双子池の怪物(後編)
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――靖之達が問題の生物を倒して約30分後。
「じゃあ、タイミングを合わせよう……」
「……了解。そっちに合わせるから、カウントダウンをお願い」
どうにか遺体を双子池に運んだ2人は、腐敗を遅らせるべく水中に沈めるようだ。
まずは両手・両足を持って、振り子の要領でスイング。
「よしっ……カウントを始めよう……3・2・1……今!」
十分に勢いを付けると、靖之の声に合わせて手を離す2人。
勢い余って自分まで落下しそうになるも、それは両人共に何とか踏み止まった。
「……ふぅ。とりあえず冷やす事は出来たけど、問題はこれからだ」
「そうね……死体の引き上げと、ペットショップへの運搬方法を考えないと」
ヒザに手を置いて体を休めるも、問題はまだ山積みの状態である。
軽く息の整えると、すぐに話し合いを始める2人。
「見た目と違って、案外軽かったからな……30~40キロぐらいだろうし、ウエーダーさえあれば何とかなるはず」
「……楽じゃないけど、四の五の言ってる場合じゃないもの。そっちはどうにかなるとして、問題はペットショップまで運ぶ方法よ」
「だよな……俺達は車を持ってないし、タクシーのトランクを使うわけにもいかない。ちょっと、考えないと」
「……そうね」
2人共、明確なアイデアを持ち合わせていないいのだろう。
先程までとは打って変わり、無言で考え込む素振りを見せるだけである。
“さて……
ペットショップの冷凍庫を借りるのはいいが、どうやって運ぶかだな。車の線がダメとなると、かなり厳しい。
完全に、俺のミスだ。
死体の保存場所にばかり意識が向いて、肝心な部分を考えてなかった。とはいえ、このまま明日まで池に沈めたままにしておく事も出来ない。
バイクは持ってるけど、大きさ的に考えるまでもなく却下だ。
いや、何かいい解決策があるはず……違う角度からアプローチすると言うか、思い込みを止めるとか……
あっ!
そうだ……響が、バギーを持ってたはず。免許も高校の内に取ってたから、相手に任せたらどうにかなる。
ただ、運ぶものを見せるわけにはいかない。
まぁ、梱包するとか工夫する方法は色々ある。他の案を考える時間も勿体ないし、もうそれでいいか?
時間もあまり理由は無いし、仕方ない。
後は、舞のリアクション次第だが……”
靖之は、パッと浮かんだアイデアをそのまま採用。
すかさず、横で頭を捻っている相方に声を掛けた。
――同時刻。
「モニター(オオトカゲ)かぁ……一応問屋には掛け合ってみるが、あまり期待出来ないと思っといてくれ」
「解ってます。それでも構わないので、お願いします」
響は、その頃靖之達が来ていたペットショップに居た。
とりあえず店員(兄)に要望を伝え、電話で確認して貰うようだ。
“やっぱり、ダメか……
せっかく『アレ』も手に入ったし、そろそろモニターに手を出そうと思ったんだけど。やっぱり、レオパ(ヒョウモントカゲモドキ)やボール(パイソン)とは違う。
まぁ、別に焦る必要は無い。
注文さえしておけば、その内手に入るからな”
残念とは思いつつも、前向きに捉える響。
そこに確認なのか、店員(兄)が声を掛けて来た。
「……響。モニターだけど、イエローヘッドだったよな?」
「えっ? はい、そうです」
「やっぱり問屋に在庫が無い状態だけど、1ヶ月ぐらい待てば、何とかなるそうだ……それでも、構わないか?」
「ええ、もちろん。宜しくお願いします」
想像とは違った言葉が返って来て、2つ返事で同意する響。
それを受けて店員(兄)も納得したらしく、手でOKを示して来た。
「はい……はい……あっ、ちょっと待って下さい……響。性別はどうする?」
「……そうですね。飼うからにはやっぱり繁殖まで狙いたいですし、ここは女の子でお願いします」
「OK……お待たせしました、じゃあメスでお願いします。はい……はい……はい……いえいえ、こちらこそ宜しくお願いします」
どうやら問屋と細部を詰めていたらしく、それもすんなり終了。
ニコッと笑う店員(兄)を見て、響も安堵したような表情を見せた。
「まぁ1ヶ月とは言ったが、多少前後すると思う。入荷したら電話を入れるから、気長に待ってくれると助かる」
「ええ、もちろん。その辺りは僕も理解してますし、大丈夫ですよ」
確認作業も流れるように終わり、後は必要な書類に記入するだけ。
紙とペンを受け取ると、スラスラと欄を埋めて行く。
“イエローヘッドは、ドワーフモニターに分類されてるからな。
今日引き取った『アレ』と同じぐらいのサイズだし、並べて飼ってみるのも面白い。エサも、メインはコオロギだからな。
いやー、本当に楽しみだ。
これで、俺もモニターデビューか……
いずれは大型種にもチャレンジしたいけど、まずは経験を積まないと。靖之も爬虫類に興味があるみたいだし、今度会ったら話してみようかな?
いや、そんなまどろっこしく考える必要は無い。
これを書いて終わったら、こっちから電話しよう。”
頭の中でアレコレ考えている内に、記入が終了。
受け取った店員(兄)が、漏れが無いか確認する中いきなり話を振って来た。
「……そうそう、響は靖之と友達だったよな?」
「ええ、そうですけど……あいつが、どうかしましたか?」
「いやな……別に、あいつが何かしたわけじゃない。ただ、ちょっと気になってる事があるというかな」
「はぁ……そうなんですか。あいつとは、友達ですからね。僕に話せる範囲なら、何でもお答えしますけど」
歯切れ悪く少し言い難そうにする店員(兄)に対し、首を傾げる響。
少し沈黙が続いた後、再び口を開いた。
「靖之と、いつもベッタリな女の子がいるだろ? あいつも、今年から大学生。付き合ってる子がいても別に不思議じゃないけど、ガキの頃からの付き合いだ。ちょっと気になってな」
「ああ、なるほど……えーっと、その子ってどんな見た目をしてます?」
店員(兄)の言葉に、少し考え込む仕草をする響。
プライベートな内容ではあるものの、冷やかし目的ではないと判断したのだろう。特徴を聞くなり、すぐに該当人物の目星が立ったようだ。
そのまま、ありのままの答えを口にした。
「なるほど……靖之が本当に気付いて無いのかは解らんけど、やっぱり危険過ぎる。早いうちに手を打たんと、取り返しのつかん事になりかねん」
「……僕もそう思います。確かに中学時代の話は同情できますが、傍目から見たら一方的に依存してるだけです」
話の内容に比例して、神妙な顔つきになる2人。
ただ口出しが難しい内容なだけに、苦い思いをしているようだ。
「あっ、そうそう……さっき靖之が女の子を連れて来てたけど、あの子はどうなんだ? パッと見る限り、結構良い雰囲気だったけど」
「ああ、その子は奥田さんですね。靖之との付き合いは、僕と同じで高校時代から。話すようになったのは大学に入ってからみたいですけど、彼女とかではないと思います」
「そうか……俺は、靖之が付き合うなら彼女がいいと思っている。あの子なら、あいつを支えてやってくれそうだからな」
「えっ、そうですか? 学校で見る限り、常にベッタリって感じですけど?」
店員(兄)は舞に好印象を抱いているようだが、響としては納得いかないようだ。
露骨に不満そうな顔を見せるのに対し、ノンキに笑ってみせる。
「そりゃあ、響からしたら話し掛け辛いだろうからな。不満なのは解るが、10代の恋愛なんてそんなもんよ。付き合って少し経ったら落ち着くだろうし、もうちょっとの辛抱だろうよ」
「いやいや……確かに、外野から見たら微笑ましいでしょう。でも、友達でさえ話し掛け辛いのはどうかと思いません? 現にここ1週間ぐらい、僕は靖之とまともに話してないですし」
「まぁ、落ち着け……響も、彼女が出来たら解るよ」
「……そんなもんですか? 正直、理解出来ないです」
笑顔で語り掛ける店員(兄)に、それでも不服丸出しの響。
両者の温度差が浮き彫りになる中、携帯の着信音が聞こえた。
「おっ、噂をすれば何とやら……」
店員(兄)は少し驚いた表情になるも、すぐにスマホを操作。
響に手で断りを入れると、スッとその場を離れた。
“全く……
奥田さんの事は置いとくとして、問題はあの女だ。靖之の優しさを履き違えて、依存し続けている存在。
今は問題が表面化してないだけで、爆発するのは時間の問題だろう。
既に、ストーカー1歩手前じゃねぇか。
これであいつに彼女でも出来ようもんなら、刃傷沙汰は確実。それだけは、どんな手段を使っても止める必要がある。
後、もう1つ気になる事があったな……
あれは、先週ぐらいか?
全身キズだらけで学校に来てたけど、アイツに何があったんだ。同時に、奥田さんと一緒に居る事が増えたような気がする。
本人は転んだって言ってるみたいだけど、ウソなのは明白。
もしかして、既にあの女に……
本人の口から相談されるまで待つつもりだったが、そんな悠長な事は言っていられない。何かがあってからじゃ、悔やんでも悔やみきれんからな。
これから会って、直接腹を割って話した方が良さそうだ。”
どうやら、考えている内に不安が大きくなったのだろう。
すぐに連絡を入れようと、スマホに手を伸ばした時だった。
――10分後。
「……ああ、解った。じゃあ……申し訳ないけど、それで頼む」
靖之は電話を切ると、横の舞に手でOKと合図。
彼女もホッとしたのか、安堵したようだった。
「とりあえず、これで死体の問題はクリア。後は約束の時間までに、必要な道具を揃えて処置をするだけ。しかも、残り1時間しかない。手分けして準備して、さっさと終わらせよう」
「ええ、もう3時過ぎだからね。日没の時間も考えたら、ノンビリしてる場合じゃないわ」
サクッと話をまとめると、そのまま行動開始。
靖之がタクシーを呼ぶと、舞と共に指定地点を目指して走り出した。
“まずは、第1関門は突破……
冷凍庫は、シカの死体を解剖する為と理由付けをしてある。実際、ウチの市の食害被害は相当深刻みたいだからな。
後学の勉強の為って説明したら、快く引き受けてくれた。
学校への説明も、似たような感じで部屋を借りれるはず。
そして、響にバギーを出して貰う約束も取り付けた。今晩の飯を奢るのが条件みただけど、それぐらいで済むなら安いもの。
後は、死体が見えないように細工をするだけ。
必要な物は舞と打ち合わせ済みだし、これも問題無し。後は、誰の目に触れず明日の朝イチで学校に運び込むだけ。
これも、響に頼んであるから問題無し。
池の調査自体は、淳子先生から正式に頼まれたもの。ブツブツ文句を言ってたが、ゴリ押し出来たから問題無し。
ただなぁ……
肝心の調査は、解剖が終わった後にせざるを得ない。正直面倒臭いが、実際にこんな化け物がウロついてたんだ。
これ以上目撃者が出ないように、原因を突き止める必要がある。
その為なら、報告書を偽造する事も頭に入れておかないと”
靖之が頭の整理をしている間に、目的地に到着。
そこは、山を出てすぐの場所にある大学の裏口である。近くに学生専用の駐車場が見えるも、日曜日と言う事もありガラガラ。
山からの吹き下ろしの風を感じていると、タクシーが1台近付いて来るのを確認した。
――その頃、響はというと。
「おっ、響……こっちのコーナーに顔を出すとは、珍しいな」
「まぁ、僕も大学生になりましたからね。色々手を広げるには、いい頃合いかなと思いまして」
大小様々な水槽が並んでいるのを見ていると、店員(弟)に声を掛けられた。
少々戸惑いつつ商品をチェックする中、当然の流れが発生する。
「そうだな……俺からの、入学祝だ。買うなら、値段交渉に応じるけど?」
「えっ、マジで! でも、ウチはあんまりスペースの余裕が無いんですよ。大型水槽は置けないんで、小さめのヤツがいいんですけど」
「まぁ、スペースばかりはどうしようもない。それより、何を飼うつもりなんだ? そこが決まっていれば、おのずとサイズも見えるんじゃない?」
「そうですね……今は、ポリプテルスに興味があります」
言われるがまま、自分の希望を口にする響。
後は、店員(弟)がそれに見合った水槽をチョイスするだけである。
「そうだな……それだったらこの辺りの60の規格サイズか、こっちの90のスリムタイプをオススメする。あっ、せっかくポリプを飼うんだ。混泳させるんだろ?」
「ええ、そのつもりです」
「だったら、ろ過は余裕を持たせたいな。色々あるから、自分の目で見てみる?」
「そうですね……お願いします」
店員(弟)に促されるまま、違うコーナーに移動する響。
そんな彼を、柱の陰から老父が見詰めていた。
「……どうやら、彼も『あの世界』に行く事になりそうだ。可愛そうに……運命とは、残酷なものだ」
何かを察したように呟くと、彼の後を追って移動。
フィルターの説明を受ける様子を観察しつつ、再び呟く。
「これで、生贄は4人……この世界も、既に浸食が始まっている。我々が元の世界に戻る為にも、彼らには働いて貰わなければ」
そう言うと、周囲をキョロキョロ見回す老父。
そして誰も居ないのを確認すると、何事も無かったかのようにスッと姿を消した。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
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