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夢国冒険記  作者: 固豆腐
40/70

3原則と自我の目覚め(7)

・一応ファンタジーです。

・所謂マナを使った魔法やスキルは登場しません。

・但し超常現象やオーバーテクノロジーは登場します。

・この物語はフィクションであり現実世界と類似した事象があったとしても偶然の一致に過ぎません。


 以上の事をご理解の上、お楽しみ頂けると幸いです。

「……くっ! 今は、コイツ等に構っている余裕は無いのに」


 数で圧倒され劣勢な状況下でありながら、マリーは射撃の腕の差でどうにかカバー。

 相手を2人に減らす事に成功するも、自身も跳弾の影響が出始めていた。


 左のふくらはぎの感覚は、もうない……

 左手と右脇腹は掠っただけだから問題ないとして、問題は接近戦になった場合。ただでさえ、男女間の力の差があるんだ。

 正面から戦って、勝てるとは思えない。

 それに、私には逃げた男を止めるという仕事が残っている。探す時間も考えたら、これ以上引き延ばすわけにもいかない。

 一か八かの賭けだが、今はそれに頼るしかないか……


 マリーは腹を括ったような顔を見せると、相手の頭上にあるガス灯に着目。

 銃撃の合間を縫って、連続で射撃する。


「……クソッ! あの女、小癪なマネを」

「落ち着け……こっちは2人居るんだ。焦らず、相手が顔を出した所を狙い撃てばいい」


 相手もここまで残っただけあり、そうそうパニックは起こさない。

 すぐに立て直して迎撃態勢を取るも、肝心のマリーに動きが見られない。


「……しまった! あの女」

「クソッ! ここまでコケにされて、黙っていられるか! 探し出して、必ず息の根を止めてやる」


 少し間をおいて、ようやく逃げた事に気付いたのだろう。

 慌てて後を追い掛けるも、応戦していた場所には影も形もない。若干の血痕こそ残っているものの、だからといって追跡出来るレベルでもなかった。

 悔しさから地団駄を踏むも、時既にというやつである。


「……ちぃ! 仕方ない。取り逃したのは事実として、ボスに報告するだけ。ヤツの目的がブツの持ち出し阻止なら、この後カチ会うはずだからな。息の根を止めるのは、その時でも十分だ」

「そうだな……時間稼ぎには十分だし、まずはボスへの報告だ。あの女……次にあった時こそ、確実に息の根を止めてやる!」


 2人は考えを改めると、倒された仲間達を完全に無視。

 当初の合流地点に向かって、走り出した。


 ――同時刻。


「はぁ……はぁ……はぁ……どっ、どうにか町に来る事は出来た……って、何か騒がしくないか?」

「えっ、ええ……つっ、疲れた……そういえば、何かザワついてるような気はするわね」


 急がなければならない状況に走って来たはいいが、町の様子に首をかしげる靖之と舞。

 とはいえ、今はそれどころではない。


「アイツが言うには、化学兵器は完成間際のはず。町の外に持ち出されたら、完全にアウト。どんな手段を使っても、止めるしかない」

「議事堂襲撃に続いてバイオテロなんて発生したら、洒落にならないからね。とりあえず、そんなに大きな町じゃないし隅から隅まで調べるしかないんじゃない?」

「確かに……こっちは2人しか居ないけど、やるしかない」

「仕方ないでしょ……こうなったら、やるしかないんだし」


 息を整えつつ軽く話し合うと、すぐに行動開始。

 異変が無いか、1軒1軒地道に目を光らせて行く。


「いや……やっぱり、変だ。風の向きが変わったからか、何かが燃えているような臭いがする」

「ええ……それに、遠くで複数の人が騒いでる声も聞こえる」


 徐々に周りが見えるようになったからか、2人揃って異変に気付いたようだ。

 そして意識して耳を傾けると、すぐに確信に変わった。


「間違いない……どこかの建物が燃えてるのと、誰かが銃を乱射してるみたいだ」

「どうやら、町の中心部みたいだけど。そして、当然のように警察は機能していないと」


 状況が深刻なのは把握したものの、終息には程遠いのが実情だろう。

 同時に、タイミング的に考えて犯人達は明白だ。


「町を混乱に陥れて、その隙に問題のブツを持ち出す。火災の方は、証拠を隠滅する為に研究施設に火を放ったのかもしれない」

「断定は出来ないけど、このタイミングでの火事だからね。下手にそのままにしてても、そこから足が付くかもしれないし」


 まずは、火災の原因を推定する2人。

 ただし、両人の目的はあくまでも化学兵器の持ち出し阻止である。さすがに火事の方までは手が回らず、そちらは現地の人達に任せるつもりのようだ。

 重要なのは、今ブツがどこにあるのかだろう。


「もう、1軒ずつ調べている余裕は無い。とはいえ、運び出すのは化学兵器だ。カバン片手に、というのは無理がある」

「使うとしたら、周りから見えないよう出来る馬車といったところかしら?」

「だろうな……ヤツ等が危険性をどこまで把握しているかは知らんが、取扱いには注意するはず」

「つまり、比較的地面が整備されている道を使うと?」


 事態を深刻に受け止め、町の外への持ち出し阻止に集中するつもりなのだろう。

 素人考えながら、相手の行動パターンを予測しようと模索する2人。


「相手だって、危険な物を扱う怖さがある。速やかに安全な場所に運ぶ事を考えたら、今俺達が来たルートは論外。大きな町に繋がる道か、自分達のアジトかの2択だと思う」

「……ちょっと待って。それだったら、私達が来たルートを除外するべきじゃないでしょう。森の中だといくらでも隠れ場所があるだろうし、アジトの1つぐらいあっても不思議じゃないでしょう?」

「いや、そうとも限らない。森は、人の手が入ってたからな。林業関係者がウロつく場所に、アジトは作らないはず。それに、さっき見た鎧の化け物の例がある」

「うーん……でも、あの化け物自体がヤツ等の仲間の可能性もあるんじゃない?」


 具体的な場所を予測するに至り、2人の意見は分かれたまま。

 化け物の話も出て、まとまる気配も見えなくなった。


「それだったら、戦ってる時に何かしらのワードが出ててもおかしくないだろ? まぁ、可能性はゼロではないと思うが……それ以上に、道が悪すぎる。もし舞がアイツ等の立場なら、あんなルートを使うか?」

「あっ……確かに、言われてみればそうなのかもしれない」


 とりあえず、森へのルートは除外する事で一致。

 それでも、選択肢を1つ減らした状態に過ぎない。他のルートが解っていない上に、そもそも町の情報が何1つないのだ。

 時間も少ない中、これ以上の話し合いをする余裕は無いだろう。


「ここで話してても、始まらない。とにかく移動しながら考えるべきだと思う」

「私もそれには同意するけど、だからといって闇雲に探すのは自殺行為なんじゃない?」

「逆に考えるんだ。ヤツ等が運び出そうとしているのは、化学兵器。騒ぎが起こっている場所を突っ切ろうとは思わないはず」

「そうか! 騒動の隙を突くなら、周りがゴチャゴチャしてたら意味が無いからね。そう考えると……」

「そう……どこに行くべきか、それはおのずと解るはず」


 自分達の方向性も決まり、後は行動あるのみ。

 2人は頷き合うと、そのまま町の中に入って行った。


 ――その頃、マリーはというと。


「何やってるんだ、このバカ達は……」


 敵の本隊を探すも、騒ぎに気付いた住民の一部が暴徒化。

 警察の対応が後手に回っているのをいい事に、商店を襲っていた。


「クソッ! いつもなら問答無用で射殺するが、今はそれどころじゃない。早く見つけないと、冗談抜きで手遅れになる」


 緊急事態故に見逃すしかないとはいえ、断腸の思いなのに変わりは無い。

 振り切るようにその場を離れ、標的を目指して捜索を続行する。


 あーっ、イライラする……

 みすみす敵に逃げられるは、町ではバカが好き勝手に暴れる始末。こんな状態で、ヤツを発見する事は出来るのか?

 それに、さっき言ったあの言葉。

 私が、欺瞞情報に引っ掛かったみたいな言い方。復元した書類には爆弾を使ったテロのプランが書かれてたが、それを指してるんじゃないのか?

 あれがブラフなら、本当の計画は何なんだ……

 いや、今はそれを考えてる場合じゃない。まずは、首謀者の拘束が最優先。同時に運び出そうとしているブツを押収する。

 それさえ成功してしまえば、調べるのはいつでも出来るんだ。

 だからこそ、急がなければ……


 謎が脳裏によぎるも、頭の片隅に追いやって捜索を優先。

 周囲に視線を向けつつ、ターゲットを探していたのだが。


「……いたぞ! さっき報告にあった女だ」

「間違いないんだろうな?」

「本当だ! 早く来てくれ」


 運悪く、近くに居た敵の仲間に発見されたようだ。

 みるみるうちに仲間が集まって来ると共に、銃撃戦が発生した。


「次から次に、ワラワラと! こっちは、ボスを捕まえようと必死だというのに……」


 愚痴を吐きつつも、そのまま放置しても殺されるのがオチだろう。

 今すぐ振り切って逃走したい気持ちを抑え、ガムシャラに応戦する。


「っていうか、警察のバカ共はどこで油を売ってるんだ。放火の件はともかく、これは貴様等の仕事だろうが!」


 たった1人で敵と戦っている状況に、苛立ちを隠せないマリー。

 本人は無意識だったが、大声の為に相手に筒抜けだったようだ。


「残念だったな……お前がどれだけ粘ろうと、既にこの町は我々が占拠したのも同然。頼みの綱の警察も、建物と一緒に灰になった頃だろうよ」

「なっ! そんなバカな……」


 咄嗟に真偽が解らず警察署の方角を見るも、確かに炎と煙が立ち上っている状態。

 あながちブラフとは思えないが、彼女には絶望している時間すらない。


「ちぃっ! さっきのヤツ等とは違って、銃の扱いに慣れてるヤツばかり」


 連携の取れた射撃により、攻撃の隙間が無い事に驚くマリー。

 とてもではないが狙いを付けた攻撃も叶わず、闇雲に撃ち続ける事しか出来ない。


「せめて……数秒だけでもいい。コイツ等の意識を他に向けさせる事が出来たら!」


 祈るような気持ちで、マリーが周囲に目を向けている時だった。

 近くのレストランで、突然大規模な爆発が発生した。


「……うっ! がはっ、ごほごほっ!」


 直撃ではないものの、マリーも巻き添えを食らったのかド派手に吹っ飛ばされたようだ。

 耳鳴りと全身を駆け抜ける激痛で悶絶し、立ち上がる事すらままならない。


 まだだっ……

 私はまだ、諦めるわけにはいかない。モントレー卿が警察に保護されている今、動けるのは自分だけなんだ。

 せめて、ヤツの身柄と問題のブツだけは回収しなければ。


 使命感からか、痛む体に力を込め必死に立ち上がろうとするマリー。

 押せば、そのまま倒れそうなフラ付き方ではある。動きもスローモーションながら、それでも自立する事には成功。

 周囲に目を向けるが、そこは地獄絵図そのもの。


「私は、何て無力なんだ……こんな若い命1つ守れなかった」


 沈痛な面持ちで、地面に横たわる少年を見詰めるマリー。

 爆発の影響からか、周囲の景観は一変していた。

 現場となったレストランは、建物の基礎だけ残して消滅。その爆風による破片と炎で、周辺の建物もボロボロの状態になっている。

 同時に、犠牲者の数も膨大。


「あっ……ああっ!」

「誰か、助けてくれ……」

「ぎゃあぁっ! 痛いよぉ……」


 声を出せる者はまだマシで、大半は声も上げられない状況である。

 その大半が手の施しようのない状態ながら、逆にまだ助かる命もあった。


「大丈夫か? 気をしっかり持つんだ……君はまだ助かる」


 未知の脇に佇む少女を発見し、マリーは痛みを無視して駆け寄らずにはいられなかった。

 ただ、その子供は横で倒れている女性を心配そうに見詰めるだけ。


「心配しなくても、大丈夫だ。君のお母さんは、強い人だ。ガレキが遮蔽物になって、爆風の盾になったのだろう。気を失っているだけだから、そのうち目を覚ますはずだ」


 額から滴る血を自分のハンカチで拭ってやりながら、優しく語り掛けるマリー。

 それを聞き、少女も僅かながら安心したのだろう。


「お姉ちゃん……ママは、助かる?」

「ああ、大丈夫だ。あなたのお母さんは、立派な人だ。自分がこんな風になってまで、我が子を助けたのだから」

「本当? ウソじゃない?」

「ああ、本当だとも。私が保障する」


 目に涙を一杯に溜めた女児に、目一杯の笑顔で答えるマリー。

 そして優しく頭を撫でてやりながら、顔をある方向に向けた。


「すまない……私は、行かなくてはならない」

「えっ? 町がこんなになってるのに、どこに行くの?」

「悪い人を捕まえるのが、私の使命。君のような若い子供達が、安心して過ごせるようにしなくてはならないから」

「……ふーん。私にはよく解らないけど、頑張ってね。お姉ちゃん」

「ああ、任せてくれ」


 キョトンとする女の子に笑顔で答えると、踵を返してある方向に歩き始める。

 その視線の先に居たのは。


「まさか、突然爆発するとは……おいっ! こっちの被害は、どうなっている?」

「大丈夫です! 少し距離があった分、死者はゼロ。足をやったヤツが、数人居るだけです」

「こうなった以上、これ以上の戦闘は無意味だ。手の空いて居るヤツは、ケガをしている者をサポート。これ以上の民間人の犠牲は、好ましくない。計画通り、すぐに撤退する」

「「了解!」」


 敵にもそれなりに被害が出たようだが、引くという選択をしたらしい。

 しかし、想定外の出来事に周りが見えていないのだろう。脇目も振らずに立ち去るものの、背後まで注意が行き届いていないのが実情。

 だから、マリーの尾行に気付く者は1人も居なかった。

 読んで頂いた全ての方々に、感謝申し上げます。

 投降ペースが不規則になってしまい、申し訳ありません。

 次回の投稿ですが、まだドタバタしている為毎日投稿は不可能です。

 細かい情報は、ツイッターでご確認下さい。

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