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夢国冒険記  作者: 固豆腐
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3原則と自我の目覚め(8)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「ビンゴだ……わざわざ、こんな所に5人も配置するぐらいだ。このルートを使うと見て、まず間違いない」

「……本当に、地図があって良かったわ。まさか、こんな早く特定出来るとは思ってなかったし」


 物陰から様子を窺う靖之と舞の視線の先に居るのは、銃を携えた歩哨達。

 無理をすれば全員を無力化出来るかもしれないが、2人の目的は別にある。息を潜めて監視するに留めるが、変化はゼロ。

 相手は道路を行き来するだけの、機械的な動きに終始していた。


 それにしても、舞が町の案内地図を発見しなければ完全に詰んでたからな……

 町から出る為のルートは、全部で3つ。そのうち1つは俺達が来た時に使ったから除外するとして、残りが2つ。

 片方は、首都方面に抜ける道だが、わざわざヤツ等が戻るとは思えないからな。

 必然的に、残った所がヤツ等の撤退ルートだと言う事。

 ここを出た後3つに分岐する上に、どれもバラバラの方角に進める。途中で何かしらの欺瞞工作をされたら、追跡するのも困難だ。

 何としても、今ここで止めるしかない。


 後がないという自覚があるからか、靖之は敵を止める決意を固めた。

 同時に、その為の打ち合わせを舞とするのも忘れない。


「正面から戦っても、俺達2人だけでは無理がある。どうにかして、ブツを積んだ馬車を足止めしないと……」

「町の混乱具合といい、一筋縄ではいかない相手……モタモタしている間に、馬車に逃げられましたじゃ話にならないもの」

「しかも、積荷は化学兵器だからな。横転して漏れただけでも、被害は計り知れない。それを、ヤツ等が把握してるのかも怪しいからな」

「そうね……まともな神経をしてたら、銃なんて使えないはずなんだけど。確か、マスタードガスだっけ? 何か、上手い対処方法とかないの?」

「さぁ……俺も単語は知ってても、知識はネットで聞きかじったレベル。正直、何が何やらって感じだ」

「……なるほど。私も、同感だわ」


 2人して暗い顔になるが、現代人のしかも大学生なら無理もないだろう。

 明確な打開策が打ち出せないでいる中、相手に動きがあった。


「……すまん。ちょっとトラブルが発生したみたいで、計画を部分的に変更するようだ」

「えっ、何! ちょっと待て……ここまでは順調に進んでたはず。まさか、ここの警察ごときに抵抗されてるのか?」


 何やら想定外の事が起きたようで、連絡に来た仲間を問い質す歩哨。

 ただ、懸念された問題は別の事のようだ。


「いや、警察・消防関連の連中は既に排除済み……問題は、我々を攻撃して来るヤツが居る点だ」

「攻撃? どうせ、たいした数じゃないだろ。さっさと圧力を掛けて、排除すればいいだけじゃないのか?」

「まぁ、話は最後まで聞け。追い詰める事に成功したはいいが、突然近くのレストランが爆発したみたいでな。相手も大ケガを負ったみたいだが、こっちも何人か戦闘不能になったらしい」

「はぁ? どうせ相手が少ないから、ノンキに相手をしてたんだろ? 全く……さっさと殺しておけばいいものを」


 仲間の体たらくを、容赦なく批判する歩哨。

 ただ、連絡役の人間は腑に落ちない事があるらしい。


「それにしても、急な爆発だったらしいからな……中の人間は逃げた後だろうし、そんな事が起こるもんか?」

「いや……状況を考えてみろ。火災で、建物自体にダメージが蓄積してたんだ。それに加えて、現場はレストランだろ? 大量のストックされた小麦粉とかが、狭い空間に充満したタイミングで火が付いた……と考えると、自然だろ?」

「……自然だろ? いや……当然みたいに言われても、ピンと来ないが?」

「以前炭鉱で働いてた時に、同じような感じで爆発があってな……先輩が教えてくれたんだ。狭い空間で粉が充満して一定のレベルを超えたら、些細な火花でも引火すると」

「なるほど……じゃあ、今回のケースも同じだと?」

「現場を見てないから何とも言えんが、おそらくそうだろう」


 爆発の原因が粉塵爆発だと説明する歩哨に、納得したように頷く連絡役。

 しかし、こんな話をするのが目的ではないはず。本人達も脱線した自覚はあるらしく、わざとらしく咳払いをする両者。

 そして少しの沈黙の後、本題に入った。


「それで計画の変更点だが、撤退の時間を早めるとの事。後15分ほどで、ブツを乗せた馬車が到着する。俺達は護衛をしつつ、予定のポイントまで移動。以後の指示はボスから直接出されるようだ」

「了解。その女も大ケガを負ったのなら、大した障害は無いだろう。ただ積んでる物を考えたら、気を抜けない。細心の注意を払うから、安心してくれ」

「解った……じゃあ、俺は陽動の仕事があるからこれで。合流地点で会おう」

「ああ、お前も気を付けろよ」


 本題に関しては、驚くほどの速さでまとまり終了。

 連絡役が去って行くと共に、他の歩哨にも指示を出し臨戦態勢に突入した。


「いいか、お前等……運んでいるのは、特製の巨大爆弾だ。2回目の襲撃計画のカギであり、我々の切り札でもある。安全に運び出す事はもちろん、存在に気付かれるわけにもいかない。邪魔をする人間はもちろん、姿を見たヤツも容赦するな。必ず、口封じをするんだ」

「「了解!」」


 物騒極まりない指示に対し、他の歩哨は即答で同意。

 後は護衛対象の到着を待つだけだが、それは靖之達にとっても同じである。


「……後15分とか言ってるけど、実際にはもっと早いはず。それまでに、攻撃するプランを考えんと」

「あの言い方だと、増援はないはず。居るとして、随伴する2~3人がいいところでしょう?」

「だろうな。数ではこっちが圧倒的に不利だが、それで諦めるわけにはいかない。馬車を止めるのを最優先にするとして、問題はその方法だ」


 その時が近付く中、急ピッチで打ち合わせをする2人。

 正攻法は最初から捨て、何か利用出来るものが無いか周囲に視線を向ける。


「あっ……あそこにあるのって、油が入った樽よね? あれを使えば、足止めぐらい出来るでしょ?」

「なるほど……確かに、あれなら十分だ。相手の意表も付けるだろうし、一石二鳥。使わない手はないな」


 舞が道路脇に置かれた樽を発見し、活路を見出す2人。

 一連の騒動で、道具だけ放置して逃げ出したのだろう。横には畳まれたテントと、フィッシュ&チップスと書かれた看板が見えた。

 咄嗟ではあるが、馬車対策はこれでバッチリ。

 後は、いかにして短時間で5人以上の敵を無力化するかだ。


「単純計算でも、1人で最低でも3人を相手にしないといけない……アイツ等は、運んでいる物が爆弾だと思い込んでるみたいだからな。迂闊に銃は使わないとして、だからこそ最初の攻撃が重要になる」

「運んでる物が、洒落にならないからね……向こうが体勢を整えるまでに、残り2人ぐらいにはしておかないと」

「そうだな……圧倒的に不利な状況だけど、もうやるしかない。他に、頼れる人間なんて居ないんだし」

「全く……毎日、毎日こうもトラブル続きだと嫌になるわね。でも、放置するわけにもいかないし。とにかく、上手く切り抜けて朝を迎えましょう」

「もちろん。こんな所で、モタモタしてられない」


 困難な状況ながら、2人は前向きに捉えたのだろうか。

 互いにグータッチを躱すと、静かに樽がある場所に移動。実際に手で持ってみて、中に液体がなみなみ入っているのを確認した。

 当然ながら、臭いもチェック。

 油である事を確認すると、テントの陰に隠れてその時が来るのを待った。


 ――同時刻。


「居た……まさか、こんな堂々と町から出て行こうとしているとは驚きだ。とはいえ、私にとっては絶好のチャンス。このまま逃げられるとは思うなよ」


 無人の道路を悠然と進む馬車を、距離を開けて尾行するマリー。

 このままだと町の外に出てしまうだけに、発見は即アウトを意味する。相手に気付かれないように、慎重な行動。

 1回しかないであろうチャンスを、待ち続けていた。


 危なかった……

 もしあの時のヤツ等が馬車のルートを口にしてなかったら、見逃す所だった。2回目のテロは絶対に防がなければならない。

 運んでいる物が何であろうと、そんなのは些細な事。

 ヤツ等を始末した後で、ゆっくり調べればいい。

 まずは、馬車の足を止める。その後に馬を操っているヤツ等と、護衛の2人混乱に乗じて排除。

 最初の攻撃さえ成功すれば、後はそれほど難しくないはず。


 マリーがプランを練る中、馬車は町の出口が見える地点に到着。

 今がその時と判断し、一気に距離を詰めると同時に銃口を相手に向けた。


「……っ! 銃声だと? どこからだ?」

「そんな事を言ってる場合か……馬が暴れる!」


 マリーの放った銃弾は2人居る騎手ではなく、2頭居る馬の片方に直撃。

 護衛の2人も含めて混乱する隙に、立て続けに発砲した。


「お前達は、馬をコントロールする事に集中しろ! 転倒でもしたら、俺達諸共全員があの世行きなんだぞ!」

「合流地点は、解るだろ? ここは、俺達が食い止める!」


 護衛は自分達の仕事を全うしようとするも、立て続けに被弾。

 ただし、彼らが身を盾にした事により馬車はコントロールを回復したらしい。全速力で追い掛けるも、みるみるうちに距離が離れて行く。

 やむを得ず馬を攻撃しようとするも、今度は応援に来た仲間の攻撃が阻む。


「お前等……コイツさえ始末してしまえば、我の障害は何もない。このまま、一気に仕留めるぞ!」

「「了解!」」


 応援に来たのは3人であり、彼らとマリーの間で激しい銃撃戦が発生。

 彼女も必死に応戦するも、数の差は如何ともし難いのだろう。どうにか建物を利用して身を守るも、反撃どころではない。

 ジリジリと相手に追い詰められ、撤退も脳裏に浮かんだ時だった。


「……てっ、敵だ! 誰か、この2人をどうにかしてくれ」

「そいつは囮だ! 早く戻って来い!」


 突然何かが爆発したかと思うと、馬車の前方で炎が立ち上っていた。

 マリーは一瞬気を取られたものの、動きが止まった相手に銃撃を加える。


「さぁ、どうする? あんたと私、完全に1対1の状態だ」

「小癪なマネを……仲間に攻撃させただけで、もう勝ったつもりか?」

「仲間? どこの誰かは知らないけど、利害が一致しているなら共闘するのみ。悪いが、積荷は外に持ち出させない」

「……いいだろう。貴様も邪魔をしたヤツ等も、全員まとめて始末してくれる!」


 それだけ言うと、両者同時に発砲。

 しかし紙一重のところで回避したらしく、被弾した様子は見られなかった。


 ――その頃、靖之達はというと。


「よしっ! これで、馬車は完全に掌握した」

「お疲れ、靖之」


 残っていた歩哨2人と騎手2人を排除し終わり、たった今馬を落ち着かせた所だった。

 後はブツを確認するだけだが、成功の立役者は気になるらしい。


「相討ち……いや、どっちも負傷してるけど相手が逃げたから彼女の勝ちか?」

「そんな、ノンキな事を言ってる場合じゃないでしょ? あの女の人から見たら、私達だって不審者なんだから」

「……確かに。ブツと彼女の身分を確かめたら、さっさと逃げるとしよう」


 フラフラした足取りで自分達の方に歩いて来るのを見て、現実に戻る2人。

 後で面倒事になるのを避ける為か、可能な限り接触を避けたいようだ。さっさと荷台の扉を開けると、中を確認。

 時間にして数秒だが、それで充分だったのだろう。


「そこの女の人……これは爆弾ではない。毒ガスの一種だ。どう扱うかは勝手だが、専門家を呼ぶ事を強く勧める」

「急に言われて信じられないのは解る。だけど、今だけは私達の言う事を信じて欲しい。この町の人を、無駄に死なせたくないのなら」


 一方的にそう伝えると、さっさとその場を離れようとする2人。

 もちろん、マリーにとっては寝耳に水である。


「ちょ……ちょっと、待ってくれ! 爆弾じゃなくて毒ガスって、どういう事だ!」


 聞きたい事は他にも山ほどあるが、口から出たのはそれだけである。

 当然2人も、彼女に言われたからといって立ち止まるつもりは微塵も無い。マリーが馬車に辿り着く頃には、影も形も無くなっていた。

 残された者は、ただ茫然と立ち尽くすしかない。


 ――そして、リンゴ売りの少女は。


「あれっ? おじさん、用事は終わったの?」

「ええ、滞り無く終わりました。ただ次の町に行く前に、もう1度あなたのリンゴが食べたくてね。まだ残ってますか?」


 人気の無い空き地で時間を潰していた少女に、ロボットが声を掛けて来た。

 とはいえ、姿形は前と同じく変装済み。


「えーっとね……10個あるけど、何個にする?」

「じゃあ、さっきと同じ5個にしようかな」

「うん、いいよ。ちょっと、待ってね」

「はい。お願いします」


 サクッと注文を済ませると、リンゴを包むのを待つロボット。

 それも数十秒の話で、代金を支払う時間を含めても1分少々だろう。


「さっき、あなたが話してくれた人がいたでしょ?」

「んっ、私の大切な友達でしょ? それがどうかしたの?」

「実は、2人に偶然会いまして……あなたが言う通り、真っ直ぐないい眼をした人達でしたよ」

「えっ、あの2人に? どこで? 何て言ってた? 元気そうだった?」


 突然会いたがっている人の話が出て、立て続けに言葉をぶつける少女。

 それに対して、ロボットは苦笑を浮かべた。


「大丈夫ですよ。彼らは、自分の信じる信念の為に戦っている。あなたが会いたがる理由も、よく解ります。どこで会ったのかは、今度会った時にご自身で聞いて下さい。元気そうでしたし、いつか再び会えると思いますよ?」

「えっ、本当? 元気なら良かった……私ね。あの人達には話してないけど、2人と一緒に世界中を旅するのが夢なの。だから、今は大変でも頑張るの。どんなに辛くてもね」


 ホンワカした口調ながら目だけは覚悟を固めた目を見て、神妙な面持ちになるロボット。

 そして、少しの沈黙の後ズボンのポケットから何かを取り出した。


「もし君が2人と同じ道を歩んで行きたいのなら、これを肌身離さず持っておくべきだ。いつか、必要になる時が必ず来る」

「これって、指輪だよね? でも……ううん。解った。ちゃんと付けとくね?」


 女の子は一瞬戸惑ったものの、何か思ったのか素直に受け取って右手の小指に付けた。

 ロボットは満足そうに頷くと、今度はジャケットの内ポケットに手を突っ込む。出て来たのは、スマホ程の大きさの石の板が2枚だった。

 彼はそれを差し出すと共に、再び声を掛けた。


「これを、あなたに預ける。そして、2人に会った時に渡して欲しい。意味は、その時彼らに聞けば解るから」

「……うん、解った。あっ、それとリンゴを買ってくれてありがとう」


 渡したと同時に立ち去るロボットの背中に向かって、彼女は礼を言った。

 言われた側も手を振って答えると、そのまま人気の無い路地に移動。


「もしかすると、あの2人なら生き残るかもしれない……そして、彼らの言う信念とやらの力も本物かもしれない。絆……か。私も、考えてみる必要があるのかもしれない」


 いつもの卵状の姿に変身すると、そのまま上空に飛翔。

 どこへとなく飛んで行く姿は、どこか満足げに見えた。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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