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夢国冒険記  作者: 固豆腐
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双子池の怪物(前編)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――ペットショップを出て、約1時間後。


「日没まで時間があるとはいえ、油断は禁物。とりあえず、4時ぐらいには撤収した方がいいと思う」

「池自体の調査じゃないし、それでいいんじゃない? あくまでも、アイツ等が居るかどうかの確認だし」


 靖之と舞は、学校裏の双子池に来ていた。

 とはいえ、急いで来たので服は私服のまま。昼食も、途中で寄ったコンビニのおにぎりとペットボトルのお茶だけである。

 近くに設置されているベンチで短いランチタイムを済ませると、すぐに動き始めた。


「そうだな……ウエーダーも無い以上、池自体の調査は何も出来ない。痕跡を見つけるなら、周りの森しかないんじゃないか?」

「……そうね。足跡ぐらいなら、残ってても不思議じゃないし。池周辺に絞って、そこを重点的に調べるとか?」

「ああ、それで行こう。俺は東側に回るから、舞はこっちを頼む。それで、時計回りに調べたら効率がいいんじゃないか?」

「了解。私達だけで調べるんだし、それで充分でしょ」


 手早く打ち合わせを済ませると、各々に行動開始。

 荷物はベンチに置き、持ち歩くのはスマホ等の必要最小限の物に留めた。もちろん置き引きのリスクはあるものの、背に腹は変えられない。

 そして靖之は舞とは別れ、そのまま反対側に回った。


 クッソッ……

 何が悲しくて、日曜の昼間からこんな事をしなきゃならん。今からこの調子じゃ、夜になる頃には疲れて動けなくなるだけ。

 それに、池周りぐらい整備しておけよ。

 雑草が伸び放題で、まともに歩く事も出来やしない。まだゴミが落ちてないだけマシだけど、こんな調子でまともな調査が出来るのか?

 いや……何かの見間違いなら、それでいいんだけど。


 ブツブツ文句を言いながらも、足を止めずに目的地を目指す靖之。

 水際にアシのような植物が群生しており、ただでさえ境目が解り難い状況である。誤って踏み込まないように注意しつつ、それでも可能な限りスピードを落とさない。

 時間にして、だいたい15分ぐらいだろうか。


「はぁ……はぁ……はぁ……どっ、どうにか到着出来た」


 悪戦苦闘して移動したものの、その代償として服はボロボロの状態。

 まだ4月だというのに、全身から滝のように汗が流れていた。


「わざわざ、池に落ちるリスクも背負ったんだ。ヤツ等が居るとして、絶対に先に気付かれるわけにはいかない」


 額の汗を拭いつつ、自分に言い聞かせるように呟く靖之。

 周りには森が広がっており、姿を隠す場所には事欠かない環境である。『いるかもしれない』ではなく、『どこかにいる』みたいな感覚でちょうどいいだろう。

 周囲の動きに注意を払いつつ、そのまま森の中に入って行った。


 俺の記憶が正しければ、この山にはシカもイノシシも住んでいないはず……

 つまり、大型の動物イコールヤツか人間の2択になる。しかも山菜のシーズンも終わってる今、爺さん婆さんも居ない。

 居るとすれば、生物採集に来たマニアぐらいだろう。

 河童が実在してるとは、到底思えない。

 だとするなら、あの高校生が見たのはヤツ等という事。でも……この前のメデューサの話を聞く限り、アイツ等はあの世界から出られないはず。

 それとも、何かしらのイレギュラーでも発生したのか?

 ともかく、どんな些細な物でも構わない。痕跡を集めて、そこから正体を炙り出す事が重要になる。

 そして、帰るまでに結論を出したい。


 異変を探しながら移動するも、当然ながらそう簡単には見つからなかった。

 視界に入るのは、ナラの木々と下草の雑草ぐらい。只でさえ木の枝葉で日光が遮られ、薄暗い状況である。

 仮に何者かが様子を窺っていたとしても、簡単には見抜けないだろう。


「それにしても、静かだな……森っていうと、もっと動物達が騒いでるはず。ましてや、今は繁殖シーズンのはず」


 靖之は首を傾げるも、それもそのはず。

 先程から鳥のさえずりはおろか、カエルの合唱すら耳にしてないのだから。


「いや……やっぱり、何かがおかしい。この前来た時は、普通に聞こえてたからな」


 疑問から、確信に変わったのだろうか。

 その足で森から出ると、池の水際を確認。


「……うーん。メダカやドジョウは居るからな。オタマジャクシはまだ早いとして、池自体の生態系は正常のはず。だったら、変なのは周りの森だけか?」


 水面を覗き込み、水草と戯れる小魚達の姿を視認。

 そのまま踵を返すも、頭の中は靄が掛かったようになっていた。


 ダメだ……

 ウダウダ考えても、答えが出ないんだから仕方ない。1つ1つの疑問を調べてたら、終わるものも終わらなくなる。

 とにかく、今は痕跡を探す事に集中しないと。


 暫く歩く内に、それ以上考える事を止めたのだろう。

 喫緊の課題である魚人の正体を突き止めるべく、再び異変を探し始めた。


 ――同時刻、讃岐浜市某所。


「……あのー、すみません。どなたか、いらっしゃいませんか?」


 時代を感じる古民家の扉を開け、ビクビクしながら声を掛ける男。

 年の頃は、10代後半から20代前半といったところか。アマチュアのバンドマンみたいな風貌とは裏腹に、入口で立ち往生。

 引き戸に手を掛けたまま、1歩も動けないでいた。

 それでも、1分ぐらい経った頃だろうか。


「……いらっしゃい。来ると思ってましたよ」


 家の奥から姿を現したのは、60代半ばぐらいの総白髪の老父だった。

 彼は青年を見るなりニコッと笑うなり、中に入るように手で促した。


「おっ……おじゃまします……あっ! これって、ビック○ツですよね? このキ○コ棒もそうですけど、こう見えて僕は駄菓子好きでして……」


 店奥のレジの横に置かれたイスに座る老父に対し、青年は目が泳いだまま。

 咄嗟に回りの商品を指差して空気を変えようとするも、相手はタバコに火を点け始めた。


「まぁ……見ての通り、平日は只の駄菓子屋だからね。2~3個でいいなら、買い物が終わった後にサービスしてあげよう」

「はっ、はい……ありがとうございます」


 紫煙を燻らせながら話を振る老父に、ビクッと反応する青年。

 そんな彼の心情が解るのか、そのまま本題に入るようだ。


「君が欲しい物は、奥に用意してある。その覚悟があるのなら、付いて来るがいい」

「……はい、お願いします」


 老父はロクに吸っていないタバコの火を消すと、そのまま奥に部屋の扉を開けた。

 青年も腹を括ったのか唾を呑みこむと、指示に従って後に続く。


 靖之に話したら、何て言うだろう……

 いや、俺も初めて見た時は信じられなかった。でも……それ以上に、どうしても手に入れたかったのも事実。

 そして、それが今現実になろうとしている。

 アイツも、好みが俺と似てるからな。実物を見れば理解してくれるだろうし、手も出すはず。

 1人じゃ、不安だからな……

 万が一相談するなら、アイツかしか居ない。


 青年は脳裏に靖之の顔が浮かぶのを感じ、少し不安そうな顔を見せた。

 とはいえ、ここまで来てもう後戻りは出来ない。部屋の扉の前に立つと、靴を脱いでそのまま上がった。

 と同時に、そこに居る物を見て顔が綻んだ。


 青年の名前は、砥草響。

 靖之とは高校時代からの友人であり、好きな動物について語り合う仲だった。外見で誤解されがちだが、プラモ(戦車や装甲車が好み)制作が趣味のオタクである。

 そんな彼が、何故ここに来たかというと。


 ――3日前。


「あーっ、やっとバイトが終わった……洗い物ばかりで疲れるけど、これもエサ代を稼ぐ為。そのうち慣れるだろうし、今は我慢するしかないか」


 響は中華料理店での仕事を終え、自転車を飛ばしていた。

 時間が夜の11時という事もあるのか、人や車もほぼゼロの状態。田舎特有の単調な景色に、注意力が散漫になっていたのだろう。

 頭の中は、次に迎え入れる生体の事で一杯になっていた。


 俺も、今年で19だからな……

 念願のモニター(オオトカゲ)を飼うには、いい機会かもしれない。まずは、サバンナかマングローブからスタート。

 ただなぁ……

 こんな田舎じゃ、ショップに入荷するとは思えない。

 せっかく飼育するからには、実際に自分の目で見て決めたいからな。そうなると、都会のイベントに参加するぐらいしないと。

 今は金が無いし、行くなら7月の大阪か?

 1人じゃ心細いし、靖之も誘いたいけど……あいつは、彼女がいるからな。確か同じ高校の、奥田さんだったっけ。

 休み時間もベッタリだったから、泊りの旅行とか男同士でも嫌がるのは目に見えてる。

 だったら、いっその事3人で……

 いや、それじゃあダメだ! 例え彼女が同意したとして、俺だけ除け者にされるかもしれない。

 どうする……

 せっかく、同じ学校(大学)に通ってるんだ。今度構内であった時に、アイツにだけ話を通せばいい。

 7月の本番まで、まだ時間がある。

 焦る必要は、全く無いからな……


 ノンキに先の予定を立てる中、前方に何かが居るのを発見。

 幸い距離があった事もあり、衝突する事無く余裕を持って停車出来た。


「……んっ? 何だ、コイツ……こんなトカゲ、雑誌や本でも見た事が無いんだが?」


 自転車から降りてマジマジと観察するも、響は首をひねるばかり。

 当の生物も、彼をジッと見詰めたまま舌を出し入れするだけで動こうとしない。


 体長は、30センチ程だろうか。

 黒い体色に白いマダラ模様が入る、美しいトカゲではある。顔もモニターの子供の用にシュッとしており、華奢な体型。

 尻尾は普通ながら、手足はトカゲにしては異様に長く細い前足と太い後ろ足をしていた。


「……解らんが、とりあえず写真だけでも抑えとくか。靖之なら何かしらの情報を知ってるだろうし、それでダメならネットを使うだけ」


 とりあえず物的証拠を得ようとするも、急に動いたからトカゲが驚いたのだろう。

 まさに脱兎のごとく、歩道脇のあぜ道に走り去ってしまった。


「クソッ! 何てザマだ……こんな事になるなら、問答無用で捕まえておくんだった!」


 スマホを投げつけんばかりの勢いで激怒するも、既に後の祭り。

 咄嗟に、感情を抑えられないでいた。


「あのぅ……すみません。ちょっと、お尋ねしたい事があるんですが?」

「……っ! なっ、何でしょう」


 急に背後から声を掛けられ、ビクッとする響。

 ただ赤の他人に八つ当たりするわけにもいかず、平静を装って対応する。


「この辺りで、トカゲを見ませんでしたか? そう……姿形は、こんな感じなんですが」


 声を掛けて来た老父はそう言うと、身振り手振りで説明を開始。

 見事に先程のトカゲと合致していただけに、驚きを隠せなかった。


「それなら……」


 頭の中は問題のトカゲで一杯ながら、ペラペラと状況を説明。

 相手も、そんな響の思考が読めたのだろう。


「お手数をお掛けし、申し訳ありません……あっ、そうそう。私は、こういう者です。もし興味があるなら、是非足を運んでみて下さい」


 老父が礼を言いながら渡して来る名刺を、響は黙って受け取った。

 そこには、こう書かれていた。


 あなたの満たされない飼育欲に応えます!

 菅野商店(有)

 営業時間:毎週日曜日午前11時~気分次第

 菅野忠信


 会釈をしてあぜ道に入って行く老父を、響は黙って見送る事しか出来ない。

 しかし、その頭の中では既にある事で一杯だった。


 ――再び時は戻り。


「これが、御所望だろう? 飼育に関しては、乾燥系のトカゲと同じと考えて貰って構わない。エサも、コオロギやミルワームがメイン。120~150のケージがあれば、終生飼育が可能だから」


 特大のタッパーに入ったトカゲを指差しながら、簡易的な説明する老父。

 一方の響は頷きこそすれども、視線は生体に固定されていた。


「まぁ何かあれば、ここに電話をくれ。もちろん、他の種類が欲しくなった場合も同じ。君の欲に応える事を約束する」

「……すみません。そして、今後とも宜しくお願いします」


 響は、渡されたメモを躊躇なく受け取った。

 その眼には、凶器にも似た光が宿っているとも知らず。


 ――そして、池で調査中の靖之である。


「……マジか。ここまで調べて、痕跡の1つも見つからんとは……もうすぐ、最初の場所に戻っちまうぞ」


 友人の異変に気付くわけも無く、森の中を歩き続けていた。

 しかも、得られた情報はゼロである。頼みの綱の舞からも連絡が無いまま、もうすぐ荷物を置いたベンチが視認出来る距離だ。

 もはや、焦る気持ちすら抑えられなくなっていた。


「はぁ……やっぱり、あの高校生の見間違いだったんじゃないか? 例えば、飼いきれなくなったガー(北米産の大型淡水魚=特定外来生物)とか。後ちょっと調べてダメだったら、引き揚げるべきだろ?」


 既に諦めモードらしく、頭の中は帰宅1択になっているようだ。

 だから、舞から電話が入った時は思わず言葉を失った。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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