ペットショップにて
・一応ファンタジーです。
・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。
・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。
・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。
以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。
――午前10時過ぎ。
「やっぱり日曜日なだけあって、結構お客さんが来てるな……」
「まぁ、仕方ないんじゃない? それより、早く見に行きましょう」
開店すぐにも関わらず、店内の人口密度は過密気味だった。
キョロキョロ周囲の見回す靖之に対し、舞は生体を早く見たいのだろう。手を引っ張って促して来るので、言われるがまま移動。
熱帯魚コーナーがある、手前奥に直行した。
「へぇ……ピンポンパールも悪くないけど、ランチュウや土佐金も悪くないね」
「金魚は飼った事が無いから解らないけど、熱狂的なファンが多いのも頷ける。今度60センチを立ち上げたら、ピンポンパールを飼おうかな?」
「いいんじゃない? 私も、土佐金に興味があるし」
「想像しただけで、夢が広がる」
まずは、手前の金魚達をチェックする2人。
アクアリスト特有の飼ったつもり談義をするも、彼らのここに来た目的は別である。会話も広がらないまま、横にスライド。
最近話題が多い、メダカ水槽の前に立った。
「最近、種類が増え過ぎじゃないか? 正直、黒・白に加えてヒメダカだけでお腹いっぱいだ」
「まぁ、肉食魚メインの私達からしたら縁が薄いからね。何かのキッカケで沼に沈む可能性はあるけど、今はスルーだわ」
「こだわりだしたら、キリが無いからな。興味が無いうちは、無理に考えなくてもいいと思う」
「うん、キレイだとは思うけどね」
彩り豊かな水槽が並ぶが、2人には対象外なのだろう。
軽く言葉を交わしただけで、すぐに横に移動する。
「錦鯉か……飼うとしたら、紅白系かプラチナ系の2択かな」
「えっ……靖之の家って、池があるの?」
隣の男の言葉が信じられないのか、驚きを隠せない舞。
それを見て、靖之は苦笑を浮かべた。
「いや……鯉って、60センチの水槽でも盆栽飼育出来るだろ? 邪道なのは解ってるけど、日本を代表する観賞魚でもある。もし機会があるなら、チャレンジしてみるのも面白いと思っただけさ」
「ああ、なるほどね……でも、せっかくの錦鯉じゃない? 池で勝手こそ、その魅力が楽しめると思うけど」
「そりゃあ、池があれば迷わずそうするさ。でも、ウチには庭すら無いからな……」
「まぁ……どうするかは、その時になって決めればいいでしょ」
両者の間に温度差があるものの、靖之自身もそこまでの熱意はまだないのだろう。
ザラッと見るだけして、また横にスライド。
「うわっ……ちょっと通れないし、そこにでも座って待つ?」
「……さすがに、この人だかりに突っ込む気にはならないわ」
小型の熱帯魚が集まった場所だからか、子供連れのお客さんで渋滞が発生。
突破して万が一の時のリスクを考えてか、近くに置かれているソファーに腰掛けた。
「そういえば、舞はここに来るのは初めて?」
「ええ、いつもは西○の中のペットショップを使ってるから。でも、あそこはチェーン店だからね。品揃えが悪いし、店員の態度も機械的っていうかね……ちょうど他のお店を探してたから、ちょうど良かったわ」
とりあえず、雑談をして時間を潰すつもりなのだろう。
ただ目の前に魚が居るのに、座って喋るだけでは味気ないのも事実。
「……おっ! 錦鯉のエサやり体験の所は、人が少なくなったな。せっかくだし、行ってみない?」
「そうね。自分じゃなかなか飼えないし、面白そう」
少し離れた所にある小型のビニールプールに目を付けたらしく、立ち上がると直行。
ガチャガチャでエサを購入し、人工飼料を投入し始める。
「おおっ! 人馴れしてるのか、凄い食いつきだな」
「はははっ! こうも反応が良いと、飼いたくなるね」
投入すると同時に群がる鯉に、テンションが上がる2人。
懸命に口を開ける姿に嫌悪感を覚える人も居るだろうが、彼らは好意的なのだろう。夢中で投入したのか、エサはものの30秒で無くなった。
そして、客引きの効果もあったのだろう。
「あっ! エサやり体験だって……僕、あれやってみたい」
「ねぇねぇ……私もいいでしょ!」
「キレイな、お魚さんだ!」
子供の気を引くには、十分だったようだ。
人混みの半分以上が反応した事で、靖之達は速やかにその場を離れた。
「ちょうど道が空いたし、結果的によかったのか?」
「結果オーライって事に、しておきましょう。それに、また戻って来るのも時間の問題なんだから」
2人はこれ幸いとばかりに、小型魚のコーナーに移動。
とはいえ、見る種類は限られている。
「アピストは……やっぱり、めぼしいのは大手に抑えられてるな。インカは当然として、居るのはラムと……あっ! ビタエニアータだ」
「それも、ペア買い出来るみたいよ? 早く買わないと、手遅れになると思うけど」
それを見た瞬間、水槽にかじりつく靖之。
舞も、その魚の価値が解っているのだろう。後ろからニヤニヤしながら、煽る事を忘れない。
そこから、次の反応までは一瞬だった。
「……あっ、お兄さん! このビタエニアータを、ワンペアお願いします。繁殖まで狙いたいから、出来るだけ仲が良さそうなヤツで」
「おっ! 靖之じゃないか……了解。ちょっと、待ってろ」
近くに居た店員を呼ぶと、すぐに指名を済ませる靖之。
個体の確保は済ませたが、興奮が抑えられないのだろう。水槽内のペアが泳ぐ所を、ずっと追いかけている。
そして、1~2分経っただろうか。
「いやぁ……靖之も、遂に彼女が出来たか。お前はズボラなんだから、ちゃんと管理して貰えよ?」
「いや、この子はただの友達だから。ほらっ……彼女も、迷惑そうにしてるし」
「隠すなよ。靖之だって、今年で19だろ? 別に、彼女が居た所で変な話じゃない。もっと、堂々とするべきだろ」
「だから、そういう関係じゃないから」
ソッポを向く舞を余所に、中学生みたいなノリの男2人。
そんな会話をしている内に、生体のパッキングが完了した。そして会計は最後にすると伝えると、何を思ったのか店員が靖之を手招き。
キョトンとするも、とりあえず指示に従うが。
「なぁ……たまに連れて来てた、あの女の子はどうした? てっきりあの子と付き合ってると思ったけど、別れたのか?」
「……だから、吉川さんは大切な友達。それ以上でも、それ以下でもない。頼むから、変な事は言いふらさないで」
「そうか……じゃあ忠告しとくけど、ああいうタイプは気を付けないと後で面倒だからな。その子に気付かれないように、フォローだけはしておけよ?」
「えっ? まぁ……イジメは無くなったとはいえ、吉川さんは人見知りだから。今度、釣りにでも誘ってみようかな?」
「……お前は変わらんな」
マジメに考え込む靖之を見て、呆れたように溜息をつく店員。
まだ何か言おうとする男を尻目に、パッキングしたビニール袋を持って去ってしまった。
「お待たせ。ビタエニアータのペアも確保出来たし、良かった。舞は、何か欲しい子でも居た?」
「……別に」
取り繕うように声を掛けるが、当の本人はあからさまに不満そうな顔を見せるだけ。
理由が解らず困惑する靖之を余所に、そのまま店員に声を掛けた。
「……すいません。アベニー(小型の淡水フグ)を、10匹お願いします」
「ありがとうございます。少々お待ち下さい」
先程の会話とは正反対に、あっさりと生体を買う舞。
咄嗟にリアクションが取れない靖之を置き去りにし、店員と購入作業を進める。
まぁ、ここ1週間は緊張の連続だったからな……
ストレスを溜めて、イライラしてても仕方ない。だからこそ、今日ぐらいは息抜きをして貰わないと。
ビッグキャットが居るのは、1番奥のコーナー。
目当ての個体が居れば、機嫌も良くなるはず。俺も、可能な限りフォローするようにしないと。
一緒に来てくれてるんだから、自分だけ楽しむ事はNGだ。
靖之が自分なりに反省している内に、生体をキープした舞が戻って来た。
しかも、先程までとは打って変わり上機嫌である。
「あの店員さんって、さっき靖之の対応をしてた人の弟さんなんでしょ?」
「えっ? ああ、この店は家族経営だから。他に妹さん2人とご両親に加え、お父さんの弟さん家族も働いてるけど?」
とりあえず、聞かれた事に対する返事をする靖之。
それを聞き舞は何を思ったのか、興味深そうに頷いた。
「そろそろ人も戻って来たし、次に行きましょう」
「あっ、ああ……こんな所で、無駄に足止めされたくないからな」
舞に促されるまま、隣のコーナーにスライド。
されまでの小型魚達とは打って変わり、サイズが一気にアップした。
「ディスカスって子供の頃は興味が無かったけど、こうして見るとやっぱりキレイだな」
「熱帯魚の王様の異名は、ダテじゃないわね。ヨーロッパじゃ、不動の人気みたいだし」
悠然と泳ぐ煌びやかな円形の魚を前に、思わず見惚れる2人。
しかし、興味はあっても手が出る値段ではないのが実情だろう。値札を確認するなり、自然な足取りで横の水槽に目を移した。
ただ、そこに居たのは別の理由での化け物だった。
「レッドテールにタイガーシャベル(共に南米原産の大型ナマズ)か……幼魚の内は、可愛いんだけどな」
「そりゃあ、ビッグキャットだからね。簡単に変えたら苦労しないけど、大きさ以外にも色々大変だし」
10センチ程の愛嬌あるナマズが泳ぐ水槽を眺め、羨望の眼差しを向ける2人。
ただし、気軽に店員を呼べる種類でもなかった。
「どうする、横のアロワナ達もさすがに無理だし……その横がポリプだし、そっちに行く?」
「いや……せっかく、日曜日に来たんだからね。イスに座って、ちょっと考えてみる」
結論を出す前に、まずはじっくり考えるつもりなのだろう。
近くのソファーに座り、無言で個体を鑑賞する2人。
「なぁなぁ……この前、讃岐浜大学の裏の池にガサガサ(生物採集)に行ったんだよ」
「マジで? 何で、1人で行ったんだよ。俺も誘えよ」
外見から判断して、高校生ぐらいだろうか。
2人の男がアロワナ水槽の前に来ると、そのまま雑談を開始。ナマズに集中する、靖之と舞には気付いてないのだろう。
ダラダラと、話を続ける。
「まぁまぁ、そんな事よりさ……見たんだよ」
「見たって、何を? どうせ、飼育放棄されたガー(北米産の大型淡水魚であり特定外来生物)とかじゃないのか?」
「いやいや……そんなのなら、こんなにもったいぶらないわ」
「じゃあ、何だよ?」
見た・見ないで盛り上がる若者達ではあるが、靖之達はノーリアクション。
しかし、次の会話で一変する。
「河童だよ。なんかこう、魚人っぽいっていうか? ともかく、そいつが池を泳いでたんだよ」
「はぁ? このご時世に、そんな話を信じるヤツが居るかよ……どうせお前が寝ぼけてたか、何かの見間違いだろ?」
「いや、だから本当だって! 時間にして、数秒だけどさ……あーっ、こんな事ならスマホで動画か写真でも撮れば良かった……でも、ウソじゃないからな?」
「……はぁ、そこまで言うなら来週の日曜辺りに、一緒に行って調べるか? 本当に河童なら、今度こそ動かぬ証拠を掴めるわけだし」
「ああ、望む所だ! 来週の日曜だからな」
半ば売り言葉に買い言葉ながら、当人達はそれで納得したのだろう。
さっさと他の場所に移動するも、それを耳にした靖之と舞は神妙な顔をしていた。
「讃岐浜大学の裏の池って、あそこの事よね?」
「ああ、地図を見る限り他に該当する池は無いはず」
「そこで、魚人っぽい河童が居るのを見たと?」
「さっきのヤツが言うには、そうなんだろう」
まずは、今得た情報を反芻確認する2人。
両人共に、思い浮かぶ生物は一緒である。
「ウソでしょ? 魚人って事は、あのメデューサの仲間と言う事。でも、化け物達はあの世界に閉じ込められているはず……」
「ああ……あの時の話が真実なら、そのはずだ」
「じゃあ、どうしてあの池に居るのよ?」
「解らん。ただ、現段階で解っているのはさっきのヤツが見たっていう口頭の証言だけ。これだけで判断するのは、さすがに無理がある」
意見交換をするものの、当然ながら答えは出ないまま。
次第に重苦しい空気が漂い始めるも、黙っていても話は先に進まない。
「……聞いてしまった以上、放置する事は出来ない。買い物が終わったら、池の様子を見に行ってもいいんじゃないか?」
「そうね……まだ、アイツ等だっていう証拠はないんだから。何かの見間違いなら、後で笑い話に出来るし」
「人間は、マナティを人魚と勘違いするぐらいだ。たぶん、取り越し苦労だろうよ。だから、軽い気持ちで行けばいい」
「確かに……でも、その前に買い物はしておかないとね」
おそらく、本人達も自覚がないのだろう。
ショックを和らげるべく、まずはハードルを下げる。そして、自分の好きな事をした流れのまま調査に行きたいのだろう。
おもむろに立ち上がると、再び水槽の中の生体を吟味し出した。
2人が会計をしたのは、これから1時間後である。
靖之はアンソルギーとコンギクス、舞はエンドリとウイークシー(全てポリプ)を追加購入。店の人には夕方取りに来ると伝え、会計を済ませて店を出た。
この時点で、時間は正午を回った所だった。
「とにかく、時間が惜しい……(池への移動手段は)タクシーを使おう」
「ええ、買い物は途中のコンビニで済ませればいいし」
調査をするには程遠い装備ではあるが、行かないよりはマシだろう。
手早くプランを立てると、靖之がスマホを操作し始めた。
読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。
投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。
次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。
細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。




