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夢国冒険記  作者: 固豆腐
42/70

初めての日曜日

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

 ――午前、7時半頃。


「……こんな時間に、一体誰だよ?」


 靖之は、スマホの着信音で目を覚ました。

 頭がボーッとしているものの、反射的に手を伸ばして相手を確認。どうやら舞ではないようだが、だからといって知らない相手でもないらしい。

 眠い目を擦りつつ、上半身だけ体を起こして指を動かした。


「ああ、靖之君か? 実は昨日、ポリプ(ポリプテルス=アフリカ原産の古代魚)が大量に入荷したんだ。プラチナ個体も居るから、見に来ないか?」

「えっ……マジで? 行きます!」


 電話の相手は馴染のペットショップの店長であり、話を聞くなりテンションが急上昇。

 2つ返事で予定を決めつつ、更に話を続ける。


「あっ、ポリプもいいんですけど他に何か大型魚は入荷してますか?」

「大型か……シクリッドは、都会の大手に持って行かれたからな。アロワナならシルバーが1匹居るけど、靖之君は興味ないだろ?」

「水槽的に、アロワナは無理です。そうですか……あっ、じゃあビックキャットはどうですか?」

「ナマズか……そうだな。タイガーシャベルノーズの幼魚なら、2匹入荷してる」


 話している途中である人が浮かんだらしく、一応在庫を確認。

 返事を聞いて安心したのか、靖之は安堵したようだ。


「了解しました。じゃあ、また後ほど」

「ああ、待ってるよ」


 話すべきことも終わり、電話は終了。

 切れたのを確認し、そのままスマホを操作する。


「……んーっ、どうしたの?」

「いや、別に急ぎの用じゃないんだけど……」


 電話の相手は舞であり、時間が早い事もあってか彼女も寝ぼけているようだ。

 ただ機嫌が悪いようでもないので、そのまま本題にシフトする。


「さっき、知り合いのペットショップから電話があったんだ。ポリプが大量に入荷している上に、タイガーシャベルの幼魚も居る。予定が無いんだったら、一緒に見に行ってみないか?」

「……えっ? それって、マジ? ポリプの他に、タイガーシャベルの幼魚でしょ? そんなの、行くに決まってるじゃない」


 靖之の話を聞くなり、テンションが急上昇する舞。

 しかし何か気掛かりな事があるのか、急にマジなトーンになって逆に話を振って来る。


「ねぇ……一応確認するけど、行くのは2人だけだよね?」

「んっ? そうだけど、他に誰か居た方がいい?」

「いや、他の人が居たら気を遣うじゃない? 2人だけで行きましょう」

「了解」


 オフの日だから、あくまでも自然体でいたいのだろうか。

 同行者が居ない事を確認しただけで、あっさりと今日の予定が決定した。


「じゃあ……家に迎えに行くけど、何時ぐらいにする?」

「……そうね。お店は何時からオープンなの?」

「今日は日曜日だから、確か10時からだったと思う。舞の家からだと、徒歩で10分ぐらいの距離かな?」

「なるほど……じゃあ、9時頃来てくれる?」


 舞は当然のように時間を指定して来るが、靖之としては釈然としないのだろう。

 つい無言でいると、補足の言葉が電話口から飛び込んで来る。


「風間先生に、池の調査を頼まれてるでしょ? 道具は明日(月曜日)に借りに行くとして、計画ぐらいは立てておかないと」

「あっ、そうだ……いかん、言われるまで完璧に忘れてた」

「もう……じゃあ、そういう事で9時にお願いね」

「……了解」


 舞の指摘でようやく思い出したらしく、天を仰ぐ靖之。

 ともあれ、電話は以上で終了した。なんだかんだで、現段階で時計の針は8時を過ぎた頃である。

 打ち合わせの事も考えたら、ノンビリしているヒマは無い。

 靖之は両頬を叩いて気合を入れると、ベッドから出て洗面所に直行した。


 ――同時刻。


「……聞いたぞ? 狂戦士を発見したにも関わらず、肝心の1対1の勝負に負けたそうじゃないか?」

「耳が早い事で……貴様は海賊なんだから、こんな所に居ないで海に帰ったらどうだ?」


 笑いを隠し切れないカリーナに対し、露骨な皮肉を言う鎧の化け物。ロボットの攻撃で吹っ飛ばされた影響か、全身スス塗れの状態である。

 無人の森の中、人外の者が2人。

 どうやら昨夜の事をまだ根に持っているようだが、言った側は気にせず話を振る。


「実際の所、ヤツはどうなんだ? 自ら思考し決定するようになったら、いよいよ兵器としての使い道が無くなるぞ?」

「あれは、もうダメだ。完全に3原則に関するデータを消去している上に、自我も芽生えている」

「データを消去……でも、あれは自らどうこう出来る代物ではないはず。誰かがウイルスでも仕込んだか、開発チームの中に裏切り者でも居れば話は別だが」

「お前も、そう思うか? 私も、最初はそう考えていた」


 両者の話題は、ロボット(狂戦士)の事に移行。

 どちらも、兵器として欠陥品だと認識しているようだ。それでもカリーナとは違い、鎧の化け物は直接対峙した当事者である。

 間近で見て、拳を交わしたからこそ解る事があるようだ。


「3原則の拘束力は、穴が無い完璧な命令。だからこそ、評議会も躊躇なく汚れ仕事を押し付けていたんだろうな。その過程で、自我が目覚めたのだと私は思う」

「ちょっと待て……機械に、ゴーストが宿るって事か? それだと、今後デリケートな仕事は一切任せられんぞ?」

「そうだ……開発当初に懸念された機械の反乱論だが、最悪なケースとして実証された事になる」

「だから、科学者の連中は嫌いなんだ。勝手におもちゃを作って得意げにするくせに、トラブルになったら丸投げするだけ」


 数日前の一件があるからか、苛立ちを抑えられないカリーナ。

 一気に自分も当事者になりかねない状況に、最初も余裕は完全に消えていた。


「それで、評議会はアイツをどう処分するつもりだ? ただ破壊するだけじゃ、同じ事の繰り返しになるだけ……いや、自我の並列化が起こるのも時間の問題。そうなったら、我々だけで対処するのは不可能だ」

「解っている。ただ、あの老害共の事だ。自分達に直接的な被害が出るまで、まともに対応するとは思えない」

「で、尻拭いは我々と……それで、お前はどうするつもりだ?」

「ヤツが今どこに居るのかも解らんからな。それを調べた上で、監視を続けるつもりだ。完全なデータがあれば、アイツ等も動かざるを得ないからな」


 鎧の化け物としては、苦肉の策なのだろう。

 カリーナも同意見なのか、そこに異論を挟む事は無かった。


「いつまでも、ここでお喋りをしてる場合じゃないからな。俺はヤツを追うが、貴様はどうするんだ?」

「どうもこうもないさ……我々の目的は、元の世界に戻る事。いつまでも、老人達の我儘に付き合っていられんからな」

「すまん……愚問だったな」

「お互い、苦労するな」


 会話はすんなり終わり、両者は別々の方向に歩き始める。

 その表情には、険しさが色濃く滲み出ていた。


 ――その頃、靖之達はというと。


「水質検査だけど、正規のデータとして先生に提出するんだ。正確性と客観性を考えるなら、ポイントはこれぐらい必要になると思う」

「私達だけでやろうとすると、これだけで丸1日。生態系の調査にもう1日と考えたら、このプランがベストよね」

「先生は気楽にとは言ってるけど、俺達は研究者を目指してるからな。この手の調査は、今の内に慣れておかないと」

「手を抜き始めると、ズルズル行くのが目に見えてるからね。油断せず、地道にやる癖を付けておかないと」


 舞の家に移動して話し合いを始めていたが、内容が内容だけに両人共に真剣そのもの。

 どうやら彼女の家族は留守らしく、完全に2人きりの状況である。これが恋人なら甘い展開があるのかもしれないが、彼らはあくまでも親しい友人。

 特に進展があるわけでもなく、学校で話している時のテンションと同じ。

 それでも大まかにプランが決まった所で、少し休憩を挟むつもりのようだ。


「ちょっと飲み物とお菓子を用意してくるから、適当に時間を潰しててくれる?」

「いや、そこまで気を遣わなくても……」

「何言ってるの? 靖之は客人なんだから、大人しく待ってて」

「はぁ……舞が、そう言うなら甘えさせて貰おうかな」


 靖之はペットショップに向かいたいのだろうが、有無を言わせない舞。

 露骨にソワソワする客人をリビングに放置し、そのままキッチンに引っ込んでしまう。


 それにしても、大きな家だな……

 ウチもそれなりだけど、ここは段違いだ。もしかして、本人が言わないだけで結構な資産家なのか?

 まぁ、俺も友達を詮索するほどバカじゃない。

 あっ!

 大きさ的に、あれは180センチの規格水槽か。ブラックアロワナに、知識が無いから解らないけどアジア系のアロワナが数種。

 底物は、ビキール・コンギクス・エンドリ(全てポリプテルス)達だ。

 そして、ろ過システムは安定のオーバーフローだよな。管理も行き届いてるのが解る、素晴らしい水槽じゃないか。

 たぶん他にも水槽があるんだろうけど、また今度ゆっくり見せて貰いたいものだ。


 靖之が、壁際に設置された巨大な水槽に見惚れている時だった。

 準備が終わったのか、お盆を手にした舞が戻って来た。


「ふふっ……やっぱり、それ(水槽)に目が行くよね?」

「そりゃあ、180は普通の家には置けないからな。水もキレてるし、素晴らしいと思う」

「ウチのお父さんが聞いたら、絶対喜ぶわ。例え家族であっても、絶対に触らせてくれないぐらいだし」

「へぇ……なるほど。まさに、こだわりの水槽ってやつだ」

 苦笑する舞に対し、ちょっと驚く靖之。

 ただそれ以上に会話が続かず、少し気まずい空気になってしまう。


「あっ、そうそう。砂糖とミルクは用意したから、甘さは自分で調整してね」

「気を遣わせてしまって、申し訳ない。じゃあ、ありがたく……」


 促されるまま、ミルク(フレッシュ)と砂糖スティックを1本手に取る靖之。

 お菓子は、有名ブランドのクッキーのようだ。


 おっ!

 豆を挽いたコーヒー独特の香りに、この苦味。おそらくキリマンジャロとかなんだろうけど、知識が無いからな。

 これに関しては、何も言わない方がいいだろう。

 それから、このクッキー。

 やっぱり、モロ○フだな……元々好きなブランドだけど、コーヒーに良く合う。


 両方とも好みだったらしく、純粋に味を楽しむ靖之。

 思いっきり自分の世界に入る中、舞が急に声を掛けて来た。


「ねぇ、ちょっと聞いてもいい?」

「……んっ? 急に改まったりして、どうかした?」


 思ったより声のトーンがマジだったのか、意外そうな顔になる靖之。

 実際に舞は真剣なようで、まっすぐに目を見て話を振って来る。


「晩御飯だけどさ……ちゃんと、食べてる?」

「いや……舞は知ってると思うけど、俺は1人だろ? バランスを考えた食事にしないといけないのは、解ってる。でも、弁当か惣菜に頼ってるのが現状かな」

「まぁ、仕方ないよね……」


 想定外の話題ながら正直に話す靖之に、神妙な面持ちの舞。

 自然と空気も重くなる中、また彼女から話を振って来る。


「ウチのお父さんとお母さんが、靖之の事を気に入っててね。もし良かったら、近いうちに夕食を食べに来いってさ……もちろん、嫌なら強制はしないけど」

「……えっ? いや、まぁ……そこまで言ってくれてるんだ。人の厚意を無駄にする程、俺もバカじゃない。是非お願いしたいと、伝えておいて欲しい」

「そう、良かった……じゃあ、OKって言っておくからね」

「ああ、恥をかかないようにビシッと決めてみせるさ」


 ホッとする舞に対して、笑顔で答える靖之。

 両者がどのように捉えたのかは謎だが、それは置いておき空気が明るくなったのは事実。次の行動に移るには、もってこいだろう。

 現に、2人には次の予定があるのだから。


「あっ……そろそろ時間だし、ペットショップに行く?」

「……確かに。じゃあ、コーヒーとクッキーのお礼に洗い物は俺がやろう」

「客人に、そんな事をさせるわけにいかないでしょ? 洗い物は後でお母さんがやるから、私達は出掛けよう。ねっ?」

「わっ、解った……じゃあ、行こうか」


 客人の提案を断ると、そのまま出掛けるように促す舞。

 急かされているように感じつつも、ペットショップへの期待の表れと捉えたのだろう。玄関まで移動し、そのまま靴を履き始める。

 先に靖之が終わる中、彼女はまだ途中のようだ。


「大丈夫? 履き難いなら、手を貸すけど」

「ええ、問題無いわ。すぐ行くから、靖之は外で待っててくれる?」

「解った。俺は別に急いでないから、焦らずゆっくり。ケガには、くれぐれも気を付けて」

「うん、解ってる」


 軽く言葉を交わし、先に外に出る靖之。

 一方の舞はというと。


「よしよしっ……下準備は順調だ。後は、食事会の時の紹介が友達ではなく彼氏に出来るかだ。日取りは、舞に任せる。だから、絶対に落とすんだ」

「……何、勝手に盛り上がってるのよ? 心配しなくても、友達のままだから。お願いだから、余計な事だけはしないでね?」

「ああ、解っている。彼女の父として、いつでも彼と会う事を約束する」

「……行ってきます」


 玄関脇の部屋から顔だけ覗かせる父の言葉に、文字通り頭痛を覚える舞。

 隣の母と共に親指を立てるのを見て、問答無用で家を後にした。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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