り靖之の事を気に入ってるし、私も信用してるから。問題なんて、そうそう起こらないでしょ?」
「いや、俺も大丈夫なんだけどさ……でも、そういう問題じゃないっていうかな」
「じゃあ、いいんじゃない? スケジュールは私がチェックしておくから、細かい話はまた近いうちにね」
「あっ、ああ……それでお願いしたい」
前向きな舞の言葉に、完全に圧倒される靖之。
彼としては納得したわけではないが、それ以上何かを言うつもりも無かった。
――同時刻
「……これは、困った事になった」
例のガイコツの化け物は、それを見て焦りを隠せなかった。
場所は、ちょうど靖之達が『アレ』を仕留めた場所である。当然ながら周囲には派手に血が飛び散っており、事件現場そのもの。
同時に、何かを引きずった後もバッチリ残っていた。
「ここで何者かに殺されたのは解るが、問題はその犯人だ。猟師はこの近くには居ないし、そもそもここは禁猟区。だとするなら……」
現場を観察するも、特定に至るような物は殆どない。
それでも手があるのか、おもむろに地面の土を手に取った。
「……ふむふむ。残留思念を読み取る限り、ここでアイツと戦ったのは人間2人。それは、残された足跡と一致する。問題は、それがどこの誰かだ」
そう言い放つと持っていた土を捨て、そのまま引きずった後を追って移動。
どうやら相当焦っていたらしく、痕跡を消せていないようだ。
「周りの木々や草に着いた後から推定して、成人の男女2人組。真っ直ぐ池に向かっている所を見ると、死体を冷やすのが目的。とはいえ、人間が『アレ』を食うとは思えない。となると、解剖するつもりか?」
周囲をキョロキョロ見ながら、仮説を立てて行く化け物。
そして双子池に到着した時、決定的な証拠を発見する。
「ふふふっ……これだけあれば、特定も容易い」
広範囲に渡って荒れた地面とくっきりと残る轍の跡を見て、思わず笑う化け物。
後はそれぞれの土を手に取り、残留思念を読み取るだけである。
「やはり、運命とは逃れられないものらしい。まだ1人は気付いていないようだが、それも時間の問題。ただ……2人に関しては、解剖をさせるわけにはいかない。悪いが、ブツは回収させて貰う」
全て理解したのか、そう言うと土を捨てて空中に浮遊。
いつもの如く、スッと消えてしまった。
――その頃、2人はというと。
「じゃあ、また後でね」
「ああ、向こうで会おう」
靖之は舞を家まで届けると、玄関前で手を振り合った。
そして家の中に入るのを確認すると、そのまま自分の家に向かう。
“それにしても、疲れた……
夜の事は置いといて、明日は朝から忙しいからな。(解剖に使う)部屋の使用許可は朝やるとして、それからもハード。
何しろ、あんなサイズの動物の解剖なんてやった事が無いからな。
時間が掛かるのはもちろんとして、そもそも1日で終わるのか? もちろん、検査に出す準備も必要になる。
そもそも、終わった後の死体の処理はどうする?
考えても問題しかないけど、こうなった以上やるしかない。何かしらの言い訳は、今の内に考えるべきか?
仕方ない……
その辺りの事は、風呂にでも入りながら考えるとしよう。”
頭を働かせたのはいいが、途中で放棄したのだろうか。
大きな溜息をついていると、突然声を掛けられた。
「あれっ? 靖之君じゃない……こんな所で、どうしたの?」
「えっ! ああ、吉川さんか……ビックリした。ちょうど今、買い物の帰りでさ。このまま、晩御飯を食べて帰ろうと思って」
声の主が陽菜だと確認するも、意識外だった事もあり驚きを隠せない靖之。
まさか本当の事を話すわけにもいかず、咄嗟にそれっぽい話をでっち上げた。
「ちょうどよかった……今日、両親が法事で留守なのよ。1人でご飯を食べるのも寂しいし、よかったらウチに来ない?」
「えっ? いくら何でも、それは不用心過ぎる……そりゃあ何もしない自信はあるけど、俺も男なんだ。そういう軽はずみな言動は、避けるべきじゃないのか?」
「はははっ……私は、ご飯を一緒に食べたいだけよ? 泊まって行けなんて、言った覚えはないけど。まぁ、どっちでもいいけどね」
「いやいや……いくらなんでも、そうはいかんよ」
陽菜は笑って答えるも、靖之は何故か背中がゾワッとする感覚に襲われた。
それっぽく断ろうとするも、もう1人の方は引く素振りを見せない。
「じゃあさ……天風亭にしない? コースならそこまで高くないし、ガッツリ食べられて一石二鳥。悪くないでしょう?」
「……いいんじゃない? 今から行けば、遅くならないだろうし」
「うん、じゃあ決まりね」
「ああ、明日は1限目から学校だからな。食べて終わったら、家まで送るよ」
とりあえず予防線を張る靖之に対し、陽菜は笑顔を向けるのみ。
両者は微妙なズレを残しつつ、目的地に向かって歩き始めた。
“何なんだ……
さっきから、変な汗が出て止まらない。いや……吉川さんとは、中学時代からの大切な友達なんだ。
俺の事を信用してくれてるのはありがたいけど、本当に大丈夫なのか?
もし他の異性にも同じ感じで接しているなら、危険過ぎる。取り返しのつかない間違いが起きる前に、その認識を変えるべきじゃないのか?
どうする?
今日は無理だとして、近いうちにそれっぽく忠告するべきなのか?
いや……今はそれよりも、今晩の心配をするべき。さっさと食事を切り上げて、家に帰らないと。
集中しろ、俺!”
どうにかして、モヤモヤする頭をリセットする靖之。
その事に集中しているからか、小声で電話をする陽菜に気が付かなかった。
――15分後。
「……えっ? 天ぷらのコースにしては、豪華過ぎません?」
靖之は、カウンターテーブルの上に並んだ料理に驚きを隠せなかった。
ノーマルのコースは、天ぷら8種・お新香・味噌汁・ご飯だけ。それを頼んだにも関わらず、アジの塩焼きと刺身の盛り合わせが出たのだ。
驚きを隠せない彼に対し、おかみさんが説明する。
「吉川さんには、いつもお世話になってるからね。それに加えて、靖之は私にとっては息子同然。色々大変だろうけど、今日は気にせずたっぷり食べて行って」
「ほらっ……おかみさんも、ああ言ってるんだし。ありがたく、頂きましょう」
「はっ、はぁ……いきなり来たのに、何かすみません。お心遣い、感謝します」
おかみさんに加えて陽菜にも言われたら、靖之としても受け入れるしかない。
ウーロン茶で乾杯を済ませると、食事を始めた。
「うん、美味しい。お刺身もアジも、絶品だわ」
「……確かに。これは、箸が止まらない」
老舗で地元でも有名な天ぷら料理店なだけあり、味はお墨付きである。
元々空腹な事も手伝い、無言で食事に集中する2人。
「……じゃあ、まずはエビの天ぷらです。お塩・天つゆどちらでも美味しいと思います」
「「ありがとうございます」」
焼き物と刺身を消化した所で、メインの天ぷらである。
揚げたてホカホカのエビは、それだけで破壊力抜群。言われるままに天つゆに潜らせて口に運ぶが、思わず笑みがこぼれるレベルである。
ちなみに、調理を担当するのはおかみさんの息子兄弟。
今日の靖之と陽菜の担当は、その中でも末っ子である3男だった。
「ほいっ! ニシ貝のバター焼きだ……これは、俺からの入学祝だ。レモンを掛けて、ご飯と一緒にかき込んでくれ」
「えっ、マジでいいんですか? ありがとうございます」
「すみません。頂きます」
突然のサプライズに、目を輝かせる2人。
濃い目の味付けに、バター・ニンニク・レモンが加わるのだ。しかも、貝・エノキ・しめじの触感のコラボ付き。
10代の胃袋を掴むには、これ以上ない品と言えるだろう。
「ねっ? 今日ここに来て良かったでしょ?」
「確かに……俺1人だったら、コンビニ飯で済ませる所だった」
笑顔で料理を楽しむ靖之と陽菜を、調理担当の3男は暖かく見守っていた。
ただ、宴はまだ始まったばかりである。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。




